オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

45 / 142
2章の終わりが見えてきました。
エ・ランテル到着です。


第2章 第22話 -エ・ランテル-

 

 

 

3週間ほどの勉強の結果、パルメーラはなんとかこの国の文字を読めるようになっていた。

結果、ブルムラシュー侯爵邸や犯罪組織から手に入れた文書の内容も何となく読めるようになった。

ただし犯罪組織の文書は、あまりの速記なのか、はたまた暗号なのか分からないが、非常に読みづらい点や、意味が分からない部分があり、これについては今後さらに勉強する必要があると感じられた。

 

ともかくも分かったのは、“八本指”と言う組織と“黒粉”という麻薬があるという事。

 

また、“八本指”という組織は多くの王国の街に支部な様なものがあり、いくつかの貴族と思われる名前の者とつながりがあるという事。

ブルムラシュー侯爵とも当然繋がりがあり、彼の場合はどちらかというと八本指がリ・ブルムラシュールで勢力を拡大するために利用されている雰囲気であった。

 

八本指は奴隷売買や違法娼館を経営しているという事実からも、ニニャの姉を探すには、この八本指の情報を集める必要があると理解した。

 

また、1週間前にリ・アレクサンデルに新たな領主が来て、そしてすでに処理済みである。

リットン伯と呼ばれていた男は3日程前に、前回、前々回の領主同様、餓死(正確には脱水)した死体となって領主の部屋で発見されており、今日、さらに新たな者が来ることが影の悪魔(シャドウ・デーモン)の知らせで分かっている。

 

ただ、今度のリ・アレクサンデルの領主は既にどのようなものが来るかパルメーラは悪魔からの知らせの前に知っていた。

それは、現在滞在しているリ・ブルムラシュールの新しい領主…というか屋敷が無いので代理の様な立場のようだが、その者がリ・アレクサンデルにも自身の親戚筋の者を送るという話をしていたからである。

 

その者の名はエリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵という名前で、どうやら本来は次に立ち寄る予定であった街であるエ・レエブルの領主のようだ。

ニニャが上位転移(グレーター・テレポーテーション)をほぼ習得したようなので、残念ながら自身の目で街を見るのはだいぶ先になりそうだが、問題ある者、いやパルメーラの中では貴族は基本的にマイナス判定から入るのでおそらく問題ありとなるのだが、そう言った者は処分することになるだろう。

 

また、リ・アレクサンデルの前回の領主であるリットン伯を遣わせたものもすでに判明し、これはリ・アレクサンデルの西側に領地を持つボウロロープ候という人物のようだ。

この屋敷にもすでに悪魔は潜入済みで、こちらについては“方法”を考え中なので少しずつ配下を送り込み始めている状況である。

 

そして今日は、ついにニニャが上位転移(グレーター・テレポーテーション)の実践をする日となった。

 

パルメーラは宿の主人に今までの宿代を支払い、商店で最後の買い物をし、教会に今までより多めに金貨を寄付し、現在『漆黒の剣』の他の者と共に、リ・ブルムラシュールの外の街道から少し外れた草原にいる。

 

始めにパルメーラは、『漆黒の剣』のメンバーに、この魔法は転移失敗はないこと、また同行者は拒否の意思を示すと一緒に連れていけないことを説明し、転移について拒否の姿勢を取らないことを注意した。

 

ニニャは意識を集中し、『上位転移(グレーター・テレポーテーション)!』と叫ぶと、景色が一瞬で変わり、少し先には城壁で囲まれた今まで見たことが無い街が見えた。

 

「成功だ…」

 

とニニャが呟いたことから、ここがエ・ランテルなのだろう。

『漆黒の剣』の皆はニニャを讃えていて、ニニャもうれしそうだ。

ニニャはパルメーラの方を見て微笑むと、パルメーラも一つ頷いた。

 

それから彼らは門をくぐり、久しぶりのホームであるエ・ランテルへと戻ってきた。

まずやるべきことは、パルメーラの転入と、『漆黒の剣』への正式な加入の手続きである。

 

念のため今日の宿をとるために、ルクルットとダインはなじみの宿に今日の宿泊の予約を入れに行き、事務手続きのためペテル、ニニャ、パルメーラは冒険者組合へ赴く。

 

冒険者組合の扉を開くと、明らかに見知った男が組合の椅子に座っている。

パルメーラはそれに気づき声をかけた。

 

「あんた…アズス・アインドラだったか?」

 

赤毛の混じった金髪の男が振り返り、ニヤッ笑った。

 

「お、パルメーラ。思ったより早かったな?」

 

以前会った時よりさらに親し気にアズスが答えた。

 

「え?アズス様?!」

「それに、『朱の雫』の皆様も?!」

 

ペテルとニニャも驚いてアズスと、その周りにいる見覚えのある面々を見遣った。

 

「おいおい、もう知った仲なんだ。“様”なんぞ付けんでくれ。それに、俺より強い奴にそんなに畏まられるのは厭味に聞こえるぜ?」

 

『朱の雫』の他のメンバーも苦笑いで賛成する。

少なくともアズスの言ったことの後半については同意見なのだろう。

 

 

