オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ビーストマン・アンデッドが生まれた経緯です


第3章 第2話 -チュートリアルのモンスター戦-

 

ビーストマンは、自分に起こっている事態も、この人間の女が言っていることも、黒い粘体が急に人間になったことも、さっぱり意味が分からなかった。

 

ただ、その粘体から変化した人間が右手を軽く持ち上げて握ったかと思うと、逆の左手がフッと消えて、次の瞬間脇腹に凄まじい重い衝撃が走った。

何故か離れない女に差し込んだ右手首から先はちぎれ、右手首は女の中に残したまま、自身の体がバラバラになりながら宙を舞い吹き飛んでいく…その光景を最後に彼の命は尽きた。

 

「あれ、左ジャブだけで終わりですか…弱弱ですねー…」

 

 

周囲にいた多数のビーストマンたちは、仲間が、喰らう人間()に一番乗りしたことを残念に思ったが、何が起こったかは分からないが、その人間によって仲間が倒されたという結果だけが見て取れた。

 

つまりは、こいつらはちょっと強い人間()で注意しないとやられるが、自分が一番乗りすればおいしく頂けるという事。

そう単純に結論づけて、我先にと群がった。

 

「あ、これは技使った方がさっさとザコを片付けられそうですね。ソリュシャン、スライム形態になって私の懐に入ってください」

 

「はい、ヘロヘロ様!」

 

ソリュシャンは瞬時にスライム形態となり、ヘロヘロの胴着風の服の胸元からするりと中に入る。

「おふぅ…」

 

ちょっと変な声が漏れたが、大丈夫。

これ後で何回かやろう。

そう思った後気を取り直し、襲い来るモンスターの動きを注意深く見つめる。

この技はスライム形態でもできるモンクの技で、ただ、その場合は人間的視覚を得るアイテムが無いといけない。当然ヘロヘロは持っていたが。

 

最初にヘロヘロに到達したモンスターが、ヘロヘロに触れる瞬間、技を発動。瞬時に体を回転させる。

 

「回・天・把!」

 

相手の攻撃を回転力で受け流し、その力をさらに回転力に加えて螺旋状の衝撃波を周囲に繰り出す技。

これは、自身の関連スキルレベル、物理攻撃力、素早さ、相手の物理攻撃力、相手の素早さで効果範囲とダメージの判定が変わる。

 

今回の相手はどうやらレベルは15程度のザコだったので、相手の攻撃、素早さは望めず。

ヘロヘロ自身のステータス頼みとなった。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・!!!

 

 

大体周囲100メートルくらいの範囲に居たビーストマンが、竜巻のような衝撃波に巻き込まれて、粉々になりながら吹き飛んだ。

 

「うーん…やっぱザコでしたねー…でもこのグラで見るとすごい技っぽく見えますね!…それにしてもデータクリスタルとかアイテムドロップが無いですね…これは基本的なシステムもだいぶ変わったと思った方がよさそうですね」

 

「仰る通りです、ヘロヘロ様!」

 

「おうふ!」

 

服の中で喋るソリュシャンの振動がヘロヘロに伝わって変な声が出た。

 

 

ビーストマンたちはと言うと、一撃で良く分からない竜巻のようなものが起こり、数十体の仲間が吹き飛ばされて粉々になる光景に唖然としていた。

そして、その竜巻の外にいて難を逃れた者たちは、後ずさりし、そして走って逃げ出す。

 

「あれ、モンスター逃げてますね。うーん、どうしましょうか?」

 

「ヘロヘロ様、意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」

 

「んっふ…はい、どんどん言ってください」

 

「はい、奴らは自分の巣に帰ったと思われます。そのまま追いかければ巣を探して一網打尽にできるかと」

 

「成程その通りですね。それじゃあ追っかけますか。奴ら山の方へ向かってますね」

 

 

