オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ヘロヘロさんは旧タブラ邸へ到着します。



第3章 第7話 -生産職向けクエスト-

 

馬車は無事にアーウィンタールに到着し、一行は『アトリエ・フォーサイト』への道を急いでいる。

 

ブレイン・アングラウスとの一戦の後、ヘッケランたちはヘロヘロに対して、深くお礼の言葉は述べたが、その強さに関わる質問はしていない。

正直、何を話せばいいか分からないし、最も近くで見ていたヘッケランですら、彼が何をしたか正確には分からなかった。

 

ただ、このヘロ=ヘロと言う貴族は、自分たちにとって大切な妹分であり今となっては帝国でも最強格となったアルシェよりも強いプレッシャーを持っているという感覚だけがあった。

そして彼との接触が、ある意味友好的で、また彼が自分たちの店の顧客になってくれるという事は幸運であるという事は理解できていたので、余計なことは喋らない方が良いと考えた。

 

いつだったか、『フォーサイト』の大恩人が言っていたのを思い出したのだ。

非常に大きな“力”を持つ者とは下手な交渉をしない方がいいと。

 

 

あの一瞬垣間見えた、とてつもないプレッシャーのようなものは、ブレインが去った後は全く感じなくなり、今は元通り、ただの気のよさそうなニコニコ顔の貴族でしかない。

 

ただ、戦闘の時のメイドとのやり取りから、メイドは確かに身の回りの世話と護衛もしているが、護衛対象が実はそれ以上に強いという事で、本質的にはメイドはこの貴族のお気に入り(・・・・・)なのだろうと考え、身内には彼らの関係にとって邪魔になるようなことが無いように言い含めておく必要があるな、ともヘッケランは考えた。

 

 

 

「ただいま」

 

ヘッケランが店の扉を開くと、中は相変わらずの繁盛ぶり。

平民、貴族、商人の区別なく、多数のお客が店の品を見ては必要なものを購入していく。

 

「あら、ヘッケランさん。おかえりなさい」

 

フルト夫人-アルシェの母上は普段は経理の仕事を担当しているが、自分たちが留守にしていたこの数日間は代わりに接客もしていてくれた。

 

夫人は最初こそ、元貴族だったため接客には難があったが、本来は社交的かつ優しい性格であったことから、現在では手慣れたもので、ヘッケランが居ないときは店を回してくれている。

 

「おかえりなさーい!ヘッケランさん!」

「お疲れ様です、ヘッケランさん」

 

同僚のネメルとジエットも挨拶をしてくれる。

 

彼らはアルシェの元学友で今はアルシェの生徒たち。

ネメルの家は貴族とのことで、実家でもそれなりにやることがあり、アルバイトの形態で働いている。

 

ジエットは正式にこの店の店員となり、昼は学院、放課後や休日は店で働く。

彼の母親も昨年から時々アルバイトとしてこの店で接客をしてくれている。

今日は休みのようだが。

 

ちなみに現在ジエットは第2位階、ネメルは第1位階の魔法が使えるので、ロバーと共に魔法薬の作製を行うこともある。

 

これは“大導師”アルシェが魔法戦闘学の授業の中で提案した、『効率的な職業れべるの上げ方』という実践トレーニングにより、多くの生徒と、それに加えて帝国魔法省の魔法詠唱者が位階を上げることに成功したことに起因する。

 

要は闘技場で使用するモンスターを一部学院と魔法省が買い取り、そのモンスターを檻に入れて生徒や魔法省職員に魔法で倒させるというものだ。

 

これを聞いたときは、間違いなく誰かの影響を受けているなと思ったが、結果、生徒の魔法力は上昇したし、モンスターを捕まえるという仕事が増えて、帝国の冒険者やワーカーも以前より潤うようになったのだ。

 

他方で、危険なカッツェ平野のアンデット退治をする者が減りつつあるという問題もあるのだが。

 

これらを含むアルシェの画期的なアイデアと功績が称えられ、帝国の魔法技術は明確に向上。魔法省に属するものの魔法レベルが上がることで、国全体の治安も良くなり、誰から言うでもなく尊敬を込めた“大導師”という称号で呼ばれるようになったのだとか。

 

 

