オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

53 / 133

ブレインさんの心をどうやって折るかなんですが、モンク極めたチートプレイヤーのロールプレイならこうするかな?というのを頑張って考えました。


第3章 第6話 -次なるイベント-

 

ヘッケランは、表情は変えずとも、背中に冷たい汗をかいていた。

今この男が言ったこと。

それは正しい。

この男には敵わない。

 

男は油断ならない目つきをしながらも薄く笑い、左の腰に帯びた剣に右手をわずかにかけている。

しかしその雰囲気は達人のそれ。瞬き一つの隙でその剣は自分を切り裂くことも可能だと感じられた。

 

それに…

ヘッケランはこの男をおそらく知っている。

この男の特徴が、伝え聞いているものと一致する。

 

 

「あんた……ブレイン…ブレイン・アングラウスか?」

 

「ほう……俺も有名になったものだ」

 

「なぜだ…なぜアンタほどの男が、こんな誘拐のような真似をする?!」

 

「………強くなるため。それだけだ」

 

「力ない薬師を誘拐することの何が強さに繋がるというんだ?!」

 

「俺は、より高みを目指せる場所に籍を置く。これはそのための仕事だ。あんたらには悪いが、な」

 

 

ブレインの薄い笑いが無くなって、目線が一層険しくなった。

…来る。

ヘッケランがそう思った瞬間、後ろから緊張感のない声が聞こえた。

 

 

「ちょっといいですかー?」

 

 

その声の主は、ヘロヘロと名乗った貴族の男。

いつの間にか馬車から降り、御付きのメイドが慌てて男について出てくる。

 

「ヘロヘロ様!危険でございます!」

 

「大丈夫ですよソリュシャン。たぶんこれは次のイベントです。今度は私に楽しませてください。それに私が負けるとでも?」

 

「そっ…そのようなことは決して!ですが、万が一のことがあり、私が盾になって死ねなければ、私の存在する意味など…」

 

「ソリュシャン」

 

「はっ!」

 

「それでは、私が危なそうだったら止めに入ってください。信頼していますよ」

 

そう言って男はメイドの頬を優しく撫でた。

 

「あっ…ああ…ヘロヘロ様ぁ…」

ジュッツ!!

…メイドの中で耐えがたき苦痛にもがく者が居るとは誰一人気づかない。

 

 

どこかの高貴そうな男とそのメイドの、寸劇のようなやり取りに、ヘッケランだけでなくブレインも、どこか興を削がれたように目を丸くしていた。

しかし速やかにこちら側の世界に戻ってきたブレインは当たり前のことを問いかける。

 

 

「いや…あんた誰だよ?ンフィーレアの護衛の一人か?」

 

「いや、彼は偶々同じ馬車で移動しているだけの方で…!」

 

ヘッケランが、これ以上フォーサイトの失態を増やしたくないとばかりに、せめてこの貴族の男にはブレインの刃が向かないよう必死に説明しようとしたが、ヘロヘロは手を上げてそれを制する。

 

 

「ブレイン・アングラウスさん。私の名は、ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロと言います。以後、お見知り置きを。先ほどから話を聞いていましたが、あなたは強くなりたいご様子。それは何故ですか?」

 

 

ブレインは、ヘロヘロの名前を聞くと、小さく「ふん…貴族か」と呟き、続けてヘロヘロの問いに答える。

 

「倒したい男がいる。そしてその男を倒してもっと高みへ行く。あんたがパトロンにでもなってくれるのかい?」

 

「いいえ。そう言う訳ではないですが…あなたが強くなるためのアドバイスを上げても良いかと思いまして」

 

「ほう……それは、あんたの後ろに控えてるメイドの嬢ちゃんが教えてくれるのかい?」

 

 

実を言うとブレインは、この男とそのメイドが馬車から現れたとき、男ではなくメイドの方から強い威圧を感じた。

そのプレッシャーは『もしかしたら自分より強いかもしれない』と思うほどに。

だから男が喋っている時も、メイドからは決して意識を離してはいなかった。

 