そう言うと、ヘロヘロは走ってモンスターたちを追いかけていく。

完全に追いついてしまうと巣にたどり着く前に倒してしまうから速度を調節して。

でも、走っているだけはつまらないので、時々ちょっと速度を速めて、遅い奴をパシッと殴る。

当然、殴られた部位が欠損し、当たり所が悪ければその場で絶命する。

 

ビーストマンからすると堪ったものではない。

最初は餌と思っていた人間らしきものは、触れてみるととんでもないバケモンだった。

人間基準で言えば、人のよさそうな青年風の男が笑顔で猛スピードで追いかけてきて、追いつかれた者は体の一部を吹き飛ばされる。

 

走った道には死体が転がり、即死を免れたものも、肩や腕が欠損していて、それでも止まると殺されるから泣きながら走り続ける。

 

通り道に居たビーストマンを巻き込んで今や地獄のマラソンは合計数十万頭にも及んでいた。

ビーストマンは本来の住処である山に入ると上り坂で追いつかれる気がしたので、山を迂回して西側へ走っていく。

気づくと目の前にはカッツェ平野の濃い霧。

普段はビーストマンはここには入らない。

なぜならばアンデッドが多く危険だからだ。

しかし逆に今は濃い霧が身を隠してくれるかもしれない。

そんな一縷の望みを持って霧の中になだれ込む。

 

そんなことは知らないヘロヘロは、笑顔のまま追いかけ続ける。

ビーストマンたちはまだついてくるバケモンに恐怖し、どんどん奥へ入っていく。

 

所々から聞こえる仲間たちの悲鳴。

もうそれは後ろから来るバケモンのせいなのか、はたまたアンデッドによるものなのか分からない。

それでも走り続ける。

本能が逃げろと告げているから。

 

 

ヘロヘロはふと気づいて停止する。

なんかフィールドが変わったなと。

 

「ソリュシャン、一旦出てきてもらっていいですか?」

 

「はい、ヘロヘロ様!」

 

「なんか違うフィールドまで来ちゃったみたいですね。この中にさっきのモンスターの巣があるんでしょうか?」

 

「畏れながら…分かりかねます。ただ、先ほどから周囲にはアンデッドがチラホラ見えます。なので巣とは違うような気がします」

 

「そうですねぇ…うーん、これはあれですね。おそらくまだ来ることを想定していないダンジョンですね。もしかしたさっきのモンスターは罠で、ここへ逃げ込むようプログラミングされているのかも。それでここに迷い込んだプレイヤーはレベル差でやられるという寸法です。いやー運営のやりそうな手ですね」

 

「畏れながら、至高の41人の中でも特に戦略と攻撃に優れるヘロヘロ様がダメージを受けるなど考えられませんが…その場合はこのソリュシャンが盾となり必ずお守りいたします!」

 

「え?至高の41人…そんな言葉まで自発的に生成されるんですか…すごい技術ですね…まあとにかく、レベル的には問題なくても迷路型ダンジョンの可能性もあります。ものすごく時間を食うかもしれませんのでやはり先程のフィールドまで戻りますか」

 

「はい、承知いたしました!」

 

 

しばらく2人で来た道を歩いていると、先ほどはスルーした物見小屋のような建物がある。

何かのアイテムでもないかな?と思い立ち寄ると、中には数人の人間種が居た。

 

『こ…これは2で最初のNPC発見でしょうか?何かイベントですかね!』

とワクワクしながら近づく。

 

するとその中の中心に居る、赤い鎧を着た男が話しかけてきた。

 

 

「お…おいアンタ、さっきすごい数のビーストマンがカッツェ平野の中に走っていったんだが大丈夫だったか?俺たちも急いでここに避難してたんだが」

 

『なるほど、会話イベントですね!』

 

 

「ええ、そうですね。私たちもここまで移動してきたのですが、モンスターの群れが見えたので、この建物に避難してきたのです。ここはどこでしょうか?」

 

