オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
ヘロヘロさんを少なくとも人間と思っているので、まだ毛髪への影響はありません。
まだ。
それと相手が人間なので、原作みたいに人間国家が滅ぼされる!みたいな心配がなく、対抗しようというよりは、どの国よりも早く友好関係を築こうという方向で考えることが出来ました。
ジルクニフは帝都一の高級宿の門をくぐると、宿の者たちに大変恐縮して迎えられたが、今はそれどころではないという考えから、硬い表情のまま促される最上階へとまっすぐ向かっていった。
ヘロ=ヘロ卿との交渉について、皇城ではなくこの宿を選んだのは考えがあってのことである。
もし仮に、皇城でヘロ=ヘロ卿を迎えるとなると、当然自身は皇帝として対応することになる。
となると、ヘロ=ヘロ卿は他国の国賓とはいえ、皇帝としての自分に礼を尽くす必要が出てくる。
ヘロ=ヘロ卿からすると、先ほど闘技場で何やら探りを入れてきた者が実はこの国の皇帝で、その者は上位からの目線で国家間の話し合いを持ちかけてくることになる。
この状況はどう考えても不愉快だろう。
であれば、宿泊する宿の部屋という、ヘロ=ヘロ卿側にとってのプライベート空間において、対等かつ友好的に話しかけ、そこで実は自身が皇帝であること、また先ほどの非礼に対してこの宿を紹介したことを説明した方が少しでも印象が良いだろう、という考えからである。
ヘロ=ヘロ卿が武王に勝利したのち、ジルクニフは震える足に鞭を打って、皇城に急いで戻り、秘書官と四騎士、アルシェを呼んで、速やかな情報共有とこれからの対応を考えることとした。
こういう時に限ってフールーダが“位階上昇理論の実践”という名のモンスター狩りに出かけていたのは流石にブチ切れそうになったが。
フールーダが留守であることを知った時の私の顔を見て、とんでもなく恐縮な顔になって謝るアルシェに心の中では『いや、お前のせいだがお前のせいじゃない…お前…若いのに苦労が絶えないな…』と本音を吐きつつも、「ならば奴が不在の分、お前から有意義な意見が出ることを期待する」と答えた。
まずバジウッドが、ヘロ=ヘロ卿の戦士としての強さを説明。
四騎士はおろか、この皇城の騎士全てに軽々と勝利できると言うと、ロウネは不可思議な顔を浮かべたが、実際にどうやって武王に勝ったか等を説明すると、顔を青くしていた。
その様子から、今度は仮に皇城の魔法戦力で対峙した場合どうなるかを、アルシェに確認。
アルシェの見解では、フールーダとアルシェが二人で全力で魔法攻撃を行おうとした場合でも、一瞬で距離を詰められて無力化される可能性が非常に高く、仮に第6位階の攻撃魔法を放てたとしても避けられる可能性が高い。
何より、帝国の全人口と同程度である数の住人が暮らす街が複数あるような国力を持つ国と、争いになるようなことは有ってはならないし、そのような国を背景に持ち、個としても隔絶した強さを持つ者から、計略で利を得ようとするような交渉をすべきではないと強く進言された。
本当に、全く以てその通りだと思った。
幸運にも、現時点でジルクニフは、ヘロ=ヘロ卿に悪印象を与えていないと考える。
これは同席したバジウッドやニンブルも同意している。
また、店で長時間話をしたアルシェも、ヘロ=ヘロ卿は理知的だが計略を好むような側面は見られなかったし、善人かつ素直な人柄であるように見えたため、こちらから誠意のこもった対応をすれば悪意を持たれる可能性は低いのではないかという意見があった。
これらから、ジルクニフが導き出した対応は以下の通り。
・自身が皇帝であることを伝え、最初に名乗らなかったことは誠心誠意謝る
・ヘロ=ヘロ卿がこの国で求めるものを聞き出し、可能な限りそれを叶える