しかし、男が言ったことは想定とは大きく異なった。

 

 

「いえ、そうではありませんね。アドバイスをするのはこの私です」

 

そう言うとヘロヘロは、ゆっくりと普通に歩く速度でブレインの方へ歩いていく。

 

 

 

馬車の中から様子を伺っていた時からヘロヘロは考えていた。

少なくともこれは何らかのイベントであるだろうが、どういった類のものなのかを。

 

そこで敵のNPCの男が『強くなるため』と言った時、ピンと来たのだ。

 

男のレベルは見たところ30にも到達していないように見える。

また、現在ソリュシャンの中にいる男から得た情報では、『アトリエ・フォーサイト』の店主は第6位階魔法が使えて、それが人類の最高峰であり、多くは第2位階程度だという。

つまり、現時点のversionではNPCのレベルは30台付近が上限となっていて、この後のアップデートで上限が上がってくのだろう。

 

それまではおそらく高難易度のダンジョンや、それに見合ったアイテムも手に入らない。

では、どうすればNPCのレベル上限が上がるアップデートが行われるか。

これはサービス開始からの時間もそうだろうが、今回のようなイベントでプレイヤーがとった行動が影響するのではないか。

 

1の時もそうだったが、ユグドラシルは本当に自由度が高く、WIを使えば重要NPCを消滅させることもできる。それをやったプレイヤーはめちゃくちゃ叩かれていたので、チーター状態の自分がやるのは辞めようと思っているし、それ以上にこのゲームをしっかり楽しみたい。

 

つまり何が言いたいのかというと、こういった『強さを求める系』のNPCのイベントで、NPCが強くなるきっかけを与えるような行動をとればいいという事だ。

 

それこそが、自分が長くこのゲームを楽しみつつ、イチからこの『ユグドラシル2』を始める新規プレイヤーへの礼儀と言うもの。

そう言う訳でヘロヘロは、そういうロールプレイをすることにしたのである。

 

 

 

普通にブレインに向かって歩いていくヘロヘロを、信じられないものを見るような目で見るヘッケラン。

しかし彼が何か言おうとしたとき、ソリュシャンがそれを止めた。

 

「おやめください。ヘロヘロ様がご対応されると仰ったのです。あなた方はそれをよく見ていなさい」

 

ソリュシャンはさっきはああ言ったが、正直この男は自分でも軽く殺せると感じているので、至高なる御方が後れを取ることなど考えられないと思っている。

それ以上に、さっきの頬を撫でられた感触でどうしようもなく感じてしまい、今はただ、愛する御方の一挙手一投足を見ていたいと考えている。

 

ヘッケランが邪魔しようものならうっかり殺してしまうかもしれない。

しかしヘッケランは運よく、ソリュシャンの言葉で何かを言うのをやめて、ブレインから後ずさる様に距離を取った。

 

 

 

「おい…貴族のだんな、言っておくが、それ以上近寄ったら斬るぜ」

 

「どうぞ。可能ならですが」

 

 

その言葉に少しイラっとしたブレインは、しかしながら冷静に目の前の気がよさそうな男の首を落とす線上に居合の刀を走らせた。

 

しかし刀には思った感触はなく、男は刀を通り抜けて自分のすぐ近くまで歩いてきていた。

 

瞬間、ブレインは素早く後ずさる。

 

 

「…何をした?」

 

「何を?ただ歩いていただけですが?」

 

「なぜ刀が当たらなかった!」

 

「避けたからですよ」

 

「なん…だと?」

 

男からは全く“強さ”を感じない。

しかし、確かに首を落としたと思った刀は空を切り、男は目の前まで接近していた。

ヘッケランと呼ばれていた男も信じられないような目をしてこちらを見ている。

 

「貴様…なぜだ。貴様からは強さを全く感じない…何かの生まれもっての異能(タレント)か?」

 

「たれんと?いえ…ああそう言う事ですか。では少し力をお見せしますので、あなたの全力で受け止めていただけますか?」

 

