オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「“リク”?残念ながら知らない。それは誰だ?」
「200年前、今でいう13英雄として活動していた時のリーダーの名じゃ。彼は…お前さんと同じことを言っていた。彼の故郷には様々な種族が暮らしていてそこにいるアンデッドでも特に強いものとして“オーバーロード”という種族がいると」
パルメーラはここで初めて、13英雄という存在がユグドラシルと関係があるかもしれないと気づく。
そしてそのことを確かめるために、目の前の老婆に確認をする。
「そのリクという男は、故郷の名を言っていたか?」
「いや…ついにそれは教えてもらえなかった」
「そのリクという男はまだ生きているのか?」
「いや…死んだ。残念ながら“神竜”との戦いで相打ちになった。“神竜”との戦いにわしは参加していない。参加した者は、リーダーのリク、大神官、エルフ王、暗黒騎士、白金、魔法工、暗黒邪道師、イジャニーヤ。皆帰らなかった」
「…そうか…リクと同じ故郷の者はいなかったか?例えば暗黒騎士はどうだった?」
「いない…と思う。だが“白金”は何か知っている感じじゃった。ただ、やはり神竜との戦いの後、鎧だけが残され、本人は行方知れずとなった。“暗黒騎士”は恐らく違うと思うが…もしかしたら彼の祖先はリクと同じかもしれない」
「それは、どういうことだ?」
「ここだけの話、“暗黒騎士”は悪魔の血が入っている者だった。彼は悪魔の先祖から伝わる4本の魔剣を持っていたがその魔剣を見たリーダーがそのようなことを言っていた」
「ん?待て、その“暗黒騎士”というのは“黒騎士”の事か?四大魔剣とやらを持っていたという」
「ああ、おとぎ話ではそう伝わっているやもしれんな」
「確か魔剣の1本は『蒼の薔薇』の誰かが持っているとか」
「ああ、そうじゃな。これは有名になっとるから良いじゃろう。ラキュースは『魔剣キリネイラム』を所持している。実は神竜との戦いの前に、なぜか彼は4本の魔剣をわしに預けたんじゃ。その後、使用できる技量があったラキュースにキリネイラムを預けた」
「他の3本もあるのか?」
「いや…それは…」
「あ、いやすまん。簡単に言えることでは無かったな」
「お前さんは…やはりリーダーと同じ故郷から来たのか?」
「何とも言えないが、そうかもしれない。明言はできないが、重なる部分が多い」
「なんと…!」
「リクは、強さの指標を“難度”ではなく“レベル”と言っていなかったか?」
老婆は何度目かの驚愕の顔を見せた。
その顔が答えを物語っていた。
「それと…そうだ、チームのことを“ギルド”、チームメイトのことを“ギルメン”と言っていなかったか?」
「イビルアイ!」
老婆が叫んだ。
組合の中は一瞬静まり返った。
老婆は『はっ』として、周りに謝罪すると、イビルアイを呼び戻した。
「イビルアイ、落ち着いて聞くんじゃ。このパルメーラ殿は、リクと…リーダーと同郷の可能性がある」
「なんだと!」
また組合中の視線が集まる。
慌ててリグリットと、イビルアイも一緒に謝罪する。
そしてリグリットの合図で3人の座るテーブルにはイビルアイが魔法をかけて周りに音が漏れないように処置をする。
「さて、パルメーラ殿、先ほどは大変失礼した。ここから先はこのイビルアイも加えて話すべきなので呼ばせてもらった。先に言っておく。このイビルアイも13英雄と呼ばれたチーム…そうリーダーの言葉で言えばギルメンの一人じゃった」
「リグリット…!本当なのか?こいつ…いやこの人が、リーダーと…」
「パルメーラ殿は難度を“レベル”と、チームを“ギルド”と言った。先ほど言っていた“オーバーロード”というアンデット種族、わしはリーダーから聞いたことがある。パルメーラ殿の故郷にはそう言う種族がいたそうじゃ」
