オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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勘違いからのシュガールート。
王道ですよね。


第2章 第21話 -エ・レエブルには到着せず-

 

ここはリ・ボウロロール。

六大貴族の一人、貴族派閥筆頭のボウロロープ侯の屋敷である。

 

豪奢ながらどこか武骨な調度品が並ぶ部屋で、この屋敷の主であるボウロロープ候と、もう一人、どこか狐のような印象の男が密談をしている。

 

「…そう言うわけで、昨日早馬にてブルムラシュー侯が死んだという報告があった。しかも屋敷も燃え、家臣も失い、しばらくはあの土地を収める者が居らんようになる」

 

「それはそれは…ぜひとも哀悼の意を捧げさせていただかなければならないですね…しかし、という事はあの土地に住まう民のためにも、新たな指導者が必要なのではないですかな?私は候を推薦いたしますが?」

 

「ふん…奴は腐っても王派閥、後任は王派閥から選ばれるか…あるいは王直轄となるやもしれん。あの土地は鉱山があり潤っている。ランポッサめ、ここぞとばかりに腹心を送り込んで来るだろう」

 

「なんと、あのような腰抜け…おっと、ご慎重が過ぎる方の腹心となると、民にとっては少々残念なことになるやもしれませんな。そうだ、いっそのことバルブロ殿下にお任せするのはいかがでしょうか?殿下は王のご子息であり、王派閥の後任としても申し分ないのでは?義父である候からお口添えすれば、後々殿下が王になられた際に、我々にとっても良い結果となるのでは?」

 

「ふむ…」

 

貴族的な言い回しが嫌いという訳ではないが、本来武人気質に近いボウロロープからすると、目の前の男の回りくどいおべっかは、少々鼻につくというのも事実であった。

 

また、自身の義理の息子であるバルブロ王子はいまだ領地経営の経験はなく、いきなり王国一豊かな土地を任せるというのはいささか不安というのもある。

 

それにボウロロープの中では、すでに最初にバルブロ王子に任せる領地は自身の領地の一部と決めていた。

 

「それもいい案であるが、すでに蝙蝠が動き回っているという話もある。ブルムラシューの土地と蝙蝠の領地は近接しているからな…そこでだ、リットン。貴殿は特定の領地運営をしていなかったはず。ここはまず、リ・ブルムラシュールに隣接する領地を貴殿が管理し、いずれは貴殿がリ・ブルムラシュールを含めた土地を管理するのはどうかと考えているのだが」

 

「な…なんと私が。候がそのように仰って頂けるのでしたら、このリットン、全力で働かせていただきますとも。して、隣接する領地とは?」

 

「リ・アレクサンデルだ。ここを含め、ブルムラシュー侯の派閥であった土地のいくつかが領主が不在になっており、リ・アレクサンデルが最も我が領地に近い。したがって、この土地であればこちらから意見を通すことも出来よう」

 

「そこまでお考えとは…候の慧眼、誠に恐れ入ります。それではさっそく私はリ・アレクサンデルへ向かう準備をさせていただかなければ」

 

その後しばらくの無意味な会話の後、リットン伯は喜びの表情を浮かべ、ボウロロープ邸を後にする。

 

 

「ふん…狐が。嬉しかろう。存分に我が駒となって働くがいい…」

 

ボウロロープ候の本心としてはこうだ。

 

ブルムラシュー侯が治めていた土地は、有能なウロヴァーナ辺境伯とレエブン候の土地に挟まれている。仮に今後かの土地がレエブン候が治めることになった場合、その土地を手に入れるのは容易ではないだろう。そこで無能ではあるが野心家であるリットン伯を隣接する土地に入れ、リットン伯をたきつけることで揺さぶりをかける。万が一衝突することになれば切り捨てればいいし、うまくいくようであれば領地を紹介した者として利益を吸い上げるようにすればいい。

 

あるいはリットンが言っていたように、あの土地が混乱状態になったらそれまでには領地経営について成長したバルブロ王子に治めさせればいい。

どの状態でも自分にマイナスは無いとほくそ笑む。

 

そして気になることが一つ。

かのリ・アレクサンデルは領主が立て続けに変死をしているし、ブルムラシュー侯も嘘か誠か通常では起こりえないような事故で死んだと聞いた。

自身の本当の意味での腹心を送り込み、何かあった場合は重要な駒を失ってしまうかもしれないので、無くなってもいい駒であるリットン伯を送り込んだのである。

 

この判断は正しかったと言えるが、結果的に悪魔が辿ってやってくる伏魔殿(パンデモニウム)に、リットン伯を送り込むという口添えをしてしまったことは、彼の不幸だっといえよう。

 

 

 

 

 

