オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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可及的速やかに武王のいる闘技場へ降り立つヘロヘロさん。

最大トーナメント編で我慢できなくなって降り立った範馬勇●郎みたいな感じだったと思っていただければわかりやすいかと思います。


第3章 第11話 -アイキ・マスター・ヘロ=ヘロ-

 

 

静まりかえる闘技場。

しかしそれは、今日の観客が少ないという意味ではない。

 

今、目の前で起こったことに、観客はおろか、アナウンスを担当する闘技場のスタッフも皆、言葉を失っているからであった。

 

いつもの様に武王が勝利した。

敗者が担架で運ばれて退場する。

 

ここまではいつもと同じだった。

 

しかしその次に、全ての者は最上部に近い位置の客席から、筆舌しがたいほどの強大な何かを感じた。

例えるならば天の星が落ちてきたような、今まで感じた事のないプレッシャー。

武王を除くすべての者は、無意識に身を屈めて頭を押さえ、その言い知れぬ恐怖から逃れるために強く目を瞑った。

 

次の瞬間、武王が叫ぶ。

その声はいつも通り良く響く強者の声。

しかし、いつもと違いどこか震えた声。

 

武王の声に気づき、眼をかろうじて開けることが出来た観客は、上部の貴賓やVIPが使用する客席から2人の者が降ってきたことを確認する。

 

そこには一見すると、人の良さそうな男と、ロングスカートのメイド服を着た絶世の美女がいた。

 

美女の方は、成程、服装の通りメイドなのだろう。

もう一人の男に対して失礼の無いよう少し後ろに下がり、無表情といっても良い澄ました顔で佇む。

 

男の方は、女と比べるとあまりにも平凡…いや平凡なのは見た目だけで、先ほど天から落ちてきた星はこの男なのだと誰もが瞬時に理解するほどのプレッシャーを放っている。

 

その男が、ニコニコした表情のまま武王に話しかけた。

 

 

 

「お呼びいただきありがとうございます」

 

「俺が…呼んだわけじゃない…お前が俺に呼ばせたんだ」

 

「ふむ……私は貴方の試合を見るためにここ一週間ずっとこの闘技場に張り付いていたのですよ」

 

「そうか…お前ほどの者に興味を持たれるとは光栄だな…だが、期待外れだった…そう言いたいのだろう?」

 

「いえ、どうでしょう。今の(・・)あなたは確かにそこまでではないかもしれませんが…」

 

「俺は…これから、もっともっと、強くなれると言っているのか?」

 

「そうあって欲しいと思っていますよ」

 

 

しばしの沈黙。

観客も誰も彼も喋らない。

突然の侵入者。

本来は闘技場のスタッフが追い出さなければいけない者だ。

こういったことは良くあることで、戦いに興奮した者、酒に酔った者が、侵入してしまうことがある。

もちろん正式に登録しているわけでもない者が入ることは規定上許されていないし、モンスターとの戦いも催される場に一般人が入るのは危険ともいえる。

 

しかし、今回ばかりは、スタッフも退場を促す言葉をかけることもできない。

 

余りのプレッシャーから、次に武王かその男が喋るまで、誰も言葉を発することが許されていないようだ。

 

 

 

「お前ほどの者に挑むことが無謀であることは分かっている。だが…敢えてお前に頼みたい。俺と戦ってくれ。全力の俺の力で、全力のお前の力にぶつからせてくれ」

 

「現役武王からのお誘い、うれしいですねぇ…はい、喜んで。ですが今ここで戦ってもいいのですか?」

 

 

それを聞いた武王は、再び大声で叫んだ。

 

「審判!!正しい手順でないことは分かっている!だが俺は今この者と戦いたい!戦わなければならない!この挑戦者…いや、この者に対して挑戦する俺を認めてくれないか!!!」

 

 

闘技場のスタッフたちがいる席は静まり返り、そしてにわかに慌ただしくなる。

このようなこと、当然だが今までに一度もなかった。

僅かな話し合いの後、判断は闘技場の興行主(プロモーター)であり、武王の実質的な所有者であるオスクに委ねられた。

 

オスクはその小さくつぶらな双眸を一旦強く瞑り、そして再び開くと頷いた。

 

その合図を期に、闘技場に緊急試合のアナウンスが流れる。

 

観客者たちはやっと我に返り、大きな歓声を上げる。

 

高所から降ってきた男を見るなり、丸く縮こまって『いやだ…もうおうち帰りたい…』しか言わなくなったウサギの姿の亜人メイドの横でオスクは小さく呟いた。

 

「頂を…見つけてしまったのか…武王…負けるなよ」

 

 

 

戦いの始まりの合図が鳴り響いた。

武王は素早く武技〈流水加速〉と武技〈剛撃〉を唱え、躊躇うことなく、しかし油断なく、右から左に薙ぐ様に、男に最速最大の一撃を浴びせた。

 

