オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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※ツアレではありません


第2章 第19話 -美しい娼婦の少女-

 

翌朝。

 

『漆黒の剣』が目を覚まし、簡単な朝食を食べながら門の方を見ていると、並んでいた馬車が少しずつ門の中に吸い込まれていく。

同時に人の列も少しずつ減っていく様子が確認できたので、どうやら門が開き、リ・ブルムラシュールの中に入れるようになったらしい。

 

『漆黒の剣』は荷物をまとめ、門の列に加わった。

 

門をくぐった所にある広場には、大勢の人が集まり、互いに抱き合ったり、何事か話し合ったりしている。

聞き耳を立ててみると、多くは昨日締め出されていたこの街の住人が、街の中の家族が無事であったことを喜び、また、昨日何があったのかを話している様子だった。

 

「なんか…何があったんだろうな?昨日は街が燃えているように見えたけど、今日は火が上がっている様子はねーな…」

 

「そうであるな…見たところ民家が火事になっていた様子には見えないのである」

 

「とりあえず今日の宿を取ろう。この様子だと早めに宿をとらないといっぱいになってしまうかもしれないな」

 

「そうですね…あの、提案なんだけど、宿はいつも通り酒場とかがついている冒険者が泊まるとこが良いと思うんだけど」

 

ニニャの提案に一同は“?”となったので、ニニャが言葉を続ける。

 

「昨日何があったか情報収集が出来そうなところがいいと思って」

 

ニニャの提案に納得した一同は、治安が悪いわけではないが、大通りから一本入った、そこまで高級でもない冒険者御用達の宿に入る。

 

宿はペテルの予想通り、昨日足止めを食らった多くの冒険者や旅行者で混んでいて、一行は何とか5人で泊まれる大部屋を予約することができた。

 

スープだけの軽い朝食だった一行は、宿1階の酒場兼食堂で、朝食が食べられないか確認したところ、店主は『いいぜ。正直昨日は閑散としてたから食ってってもらった方が助かるぜ』と快く了承してくれた。

 

話の流れで、ペテルがうまい事、何があったのかを店主に問う。

曰く、昨日の早朝、この街の領主屋敷、つまりブルムラシュー侯爵邸から火が上がり大騒ぎであったとのことだった。

 

ブルムラシュー侯爵邸は水がたたえられた堀に囲まれていて非常に豪奢なつくりなのだが、火事ではそれが災いし、消火活動や救助活動をするのが非常に困難だった。

しかも何故か、堀にかかる全ての跳ね橋が上がっていて、普通に屋敷側に向かうのは不可能。

普段はいる屋敷の衛士も見当たらず、街の巡回士や、侯爵が管理する公共施設に配置されている事務官もいないので、侯爵邸の関係者が全く見当たらず、どう対処していいかもわからなかった。

 

さらに不思議なことに、屋敷正門に繋がる跳ね橋のこちら側に、20名ほどの粗末な服装の男女が座り込んでいて、彼らは屋敷で非合法に使用されていた奴隷と判明。

何故か明け方、火が上がる前に屋敷から放り出されたとの事。

 

仕方がないので、門番として雇われている平民が彼らを教会へ連れて行った。

 

さらに町の広場に、みすぼらしい衣装を着た者が何名も座り込んでいて、彼らは違法娼館で働かされていた娼婦たちや、借金のかたに無理やり違法組織で働かされていた者たちで、彼らもなぜか今朝、職場から放り出されていて、行く当てがないとのことで、同じく門番が教会へ連れていく。

 

教会はパンク状態になり、奴隷や娼婦のほとんどは精神的、肉体的に傷ついており、数少ない回復術師(ヒーラー)が自身が倒れないように休み休み介抱中。

 

そうしていると今度は、教会を行ったり来たりしていた幾人かの門番が不在の間、一時閉めていた検問所に長蛇の列ができ、こちらに対応しようとしたが、門番たちで話し合い、これ以上の混乱を避けるために、少なくとも侯爵邸の関係者から指示が出るまでは門を閉めようという事になった。

 

 

侯爵邸の方では、はしごをかけて堀を何とか渡った者が居たが、邸宅を包む火の手が強く中に入ることは叶わなかった。

そして明け方ごろまで火の手は収まらず、一昼夜燃え続けた炎によって侯爵邸は建物が殆ど燃え落ち、植えられていた植物や彫像などもぼろぼろとなっていた。

 

有志がはしごを伝って探索に行ったところ、一か所に100人以上の死体が折り重なっていて、生存者は見つからなかった。

 

現在は教会の関係者と門番の有志が、この死体の検分を行っていて、特に領主の安否を確認している状態であるとのこと。

 

門はこれ以上の馬車等の待機を増やすわけにもいかず、朝に開放。

 

さらに、街の一角からも同様に火があって、この区画は燃え尽きてしまった。

しかし不思議なことに、こちらは焼け跡から死体は見つからず、ぼろぼろになった建物だけが残された。

 