そんな愚かな貴族の密談から少しさかのぼり、『漆黒の剣』とパルメーラは未だリ・ブルムラシュールにいた。

これは彼らが“陽光聖典”と遭遇した翌日の事であるが、朝、5人は宿で朝食を摂りながら、今後の動きについて話し合っていた。

 

「さて、パルメーラさんは知らないと思うから、ここからの動きを改めて説明しようと思う。まず、次に目指す街はエ・レエブル。この街までは距離があり、乗合馬車で5日はかかる。その次はエ・ペスペル。エ・レエブルからエ・ペスペルはさらに遠く、7日以上かかる。エ・ペスペルから東へ行くと俺たちのホームであるエ・ランテル。この区間はもっと遠く、さらに乗合馬車も少ないため、待機時間も含めて15日ほどかかる」

 

「そうそう、こっからが遠いんだよなー」

 

「行きも大変だったよね。なんか遠い昔に感じるけど…」

 

「だが懐はだいぶ温かくなったので、結果的に遠征は成功だったのである」

 

一同はそれぞれの思いを語った。

ここでパルメーラが手を上げて意見を述べる姿勢になった。

他4人は笑顔でパルメーラに続きを促す。

 

「その、非常に勝手な申し出で悪いんだが、もう少しこの街に居ることは可能だろうか?宿代は俺の分から出すから」

 

一同は少し考える素振りをしたが、特に急ぐ必要はないなという結論に至り、一方でなぜパルメーラがそのようなことを言い出したか確認をした。

 

「理由は二つある。まず一つは、俺の勝手ではあるんだが、早くこの国の文字を覚えたいんだ。馬車の中ではどうしても揺れて書く練習ができないので、落ち着いた場所で教わりたい。これについては教えてもらう必要があるから、誰かを拘束することになってしまうんだが…」

 

『漆黒の剣』の面々はニニャに視線を移す。

実質ここまで文字を教えていたのはニニャだったからだ。

 

ニニャはパルメーラを見て、少しうれしそうな顔で返事をした。

 

「僕は全然かまいません。確かにどこかにちゃんと座ったほうが教えやすいですし」

 

『漆黒の剣』の他3人は、ニニャの気持ちを知って、ニヤニヤ…しない。彼らは普通に善人であるし、大人だからだ。

 

 

「ああ、ニニャ助かる。それともう一つは、これもニニャに関することになっちまうんだが…」

 

今度こそニニャは『えっ?』という顔でちょっと緊張したような顔になる。

 

「この機会に上位転移(グレーター・テレポーテーション)を覚えて、エ・ランテルまで一気に移動するのはどうかと思うんだが」

 

パルメーラは顔を近づけ、かなり小さい声で説明した。

彼の中にも皆の教育のおかげで“常識”というものが芽生え始めた故の行動である。

 

『漆黒の剣』は一瞬キョトンとしたが、すぐに皆『確かに!』という顔になった。

なぜならば、件の呪文がパルメーラの言う通りの効果であれば、今後は一度言った街は一瞬でしかも無料で移動できるという夢のような状態になるのだ。

 

具体的な大都市で言えば、エ・ランテル、エ・ペスペル、エ・レエブル、リ・ブルムラシュール、リ・ウロヴァール。

 

「おい、それ大賛成だぜ!まだ行ったことが無い王都とかも一度行けばいつでも行けるってことだろ?」

 

「薬草を摘んだ森にも一瞬で行けるのであるか?!」

 

「みんなちょっと待て、まず習得が可能そうなのかニニャに聞かないと」

 

「えっと…多分可能だと思うよ。実を言うと第5位階の転移(テレポーテーション)はもう習得済みなんだ。上位転移(グレーター・テレポーテーション)は第7位階って聞いたから一段飛ばしになるんだけど、イメージをつかむのにもう少し時間を貰えれば使えるようになる感じがあるよ」

ニニャはより声を落として説明する。

 

そう言う訳で、ここリ・ブルムラシュールにてしばらくの残留が決まったのだ。

 

ペテルが店の店主にしばらく期限を設けない連泊を申し出ると、店主は両手でペテルと手をつなぎ、ペテルの体が揺れるほど激しく振って喜びを表していた。

 

それを見ていたパルメーラは、『すげえなあの店主、ペテルはレベル36だぞ?』と変なことを考えていた。

 

 

 

 

さて、パルメーラがなぜこのような申し出をしたかというと、言葉にした内容に嘘は無いのだが追加の真意がある。

 

 

まず、文字を覚えたいというのは本当で、これは単に不便だからという訳ではなく、悪魔を使ってブルムラシュー侯爵の邸宅や犯罪組織のアジトから集めた書類の写しが読めないからである。

 

はじめパルメーラはこのことをすっかり忘れていたのだが、悪魔へ集めた書類の内容を教えるように命令すると、彼らもそれが読めず、非常に恐縮されて困った。

 