「な……いや…だからこそ…か。パルメーラ殿…先ほどは疑ってすまなかった…あなたがリーダーと同郷というなら、ドラゴンを瞬殺したという強さも納得できる。リーダーは…最初は弱かったが、魔人討伐を経て誰よりも強くなった。リーダーは“こうりつてきなれべるあっぷ”という手段だと言っていた」
「イビルアイ…いや、謝る必要はないが、その言葉“効率的なレベルアップ”…ほぼ間違いなく、リーダーは俺と同郷だ。彼は“魔神”とやらを倒す時、ラストアタック…つまりとどめを担当していなかったか?」
「その通り…その通りじゃ!やはり…言葉のアクセントがリーダーと同じじゃし、“ラストアタック”という言葉も聞いた記憶がある」
イビルアイはもう一度頭を下げ、仮面のままこちらをじっと見ると、意を決したように言った。
「リーダーと同郷というなら…おそらくは私のことを言っても大丈夫だと思うので打ち明ける…私の本名はキーノ・ファスリス・インベルン。
「そうか、だから200歳以上なのに子供の様な外見なのか、納得した。俺は…
パルメーラは一瞬迷ったが、“ウルベルト・アレイン・オードル”の本性については『漆黒の剣』にも明かしていないので言わないことにした。
「やはり…私の種族を知っても驚かないのだな…リーダーと同じだ…。ああ、仲間は知っている。だがそれ以外には開示していない。分かっていると思うが普通の人間はアンデッドに対して良い印象は持っていない」
「そうなのか?聞いた話では13英雄には異形種も居たようだし、なんでアンデッドだけハブられてるんだ?」
「はは…本当、リーダーと同じなんだな…いや、そうだな。多分パルメーラ殿やリーダーの故郷と違って、ここではアンデッドは知能を持たず、基本的には生者に対して憎しみを持っているから問答無用で襲ってくるからだと思う。違うんだろ?あなたの故郷は」
「ああ…そうだな。種族は関係ない。何なら俺の友人にも
「パルメーラ殿」
今度はリグリットが話す。
「先ほどの4本の魔剣の話じゃが、パルメーラ殿を信じてお話ししよう。4本のうち、人であっても扱えたので魔剣・キリネイラムは神官戦士のラキュースに渡した。他の3本のうち、腐剣・コロクダバールはアンデッドを扱う者しか使用できなかった。じゃから今、わしが持っている。この腰の剣がそれじゃ。そして残りの二本、邪剣・ヒューミリスと死剣・スフィーズは人には使えなかった。確かナントカという職業でないと呪いを受けるとか言っておった。なので、リーダーとこのキーノが、八欲王の“ぎるどほーむ”へ行き、そこに置いてきた」
「職業は恐らく“カースドナイト”だな」
「そ、それじゃ!」
「…いやちょっと待て、“八欲王のギルドホーム”だと?“八欲王”とは500年前のおとぎ話と聞いている。リクは“八欲王”のギルメンだったのか?」
今度はキーノが答える
「いや、違うと言っていた。リーダーのギルドはもっと南の海の上にあると。ただ、リーダーはなぜか“八欲王”のギルドホームに入ることができた。“呪文で裏口が開く”と言っていたが、すまない、詳しくは覚えていない」
「そうか…いや、多分リクも言っていたと思うが、その“八欲王”もおそらく俺やリクと同郷だな」
「ああ、リーダーもそんなことを言っていた気がするが、200年前の時点で八欲王はもう生きてはいないと言っていた」
13英雄の生き残りから様々な事実が分かった。
パルメーラはこの時初めて、過去にユグドラシルから来ている者が居る可能性を明確に認識した。
そしてそれはつまり、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーもここにいるかもしれないという可能性に思い当たるとともに、なぜか500年前や200年前に居たという時間のずれが発生していることも認識し、可能性は高くないかもしれないが、この世界でギルメンを探すという事も目標の一つとしなければいけないと考えるようになったのである。