この一角は、違法娼館などが並ぶ区画で、あまり治安が良くない場所として知られていたところであったという。

 

 

 

「いや、とんでもねー大事件じゃねーか!」

 

ルクルットが皆の意見を代弁した。

宿の店主は神妙な顔で頷く。

 

「本当にその通りだぜ…侯爵の関係者が一切見当たらないから、街の運営をどうすればいいか分かんねーし、それに今週末は商人が納税する日なんだが、徴税官も見当たらねー…いや高い税金払わないっていうならそれに越したことはねーんだがな」

 

店主の言葉に、『漆黒の剣』のメンバーは返す言葉が無い。

すると店主はカウンターから乗り出し、声を低くして囁く。

 

 

「それとな、これは聞いた話なんだが、侯爵邸から見つかった死体は皆、黒焦げじゃなくて真っ赤に良く焼けた羊のローストみたいだったって聞いたぜ…つまり長時間かけてゆっくり焼かれたってこった…恐ろしい話だぜ」

 

 

店主の最後の言葉が冗談なのか本気なのか分からなかったが、出された朝食にはロースト肉は無かったため、一同は少し安心してパンを齧った。

少しの無言の時間の後、パルメーラが思いついたようにニニャに声をかけた。

 

「ニニャ、この食事の後、教会へ行った方がいいんじゃないのか?」

 

数秒の沈黙の後、ニニャを含めた一同はパルメーラの言葉の意味が理解でき、皆急いで皿に残っていたスクランブルエッグをかき込むと、教会へ向かって歩きだしたのだった。

 

 

 

 

教会の入り口には多少の人だかりがあった。

様子を見てみると、どうやら彼らの意図は『漆黒の剣』と同じようで、身内に行方不明のものが居るから保護された者の中に身内が居ないか確認させてほしいというものだった。

 

しかし教会の関係者は、現在非常に混乱状態にあるため、どうかもう少し後にしてほしいと必死に断っている状態である。

これでは街の住人でもない我々が中に入るのは難しそうだ。

 

そう一同が考えていると、ダインが皆の方に向き目線で合図した。

パルメーラを除く3人は彼の意図に気づいたようで、頷いた。

 

ダインが教会の関係者のところへ歩み寄る。

 

「失礼、私は冒険者チーム『漆黒の剣』のダインと言う者である」

 

教会の関係者は、明らかに疲れ切った表情で「はい、どうされたのでしょうか…現在教会は非常に混雑しておりましてお祈りなどのお断りしているのですが…」と答える。

 

 

「実は私は信仰系ではないが回復系の魔法を使うことができるのである。もしご迷惑でなければお手伝いすることも吝かではないのであるが?」

 

ダインがそう言うと、教会関係者の顔は明らかに“ぱああ”と明るくなる。

 

「ほ…本当でございますか?!ああ神よ…あなた方の献身に感謝いたします!!一度中で確認してきますので、お待ちください!!」

 

そして爆速で戻ってきた教会関係者は『漆黒の剣』を快く教会の中に案内した。

 

 

パルメーラとしては個人的に教会の中で確認したいこともあったので『ダイン、GJだ』と心の中でダインの株を急上昇させていた。

 

 

 

教会の中はまるで野戦病院だった。

 

見ると回復術師(ヒーラー)は2人しかいない様で、1人が休み、もう1人が必死に回復魔法や精神を安定させる魔法をかけている。

 

奴隷や娼婦と思われる者たちは、教会の聖堂と思われる場所で座るか横になるかしており、毛布と暖かいスープを与えられて休みながら自分の順番を待っている。

 

時折、精神的に傷が深いものが大声をあげたり、涙を流しながら震えている痛ましい光景が見られ、回復魔法を使えない教会の関係者が介抱をしている。

 

パルメーラは、そのような者たちを憐れむ気持ちよりも、このような者を作り出した愚か者たちに対する激しい憎悪を感じた。

まあすでにそのような者たちは時間をかけてローストヒューマンにしてやったのでもうこの世にはいないのだが。

 

また彼は、一方では教会という組織が正しく人道的にやるべきことをやっているという事に少し感心した。

 

元のリアルを生きていたウルベルトとしては、宗教などは既に過去の存在で、歴史の中でそういうものが人の心を支えていた時期があったという事は知っているが、彼が生きていた時代はもうすでに巨大複合企業によって、宗教の正しい在り方は存在していなかった。

 

そう言えば死獣天朱雀が過去に、『宗教と言うものが本当の意味で正しく存在していたのは、もっともっと昔だったと言われていますけどね』と言っていたことを思い出す。

意味は良く分からなかったが、それほど宗教は脆いものだと思っていた。

 

しかしこの世界ではどういう訳か宗教は正しく存在しているらしい。

『漆黒の剣』から教えてもらった常識の中に、この国の南には宗教国家があり、全ての教会は、正式にはその国に属していると言っていたので、パルメーラはブルムラシュー侯爵の屋敷から奪った数々の証拠(・・)を、国に属さないこの教会へ持ち込ませたわけだが…。