・卿の祖国と可能な限り友好に接触できるよう親書を渡す
・卿が今後、敵国である王国に肩入れしないよう、虚偽のない範囲で王国は価値が無いと伝える
どれも非常に重要な案件である。
このような緊張する会談、今までに経験したことが無い。
例えではなくこの国の未来がかかっているのだから。
またバジウッドからは、メイドの女も注意した方が良いとの意見があった。
ヘロ=ヘロ卿の強さが非常に目立ったが、実はこのメイドの女もかなりの手練れであり、その実力は帝国四騎士を凌いでいる可能性が高いとのこと。
同時に女は普段無表情であるが、ヘロ=ヘロ卿が勝利したときなどは、どこかうっとりとしていたような印象があり、“女”として心酔している可能性が高い。
従って、その点を配慮して、例えば卿に娼館を勧めるなどの行為は控えたほうが良いという事になった。
なお件の旅館は一度ヘロ=ヘロ卿のメイドからの宿泊依頼を、『紹介が無い』という理由で断っていることが分かった際は、一瞬ジルクニフの顔が真っ白になったが、逆に考えれば最初の非礼を詫びるという理由で、店側のそういうルールを曲げて紹介したと説明できるために利用できるかもしれないと考えた。
念のために、最初に対応した従業員は、卿がこの国を去るまでは出勤してこないようにと強く言いつけたが。
口の中が渇くのを感じながら、従業員が客室の扉を開けるのを待つ。
中からあのニコニコ顔の男と、無表情な美しいメイドが顔を出した。
『さて…ここからが私の戦場だ』
ジルクニフは覚悟を決めた。
***
ヘロヘロは、ジル改め、帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの反応が先程からとても低姿勢で、なんなら最初の接触で無遠慮に色々と聞いてきたことを謝ってすらいる様子から、VIP席から話の途中でドタキャン?したことを怒っていないと感じ安心していた。
皇帝を名前のあだ名呼びしていたことに気づき、ならば私のこともソルディフと呼んでくださいと伝えると、皇帝は嬉しそうな顔をして了承し、自分のことは友として引き続き“ジル”と呼んでほしいと言っていた。
皇帝という割には気さくな設定の様である。
『いやー良かったです。それにしてもこの若いイケメンがこの国の皇帝とは…さすがゲーム、絵に描いたような設定ですねー。それに、彼の話からすると皇帝の前で力を見せたことが、この宿に入るための条件の一つだった可能性大ですね。本当、派手な登場して良かったです!』
「ところでソルディフ殿、この宿は気に入ってくれただろうか?この宿は歴史もあるが最近改装してとてもきれいになったのだ。だがやはり古さもあってやや融通が効かない所もあり、最初はソルディフ殿の宿泊を断るなどという愚行をしてしまったと聞いている。私からも言って聞かせておくから許して欲しい」
「いえいえ、素晴らしい宿に泊まらせていただいて感謝していますよ。そうだ、もしこれから先、私の国の仲間がこの街に来た際は、この宿を勧めても構わないですかね?」
「もちろんだとも!ソルディフ殿の名を出していただければ、その時空いている最も快適な部屋に泊まれるよう、私から支配人へ言っておこう」
「いやーありがとうございます。仲間も喜ぶでしょう」
ジルクニフは『ここだ』と思い、ヘロヘロの祖国と同盟を結ぶための話を進める。
「ソルディフ殿の祖国のお仲間が我が国へ来るというのであれば、相応の準備をしておかなければいけないな。闘技場で話したように、我が国との友好的な関係を結ぶための親書を作成するので、ソルディフ殿から貴国の王へ渡していただけないだろうか?」
「ああ、良いですよ。国に戻りましたら渡して皆で確認させていただきましょう。お返事の際には、また私と、仲間の誰かを連れてきても構いませんかね?」