なので、写しを作らせて、原本は教会(現在はニグンのチーム)へ渡したのだが、内容が内容だけに誰かに読んでもらう訳にもいかず、結局自分が文字を覚えるしかないという結論に立ったのだ。

 

この内容によっては、現在新しくリ・アレクサンデルに来た領主や今後訪れる街の領主に対する対応を考える必要があるかもしれないと思ったので、できるだけ早く文字を読めるようになりたかったのだ。

 

 

もう一つはブルムラシュー侯爵の邸宅から集めた金銭の使い道である。

 

ブラムラシュー侯爵の屋敷を焼き払う前に、悪魔を使い金銭だけは回収した。

 

調度品などは売る伝手が無いので放置したが、金銭を残した場合、次の領主がこれをせしめて無駄遣いや奴隷購入などの消費をするかもしれないと考えたためだ。

 

そしてこの金銭は、本来この街の住人のものであるから、この街に可能な限り還元しようと思ったのである。

 

やっていることは鼠小僧とか石川五右衛門なのだが、ウルベルトの中でその辺の者たちは悪を撃つ悪という認識なのでセーフである。

 

そう言う訳で、それとなく『漆黒の剣』にこの街がこれから困りそうなことを聞き、そこに重点的に消費しようと考えた。

 

宿代を出すというのもその一環である。

 

また、残った分は教会に寄付してもいいなと考えた。

これは、少なくともこの街の教会は、街の住人のために正しく働いていると感じたからである。

 

 

 

 

それから何日間は、午前中は冒険者組合の中でニニャと文字の勉強をし、午後はニニャに魔法のイメージを伝え、残りの時間は市場などを覗いて、経済を回すため積極的に買い物をした。

 

また教会には、匿名で喜捨をするための箱があり、ここに毎日多すぎない金を入れていく。

 

一度に高額を入れると色々と問題になりそうだという考えがあったためである。

 

 

ニニャは午前のパルメーラへの勉強と、午後のパルメーラからの時間は、ずっと彼と一緒にいるので、何とも言えないくすぐったい時間が続いていて、それ以外のパルメーラが買い物等をしている時間は敢えて別行動をしていた。

 

他のメンバーは、時には勉強に一緒に参加したり、思い思いの買い物や、教会でのお手伝いなどをして、今まであまりなかった休暇を楽しんだ。

 

 

ある日、もう少しで上位転移(グレーター・テレポーテーション)を使える感覚をつかんだニニャは、パルメーラからの魔法講義の後、始めてパルメーラがそれ以外の時間に何をしているか後をつけてみた。

 

 

すると、彼は町中の商店などを回り、どの店でも違和感がない程度に買い物をしていく。商店の主との会話から、彼は相当常連のようだ。

 

そしてその後は教会へ向かい、歩きながら素通りするような素振りで、素早く喜捨の箱に金貨を数枚入れ、何事もなかったようにまた商店に戻る。

 

最後に彼は肉の串焼きが出ている屋台で串を1本買い、果実水の屋台でコップ一つの果実水を買って、迷うことなく広場のベンチに座った。

 

この流れはもう習慣になっているのだろう。

 

そこでニニャは気づく。

彼はそう言えば変なことを聞いてきた。

 

『領主とかが行方不明になって、今後この街の住人が困ることってあるのか?』

 

その言葉と彼の行動が一本の糸でつながり、途端に心の中に、暖かくて柔らかいような、それでいて心の中を強く刺激するような、そんな感情が浮かんだ。

 

その感情は何だか分からないし、今までにぼんやりとしか無かったものだったが、その時初めてはっきりと心の中で、確かにあるという事が自覚できた。

 

そしてその感情につける名前は、知識としては知っているが、それが自分にはふさわしいものかまだ分からなかったので、名前を付けるのは、まだ先にしようと思った。

 

 

ニニャは偶然の様に、わざとらしく、パルメーラの隣に座った。

 

「うお、ニニャか。お前も休憩か?」

 

「はい、何となく街の中を歩いていたら僕が知っている人が居たので、様子を見てました」

 

パルメーラは、さすがにそれは自分のことだなと理解したので、目線をニニャから離し、果実水を飲んでニニャの言葉を無視する素振りをした。

 

「パルメーラさんは…本当に“悪”なんですか?」

 

「は?あたりめーだろ。俺は悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)だぞ。それに悪じゃなきゃこの悪剣・ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)は使えねえんだ」

 

ニニャは柔らかく微笑み、小さく言った。

 

「あなたが悪でも、どうやらあなたは僕の英雄のようです」

 

 




ぺロロンチーノは、居ません。

ウルベルトさんを全力で応援する会(会長:モモンガ)により、有害になる可能性が高いと判断されて、姉に捕まっています。


いつかこの光景の上映会をする御方々を書きたいですね。
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