予期していた逆撃は無く、不思議なことにその一撃は、男の体に吸い込まれるように届いた…ように感じた。

がその一撃は確かに男に当たりながら、そのまま男を通り抜け、左にすっぽ抜けた体の背中を軽く押された感覚があったかと思うと、そのまま自身の体は速度を増し、回転しながら十メートル以上吹き飛ばされていた。

 

地面にぶつかる衝撃。

何本か折れた骨は、トロールの再生能力で速やかに治る。

 

急いで振り返ると、男は初めの位置から全く動いていない。

そして先ほど同じ笑顔でこちらを見ている。

 

何が起こったか分からないゴ・ギンは、再び素早く男に詰め寄り、今度は上段から振り下ろす攻撃をする。

しかし今度も攻撃は当たらず、その勢いを加速されて地面にたたきつけられる。

 

何度やっても同じだ。

全力の攻撃は吸い込まれるように男を通り抜け、加速させられて吹き飛ばされる。

 

男は最初から一歩も動いていない。

 

こん棒での打撃は無意味であると悟ったゴ・ギンは男に向かって全力でこん棒を投げつけた。

男は左手を優しく持ち上げると、まるで小動物を優しく撫でるように、こん棒に触れた。

その瞬間、文字通りこん棒は粉々(・・)になって破片が辺りに散らばった。

 

 

「…これ程か」

 

武王は呟くと、覚悟を決めて男に近づき、素手での攻撃に移る。

先ほどかけた武技が切れたタイミングで新たな武技を掛けなおす。

 

「武技〈外皮強化〉!、武技〈外皮超強化〉!!、武技〈神技一閃〉!!!」

 

武技の多重掛けで体に痛みが走る。

だがそれが何だというのか。

今俺は確かに触れている。

この世の頂の力に。

勝てないだろう。

届かないだろう。

そして俺はここで死ぬのだろう。

だが、求めてやまなかった真の強さに、最後に触れることが出来る。

 

ウォートロールとして高めた種族レベルと、重ね掛けした武技、そして長く戦いに身を置いてきた武王自身だけが感じることが出来る絶対のタイミングで、打ち出したのは中段右正拳突き。

シンプルながら不可避の、今できる最大の攻撃を男に向かって放った。

 

凝縮したような時間の中でゴ・ギンが見たのは、わずかに動いた男の左手。

ゴ・ギンの右正拳が男の左手に触れた瞬間、その左手はゴ・ギンの右正拳が進むのと同じ速度で後ろに下がり、そのままわずかに加えられた回転が、ゴ・ギンの全身に伝わる。

回転運動に囚われた体は、地面から足が離れ、そのまま絡めとられた右腕が逆に極められ、激しい衝撃と共にうつぶせに地面に突っ伏していた。

 

極められた右腕は優しく押さえつけられているが、どんなに力を入れても、その手も、体も返すことが出来ない。

 

 

「…なぜだ…なぜ攻撃しない」

 

「しましたよ。あなたの攻撃を全て返して差し上げました」

 

「そうではない!今、俺はもはや動けない!お前が、それほどの力を持つお前が、そのまま一撃俺を殴れば、俺を殺すことなど容易だろうに!!このような屈辱!!」

 

「そうですか…貴方の誇りを傷つけてしまったようですね…では」

 

 

自身の右手を極めている、男の左手から、わずかな体重の移動が感じられた。

右手を振りかぶっているのだろう。

この世の最後の一撃。

意識ある限り、その頂点の力、味合わせてくれ…!

 

押さえつけられて動かない後頭部に、重いものが触れた気がした。

しかしそのエネルギーのようなものは、意識を刈り取るでも、頭部を粉々に砕くでもなく、何かが体を通り抜ける感覚だけがあった。

 

直後、眼前にある地面がすさまじい音を立てた。

音は自分を中心に広がっていき、おそらくは観客席との仕切りまでその振動を伝えた。

 

不意に、男が自身を開放しているのを感じ、起き上がる。

するとそこにはまるで隕石でも振ったような跡。

自身を中心に蜘蛛の巣状に破壊された闘技場の地面であった。

 

 

「まだ強くなるあなたを殺すのが惜しい。もっと強くなったあなたと戦いたいと思い、確かに力を放ちましたが、あなたを通して地面に当てました」

 

男からは既に、最初に感じた威圧感のようなものはなくなっていた。

目の前にいるのは、見た目通りのニコニコした青年。

高級そうな、ゆったりとした衣服を纏い、後ろに控えるメイドは無表情ながら少し顔を赤らめ拍手をしている。

 

 

「俺の…負けだ。今日からお前が九代目武王だ。どうか…一つでいい。俺にお前の技を教えてくれないだろうか?」

 

「いいでしょう。あなたは“剛”ばかりで“柔”が欠けています。“柔”の基礎をお教えします」

 

「感謝する…頂の者よ」

 

