オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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子安ボイスの登場です
彼の頬に傷はありません


第2章 第20話 -陽光聖典-

 

ブルムラシュー侯爵の姿を確認した後、パルメーラは奴隷や娼婦たちの介抱を手伝っていた。

と言っても出来ることは少ないので、包帯や食事を運んだり、自分で歩くことができない者を抱きかかえてベッドに運んだりなどの作業だけであるが。

 

そんな中、不意に悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)が持つスキル、“悪魔の祝福”にわずかに引っかかる感触がある。

 

『これは…非常に弱いが…天使?いや何らかの聖なる力?』

 

現在教会と言う聖なる場所に居るにもかかわらず、今までは全く引っかかることのなかった“悪魔の祝福”の探知が、今になって急に感じられた。

辺りを見渡すと、教会の関係者が少しあわただしくなっており、何事か話している。

 

少し嫌な予感がし、念のためパルメーラは教会内の悪魔たちに撤退の合図を出す。

 

『お前たち、天使に関連する気配が近づいている感覚がある。速やかに撤退して、教会からから離れて街の影に身を潜めよ。影の悪魔(シャドウ・デーモン)は俺の影に戻れ。ただし領主はこのタイミングで連れ出し、他の者に可能な限り見つからぬように屋敷跡まで連れて行き、静寂(サイレンス)をかけた状態で、がれきに、燃えた屋敷跡が見える方向に括り付け、精神支配のみを解除してがれきに火をつけよ。その後は放っておいてよい』

 

『畏まりました』

 

 

幾つかの影がざわめき動く感触があった。

 

とても美しい金髪の少女が立ち上がると、教会の関係者に頭を下げている。

「お世話になりました。私は体調も良いですし、帰る家がありますので帰らせていただきます。神のご加護に感謝いたします」

 

そのような声が聞こえ、一人のボランティアの女性に付き添われて教会を後にする。

 

 

その様子を確認して1時間ほどたった後、教会の中が騒がしくなった。

 

見ると天使を召喚した10名ほどの集団が教会内になだれ込んできたのだ。

 

パルメーラは一瞬身構えるが、集団の服装はいかにも聖衣の様な白いローブ、ここは教会、そして召喚されている天使が祝福の上位天使(アークエンジェル・ブレス)という回復に特化した天使であったことから、こいつらは悪魔から報告があった『本部のような組織』でおそらくは南の宗教国家とやらから来たことが想像できた。

 

パルメーラの予想通り、集団の中の一人が説明する。

 

「我々はスレイン法国から来た者です。ここからは私たちが回復と介抱を引き継ぎます。教会の皆さまは通常業務にお戻りください!」

 

教会の関係者は安堵の表情と共に、その集団に祈りをささげた。

天使を見て、傷ついた奴隷や娼婦の一部の者たちも手を合わせ、あるものは涙を浮かべている。

 

そこからは『スレイン法国』と名乗った集団が作業を行い回復と介抱は迅速かつ的確に行われ、2時間ほどで聖堂の中は通常の落ち着きを取り戻したのだった。

 

 

その後、『漆黒の剣』は教会関係者に呼ばれ、ささやかながらお礼を言いたいのでと教会の代表者の部屋と思われるところへ呼ばれた。

 

部屋に入ると、高齢の男性神父と、先ほどの集団と同じ白いローブを着た、金髪を短く刈り込み、高潔そうな信念を宿したような目の男が待っていた。

 

扉が閉じられると、金髪の男が口を開く。

 

「あなた方が、冒険者チーム『漆黒の剣』の皆さま方ですか?」

 

「はい、そうです」

 

ペテルが代表して答えると、金髪の男は一度チームの5人をぐるっと見遣り、その場で非常に深く礼儀正しいお辞儀をした。

 

「この度は、本当に感謝いたします。無辜の傷ついた民を思いやり、お力を貸していただいたこと、真に神が求めるべき正しき行い…このスレイン法国陽光聖典隊長、ニグン・グリット・ルーイン、神と教会と助けられた民に代わり深く感謝の言葉を申し上げます」