「もちろんだとも。いや、わざわざ足を運んでいただくのは失礼かもしれないな。良ければ私から伺わせてもらうかもしれないな」
「ええ、もちろんですとも。それも含めて帰ったら確認しましょう。私は使えませんが、仲間には一瞬で移動できる者もいるので、お迎えに上がりますよ」
「そ…それは心強いな」
ジルクニフは、ヘロヘロが『一瞬で転移して迎えに来る』という発言に、やはりどうあっても敵対すべき相手ではないと確信するとともに、ここまでの流れが非常に友好的かつスムーズに進んだために、心の中で大ガッツポーズをした。
「ところでソルディフ殿は、先の闘技場で先代武王を下し、九代目武王の名を継いだそうではないか?私からも友へ何か祝いの品などを送りたいと思うのだがいかがだろうか?」
「そうですねぇ…私としては、この宿の宿泊開放と、今後仲間が来た際に使用できるという事で十分なのですが…ああ、では情報を頂きたいと思います」
「情報…ですか」
ジルクニフは再び、ごくりと喉を鳴らした。
情報というものは時としてどのような物品より勝る価値となることがある。
ヘロ=ヘロ卿は、明らかに武人としての将なのであろうが、さすが国家の中枢にいる者、その辺りはわきまえているという事か…
「ええ、実は私は国からまっすぐここまで来たために、この辺りの国の情報を知らないのです。名前としてこのバハルス帝国の他、リ・エスティーゼ王国、竜王国という場所は知っていますが、周囲にあるそれ以外のことを詳しく存じません。その他、この国以外の武術大会とか、ダンジョンとか高レベルのモンスターがいる場所だとか、そういうのがあれば教えて欲しいですねぇ」
ジルクニフは、この話題となった時にヘロ=ヘロ卿の顔が少し変わったことに気づいていた。明らかに楽しそうに笑顔を深めている。
武術大会とかモンスターの話というのは、確かにこの一騎当千の将であれば気になるというのも本心であろう。
だがおそらく本命は、周辺国の情報。
卿の国に、他国を侵略するなどの領土的野心があるかは分からない。
しかし、卿個人が持つ軍事力だけでも、多くの国を蹂躙できることは想像に難くない。
もしや卿の国の王は、そういった情報を持ち帰ることも含めて、あえて中枢における重要人物である卿を旅に送り出したのか。
そうであれば、かの国の王はどれほど恐ろしい者であるか…
いずれにしろ、卿と友好的に接触することが出来た我が国は幸福だったと言える。
我が国として重要な次の一手は、卿が親書を持ち帰り、かの国の王とどれだけ有効な関係を築けるかという事に尽きるだろう。
また、このタイミングで、我が国以外に興味が行かぬよううまく周辺国の説明をすることだ。
「そうですね、まずお話にあったリ・エスティーゼ王国だが、あの国は我が国の西に位置している。あの国は我が国より歴史は長いが、犯罪組織の拡大などで治安が悪化しており、そういった組織が我が国にも手を出そうとしたことなどから、毎年我が国と小競り合いをしている状態です」
「ああ、そういえば麻薬とかも深刻だって道中で聞きましたねぇ」
「!!ええ…よくご存じで」
ジルクニフは、『良く知らない』といいながら大国の腐敗の象徴である麻薬である『黒粉』のことを知っているヘロ=ヘロ卿はやはり武だけの将ではないと理解する。
「そのさらに西には、ローブル聖王国という国があります。ここは近年、国の南部からアンデッドが増殖していて、国としても衰退の一途を辿っている様子。北部では件の麻薬が流行し始めており、この国も治安は良くない」
「ふーむ…ここの南の方に、アンデッドが多く出る霧に覆われたダンジョンがありますよね」
「ダンジョン…?ああ、カッツェ平野の事だろうか。あの場所がどうかされましたか?」
「いえ、あそこもアンデッドが多いので何かつながりがあるかと思ったのですよ」