「ただいま、皆。留守中は色々とありがとう。ちょうど道中で店を見てみたいというお客様と出会ったのでご案内したんだ。店長を呼んでくるからそれまで…ネメル、ご対応をお願いしていいか?」

 

「はーい!」

 

 

この店の暗黙のルールとして、お客が貴族の場合は、作法を知っているネメルが接客をすることになっている。彼女が居ないときはフルト夫人だ。

こうすれば、店員は皆、この客は貴族だという事が言外に伝わるし、お客も勝手知ったる対応をしてもらえるのでお互いにとって良いのである。

 

ヘッケランたちは、ネメルがヘロ=ヘロ卿とそのメイドの接客を引き継いだことを確認すると、アルシェに、ンフィーレアの件などを説明するため店の奥に入っていった。

 

 

 

奥の廊下を進み、工房の中を覗いたがアルシェの姿はない。

見ると、隣の『応接室』の扉が閉まり、“使用中”のプレートがかかっている。

この部屋は、一般的に販売している魔法薬では対処が難しい案件や病気の治療などについて個別で相談するために設けられた部屋である。

 

基本的にここを使用する顧客に対しては守秘義務が守られ、対応するのは魔法に精通するアルシェのみである。

なお理由は伏せられているが、この部屋はフールーダ・パラダイン様は使用禁止というルールがある。

 

ヘッケランたちは、アルシェは現在この部屋で顧客と話をしていると理解したため、ンフィーレアにそれ以外の部屋の事や、今後のことについて話すことにした。

 

 

***

 

 

「…この辺りかな。何か質問はあるか?」

 

「えっと…本当に何から何までありがとうございます。僕たちがこっちで住む家まで手配していただいているなんて考えてもいませんでした」

 

「いや、ほんと、これはアルシェを通じて皇帝陛下も賛同してくださってる内容だからな。ただ、エモット家のことは、彼女が狙われないように、この店に入るまでは具体的に言わない事になっていたから、その点は心配させてたかな?」

 

「いえ…そんな。エンリ達と住むことを前提とした住居を用意してくださっているなんて…本当なんてお礼を言っていいやら…」

 

「それだけ、皇帝陛下も、アルシェも、君に期待しているという事だろ。それと、エンリちゃん一家の移住なんだが、我々と関係があるように見られないために、王国の中で俺らとは関係のない冒険者の護衛を付けながらバラバラに帝国入りしてもらうことになっているから」

 

「本当に何から何までありがとうございます。この店の設備を見させていただきましたが、今まで見たことが無いものもたくさんあって、これから頑張って覚えていきたいと思います!」

 

 

 

遡ること1年以上前になるが、ンフィーレアが『アトリエ・フォーサイト』のメンバーと出会ったのはカルネ村だった。

カルネ村は“守護魔獣様の守り”により王国内でもかなり安全な村で、ルールさえ守れば薬草摘みも比較的安全に行える。

 

たまたまンフィーレアが王国の冒険者に護衛の依頼をしてカルネ村を訪れたときに、『アトリエ・フォーサイト』も薬草採取のために訪れていたのだ。

 

そして安全性や効率の観点から2チーム合同で薬草を採取。

この採集でンフィーレアは、ヘッケランたちが有名な『アトリエ・フォーサイト』のメンバーだと知り、交流が始まった。

 

その後の交流の中で、ンフィーレアは『アトリエ・フォーサイト』での修行をしたいと考えるようになった。

しかしそれは一時的にではあるかもしれないが住居を帝国に移すことである。

そこでどうしても気になるのがエンリの存在。

 

ちょうどその頃、ヘッケランとイミーナは結婚し、ンフィーレアの気持ちに何となく気づいていた彼らは恋愛相談にも乗ったところ、奥手だったンフィーレアはついにエンリに告白することを決意。

 

エンリは、ここで結婚しないと次のチャンスはいつになるか分からないという思いもあったが、優しく優秀なンフィーレアのことは普通に好きであったし、幼いころからよく知っているフォーサイトの面々の後押しもあって、告白を受け入れ、二人は晴れて恋人同士となった。

 

そしてその後、ンフィーレアは帝国への留学を考えていることを説明。

フォーサイトは、実は非常に優秀であるンフィーレアに対する、脅迫などの目的でエモット家にも危害が及ぶ可能性をエモット家に説明し、最終的にエモット家はンフィーレアと共に帝国への移住を決意。