 

真摯に心からの感謝を伝える男の様子を見、『漆黒の剣』のメンバーは逆に恐縮になり『いえいえ』とか『そんなこと』などと言っている。

 

パルメーラはというと、このニグンという男の言葉に少し驚いていた。

この男は“陽光聖典”とやらの隊長と言う立場でおそらく地位が高い者。そして宗教家と言うのは得てして傲慢と言うぼんやりとした知識があったため、少々堅苦しい印象があるものの、非常に低い姿勢での感謝の言葉に、新鮮な感動すらあったのだ。

 

「この国も、意外と捨てたものではないのだな…」

 

そう小さく呟くと、ニグンと言う男は申し訳なさそうな顔でパルメーラを見る。

 

「はは…仰る通り、我々の力及ばずで申し訳ない。本来は、今日介抱したような者たちが生まれないようにするのが神の使途たる我々の務め…ですが未だ全ての罪なき者へ手を伸ばすことは叶わずといったところです…ですがあなた方の様な正しき心を持つ冒険者の方が居れば我々も安心というもの…どうかこれからも、あなた方の身の安全第一で構わぬので、困っている者が居たら手を差し伸べて欲しい」

 

「もちろんである!」

 

「そうですね」

 

「さすが、法国の人は言うことが真っ当だぜ」

 

「本当に…それに、本当に問題があるのはこの国の…一部の権力者ですから…」

 

ニニャの言葉には皆思うことがあったのだろう。

ニグンも含めた全ての者が押し黙る。

 

 

「それにしても、ニグンさん、この街の事件があったのは昨日だってのに随分と早く到着出来たな…俺たちは冒険者で街と街の移動が結構大変なんだが、何かコツでもあるのか?」

 

パルメーラはどうしても気になることがあったので、真意が悟られないよう言葉を飾って質問する。

この者たちが、“転移”で移動してきたならば、おそらくは第7位階を使えるものが居るという事。

行動理念や言葉の端々からも、ウルベルトの嫌いなタイプの善人ではないかもしれないが、天使を召喚する集団というのは、その中に非常に強いものが居れば敵になった時厄介だなと考えたのだ。

 

 

「ああ…ふふふ。いや、冒険者の方にとって有益な情報にならないので申し訳ないのだが、我々はちょうど近くにいたのでね。冒険者の方ならばご存じかと思うが、現在この国の南西の領域にアンデットの被害が多発している。我々はそこでこの国のアダマンタイト冒険者チームと協力して民を守っていたのだ。だが、それが一段落して、その冒険者チームが今度はアゼルリシア山脈のモンスター被害を食い止める任務につくというのでそれに随行していたのだが、途中で早馬があり、その被害は別のチームが食い止めたと分かった。なので我々は冒険者チームと別れてスレイン法国へ引き返すところだったのだ。そう言う訳でちょうどこの街の近くにいたところで今回の騒動を聞いたのだよ」

 

「成程な…いや、他国の事なのにそこまでするとは…本当に尊敬するよ」

 

パルメーラの言葉は、半分本心、半分呆れである。

 

なるほど、この者というかスレイン法国は、少なくとも表向きは、善人なのだろう。だが元のリアルに居た彼としては、ただの善人は損をするという考えがある。

 

ともかくもパルメーラが安心したのは、少なくともこの中に高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいなそうだという事である。

非常に遠いところから来たわけでもなく、逆にこの距離を半日ほどかけて到着したという事は、転移を使用できないという事の理由でもあるから。

 

また、この男の言ったことは、おそらく真実だ。

アゼルリシア山脈のモンスター被害や、南西のアンデット被害というのは事実と一致している。

アンデット対処で共に戦っていたアダマンタイトチームというのは例の『蒼の薔薇』というチームの事だろう。

 

 