ヘロヘロは、このブレインと言う男が言っている『強さを感じない』と言うのは自身が常に嵌めていた探知を阻害する指輪が原因であると気づいた。

『細かい設定ですねぇ』と感心しつつ、ゆったりした袖の服で隠れている指から、周りに見えないようにその指輪を外してアイテムボックスへしまう。

 

その瞬間。

先ほどまでニコニコしていただけの気のよさそうな男から、深淵の魔獣のようなオーラがあふれ出す。

そのオーラには色など無いはずなのに、紫にも黒にも見える、深くまるで底が見えない何かが、男を包んでいるように見える。

 

馬車の馬は暴れてイミーナもそのオーラにおびえながら必死に馬を宥め、馬車の中のンフィーレアとそれを守るために残っていたロバーもあまりの恐怖に身をかがめ、ヘッケランは思わず尻もちをつき、ソリュシャンは恍惚とした表情で、何がとは言えないが色々と溢れている。

 

ブレインは、さすがと言うか、なんとかその場に踏みとどまり、しかしながら顔には大粒の汗が滝のように走り、手はわずかに震え、それでも縋るように剣の柄に添えて、何とか居合の姿勢をとっている。

 

 

「あ…んた……なに…ものだ…」

 

やっとの思いでブレインが言葉を絞り出す。

 

 

「そうですねぇ…私の住んでいる国では、中々強い方だったんですよ。今はもっと強い方を探して旅をしていますが」

 

 

ブレインは、ごくりと唾をのみ、一度片目だけ軽く目を閉じて自分を落ち着かせる。

両目をつぶりたかったが、この男から視線を外せば、その一瞬で自分がバラバラにされる幻覚が見えたため、何とか片目だけで心を休める。

 

そして、意を決して、目の前の男に宣言する。

 

 

「…俺の名前は、ブレイン・アングラウス…強さを求めて生きてきた…今日、あんたに会えたことを、心の底から感謝する……どうか…俺の全力の剣を受け止めてはくれないだろうか…?」

 

 

「いいでしょう。余すことなく、全力で来てください」

 

 

ヘロヘロと名乗った男がそう言うと、ブレインは呼吸を整え、呟く。

 

「武技…“能力向上”、“能力超向上”…“領域”!」

 

その瞬間、男の気配が少し強くなった。

ヘロヘロは目の前のNPCのレベルが少し向上した感じがし、“武技”と言う言葉に少しワクワクした。

 

『2の新しいスキルですね!!このイベント大当たりかもしれません!!』

 

男はそのまま、ヘロヘロを見据える。

 

現在人になっているヘロヘロは、武術を極めた存在となっているため、そのNPCの戦闘スタイルがすぐに分かった。

 

 

「居合ですか…いいでしょう」

 

そう言って男の方へ進んでいく。

 

ブレインは『やはり、俺の剣技も知っている…神の頂…か』と考えた。

そして、ヘロヘロが領域に触れた瞬間、これまでの人生で最も早い一撃を繰りだす。

 

『とどけッツ!!!秘剣虎落笛ッッ!!!!』

 

ブレインの神速の刀がヘロヘロの体を薙いだ…とイメージしたが、それは幻想であった。

ブレインは居合の構えから刀を抜いていない。

それどころか、全く動けていない。

刀を抜くことができない(・・・・・・・・・)のだ。

 

なぜならばヘロヘロの右手人差し指が、ブレインの刀の柄の先端に触れている。

そしてヘロヘロの左手の人差し指と親指は鞘をつまんでいる。

 

居合の抜刀は、腰を切り、鞘を刀から抜くことと、刀そのものを鞘から抜き前へ出すことが同時に行われる。

ヘロヘロは、能力を極限まで高めたブレインよりもさらに早く動いて間合いに先に入り込み、そのどちらも最小限の動きで封じた。

ブレインがどんなに力を入れても、鞘も刀もびくともしない。

 

ヘロヘロが静かに手を離す。

ブレインは崩れ落ちる。

 

完敗……いやそれ以前だ。

刀を抜くことすら、許してはもらえなかった…。

 