「ああ、ここを知らないとなるとアンタは冒険者やワーカーじゃないな。ここはカッツェ平野で、竜王国から一番近い入り口からすぐのとこに作られた避難所さ、ワーカーと冒険者で作った急ごしらえなんで地図にも載ってないんだよ。俺はワーカーチーム『豪炎紅蓮』オプティクスと言うもんだ」

 

『お、これはチュートリアルの名前決定イベントですね…うーん…ヘロヘロのままでもいいですが、せっかくソリュシャンとの二人冒険…ちょっと名前を変えたいですね…そうだ、ソリュシャンの対という事で…』

 

「おや、そうでしたか。私はソルディフ、こちらはソリュシャン。旅人です」

 

「ヘロヘロ様?」

 

「おふう」

 

「ん?ヘロヘロ?ソルディフ?」

 

そうか、ソリュシャン的には私はヘロヘロだから混乱したのですね…うっかりしてました。NPCですが私の可愛い子、恥をかかせたくありません…いっそ『ソルディフ・ヘロヘロ』という名前に…いやなんか語感悪いですね…じゃあ“無駄なもの”でも挟んどきますか…

 

ヘロヘロは小声でソリュシャンに『話を合わせてください』と言うと、ソリュシャンは小さくお辞儀をした。

 

「すみません、オプティクスさん。私の本名は“ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ”と言います。この子は私のメイド。普段はヘロ=ヘロと呼ばせているので混乱させてしまったようです」

 

「申し訳ございませんでした、ヘロヘロ様」

 

 

「む…いや…貴族の方でしたか。いやこちらこそ申し訳ない。ですが、このような場所、おそらくあなた方にとっては危険な場所。速やかに竜王国…いやあそこも危険か…どこへ行かれるおつもりなのですか?」

 

 

『なんか“貴族”と勘違いされましたねぇ…まあそれはともかく“どこへ行かれるおつもりですか”って…あー何でしたっけ?タブラさん辺りがなんか言っていた様な…たしか聖書のヨハネだかマルコだかマタイだか…あーだめだ思い出せない…仕方ない適当に言いましょう…あー覚えてればなんか特殊イベントだったかもしれませんね…』

 

 

「ええ、その北の方へ行こうと考えています」

 

「北…バハルス帝国ですか…成程…皇帝のご縁者の方か?…いやしかし、ここから一旦竜王国側に抜けても、帝国へは山と山の間の道を進まねばなりませんぞ」

 

「なるほど、帝国まではどのくらいの距離がありますか?」

 

「私たちのようなワーカーでも、20日ほどかかります。護衛も付けずに馬車もなく進むのはかなり難しいかと…我々もワーカーですのでご依頼くださいと申し上げたいところなのですが、これから竜王国に赴き女王陛下とお会いする約束があります故…」

 

「なるほど、情報ありがとうございました。実はこの子はメイドはメイドでも戦闘メイド。とても強いので私の護衛も兼ねているのです。ご心配頂き感謝いたしますが、何とかあなた方のお力を借りずに帝国まで向かう方法考えますよ。ちなみにこの土地は霧が立ち込めていますが、このまま進むとどこへ行けるのでしょうか?」

 

「えっカッツェ平野に進むのですか?それだけはやめた方がいい。まっすぐ西に向かえば王国のエ・ランテルと言う街に着きますが、この霧は平野中に立ち込め、常にアンデッドがそこら中を徘徊しているので方向感覚も狂う」

 

「成程成程、とても参考になりました。では私たちはそろそろ行きましょうか。ソリュシャン」

 

「はい、ヘロヘロ様」

 

 

 

ワーカーチーム『豪炎紅蓮』を背にして、その男とおつきのメイドらしき女は再びカッツェ平野の霧の中に消えていった。

 

 

「貴族にしてはすげぇ礼儀正しい方々だったな…それにしてもあのメイド…」

 

「ああ、お前も感じたか」

 

「とても強い力を持っている…そういう雰囲気があった。“戦闘メイド”と言っていたが伊達ではなさそうだな」

 

