オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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御方々が色々とやっていることが原因で、八本指の勢力分布が若干違うことになっています


第3章 第5話 -クエストの完了と色々なネタバレ-

 

八本指警備部門、“六腕”の一人であるサキュロントは少々焦っていた。

今回の任務である、エ・ランテルの薬師であるンフィーレア・バレアレの誘拐を成功しなければ自身は“六腕”を解任される…いや最悪処分される可能性すらある。

 

自身が“六腕”の中では、戦闘力という面では弱いという事は理解している。

しかし、“六腕”のボスであると同時に警備部門のボスである『闘鬼』ゼロは、現在新しい人員をスカウトしようとしていると聞いた。

そしてその者が非常に高い戦闘力を持っているとも。

その者のスカウトが成功すれば、自身は用無しとされるかもしれない…。

 

今回の任務は、成功すれば八本指にとって様々なメリットがあることが分かっている。

八本指が王国の裏社会で成功し手を広げていった過程で、貴族や商人経由で様々なマジックアイテムが手に入るようになってきた。

しかしその中の一部には、常人には使用できないものがある。

 

また、麻薬取引部門の大きな躍進により、組織の中に薬に詳しい者が必要となっている。

これらの問題を解決するのが、あの有名な生まれもっての異能(タレント)を持つ、ンフィーレア・バレアレだ。

 

ゼロは、この者を麻薬取引部門を含む他の部門より早く確保して、警備部門の価値を上げようと考えている。

しかしンフィーレア・バレアレ自身は全く警戒心が無いものの、その祖母であるリイジー・バレアレは第3位階魔法詠唱者であり隙が無く、またエ・ランテルに駐在している教会のカジット大司教は第4位階まで使える信仰系魔法詠唱者で、多くのスレイン法国民の例に漏れず、注意深く、不正を見逃さない性格だ。

 

そう言った事情から、エ・ランテルにンフィーレアがいる間は、彼を誘拐するのは至難の業だったのだ。

 

しかし今回入手した情報によれば、ンフィーレアは帝国では有名な魔法薬店である『アトリエ・フォーサイト』にて修行をするため、帝国に一時的に移住するという事が分かった。

『アトリエ・フォーサイト』はその高い魔法薬の効果だけでなく、その店主がかの“大導師”アルシェ・フルトであるという事で非常に有名である。

“大導師”は第6位階魔法まで使用できる化け物であり、ンフィーレアがこの店に入ってしまえば、誘拐する難易度は一気に跳ね上がる。

 

従ってサキュロントは、この『お引越し』のタイミングで彼を誘拐する指令を受けたのだ。

しかし彼を護衛している、『アトリエ・フォーサイト』の従業員は非常に隙が無く、そして移動速度が異様に早い。

おそらく魔法薬の効果と思われるが、馬車の馬が常に早い速度で走っていて、この街に到着するまで仕掛けることができなかったのだ。

そう言う訳で、今彼らの宿泊している宿を取り囲み、寝静まった隙に仕掛けようと準備していたのである。

 

 

今、手下の4人を含めて5人で宿を囲んでいる。

自分の前には宿の正門付近を見張っている手下。

ラウンジの明かりが消えるのを確認し、こちらに合図を送る手はずだ。

 

するとその手下の背後に、メイド服の女が音もなく着地し、一瞬でその手下の意識を刈り取った。

余りの出来事に声が出そうになったが、必死に声を殺し幻術(イリュージョン)を発現させて自身は透明になる。

そうして静かにそのメイド服の女に近寄り、死角から短剣を突き立てた…筈だった。

 

なぜか短剣ごと手がめり込んでいく。

 

「わずかに強い気配のあなたを最後にしました。誰かからは“確認”する必要があると思いましたので」

 

その言葉を聞いたのを最後に、サキュロントは柔らかい何かに包み込まれ、身動きが取れなくなり、声を上げることも出来なくなった。

 

 

 

 

『ソリュシャン』と名乗ったメイドの女が、宿の正面玄関から入ってきた。

 

フォーサイトの3人とンフィーレアは一瞬驚く。なぜならば、彼女は先ほど主に確認をするといい階段を上がったきりで、正面からは出ていってなかった筈だから。

 

女は宿に入ると一つ丁寧にお辞儀し、相変わらず変わらない表情で淡々と述べる。

 

「宿の周りにいた4人(・・)の男を捕えました。こちらは私共とは本来関係のないお客様ですので、対応はお任せしてもよろしいでしょうか?」

 

確かにその通りである。

フォーサイトが護衛していたンフィーレアへの刺客である可能性が高いので、これはフォーサイトが対応すべきだ。

 

ヘッケランは外でのびている4人の男を確認すると、ロバーデイクにその男たちを一旦任せ、イミーナにンフィーレアの護衛を、自身はフロントで事情を説明し、衛兵を呼んでいた。

 

ソリュシャンは改めて一つお辞儀をすると、何事もなかったように階段を上がっていった。

 

 

 

 

「さて、どうでしたか、ソリュシャン」

 

「はい、ヘロヘロ様。まずは…」

 

