オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
まずは人間種の街で起こるイベントを探します。
地下下水道のサニタリースライムたちと仲良くなる話は時間があれば別ルートとして書くかもしれないですが…
「それにしてもすごい宿ですね…エ・ランテルにも高級宿はありますが、ここはきっとそこと同じくらいだと思いますよ?…僕は泊まったことないですけど」
「ハハハ…いや今回の件はうちの店長だけじゃなく、実質、皇帝陛下からも依頼されてるようなもんだから、そこんとこは全然気にしなくていいんだぜ」
「そうそう、あなたみたいな有名人を国に迎えるってことで、経費は全部持ってくれるらしいの。おかげさまで、あたし達もいい思いをさせてもらっちゃったって感じ?」
「これこれ、二人とも。この任務は護衛も兼ねているんですよ。だからこそセキュリティがしっかりしているこの『跳ぶペガサス亭』を選んだのです。ちゃんと帝都までンフィーレア殿を安全に送り届けるまでは気を抜いてはなりませんよ」
「分かってるわよ、ロバー」
「それにしても、こんないい宿、アルシェも一緒だったらよかったのにな」
「まあしょうがないわよ。あの子は我ら『アトリエ・フォーサイト』の店長ってだけじゃなく、今や“大導師”様だからね」
「その、もしよければ、僕に“大導師”アルシェ・フルトさんのことを教えていただいてもいいですか?」
「いいぜ!でもまあ学園のことは俺らもそこまでは知らないし、国家機密のこともあるから説明はできないけど、店でのこととかなら、これから同僚になるンフィーには教えといたほうがいいよな…てなわけでイミーナ、ロバー、頼む」
「あんたねぇ…」
「変わらないですね」
隣の席の4人は楽しそうに会話しながら食事をしている。
4人の会話から、彼らの名前、そしてここにはいない“アルシェ”と言う者の名前が判明するとともに、どうやら彼らは何らかの依頼で、前髪が長く目が隠れた青年の護衛をしている様だった。
特に“イミーナ”と呼ばれていた女性は恐らく
楽し気に話をしながらも、周囲の様子、特に現在同じ食堂にいる唯一の存在であるヘロヘロとソリュシャンを警戒している感じがする。
彼らの今の話から、ンフィーレアという青年は何らかの重要人物で、他の3人は彼を“帝都”まで送り届ける護衛である。
そして、“イミーナ”というエルフだけでなく、他の2人の男もそれとなく辺りを警戒するような素振りが感じられ、現在彼らは“アルシェ”という、話を聞く限りでは魔法薬店店主のことを説明しているが、その内容もあまり情報の開示は無く、常に警戒を続けている感じがする。
これらからヘロヘロは考える。
ンフィーレアを除く3人は、何者かに狙われることを前提にこの護衛を行っている、と。
そして、この食堂でこのようなイベントが発生したという事は、彼らとのかかわり方によっては、何らかのクエストが発生するという事だと。
『ふふふ、いいですねーぜひとも初クエスト受けてみたいですねー最初のモンスター戦はトラップぽかったですし…何とか不自然ではなく、彼らと接触する方法を…』
ヘロヘロは色々と考えながら、ソリュシャンと一緒に食事を口に運んだ。
瞬間、今まで味わったことが無いような極上の味。
ふかふかの白い塊…おそらくパン。
甘酸っぱいソース…ドレッシングがかかった新鮮な生野菜。
何らかの肉のソテー…昨日食べた(消化した)サーベルウルフの生肉と比較しても極上の味わい…これが調理…
「美味しいですねぇ、ソリュシャン!」
つい大きめの声でしゃべってしまった。
しかしそこは、シゴデキのソリュシャン。
ちゃんと自分の
「…ヘロヘロ様、普段召し上がらない料理に喜んでいただけるのは、私としましても嬉しゅうございますが、お屋敷の料理は料理長が腕によりをかけてご準備しているものですので、お屋敷ではそのようなことは仰られてはいけませんよ」