「しかし、女王陛下からの呼び出しが無ければ護衛任務を受けられたものを…一見平民の服に見えたが、あの衣服、非常に高価に見えた。それにあの礼儀正しさ…お近づきになればいい顧客になったかもしれなかったのにな」

 

「仕方がないさ。御呼び出しは断れん…どうせ我々にビーストマン討伐の依頼をしてそれを値切る交渉だろうが…だがまあ覚えておこう。“ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ”殿。爵位は聞けなかったが、帝国へ行くことがあったら尋ねてみよう」

 

「ああ、そうだな」

 

 

ワーカーチーム『豪炎紅蓮』のメンバーはそんな話をしながら、今日はこの避難棟で休み、明日は竜王国首都を目指して出発するのであった。

 

もし仮にヘロヘロが“ヨハネによる福音書”の一説を覚えていて『私の行く所に、あなたは今ついてくることはできないが、後でついてくることになる』とか答えていた場合どうなっていただろうか…ちょっとヤバい奴と思われていたかもしれない。

 

 

 

一方ヘロヘロは、すでにカッツェ平野を戻る形で抜け、山の方へ向かって歩き出していた。

『北』がどっちだか分からないのだが、山はこの方角しかないので、山に向かって伸びる道らしきものを進んでいく。

 

夜になり、人間的感覚でどこかでキャンプとかした方がいいかな?と思ったが段々どうでもよくなってきた。

 

適度な洞窟があったのでここで休むか、となり、念のため洞窟の中を探索したらサーベルウルフの巣になっていたのでサクッと全滅させ、今夜はここで寝ることにした。

人間の形態だと体の形的に横になるのが難しいのでスライム形態に戻る。

 

滅多に人が来ない道のようだが、ソリュシャンのような明らかに外見人間の者がこの洞窟にいるというのは違和感があるし、ヘロヘロ視点ではソリュシャンも寝づらそうだったのでスライム形態になってもらった。

 

これがまずかった。

 

お分かりの通り、プレイヤーはこの世界で異形種の姿でいると、だんだん精神が外見に引っ張られていく。

スライムは実はこの効果がかなり危険で、色々なことがどうでもよくなったり、本能的な行動が優先になっていく。

スライム同士でくっついて寝ていたところ、ついつい本能が出てしまい、気づいたら…。

 

もし仮に旅人が通りかかってその光景を見たら、色の違うスライムがなんか混ざり合ってるな、と見えただろう。

 

翌朝、日の光を浴びて『そろそろ動かなければ』と思い何となく人型になって、昨晩自分がソリュシャンにしてしまったことを思い出す。

 

「…ソリュシャン…その…昨夜は…」

 

ソリュシャンは恍惚の表情で、まだ溶けていた。

その姿を見たヘロヘロはベースがスライムの擬態状態であったためか、何だか、またいけない気持ちになってきてしまったが、自分を奮い立たせてロキの指輪(リングオブロキ)の効果を発動し、今後は種族として人間の状態をできるだけ保とうと決意した。

 

まあ人間の姿でも、擬態しているソリュシャンの姿はかなり扇情的なのだが。

 

そう言う訳で転移1日目にして、ソリュシャンは自身の創造主であり、誰よりも敬愛し崇拝する至高の御方のお手付きになったのである。

ソリュシャン的には天にも昇るような幸せな気持ちであった。

 

 

絵的にあれだったので、ペロロンチーノは出てこなかった。

 

 




スライム種族に精神引っ張られるって相当ヤバいと思うんですよね…


各章は、最後どうなるかは決めているんですけど、ヘロヘロ様回はこの後の展開超悩みました。

二人でスライムの集落を見つけて、スライムの王になって、異形種を束ねる、『転生したら黒き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)だった件』も考えたんですが、
野生でいそうなスライム種がサニタリースライムしか言及されてなくて、そんな汚い転スラは嫌だと思って却下しました。
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