 

そして今回はまずンフィーレアのみを帝国へ護送し、その後、順次エモット家が帝国へ移住してくることとなったのだ。

 

これに付随してアルシェは、皇帝にンフィーレアの優秀さと有用性を進言し、皇帝は自国の戦力増強かつ、王国の弱体化を図れるとしてこれを承認。

ンフィーレア一家のために、フルト家の近くの空き家を彼らに与えることになった。

一緒に住むという事で、エモット家が到着後、ンフィーレアとエンリは婚姻することになる。

 

実は皇帝は、レベルが上昇した魔法省の力を活かしてすでに他国に放った密偵から、ンフィーレアと言う非常に有能な生まれもっての異能(タレント)を持つ者を確認、さらに犯罪組織に狙われている可能性も掴んでいた。

 

ンフィーレアは最初は一時的な留学になると考えていたが、皇帝としてはこの人材を再び王国に戻すことは考えていない。

そのための楔としてエモット家も呼び、元貴族の家を与えるのである。

 

ンフィーレアの祖母だけは、工房や店があること、またエ・ランテルとして流出させられない人材であること、さらに仮に犯罪者集団等に狙われても自分で身を守れることなどから王国にそのまま残る。

リイジーは単純に、孫の栄転を祝福している。

 

 

ンフィーレアは一旦自分が住む家に今回運び込んだ荷物などを置きに行った。

ンフィーレアにはイミーナが付き合い、ロバーはさっそく工房で仕事をはじめ、ヘッケランだけはアルシェが『応接室』から出てくるのを待つ。

 

しばらくすると、応接室からフードの服で顔を隠した女性が部屋から出てきて、アルシェにお礼を言うと裏口から帰っていった。

ヘッケランがノックをして部屋に入るとアルシェが机に向かって何か悩みながら書き物をしている。

 

 

「アルシェ………店長!」

 

「わっ!…ごめんなさいヘッケラン、考え事をしていた」

 

「さっきのお客さんか?」

 

「そう。前から来ている帝こ…いえ、女性で、モンスターにより顔に呪いを受けたらしい。その呪いを解呪する方法を相談されている」

 

「難しいのか?」

 

「普通の魔法薬では無理だった。さらに『ちょっとした病気を治すポーション』でも。職業解析(アナリシス・オブ・ジョブ)で解析したところ、職業れべるが関係していることが分かった。この職業れべるを消すことが出来れば解呪できるかもしれない。でもそのためには一度………いえ、これは私が考えること。おかえりなさい、ヘッケラン。ンフィーレアさんは無事に着いた?」

 

「ああ、今家の方に行ってるからまた後でちゃんと挨拶すればいいと思う。それと別件なんだが、今店の方に来ているお客のことで共有しておかなければいけないことがある」

 

ヘッケランは、ヘロ=ヘロ卿のことを簡単に説明した。

 

「それって…皆の命の恩人てこと?!」

 

「そう言うことになるな」

 

「私からちゃんとおもてなしします!」

 

そう言ってアルシェは店の方へ急ぎ走っていった。

 

その後、アルシェとフォーサイトの3人は、大量注文や機密情報扱いとなる取引を行うための個室の商談室に、ヘロヘロとソリュシャンを呼び、アルシェから『私の大切な家族と未来の同僚を助けていただいて本当にありがとう』と何度も礼を言った。

 

そしてニコニコ顔の人の良さそうなヘロヘロに、店頭に並んでいる魔法薬ならば無料で差し上げると説明する。

 

ヘロヘロは考える。

 

『これは一連のクエストの報酬という事ですね…しかし見たところ、魔法薬はどれも1の時のものと比べて効果が低いようです。これはまだ2がversion 1.0だからでしょうね。アップデートが進めば品質が上がっていくという事なんでしょうか、正直今店頭に並んでいるものはいただいてもあまり活用できないですねー……モモンガさんみたいなアイテムコレクターはとりあえず1種類ずつは確保するのでしょうが』

 

一方で、この商談室に来る前に通った廊下から、工房がチラと見えた。

そこには、1の時の錬金窯や、1時代のポーション類がいくつか置かれていた。

 

