オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ちょっと派手に動き過ぎたせいで、入国後数日でジル君に興味を持たれてしまいました。



第3章 第10話 -ヘロ=ヘロ卿の御国事情-

 

 

「なるほど、ヘロ=ヘロ殿の話はとても面白いな」

 

「いえいえ、ジル殿が聞き上手なのでついつい楽しく話してしまいました」

 

 

先ほどからジルクニフは、目の前の男の話にいい具合に相槌を打ち、できるだけヘロヘロが自ら様々なことを喋ってくれるよう誘導している。

 

ヘロヘロは、というと、ジルクニフの思惑通り気分を良くして様々なことを喋っている。

だが実際のところ、ジルクニフには彼が喋る様々な言葉の意味が分からないため、話し方などからヘロヘロがどのような人物なのか、また祖国でどのような立ち位置なのか、そして祖国の情報をできるだけ引き出すという事に終始している。

 

まずジルクニフのヘロヘロに対する第一印象は、“本当に貴族なのか疑わしい”と言うものだった。

 

話し方は貴族のそれではなく、言葉に裏の意味を込めることもしなければ、敬称の使い方や言葉遣いもジルクニフが知る“貴族”のそれではない。

だか、かといって商人かと言うとそういう雰囲気もない。商人と言うのは話し相手に対するおべっかや誘導がうまく、金や利益の話には敏感だ。

しかしこの人物は、そういったものに無頓着としか言いようがなく、ただただ自由に喋っているようにしか見えない。

それでいて言葉は粗野ではなく、高い教養はあるように感じるのだ。

 

貴族であっても商人であっても、人と言うのは何かを背負っているものであり、話の内容が自分にとって不利あるいは有利な場合は何らかの反応があるものである。

ジルクニフは様々な方向性からの話を振り、この男の反応を見ていたが、このヘロ=ヘロと言う男には素性を読み取れるような傾向が無い。

唯一興味を示しているのは、この部屋に最初に入った時に本人が言っていた、面白いものや強い者などの情報のようだ。

 

事実だけを述べるなら、教養は高く、金銭や生活には非常に余裕があるにもかかわらず、背負うものが無く何もかも自由に考え、好きなものを探すためだけに行動している、そんな風に感じるのだ。

 

門番やアルシェからの前情報では、遠国からお気に入りのメイドを連れて旅をしている放蕩貴族と聞いていたが、それ以外考えられないとしか言いようがない。

 

ジルクニフは普段の自身の多忙さとこの男の自由さを比較して、『羨ましいことだ…』と本音が漏れそうになった。

 

ジルクニフはこの男が危険人物の類ではないと考え、そうはいっても多額の金を平気で持ち歩く貴族であることから、うまい事この男の祖国と繋がり、帝国が利を得られる方法を考えることにした。

 

例えばこの男の祖国が非常に裕福であるならば、この男を介して友好的な関係を築き、貿易などを通して利益を得ることはできないだろうかと考える。

 

これまでの会話から、貴族的でない言い回しや、普通はしないような質問であっても、この男は特に気にしないだろうと判断し、直接的に聞きたいことを質問することにする。

 

 

「私も一応はこの国の者として城で働く立場。せっかくのこの出会いに、ヘロ=ヘロ殿の祖国とお近づきになりたいですね。旅を終えて戻られた際は一度貴国の大臣や宰相の方などに御繋ぎ頂くことはできますか?」

 

ジルクニフは、自分でそのように言っておきながら、これは難しいだろうなと考えていた。

なぜならばもしこの男が国政に密接にかかわる立場であるならば、このように諸国を自由に旅することなどできないだろうから。

だが、そのような物言いはさすがに失礼であるので、中枢と会話ができる別の者に届ける親書などを渡すことが出来れば御の字だろうとの考えのもと発した言葉だったが、ヘロ=ヘロから返ってきた言葉は予想外のものだった。

 

「ああ、私の国には大臣や宰相と言った立場の人はいませんね。普通の国で言えば王に当たる立場の人に紹介しますよー」

 

「なっ、王…ですか。王とはご親密で?」

 

ジルクニフは、ヘロ=ヘロの予想外の言葉に驚いたが、よく考えればこの男は王の親戚か何かで、だからこそこのような放蕩の旅をできているのかもしれないという可能性に気づいた。

そうであればより好都合で、この男とうまく親密になれば、王として国同士のやり取りも容易にできると考えたのだ。

しかし、ヘロ=ヘロの言葉はまたしても予想外であった。

 

 

「ええ、もちろんですよ。彼とは結成時…あー建国時と言えばいいですかね?その時から一緒ですからねー」

 