 

こうして、帝国闘技場に九代目武王が誕生した。

その名は“ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ”。

闘技場の名簿に永久に記録され、闘技場に訪れれば誰でも見られるこの名鑑は、きっと後年それを目撃した他の40人の頭を悩ますことになるだろう。

 

 

余談だが今回の戦い、ヘロヘロはかなり考えて作戦を立てた。

 

まず、闘技場のチャンピオンで、明らかに武士道精神のある善寄りのNPCを殺すのはNGだと思っていたが、レベル差的に物理攻撃をするとどうやっても殺してしまいそうだと感じた。

 

だから使用した技は全て、最大まで上げた「ナイキ・マスター」と「ブシン」職業レベルで覚えられる『アイキドー』の技が殆ど。

『アイキドー』の技は攻撃してきた技の攻撃力に数%の威力を上乗せして返す技で、本来はそこで怯んだところに大技を叩き込むのだが、今回は返すだけでとどめた。

最後の一撃は『ケンポー』の技で、プレイヤーやNPCを挟んだ状態でも、それらをすり抜けて奥の壁を壊したり、モンスターを攻撃して吹き飛ばす、攻撃用というよりは狭い通路などの探索時に便利な技である。

唯一、こん棒を破壊した技のみ、武器破壊者(クラッシャー)のスキルを使用した。

 

ヘロヘロは武王に『アイキドー』系統の技を教える代わりに『武技』を教えてもらおうとワクワクしている。

 

ソリュシャンは平常心を装っているが内側は大変なことになっており、不敬ながらもどうやって今夜お誘いしようかということしか考えていない。

 

VIP席の3人は呆然としていて、特に真ん中のイケメンは、頭をフル回転させながら、この後どうやってあの化け物に接触すればよいか考えている。

なぜ最初に自身が皇帝だと名乗らなかったのだと、なぜヘロヘロ卿の身辺を探るような素振りで対処してしまったのかと。

これらの失点を取り返し、この国がこれまで通り平穏無事に続いていくためにはどうすればいいのかと。

 

 

 

試合後、ヘロヘロはオスクに呼ばれ、改めて(元)武王とあいさつをし、ヘロヘロはゴ・ギンに『アイキドー』の基本技『コキューホー』を教え、ゴ・ギンはヘロヘロに武技〈剛撃〉を教えた。

ゴ・ギンは短時間でもわずかに『アイキドー』の感覚をつかんだようだったが、ヘロヘロは武技を使用するには至れなかった。

 

一旦は『まだ開放する条件がそろっていないのかもしれないですね』と納得して、その後は今まで闘技場通いで行けていなかった市場を見学に行く。

 

北市場では魔法を用いた生活便利グッズの『扇風機』や『冷蔵庫』を見つけ、運営のあまりに寒いギャグに逆に爆笑し、しかもこれを作ったのが遥か南東の国に居たミノタウロスと知ると笑い転げた。

 

法被を着て現代電化製品を販売しているミノタウロスを想像したヘロヘロは、ギルメンと合流したら絶対に遊びに行こうと心に誓う。

 

そして宿に戻ると、宿のオーナーと思われる男性が慌てて走ってきた。

 

「ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ様、お帰りなさいませ!さる御方からご伝言がありまして、本日からのお宿はその御方からのご指示により別の場所となっております。ご案内いたしますのでこちらの馬車にお乗りください!」

 

慌てたような、どこか青ざめたような顔で、その初老の男が案内するままに馬車に乗ると、ものの10分ほどで馬車が止まる。

そこは以前、ソリュシャンが確認したところ、『一見さんお断り』という事で断られた、件の最高級宿だった。

 

中に入ると、おそらくこの宿の殆どのスタッフと思われる者が丁寧にお辞儀をし、ヘロヘロたちを迎える。

ソリュシャンに確認すると、最初に来た時に断ったスタッフは居ないとのことだった。

 

最上階の明らかに広すぎる部屋に通されたヘロヘロは、内心で『これは今日の行動のどれかがここに入る条件達成に繋がったという事ですね!やりました!!』と大喜びだった。

 

 

しばらく部屋で寛いでいると、入り口をノックする音がする。

 

「失礼いたします。ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ様へお客様でございます。お通ししてもよろしいでしょうか?」

 

とスタッフの声が聞こえた。

 

ソリュシャンをちらと見たが特に止められる様子はなく、また、自身も強い者が近づいている感覚は無かったので「どうぞー」と答えた。

 

スタッフが開けたドアの向こうに立っていたのは、闘技場のVIP席で話をした、イケメンとその護衛っぽい2人であった。

 

ヘロヘロはとっさに、『あ、やば。話の途中で飛び出して行ったきりでしたねーこれは流石に失礼だったかもしれません…』とズレたことを考えていた。

 

 





合気道の技をすごい調べました…間違っていても優しくスルーしていただければ幸いです。
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