 

ともかくもパルメーラはここで確認すべきことを確認することにした。

 

横にはニニャが居て、彼は必死に辺りを見回し、姉がその中に居ないか確認している。

パルメーラはニニャの視線が、ある一方を見据えたのをじっと見つめる。

しかしニニャの表情は変わらず、他の方向に視線を移して引き続き姉を探している。

 

 

「…居ないか?」

 

「はい…残念ながら、居ないみたいです」

 

「そうか…残念だったな」

 

「…はい…僕、介抱を手伝ってきます」

 

「ああ、俺も俺にできそうなことを探して手伝うことにする」

 

ニニャが気持ちを切り替えて、疲れ切っている教会関係者の方へ駆けていく。

パルメーラはそれを確認すると、先ほどニニャが一瞬目を遣った方向に座る者を確認する。

 

そこに座るのは非常に美しく若い金髪の少女…の様に見えるが実は幻覚で本当の姿を偽装されている男。

明らかに異質。

少女は比較的落ち着いていて目立った外傷もないので、回復術師(ヒーラー)のお世話になる必要なしと判断され、聖堂の最も隅に腰かけている。

その横には、ボランティアの女性…に扮した悪魔。

彼女は一人になったパルメーラに小さく、しかし最大限のお辞儀をすると、少女に話かけるような素振りを見せながら、再び魔法をかける。

 

パルメーラが確認したかったのは、ニニャが少女にかけられた幻術を見破るかどうかだった。

この世界ではどうやら最高峰の魔法詠唱者(マジック・キャスター)に成長した彼が幻術を見破る可能性が一番高いと考えていたためだ。

一方でニニャは魔力系、それも雷と炎の攻撃に特化しているの、幻術への対処はできないだろうとの考えもあったが。

 

明らかにおじさんが、女性の衣装で座っていたら、おかしいと感じる筈である。

 

ともかくもニニャが見破れなかったという事は、しばらくはこのままでも良さそうだし、今後も同じような手段が取れると安堵した。

 

 

パルメーラは、非常に美しく若い金髪の少女、に見える男を見遣る。

この者こそがこの街の領主、ブルムラシュー侯爵その人だ。

 

遣いの悪魔から、この男の罪を聞いたのち、パルメーラはまずこの男を精神支配し、家臣やつながりのある犯罪者たちを、定められた日時にこの屋敷に集まる様指示させる。

集まる者の最後の晩餐のため、贅を尽くした食事を用意させ、一方で重要な話なので来なければ今後は取引を止めると脅しをかけて。

 

その後は屋敷の家臣たちを精神支配し、指定日に集まった犯罪者集団を一か所に集めるとともに、屋敷の奴隷を開放し、跳ね橋を上げた後、自身も犯罪者集団と同じ部屋に閉じこもる。

 

悪魔たちはそのタイミングで結界を作り、火加減を調節しながらじっくりとロースト。同時に屋敷にも火の手を上げ、外から人が入らないように火加減を調節。

 

ブルムラシュー侯爵はと言うと、最初の指示の後に非常に美しく見える幻覚をかけて、自身が金集めのために放置していた犯罪者集団の運営する違法娼館へ就職してもらった。

金集めが大好きな様なので、積極的に客を取ってもらい、自身で金を稼ぐ喜びを十二分に味合わせてやったのだ。

 

娼館にも悪魔が潜んでいて、幻術は解かないが、精神支配は日に一度解除する。

当然痛みと自身が為された事の記憶で大声で悲鳴を上げるのだが、娼婦には良くあることなので娼館の店員は特に気にしない。

それどころか、あまりにうるさいと暴力で黙らせられる。

だが翌日には精神支配で喜んで客を取る。

 

それが昨日まで続き、そして屋敷が燃えた後、他の娼婦と共に保護されてここにいるのだ。

 

幻覚を見破れるパルメーラが見たその少女は、実際には見るに堪えない姿である。

 

金髪で髭が生えた中年の男が、粗末な女ものの一枚の衣服をまとい、顔には大小さまざまな痣、下半身の衣服には赤黒いしみが無数に見て取れる。

座っている椅子には血がにじんで滴っている。まだ傷がふさがっていないのだろう。

 

それなのに精神支配の結果、顔は何処か呆けたような、ぼんやりとした笑顔を浮かべている。

 

精神支配だけでは痛みは完全に取り除けないのだが、これは麻薬による効果であることが分かっている。

違法娼館では麻薬が使われており、これには痛みを一時的に感じなくする効果があるようで、死なない程度に大量に服用されているのだ。

 

 

「ニニャの姉がこの中に居なくてよかったな…お前はもう少しで死ぬことができるのだぞ」

 

パルメーラは誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 

 





お金が大好きな侯爵には、労働のありがたさを実感していただく罰が下りました
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