ソリュシャンはここまでの経緯を説明する。

あらかたの説明を聞き、ヘロヘロは『これで彼らとの縁が出来ましたね。いい感じでイベントが開始してくれればいいのですが…それにしても2はイベントリストの表示も無し…これは本当にリアル志向ですね。現在どんなイベントが進行しているか忘れないようにしておかないといけませんね』と考えた。

 

「いやあ、さすがですソリュシャン。本当にあなたはできる子です。次に他の皆に会ったら自慢しないといけませんね!」

 

ソリュシャンは崇拝する創造主であり、そして今では愛しい御方である、ヘロヘロに褒められ、嬉しさのあまり溶けそうになった。

そしてついうっかり体内(・・)で酸を漏らしてしまう。

ジュッっという音と共に、体内の者が苦痛を訴えるのを感じ、この者のことを報告せねばと再び真面目な顔になる。

 

「それでヘロヘロ様、刺客のうち最も手練れと思われるものを生きたまま体内で捕えております。今後あの人間らとの交渉を円滑に進めるために、この刺客の情報は必要かと愚考し、あの人間らにも体内の者の存在は報告していません」

 

「成程…確かにそういうふうに設定しましたが殺さずに捕らえることができるとは…ソリュシャンは本当に優秀ですね!」

 

「ああ…そんな…勿体ない御言葉…!」

…ジュッ

 

 

「で、その者はここで開放したら騒いだりするのではないですか?」

 

「いえ、声帯を動かせないように固定したまま顔だけを出すことができます」

 

「成程そうですか。では私のスキルで聞き出しますので、声が出ないように顔だけ出してください。私のスキルをかけた後は、声が出るようにして構いません」

 

「承知いたしました。それでは失礼して…」

 

ソリュシャンがスライムの体から、男の顔だけを露出させる。

青白い肌をして痩せこけた頬の男は、恐怖と苦痛に目を見開いて、ヘロヘロを見る。

 

「それでは…傀儡掌!」

 

 

 

あらかた情報を聞き出したヘロヘロはちょっと後悔した。

明らかにゲーム最序盤で知り得るべきではない大量の情報を得てしまったからだ。

 

この男が所属している“八本指”と言う組織。

リ・エスティーゼ王国の情報。

バハルス帝国の情報。

『アトリエ・フォーサイト』の情報。

そして、人間の最上位の者が使える魔法が第6位階という事。

 

「うーん…これはおそらく、ここまであまりに効率よく進めすぎてしまいましたね。1からの引継ぎプレイヤーが居ることは想定しているのでしょうが、ソリュシャンみたいな優秀過ぎる子を一緒に連れているプレイヤーなんてそう居ないでしょうし…たぶん多くのプレイヤーは引継ぎ特典なしで始めることを想定されているのでしょう。現時点で第6位階が最高峰という事は、プレイヤーの全体的なレベルが上がって来たところでアップデートがかかって、NPCのレベルも上がっていくんでしょうね。まあそう言う意味では、それまではほぼチーターですね私たちは」

 

「ヘロヘロ様…申し訳ありません。私の配慮が足りなかったでしょうか…?」

 

ソリュシャンは、ヘロヘロが男から様々なことを聞き出していく過程で、だんだんと呆れたような顔になっていったことに気づいていた。

 

 

「いえいえ、そんなことはないですよ、ソリュシャン!むしろあなたのおかげで、2ではしばらくチーターでいられそうです。これは初期のクエストは独占できるかもしれませんね。ただ、人間種の街はNPCのレベルが低いようなので、あらかたイベントを確認したら、異形種や亜人種の街にも行ってみましょう。まずはせっかくイベントフラグを立てたので『アトリエ・フォーサイト』という魔法薬店へ彼らと一緒に行きましょう」

 

ソリュシャンは、愛しい御方が不機嫌になったのではないと分かると安堵して、一つおねだりをしてみた。

 

 

「それでは、この男は如何いたしましょうか?もし必要ないようでしたら、私が頂いてもよろしいですか?」

 

「この男のことは『アトリエ・フォーサイト』の者たちも知らないし、その他の刺客たちもこの男が倒されるところは見ていないのですよね?」

 

「はい、仰る通りでございます」

 

「そうですか。それでは好きにして構いません。ただ、存在がバレることは無いようにお願いしますね」

 

「はい、もちろんでございます。私のわがままを聞いてくださり感謝に耐えません」

 

ソリュシャンは、愛しい御方からの次の御呼び(・・・)がかかるまでの慰めに、この者をゆっくり溶かして楽しむことに決めた。

 

 

 

***

 

 

 

翌日朝食を終え、ヘロヘロたちがラウンジで寛いでいると、フォーサイトを含む4人がヘロヘロ達の前に現れて丁寧にお辞儀をした。

 

「昨日は、ご協力いただき誠にありがとうございました」

 

 

ソリュシャンは立ち上がり、フォーサイトに向かってお辞儀をすると言う。

 

「お役に立てて良かったです。ですが私がご協力することをお許しくださった、わたくしの(あるじ)にご感謝いただければ幸いです」

 