ともかくも、今は眼前の問題を片づける必要がある。
「リグリット、キーノ。情報共有ありがとう。俺にとっても非常に有用な話だった。今後、これ関係で力になれることがあれば、可能な限り手を貸そう。ただ、今は迫っているアンデッドの群れをどうにかする作戦を立てるべきだ」
「こちらこそ…リーダーを…昔を思い出したよ。わしも思い出したことがあったら伝えよう」
「ああ、私も…いずれこの仮面を外して話せる時が来るかもしれないという希望になった。だが…そうだな、今はカッツェ平野の件が先だ。実際のところあなたの力で対処できそうか?」
「わからん…さっき言ったように、アンデッドの種類による。さっき言った
「武器…そう言えば、さっきから気になっていたんだが、あなたが持っているその漆黒の剣、暗黒騎士が持っていたような輝きと、それ以上のプレッシャーのようなものを感じる…それは故郷の武器なのか?」
「ああ、さっきの4本の魔剣が気になっていたのはこれが理由だ。これは俺専用の剣。名を悪剣:
パルメーラは剣を鞘に入ったまま机の上に置いた。
「こ…れは…」
「なんという力じゃ…」
二人は言葉に詰まる。
確かに記憶にある暗黒騎士の4本の魔剣と似たような名前と見た目であるが、内蔵されている力は比べ物にならない。
それはそうである。WIがくっついた
ここでパルメーラの悪い癖が出てしまった。
「この悪剣、悪を使いこなせるものにしか使えない。この剣の力を開放すれば見渡す限りの数の敵を殺しつくすことができる。ただしそれには俺自身の悪魔の末裔としての開放が必要だ」
パルメーラのなんか良く分からない説明も、実際に13英雄として旅をした彼女らには真実にしか聞こえない。
まあ、『幾億の刃』を使用すれば事実なのだが。
4本の魔剣のうち、2本は人間は使用できなかったというのは事実だし、1本はアンデッドを使役していないときに使用すると呪いが返ってくるし、最後の1本は人が使えるかと思いきやラキュースという神官戦士が全力で抑えなければ精神を乗っ取られるかもしれないという事がラキュース本人の言動から分かっている。
なのでこの凄まじい力を感じる“悪剣”は目の前の男でなければ扱えず、何らかの代償を払わなければ最大の力を解放できないのだろうと納得したのだった。
ちょうど3チームのリーダーが戻ってきたので、3名も密談を終え、それぞれのチームに戻る。
リーダーと共に白髪の混じったアフロヘアーの男性が出てきた。
彼はこの冒険者組合の組合長で名をプルトン・アインザックという。
彼は3チーム全員を奥の会議室に入るように促した。
「アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』および同じくアダマンタイト級冒険者チーム『朱の雫』の皆さま、緊急の招集にお集まりいただき、そしてアンデッドの群れの状況をご報告いただきありがとうございます。また『漆黒の剣』の諸君、遠征ご苦労だった。諸君らの活躍はリ・ウロヴァールの組合長と『朱の雫』の皆様からよーーーく聞かせてもらった。昇級のための試験と行きたいのだが、今はそんな時間はないようだ」
ペテルとニニャは頷く。
「これより『蒼の薔薇』と『朱の雫』および両チームからの推薦により『漆黒の剣』を含めた3チームを主体としたアンデッド群討伐を依頼したい。また、現在この街にいる全ての冒険者チームに、街を守るための緊急依頼を出し、プレートによる分類で、“街の外周防御”、“物資運搬”、“市街戦の対応準備”、“街の治安維持”に分けて対応するつもりだ。この話は現在、魔法師組合、薬師組合、都市長へ早急に伝達している。ここまでで何か質問は?」
パルメーラが手を上げる。
この中では唯一首に下げるプレートが