ニグンは、パルメーラの本心とも皮肉ともとれる言葉に対して、勘ぐるでも気分を悪くするでもなく少し微笑んだ。

 

「光栄ですね。それが我ら“陽光聖典”の使命ですから…それでは我々は行かなければいけない所ができたのでこれにて失礼する。もう一度言うが本当に感謝する。神父殿も今日はお疲れだろうから充分体を休めるべきだ。それでは」

 

 

そう言うとニグンは部屋を後にした。

パルメーラの“悪魔の祝福”で感知していた反応が速やかに無くなったので、本当にすぐに撤収していったのだろう。

 

その後、神父からも篤くお礼を言われ、今日は教会に泊まっていただいてはどうかと言われたが、すでに宿をとっていたので丁重にお断りをした。

 

 

その夜、宿で食事をしながらパルメーラは“陽光聖典”のことを皆に聞いていた。

 

「いや、実を言うと“聖典”という組織があって、その中に“陽光聖典”というチームがあることは知られているんだが、俺も詳しくは知らないんだ」

 

「ああ、オレも良くは知らねーな。あの通り、あの国は本当に善人の集まりで、戦争とか他種族との争いとかを見つけると全力で介入してくるんだが、この国のお偉いさんはそうやって介入されるのが嫌みたいで教会もあの通り最小限の人数しかいねーんだよ」

 

「で、あるな。かの国がもう少し深く介入してくれれば不正も減るかもしれないのだが、貴族などはそれを嫌がっているのである」

 

「本当にそうだよね。あの国は諜報部隊みたいなのが居るみたいなんだけど、この国はかなり広いし、どうしても情報が届くのに時間がかかるみたい。南西のアンデットの話は、場所がそもそもスレイン法国に近いから対応も早かったんだと思う」

 

「なるほどな…ちなみに変な話なんだが、領主とかが行方不明になって、今後この街の住人が困ることってあるのか?」

 

「え?うーん、そうですね…まあ次の領主が来るまでは多少治安が悪くなるかもですね。聞いた話だと領主が管理してる役人もいなくなったみたいなので。後は…まあ噂が立つでしょうし人の流入がやや悪くなるかもですね。そうなると商品が売れないので商人が困るでしょうね」

 

 

ニニャがそう言うと、カウンターの向こうの店主が絡んできた。

 

「そうなんだよ!ったく…人が来なくなったら商売あがったりだぜ、せめてアンタらは飲めるだけ飲んでってくれよ!」

 

「アハハ…」

 

あまり飲めない(らしい)ニニャは苦笑いだが、ペテル、ルクルット、ダインは景気よく酒を注文しだした。

パルメーラも、飲んでみると酒は結構おいしいという事が分かったので一緒に飲む。

 

店主も気が良くなったのか、酒をテーブルまで持ってきてくれ、また声を潜めて話をしだした。

 

「売上に貢献してくれるアンタらにとれたての情報を教えてやるよ。さっき言ってた領主だが、どうやら死んで見つかったらしい。何でも最初に探したときはいなかったのに、屋敷の焼け跡の柱に括り付けられて焼死してたとか…さらになぜか下半身が傷だらけで大事なところもつぶれてたってよ…怖い話だぜ」

 

店主の話にルクルットは「またホラーじゃねーか!どうなってるんだよ?!」と叫び、“大事なところがつぶれていた”という言葉に色々と想像してしまったダインとペテルは「ひえっ」っと声を上げ、ニニャは一瞬何とも言えない恍惚した表情を浮かべた後、すぐにペテルたちと同じように「うえっ」と舌を出した。

 

パルメーラはこの街で会った、ニグンという男に興味が湧き、彼の影に2匹の影の悪魔(シャドウ・デーモン)を滑り込ませることに成功したことに笑顔になっていた。

 

そんな店主の話の後に笑顔だったパルメーラに、男3人はちょっとひいているのだった。

 

 





何かがあって、全然違う人格になってしまったニグンさんと一瞬交わりました
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