「なっ…そう、でしたか。という事はヘロ=ヘロ殿は祖国では政に関わる立場で?」

 

「まあそうですね。うちの方針は皆の意見を平等に出し合って決めるのですが、その際は王も含めて対等な1票ですからねー」

 

「な…るほど。貴国の政治形態はどうやら我が国とはだいぶ異なるようだ…ちなみに国民はどれほどいる国なのか教えていただいても良いでしょうか?」

 

ヘロ=ヘロの答えから、ジルクニフが連想したのはアーグランド合議国の形態。

あの国は各種族の代表が意見を出し合い、ある程度の方針を決めると言った政治形態をとっていると聞いている。

しかし、かの国は多民族国家で、現在は意見を取りまとめる権力を持つものが居ないために、正確には一つの国とは言い難い面もあり、貿易をするとなると特定の種族と行うという形式になりがちだ。

 

なので、実はこのヘロ=ヘロが管理する国民の数は非常に少なく、貿易をしても利益を得られるものではないかもしれないと考えた。

また現時点で、単純に国力がどの程度かという事も不明なため、それらの疑問に対する答えを得るためにした質問であった。

 

「国民…国民の数ですか。要は私たちが命令し管理するものの数という事ですよね…うーん…ソリュシャン、ちょっと聞きたいのですが、恐怖公のところにいる者たちの数はどれくらいでしたっけ?」

 

「はい、ヘロヘロ様。少なくとも一千万はいるかと思いますが、正確な数は分かりかねます」

 

「そうですね…まあおそらく彼のところが一番多いでしょうから、少なくとも一千万と言ったところですかねー」

 

 

「いっせ…!!いや…成程、貴国は少なくともここら近隣の国と同等以上の規模の様ですね」

 

ジルクニフは、この男の国が自身の想像以上の規模を持つことを理解した。

言葉にあった“キョウフ候”と言うのは、例えば隣国のリ・エスティーゼ王国であれば一都市を治める領主の名であろう。

その領主が治める街たった一つで、一千万人の人口がいるという事だ。

彼の物言いから、ヘロ=ヘロはその領主よりも上の立場にあり、政治形態が違うため正確にはどのようなものか把握はできていないが、それら諸侯を統括し国の方針を決める立場にあり、権力としては王と同等という事である。

 

ではなぜ、そのような国の重鎮が、たった一人のお供を連れて他国を旅しているのか…?

ジルクニフは、目の前の男とその属する国が、自身の理解の範囲内にはない状況であると感じ、少しの混乱状態となった。

 

ちょうどその時、闘技場からアナウンスが響く。

 

 

 

「さて、本日ご来場の皆さま!今日は待ちに待った武王の戦いが見られる日でございます!!挑戦者は、前回の勝ち抜き戦で優勝した孤高の戦士…それでは入場していただきましょう!!天才剣士・エルヤー・ウズルス!!!」

 

闘技場には眉目秀麗で銀髪の青年が登場する。

アナウンスはその青年の説明を行っており、どうやらたった一人で前回のトーナメントを勝ち進んだ剣士とのこと。

ヘロヘロが見たところ、30レベルにも満たない様子だったので、『やはり、NPCはまだこのレベル帯で固定されていますね』と納得した。

 

 

そしてアナウンスは武王の入場を告げる。

ヘロヘロは『おっ!ついに武王の試合が見れますね。1週間も通ったかいがありました!』と嬉しそうだ。

 

 

ジルクニフはしばらく混乱していたが、ヘロ=ヘロの様子を見、速やかに考え方をこの男と良好な関係を築くための情報を集める方向にシフトした。

最初の言葉の通り、この男は強い者の試合を見たかったのだろう。

だが、ジルクニフは “武王”がどのようなものか知っているため、もしかしたらヘロ=ヘロはその正体に驚くのではないかと考えた。

その場合はうまくフォローを入れて、会話の糸口としようと様子を見る。

 

 

「ああ、ウォートロールですか。ああ、確かに他のNPCよりは強いですねー」

 

 

“えぬぴーしー”と言うのは何の事か分からないので、おそらく彼の祖国の言葉なのだろうが、それよりもジルクニフが疑問に思ったのは、試合前、兜を取って素顔をさらしていた武王が亜人種であることにヘロ=ヘロが驚いていないという事、また、“他よりも強い”と武王の強さについてある程度分かるような発言をしたことだ。

 

事前情報では、この男は強いと聞いていたが、話している中で全くそのような印象はないし、護衛のバジウッドやニンブルからもそのようなサインは来ていない。

 

 

そうこうしているうちに試合は開始し、挑戦者は何度か素早い動きで剣を振ったが、武王の防御を崩すことはできず、逆に武王のこん棒の一撃をくらった後は、ほとんど反撃が出来ずに吹き飛ばされて、そのまま動かなくなった。