本来はこんなところにいるべき者ではないのだが、『朱の雫』と『漆黒の剣』のリーダーが血相を変えて、“このメンバーの中で最も強い”と語ったのだ。
アインザックとしては完全に信じることはできないが、高名な『朱の雫』のリーダーや、人柄を良く知っているペテルは嘘を言うとは考えられない。
アインザックはともかくもその冒険者“パルメーラ”に意見を聞く。
「パルメーラ殿、どうぞ」
「ああ、その“物資運搬”というのは、つまりこの街から、アンデッドの大群の近くまで人や物を運ぶという意味だろうか?」
アインザックが肯定すると、パルメーラはペテルとニニャに向き、喋り出す。
「このメンバーは口止めすれば口外しないと思うが、どうだ?あとは魔法力次第なんだが」
そう言ってパルメーラはニニャを見つめた。
ペテルとニニャは一瞬考えたが、すぐにパルメーラが言いたいことに思い至った。
そしてニニャは「大丈夫です」と答え、ペテルはそれを確認するとアインザックを含めたこの場にいる全ての者に向けて話す。
「組合長、『朱の雫』、『蒼の薔薇』の皆さん。今回の作戦で使用する魔法やスキルなどは口外しないと約束していただけますか?」
「ああ、もちろんだ。戦場で使用する切り札については、この関係者間のみで共有する、後で文書を作成しよう」
『蒼の薔薇』、『朱の雫』もうなずく。
2チームは『朱の雫』が見た『漆黒の剣』の戦闘からパルメーラがとんでもない力を持っていると知っているので、パルメーラの力に関する秘匿事項だろうと考えたのだ。
なのでそれに続くペテルの言葉に一同は驚愕する。
「分かりました。それではお伝えしますが『漆黒の剣』の
「なんだと!それは第7位階の
イビルアイが椅子から立ち上がって叫んだ。
パルメーラは、『こいつ、やっぱりお子様だな』と思った。
ニニャはイビルアイの剣幕に一旦怯んだが、その後小さくうなずいた。
「はい、仰る通りです。何度も使用すると魔法力を大幅に消費してしまいますが、この人数とその人たちが持っている物資でしたら一度で運べると思います」
ニニャの回答に『漆黒の剣』を除くすべての者が驚愕する。
特に、1~2か月ほど前に遠征に行く前の彼を知っているアインザックの驚きはひとしおだった。
「この短期間で第7…いや、今は頼もしい仲間がこの街いたことを喜ぶべきか…では“物資運搬”ななしだ。その分他のチームに手を回そう」
その後、詳細を打ち合わせ、アインザックはこの3チーム以外に向けて『緊急依頼』を出す。
元々の『漆黒の剣』を知っている、この街のいくつかの冒険者チームが、彼らが王国の2大アダマンタイトチームと共に直接討伐に臨むと知り、嫉妬心からヤジを飛ばそうとしたが、パルメーラも含めた5人の雰囲気は、1~2か月前とは明らかに違っていて、声をかけることができなかった。
ある者は、『漆黒の剣』の背後に数えきれないほどの亜人やドラゴンの怨念の様な気配がすると漏らしたという。
また、アンデット討伐という事で、街の北部にある広大な墓地が騒ぎに触発されアンデッドが生まれてしまうのではという懸念があったが、この街の教会に派遣されている第4位階の信仰系魔法まで使用できる高位の神官である“カジット・デイル・バダンテール大司教”が作戦中は休みなく墓地を清め続けると申し出てくれ、ここに人員を割く必要もなくなった。
この街は広い墓地を持つためアンデッド発生のリスクが高く、また王直轄で貴族の影響が少ないことから、スレイン法国から高位の魔法を使用できる神官を受け入れていたのが救いとなった。
そうして、エ・ランテルを守るための戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
次回、第2章の最終話となります。
ウルベルト様編は前後編に分かれます。
第2章は前編です。