『はっ…確かに“貴族”の反応では無かったですね…それを、“普段はもっと上品なものを食べているから庶民の料理を食べて喜ぶ主人”に変換…なんてできる子なんでしょう!!後で部屋でたくさん褒めましょう!!…あ、いや、それをすると××に発展しそうな気がしますね…節度を持って褒めましょう…それに、こんなに有能なこの子ならば彼らとの接点づくりを任せてもいいかもしれませんね…』
「もう…分かっていますよソリュシャン。シホウツにはいつも感謝しています。ところで、今回の旅で魔法薬も買ってみたいと考えていたのですが、ちょうどあちらの彼らはその関係者の様。食事の後、彼らに迷惑にならないように交渉していただけますか?」
「畏まりました。ヘロヘロ様」
ンフィーレアという青年を除く3人は、警戒対象と見ていた、おそらく大商人か貴族と思われる男と、その護衛の女の話に自分たちの話題が出てきたことで、警戒の色を強めたのが容易に分かった。
ンフィーレアだけは、そもそも初めからこちらを警戒している様子はなかったので、こちらの会話も耳に届いておらず、様子は変わらない。
先に食事を済ませたヘロヘロとソリュシャンは、食堂から部屋まで戻る際に必ず通ることになるラウンジで軽く話をする。
「ソリュシャン、それでは彼らとの交渉、あなたにお任せします。実際、私たちは魔法での回復手段を持ちません。私がスキルで回復することはできますが、蘇生のアイテムや、その他良質な消費型の回復アイテムが購入できる店は押さえておきたいので、彼らと友好的な関係を築くことを優先しましょう」
「承知いたしました。ヘロヘロ様。ところで外にいる者たちに対してはどのように対応すればよろしいでしょうか」
「ああ、そうですね。多分それらも含めてイベントだと思うので、彼らに信用されるために必要ならばバレない様に戦っても構いません。ただしこの街の人間種基準で悪人でない限りは殺すのは控えてください。殺す場合も人間種がやったと思われる方法か殺しそのものがバレない方法で」
「承知いたしました」
商人との交渉を、貴族が直接行うというのは変という事を何となくは理解しているので、ヘロヘロは先に部屋に戻っていった。
ンフィーレアたちが食事を終え、部屋に帰ることとなった。
『フォーサイト』の3人は自然とンフィーレアを囲むようにラウンジまでの道を進む。
先ほどの食堂に居た者たち、とくにメイド服を着た女の方からは強いプレッシャーを感じた。
そしてそれと同じものを、この先のラウンジから感じる。
外見的に、ンフィーレアが狙われている可能性がある犯罪者集団ではないと思われるが、油断はできない。
残念ながら武器を所持していないが、いつでも対応できる体制で歩く。
ラウンジに着くと、やはり先ほどのメイド服の女が立っており、非常に礼儀正しい姿でこちらにお辞儀をした。
「『アトリエ・フォーサイト』の皆さま、少々お話をしたいのですが宜しいでしょうか?」
キョトンとしているンフィーレアを守るように『フォーサイト』の3人は改めて護衛対象の盾になるように位置取りを注意し、代表してヘッケランが答える。
「先ほど、食堂に居た方ですね…我々に何か御用でしょうか?」
「はい、実はわたくしの
金髪縦ロールの、非常に美しく、しかしどこか淀んだような目をしたそのメイドは、フォーサイトに自身がラウンジで彼らを待っていた理由を説明する。
フォーサイトとしては、先ほどの食堂での会話などから、今このメイド服の女性が言ったことは矛盾が無いと理解しつつも、腑に落ちない点があるため、警戒を解けない。
ヘッケランはイミーナとロバーデイクに視線を一瞬送ると、彼らは小さくうなずく。
仲間の反応を確認したうえで、ヘッケランがその理由を問いかける。
「事情は分かりました。ですが、お答えする前に一点教えていただきたい。あなたは、一見するとメイドの様に見えますが、非常に強い力を持っていると感じます。私たちも危険な方とはお取引することに抵抗があります。なぜあなたのような方がメイドの服装をしているのか教えていただきたいのですが」