 

その言葉を聞いて、ンフィーレアも含めた4人は、座って紅茶を飲んでいる男-ヘロヘロ-と呼ばれていた、に最大限の礼をする。

そしてヘッケランは男をしっかりと見据え、あいさつと説明をする。

 

「昨日はご協力いただき、誠にありがとうございました。そして、こちらの方を刺客と疑った態度をとってしまい申し訳ありませんでした。私たちは帝都の魔法薬店『アトリエ・フォーサイト』の従業員です。私の名前はヘッケランと申します。よろしければ帝都までご同行し、私たちの店までご案内いたします」

 

ヘロヘロは、少なくともこのクエストはうまく進んでいる様だと理解し、笑顔で答える。

 

「それはそれは。うちのソリュシャンをお貸しした甲斐がありました。ソリュシャンから聞いたかもしれませんが、私たちは遠方から旅をしている者で、魔法薬をいくつか購入したいと考えています。ぜひあなた方にご同行させてください。申し遅れましたが私の名前は、ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロと申します」

 

 

フォーサイトの一同は、恐ろしく強いメイドの(あるじ)の男が、礼儀正しく話しやすい者であったことに安堵すると同時に、名前から男が貴族であることを理解して、これから帝都までの旅は気を抜けないな、と考えた。

 

そしてヘッケランは、客商売でだいぶ慣れた丁寧な言葉を、間違えないように慎重に使いながら、自分たちの馬車へ男とそのメイドを乗せるのだった。

 

 

***

 

 

馬車に乗ってしばらく経つが、男は少し楽し気に外の景色を見ていて、メイドは静かに横に控えている。

始めは少々会話もあったが、現在はお互い特に喋ることも無く無言で馬車に揺られている。

だがそれは、気まずい沈黙と言う訳でなく、男は周りの景色が珍しいらしくそれを見ることを楽しんでいるし、フォーサイトは貴族との会話と言う気を遣う事をしないで済むので、案外お互い満足した時間なのだった。

 

始めに馬車に乗った時、フォーサイトは彼らに馬車は持っていないのかと聞いた。

これは明らかに貴族であるこの者たちが馬車にて移動していないという違和感からの質問であったが、男によれば彼らはかなり南の方から旅をしてきたとかで、この国ではまだ移動手段を確保していないのだという。

そういう買い物も含めて帝都へ移動するのかもしれない。

 

“南”と聞いて、かつての大恩人と同じ土地かもしれないと思い『エリュエンティウですか?』と聞いたが、回答は『それよりも、もっと南』という事だったので、それ以上は詮索しないことにした。

パラケルさんとも、彼らのことは秘匿するという約束があるので、その点も触れない。

 

会話の中で、男が「馬車に乗らない自由な旅もいいではないですか」と言い、メイドは「そう言う訳にはまいりません。まったく…」と窘めていて、ヘッケランはこの男はたいそうな放蕩貴族で、だからこそこれほど強い御付きがいるのだろうと理解した。

一方で放蕩貴族だからこその、この柔らかな態度か、とも納得した。

 

馬車がしばらく進み、帝都までの距離もあと半分となったあたりで、急に馬車の動きがおかしくなった。

 

ヘッケランが御者をしているイミーナに声をかけると、最近のイミーナにしては珍しく焦った声で素早く喋る。

 

「ヘッケラン、まずいわ、また刺客かもしれない。この馬車のスピードについてくる男がいる。そろそろ魔法薬の効果が切れるから、どちらにしろ一度馬を止めなければいけないと思うわ」

 

それを聞いたヘッケランは焦る。

現在この馬車には、警護対象であるであるンフィーレアだけでなく、どこかの国の貴族であるヘロヘロ卿も乗っている。

 

ンフィーレアの護衛を当然失敗するわけにはいかないし、外国の貴族を傷付けられたとあっては、国同士の問題に発展し、皇帝から責任を取らされるは自分たちとなるだろう。

 

だが、イミーナの言う通り、この辺りで一度馬を止めないと、馬が後半走れなくなるというのもまた事実。

 

ヘッケランは覚悟を決めて、刺客と対峙することを決めた。

もしかしたらまた、メイドの女が力を貸してくれるかもしれない。

 

「イミーナ、馬車を止めてくれ。俺が出る」

 

 

ヘッケランが馬車から降りると、そこには男が一人。

ボサボサに四方に伸びた青い髪と無精ひげ。鋭い茶色の瞳でまっすぐこちらを見遣り、腰には刀を差している。

男は鋭い眼光のままヘッケランに話しかけた。

 

「よう。俺は面倒な駆け引きは好まねえし、無駄な殺しもする気は無い。あんたは中々強そうだが…俺の相手ではなさそうだ。俺はちょっとしたお使いを頼まれていてな。ンフィーレアと言う奴を差し出してくれれば、お前たちをどうこうする気は無い。どうする?」

 

 





サキュロント収納されました。

ソリュシャンが中(スライム体内)でお漏らし(酸を)するたびにジュッとなります。
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