アナウンスは、武王の勝利を告げている。

相変わらず、武王の強さはとびぬけている。

バジウッドが言うには帝国四騎士全員でも勝てるか分からないというだけのことはある。

 

しかし、ヘロヘロから意外な言葉が漏れる。

 

 

「ソリュシャン…アレなら私が出場しても構わないですよね?」

 

「…正直申し上げまして、あの者が手の内を隠している可能性がある限りは御身を危険にさらす様な事は慎んでいただきたいのですが…」

 

「手の内を隠しているように見えましたか?」

 

「…いえ」

 

「ですよねー」

 

 

ジルクニフだけでなく、バジウッドもニンブルも『何を言っているんだこいつらは?』と言う顔で、ヘロヘロとメイドを見遣る。

いや、正確に言うと、バジウッドとニンブルはメイドの方からはとても強い力を感じていたため、はじめから非常に警戒はしていたのだが、ヘロ=ヘロと言う貴族も武王を暗に“強くない”と言っているような言葉を述べたので混乱していると言った方が良かったかもしれない。

 

しかし次の瞬間、ヘロヘロがとった行動で、VIPルームは修羅場のような状況になる。

 

 

「あのブレインと言う人も力を見せたら反応がありましたし、これは直接あの“武王”に興味を持ってもらうために試してみますかー」

 

そう言って指輪を外した。

 

 

瞬間。

ヘロヘロからあふれる深淵の獣のようなオーラ。

まるで突然地獄の中に放り込まれたような感覚。

 

バジウッドとニンブルはとっさにジルクニフの前に出たが、武器を構えるなどと言った、それ以上の行動をとることが出来ない。

体が震えて、立っているのがやっとなのだ。

 

ジルクニフは戦士ではないために他人の強さと言う者には敏感ではなかったが、席に座った体勢のまま腰が抜けていることに気づいた。

そして、バジウッドとニンブルに守られているにもかかわらず、全く以て安心感というものが無い。

腹をすかせた獣が跋扈する荒野に投げ出されたような感覚すらある。

 

 

次の瞬間、武王が叫んだ。

 

「その上の席にいる者!!お…俺に…俺に用があるのか!!!」

 

 

「お呼びがかかったようなので、行かせてもらいますよ」

 

そう言って、先ほどと見た目は変わらないのに、存在感が全く異なっているヘロ=ヘロはVIPルームと闘技場の間の壁を軽々と乗り越え、10メートル以上の高さを飛び降りていった。

 

メイドは一つため息をつくと、ジルクニフ達に一礼し、ヘロ=ヘロに続いて飛びおりていった。

 

 

プレッシャーを発する元凶が去ったことで、バジウッドとニンブルはやっと息継ぎをするように一つ息を吐き、先ほどは動くことが出来ず拭うことが出来ていなかった顔じゅうの滝のような汗を拭うと、ジルクニフに向き直り片膝をついて言葉を述べる。

 

「陛下…先ほどは充分に動くことが出来ず、誠に申し訳ありませんでした…!」

「陛下…お体に異常は無いでしょうか!」

 

バジウッドまでいつもらしくない丁寧な言葉になっている。

無理もない。

それほどまでに先ほどまでヘロ=ヘロが発していた威圧感がすごかったのだ。

しかもその威圧感は自分たちに向いていた訳ではないというのに。

 

ジルクニフは全身に流れた冷や汗と未だ力が入らない下半身に憎いものを感じながら、努めて平静を装い答えた。

 

 

「いや…お前たち、あれほどの状況の中で、私を守るために動いてくれたこと、十分な忠義と理解している…それよりもあのヘロ=ヘロ卿という男…強さに関する事前情報は事実であったのだな…そしておそらくは我が国以上の規模を誇る一国の中枢にいて、尚且つあの気配…幸運にも悪い印象は与えていないと信じたいが、今後はより慎重に、そして必ず他国より先に我が国が国交を結ぶ必要があるな」

 

 

「仰る通りかと…正直…我ら四騎士が全員で相手をしたとしても、勝負という形になるかすら怪しいかと…」

 

「陛下…ニンブルと全く同意見ですぜ…ですが先ほどのヘロ=ヘロ卿の反応、武王との戦いを望んでいるのかもしれません。このまま観戦して、少しでもあの男の情報を得るべきかと思いますぜ」

 

ジルクニフはバジウッドの言葉にうなずき、VIPルームに残された3人は、そのまま闘技場に目線を移すのであった。

 




ヘロヘロさん的にはイベントが起きたっぽいので上機嫌です。
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