そう言うと、そのメイド服の女-確か“ソリュシャン”と呼ばれていた-は、表情を一つも変えずに答えた。
「わたくしは、
それを聞いてヘッケランはあることを思い出した。
以前、闘技場のある
その女性も、何となく自分と同じかそれ以上の戦闘力を感じた。
恐らくはそれと同じパターンなのではないか。
実際、彼女が
フォーサイトの他のメンバーも同様の考えに至り、少しだけ警戒を解く。
しかし、その直後、そのメイド服の女からとんでもないことを告げられる。
「
フォーサイトの面々とそして今度はンフィーレアも驚いた顔になる。
「な…そうか、さっきから妙な感じがすると思っていたのはそう言う事か!?」
「ゴメン、あたしも気づいていなかった…こいつらかなりの手練れかも!」
「ンフィーレア殿、私たちから離れないようにしていてください…!」
「あの、」
フォーサイトが緊張を高める中、メイド服の女が声を上げた。
「よろしければご協力をいたします。どちらにしろ、わたくしの
女の申し出に、フォーサイトの面々は顔を見合わせる。
確かに女が言っていることは筋が通っているし、現在のフォーサイト3人で、かなりの手練れがいるかもしれない敵を複数相手にするのは危険かもしれない。
そう言う意味で女の手助けは非常にありがたいのだが、一方でこの女も実は敵で、作戦中にンフィーレアに危害を加えられる可能性も捨てきれない。
回答に迷っていると、女が再び声を上げる。
「もし、あなた方が宜しければ、この程度でしたらわたくしが対処いたしますがいかがいたしますか?」
「なっ…!」
ヘッケランは驚く。
と同時に納得もする。
仮にこの女が言っていることが全て事実である場合、先ほどの様子からおそらく大商人か貴族か何かの護衛として同行しているこの女としては、一刻も早く
また、イミーナすら正確に感知できていなかった敵を人数まで正確に感知できる技量と、先ほどから感じる強いプレッシャー、相当の手練れである可能性が高い。
そうでなければ、たった一人で護衛をしているというのもおかしい。
それらから考えると、複数の敵をこの女が一人で対処するといったことに矛盾が無い。
最悪のパターンは、やはりこの女がンフィーレアを狙っている者の一人で、この提案も自分たちを惑わすためのブラフだという可能性。
だがその場合、この女の力を借りずにフォーサイトだけで対処したとしても、複数の敵に対処しきれるかもわからず、またこの女にも狙われるという事になる。
疑い出せばキリが無いが、今はこの女に対処をお願いした方がまだ安全な可能性が高いと考えた。
ヘッケランは、久しぶりの難しい判断に、一つ汗を流した。
そして、小さな声で「イミーナ、ロバー」と声をかけると彼らは“判断は任せる”という合図をした。
ヘッケランは小さく息を吐くと、意を決して答えた。
「それでは、お願いしてもよろしいでしょうか。私たちは戦闘力を持たない仲間を守る必要がありますので」
「畏まりました。殺してしまわない方が良いですか?」
ヘッケランだけでなく、ンフィーレアを含めた4人は同時にごくりと唾をのんだ。
それは一見すると美しいメイドに見えるその女が、表情一つ変えず暗に『殺していいか』と聞いてきたという恐怖と、殺しをする、あるいはもっと難易度が高い生け捕りにするという事も問題としないという意思の表れだと思ったからだ。
「は…はい。相手がどのような者か分かりませんし、殺すのはまずいかもしれません」
「畏まりました。それでは一旦
「は…はい」
「それでは、すぐに戻ります」
女が階段を上がっていくと、プレッシャーの源が遠ざかっていく感じがあり、フォーサイトのメンバーは一瞬安堵の息を吐きそうになるが、ぐっと堪える。
この宿を取り囲んでいる者の対処が終わるまでは、気を抜けないと。
××=交尾