「叔父様、彼らは叔父様があまりに馴れ馴れしいので呆れているのでは…」

 

やれやれ、といった顔で額に手を当てて首を小さく振る美しい女性、そして双子と思われる少女と、大柄で筋骨たくましい男性?の4人がアズスの席の向かいに座っていた。

 

「ん?『朱の雫』に新しいメンバーが加わったのか?」

 

パルメーラが質問すると、それら4人が立ち上がり、中央の金髪で美しい女性がパルメーラ、ペテル、ニニャの順に目線を向け、そしてもう一度パルメーラに目線を戻すと一つお辞儀して自己紹介をした。

 

「初めまして、『漆黒の剣』の皆さま。私は冒険者チーム『蒼の薔薇』のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。アゼルリシア山脈では叔父がお世話になったと伺っております」

 

差し出された手に反射的に握手を返したパルメーラは、その手を離すと自己紹介と共にペテルとニニャを紹介する。

 

「俺は、パルメーラ・スラヴァン。えーと、正確に言うとまだ『漆黒の剣』の一員じゃないんだが、ここまで一緒に旅をしてきた。『漆黒の剣』のリーダーはこっちのペテル。そしてチームの頭脳のニニャだ。俺はこれから『漆黒の剣』に正式に加入するため組合に申請を出してくるから、こっからはリーダーに引き継ぐぞ」

 

そう言って彼はそそくさと受付の方へ移動していった。

 

 

アダマンタイト級冒険者チーム2組を前にしているにもかかわらず、あまりのパルメーラの対応に、今度はニニャが頭を抱え、ペテルが『申し訳ない』と頭を下げた。

 

ラキュースは想定外の反応にキョトンとし、ガガーランは『大物じゃねーか』と笑い、アズスは『だろ?』と賛同する。

そして双子は表情を変えずに『『残念、対象外』』と言う。

 

 

パルメーラは転入の申請を無事に終え、『漆黒の剣』への加入についてはペテルのサインが要るとのことで、今度はペテルが受付に移動する。

 

ペテルがサインの入った紙を持って戻ってきて親指を立てるポーズをパルメーラにした。

パルメーラとペテルは先ほどの輪の中に戻ると、「改めて、『漆黒の剣』のメンバーのパルメーラだ」と自己紹介した。

どうやら彼らはちょうど、ここまでの経緯をお互い説明していたようだ。

 

「ああ、ラキューたちと合流した後、全速力でここまで来たんだぜ。なにせここの組合長を脅し…説得する必要があると思ったからな。それにしてもリ・ブルムラシュールで何か騒動があったと聞いたから、あそこには寄らずまっすぐここまで来たんだが、お前たちは良く足止め食らわなかったな?」

 

「はぁ…叔父様はちょっと黙っててもらえます?まぁ、叔父の話はさておき、私たち『蒼の薔薇』はここエ・ランテルで依頼があったので急行してきたのです。叔父たちもにも同じ依頼が出ています。それは…」

 

ラキュースがそこまで言うと、冒険者組合に新たに3人の人間が駆け込んできた。

パルメーラも知っている男、ルイセンベルグと、後は老婆と仮面の子供?

 

ルイセンベルグはパルメーラたちを見ると『貴殿らも到着したか、積もる話もしたいところだが今は緊急にて失礼!』とすぐに『蒼の薔薇』、『朱の雫』のテーブルまで来て話し出した。

 

「間違いない、少なくとも数万のアンデッドの群れがカッツェ平野の方から押し寄せてきている」

 

ルイセンベルグは、他の冒険者に聞こえないように、テーブルに近づくと小声で、しかしはっきりと告げた。

その報告に、そこにいた冒険者3チームのメンバーは息を飲んだ。

 

「詳しくは最も近くまで接近して確認したイビルアイ殿から説明してもらった方がいい」

 

 

ルイセンベルグの視線の先には先ほどの仮面の子供。

仮面をしているため目線は追えなかったが、どうやらパルメーラや『漆黒の剣』のメンバーを確認したのだろう。

 

「おい…部外者がいるぞ。ここで説明はまずいんじゃないか?」

 

その声はくぐもった分かりづらい声で子供にも老人にも聞こえる。

 

「イビルアイ、構わないわ。この方たちは『漆黒の剣』の方々。きっと力になってくれます。それに彼らはここエ・ランテルをホームとしてる冒険者。この街のことは私たちよりも良く理解しているはずだわ」

 

「嬢ちゃんや、大丈夫じゃ。この者たち…少なくともそっちの魔法詠唱者(マジック・キャスター)は、強い」

 

「……リグリットがそう言うなら、まあ、とりあえずは信じるか。では簡単に説明するぞ。組合から報告があった通り、カッツェ平野にアンデッドの群れを確認した。普通あそこのアンデットは特定の町などに向かっては来ないのだが、今回は違う。先頭にいるのは数千のビーストマン・アンデッド。ビーストマンの生息領域から考えて、竜王国の方から来たのだろう。なぜか分からんが奴らは全速力でこちらの方角に向かって走ってきている。その後ろには、例の霧で正確には分からないが、おそらく数十万のアンデッド集団。こいつらはビーストマン・アンデッドが平野を渡る際に集めてしまったのだろう。すでに強力な個体も出現していしまっていてかつての魔神クラスのアンデッドも数体混じっている」