『しかし本当に細かく設定されていますねー。1からやっていたプレイヤーには、あれをちらっと見せることで、将来的に1のレベルのものが売られることになるという事を暗示しているのですね…そうだ、ここまで細かいAIが組まれているならば、そのことに触れれば何らかのイベントが発生するかもしれませんね』

 

「アルシェさん、ご提案、ありがとうございます。しかしお店に並んでいるものについては既定の値段で購入させていただきたい。それよりも気になったのは、先ほどちらっと見えた工房の中。いくつかポーションがあったようですがあれらは販売されていないのですか?」

 

 

アルシェはヘロ=ヘロと言う名の男の観察眼に驚いた。

工房に置かれているのは、パラケルさんが旅に出る前に置いていった水薬(ポーション)の数々。

 

『ちょっとした病気を治すポーション』の他、まだ原材料が発見できず、合成に成功していない数々の魔法薬。

いわばアルシェにとっては作成の成功が目標となっている魔法薬のサンプルなのだ。

 

一部のものは1点しかないものもあるし、パラケルさんからは一部を除き『自分で合成ができるようになるまでは決して他人へ渡してはいけない』と言われている。

あれを渡すことはできない。

 

 

「…本当に申し訳ないのですが工房に並んでいるのは未だ合成が安定して成功していない魔法薬のサンプルなのです。なのであちらはどうしてもお渡しすることが出来ません…家族の命を救っていただいたのに、ご要望のものがお渡しできない事、誠に申し訳ありません…」

 

「あーいえいえ。良いんですよ。欲しいという訳でなく、違うものが置いてあったから気になったのです。それではいつか合成が成功すればあれらも店頭に並ぶようになるのですね?」

 

「はい、その通りです。一部の冒険者やワーカーの方には、未だ手に入っていない必要な原材料のリストをお渡ししています。ヘロ=ヘロ様は遠方から旅をされてきたと聞きました。もしその材料が手に入りましたら情報だけでもいいので教えていただけないでしょうか。高額で買い取らせていただきます」

 

そう言うと、その若い店長は、ヘロヘロへ『未だ手に入らない原材料』のリストを説明した。

聞くとそのほとんどは、1の時に存在していたもので、ごくわずかなものは聞いたことが無いものだった。

 

『なるほどーこれは生産職向けイベントですね。1では簡単に手に入ったいくつかの素材が、現時点ではアンロックされていない様子。聞いたことないものは2で追加された素材ですね。おそらくは何かの別のクエストか、ダンジョンをクリアすることでアンロックされるのでしょう…これは私よりもタブラさんとか、あまのまさんに任せた方がよさそうですね。今度彼らに教えてあげましょう。彼らがこのクエスト引き継げるように繋いでおきますかね』

 

 

「なるほど。いくつかの素材名は聞いたことがありますが私は持っていません。国の仲間にそう言う素材のことに詳しい者が居るので、戻りましたら伝えておきましょう」

 

「それは…本当に助かります。多くの素材は私は実物すら見たことが無いのです。これら素材が発見できれば、工房の中にある魔法薬も安定的に生産できるので、その際は最優先で差し上げます!」

 

「それは嬉しいですね。それではいずれ私の国の仲間と共に再び訪れることにします。ところで、この街では何か面白いイベントなどはありますか?私はこの街にしばらく滞在して観光したいと考えているのですが」

 

 

「イベント…ですか。そうですね、有名なところでは美術館や劇場、闘技場などがあります。その他各区画には市場があって、あ、でも市場はどちらかと言うと冒険者やワーカー向けかもしれません」

 

「なるほど、ありがとうございました。それではお店の方でいくつか魔法薬を買わせていただいて、今日の宿を探すとしましょう。それではソリュシャン、行きましょうか?」

 

「はい、ヘロヘロ様」

 

 

こうして『フォーサイト』とヘロヘロの嵐のような邂逅は一旦の終結を迎える。

ヘロヘロは、と言うとアルシェの言葉の中にあった“闘技場”と言うものが気になっていたのである。

 

 





と言う訳で生産職向けのイベントはタブラさんかあまのまさんへ譲ろうと思いました。
まさかこのイベントの元はタブラさんによる仕込みだとは夢にも思っていません。
また、将来的に『国の仲間』であるタブラさんと一緒にここに来たら、タブラさんは苦笑いでしょうね…
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