ヘッケランは目の前で何が起こったのか、正確には分からなかった。

なぜならば、ブレインが構えた後、彼の全く体勢が変わらなかったにもかかわらず、勝敗が決したから。

 

 

呆然として膝をついたまま地面を見つめているブレインが呟いた。

 

 

「教えてくれ……俺は…弱いのか?」

 

 

ヘロヘロは答える。

 

「ええ。今のままでは(・・・・・・)、そうですね」

 

その答えに、ブレインの目にわずかに光が戻る。

 

「おし…えてくれ……教えてください!…どうか…どうすれば俺は…強く…なれるのかを!!」

 

 

「…いいでしょう。ブレインさん、あなた、今までどのような者と戦ってきました?」

 

「今まで…?俺は…今の“八本指”に勧誘されるまでは…盗賊の用心棒として…沢山の人間やモンスターを斬った…」

 

「成程…そのモンスターや人間は強かったですか?」

 

「いや…正直歯ごたえがある者など…ほとんどいなかった」

 

「そうですか。ではお教えします。戦いなさい。ただし、あなたにとって強敵と言える者と。弱いモンスターや人間など、いくら斬っても強くなどなれません」

 

「それじゃ…俺はどこへ行けば?」

 

「普通の人間など、あなたには弱いでしょう。そして戦ってよい、強い人間ばかりがいる場所など無いでしょう。だからモンスターを、それもあなたにとって強敵と言える者たちが多くいる場所で、ギリギリ勝てる戦いを続けなさい。そうすれば強くなれるでしょう。私もかつてはそうしました」

 

「……!!それじゃあ、いつか俺も、あんたと同じ高みに…?」

 

「ええ、もちろんです。人間種は鍛えればどこまでも強くなれる。私の知り合いに、私よりもおそらく強い、剣を使う聖騎士が居ます。彼は本当に強い。だが彼も、はじめは貴方より弱かったでしょう」

 

 

ブレインの目に確かに光が戻った。

立ち上がり、深くヘロヘロへ頭を下げる。

 

「ヘロヘロ殿、どうか…俺の師になってはくれないだろうか?」

 

「…それは無理ですね。職業が違う。それにあなたはまだ、私と行動を共にしても強くなれる領域に居ない」

 

「……そうか…ではいつか…貴方が言うように、強いモンスターを倒して、あなたの領域に少しでも近づくことが出来たら…その時は再び稽古をつけてくれるだろうか?」

 

「いいでしょう。もし本当にその領域に入れたら、同じく剣を使う仲間を紹介しましょう」

 

それを聞いたブレインは、もう一度ヘロヘロにお辞儀をした。

そして今度は、ヘッケランの方へ向き、より深くお辞儀をする。

 

「すまなかった…謝って許されることではないと分かっているが、どうか見逃して欲しい。代わりと言っては何だが、俺を雇おうとしていた者どものことを教える。奴らは“八本指”。王国の裏社会と、最近は聖王国でも急速に手を広げている組織だ。だが帝国にはまだその手を伸ばせていない。奴らはアンタらの店の“大導師”に対抗する手が無いと言っていた。だから店までついてしまえば一旦は問題無いだろう。だが俺を雇った男、八本指警備部門のゼロと言う男に気をつけろ。奴は俺と同等の強さだった。まあ、この人には逆立ちしても勝てないだろうがな」

 

ヘッケランは、何が起こっているかは完全には理解できていなかったが、とにかくもヘロ=ヘロと言う男が実はすさまじく強くて、ブレインを抑え込んでくれたことは分かった。

 

「それじゃあ、俺は修行の旅に出る。ゼロから渡された前金は貴方に渡す、いらなければ教会にでも寄付してくれ…ヘロ=ヘロ殿。いつか必ずあなたにもう一度稽古をつけてもらう」

 

そう言うと、ブレインと名乗った男は来た道を戻っていった。

 

 





原作はしょうがないとはいえ、ブレインさんの退場はニニャ同様とても残念だったので、成長する可能性をヘロヘロ様時空で考えてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。