 

「魔神…それって13英雄の話に出てくる…」

ニニャが呟くと、それについては老婆が答える

 

「そうじゃ。かつての魔神は難度で言うなら最大で200程度じゃった。今回のアンデッドには難度150~200あるいはそれ以上の個体もいるかもしれん。残念ながらその難度になると、わしの力でも操れん」

 

老婆のその言葉にニニャは『はっ!』とした顔をする。

 

「アンデッドを操る…リグリット……まさか、あなたは“死者使い”リグリット・ベルスー・カウラウ様?!」

 

「そうじゃな…今は『蒼の薔薇』のリグリットじゃがな」

 

「13英雄…本当に…」

 

 

ニニャの反応からペテルとパルメーラは、老婆の正体を何となく理解した。

恐らくは13英雄の生き残り?

 

ただ、ニニャの話では13英雄というのはおよそ200年前に活躍した者たちと聞いている。

という事はこの老婆は人間種ではないのだろうか?

 

 

「話を聞いたんだ。お前たちも手伝ってもらうぞ。この街の『冒険者』なんだろう?」

 

仮面の子供の言葉に、ペテルは覚悟を決めた表情で頷く。

3チームのリーダーはともに組合の受付へ行き、受付嬢は組合長を呼んでくると言った。

 

そんな中、仮面の子供がパルメーラに話しかけてきた。

 

 

「お前がパルメーラか…アズスから聞いたのだが、お前、ドラゴンを一瞬で切り捨てたそうだな…それは事実か?」

 

パルメーラは一瞬困惑する。

それは『漆黒の剣』の皆から、持っている力を簡単に開示すべきではない、と散々“教育”されていたからだ。

しかしよく考えれば、この子供はアズスと知り合いの『蒼の薔薇』のチームメンバーだ。

『漆黒の剣』の強さについて説明するうえである程度は何があったかを説明したのだろう。

アズスには具体的な能力については漏らすなと言ったが、どの程度まで話したのか…

 

「アズスから聞いたのか、えっと、“イビルアイ”だったか?アズスからはどこまで聞いたんだ?」

 

「お前がドラゴンを一瞬で2体切り捨てた事、『漆黒の剣』が数えきれないほどの亜人とドラゴン12体を倒したこと…それだけだ。正直言って、私はお前たちの力を疑っている。力が無い者や中途半端な力の者が今回のアンデッド討伐に参加すれば、死ぬだけでなく、力を取り込まれる恐れもある。そういう可能性があるなら後方支援をしてもらうことになるだろう」

 

「取り込まれる…それって集合する死体の巨人(ネクロスウォーム・ジャイアント)とか死の騎士(デス・ナイト)とかのことか?その程度なら大丈夫だが、死の支配者(オーバーロード)クラスの奴が魔法で操ってくるとかだとキツイかもな…どの程度のが居たんだ?」

 

「ま…待て待て待て!なんだそのオーバーロードとかって!そんなの私も知らんぞ!!リグリット!ちょっと来てくれ!」

 

 

リグリットはニニャと話していたようだが、イビルアイに呼ばれしぶしぶこちらへ来る。

 

「なんじゃイビルアイ…こっちは可愛い後輩と話してたというのに…」

 

「そんなの後にしろ!こいつ、私が聞いたことないアンデッドの話をするんだ!リグリットも聞いてくれ!」

 

パルメーラは仮面の子供の落ち着きのなさに若干呆れたが、まあ子供はこんなもんかと思い直し、リグリットという老婆に話しかける。

 

「なんか…すまんの」

 

「いや…まあ子供はこんなもんだろ。特に気にしていないぜ」

 

「こどっ…!もがが」

 

そこまで言うといつの間にか『蒼の薔薇』の双子の少女が後ろからイビルアイを抑え込んだ。

いや双子の片方は仮面の上から口を押えているようだが、もう一方は胸を押さえて揉んでいる。

 

「はいイビルアイがいると話が進まない」

「そんなんだから胸も成長しない」

 

 

イビルアイは引きずられていった。

何がしたいんだこいつら…

 

 

「で…なんだったか…」

 

「アンデッドがどうとか言っとったようだが?」

 

「ああ、そうだ。敵のアンデッドは最大でどのくらいのが居たんだって話だった。例えば死の支配者(オーバーロード)クラスのはいたのか?」

 

その瞬間、老婆の目がクワっと見開かれた。

 

「その名…200年ぶりに聞いたわ…お前さんは何故そのアンデッドを知っている?」

 

「ん…いや、実を言うと俺はかなり遠いところから旅をしてきた者で、この国の住人じゃない。俺が元居た場所には、そう言う名の強いアンデッドが居たんだ」

 

「お前さん…まさか…いや……」

 

老婆は何かを思い出そうとするかのように目を閉じ考える。

そして一つの言葉を紡ぎ出す。

 

「“リク”という人物の名に覚えはないだろうか?」

 

 




まさかのリグリット青の薔薇現役メンバーです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。