「いや、聖王国とはかなり距離が離れているし、直接的な関係は無いと思うが…ニンブル、何か関係があるという話は聞いたことがあるか?」
「いえ…そのような話は聞いたことがありません。カッツェ平野のアンデッドは恐らく数百年前からあの状態と伺ったことがありますが、聖王国のアンデッド被害はここ数年の話です。おそらくは無関係かと」
「なるほど、そうですか」
ヘロヘロは西側には仲間と合流してから向かった方がいいなと考えた。
レベル的には大丈夫かもしれないが、自身にとって攻撃が通りづらいアストラル系が含まれるアンデッドの多発地帯は、それこそアンデッドのモモンガさんや、魔法系の仲間がいたほうが攻略しやすそうだと思ったからである。
「王国の南にはスレイン法国という宗教国家があり、この国は秘密主義の傾向が強く、我が国でも国の情報はつかめていないことが多い。だが国民は皆善良で、周辺国の教会は厳密にはこの法国によって運営されている。戦争や他民族との争いがあると、中立的に介入して休戦を求めてくることがある」
ジルクニフはこの国の戦力が実は周辺国でも比較的高いことを意図的に言わなかった。
武力に対して強い興味を示す傾向があるヘロ=ヘロ卿が下手に介入をしないようにするためである。
結果的に自国の利とする方向に進めばいいが、まずは卿にはさっさと国に帰って、我が国との友好関係を明確にしてほしいという思いが強い。
同じようにアーグランド合議国の話もしなかった。
この国は亜人や異形の集合国家で、群雄割拠の状態となっていることから、卿が最も興味を持ちそうだと感じたからである。
加えて、正式な国交がないため、正しい情報を伝えられないかもしれないという事も事実である。
「次にこの国の東側だが、カルサナス都市国家連合という12の小国家からなる都市国家群がある。この土地は各都市長が各小都市を治めている状況だ。ベバードの都市長は個人的に繋がりがあるので、私の名を出せば悪くされることは無いでしょう。伝えておこうか?」
「ええ、助かりますねー」
「ああそういえば、カルサナス都市国家連合は5年に一度“コネリエ”という競技大会が開かれている。決められた場所で戦うもので、国家ごとに強者を出し合って戦う競技だと聞いている…確か次の開催は半年後だったかと」
「なるほど、それは面白そうですねぇ」
「興味があったらベバードの都市長に聞いてみるといいでしょう。それも含めて伝えておこう」
「いやぁ何から何まで助かります」
「最後に我が国から南東にある竜王国ですが、こちらは現在ビーストマンという亜人種族からの侵略を受けているそうだ。そこに件のスレイン法国が介入して混沌とした状況だとか…」
「竜王国には竜の女王がいるとか聞きましたが」
「ああ、あの
「成程、成程。いやぁ色々な情報感謝します」
「いや、私としても、ソルディフ殿のお役に立てたなら光栄だ…それでは私は皇城に戻って親書の作製に取り掛かろう。良ければこの街をゆっくり観光していってくれると嬉しい。親書が出来たらこの宿へ届けるようにするよ」
その後他愛のない会話の後、皇帝たちは自身の城へ帰っていった。
ジルクニフは、当初の目的がほぼ果たせたことに胸をなでおろし、一方でヘロ=ヘロ卿の底知れなさを改めて感じた。
また彼の反応から、高い確率でカルサナス都市国家連合に赴くだろうことを感じ取り、ベバード都市長のカベリアには卿の情報を伝え、決して敵対せず思いつく限りのもてなしをするよう忠告しておこうと考えるのだった。
ヘロヘロは、この国の皇帝との接触という、明らかに重要なイベントを迎えられたことに満足し、この国ではアップデートの種まきもしたし、この宿の開放も出来たことから満足して、次に向かう国のことを考え始めていた。
最高級宿の夕食はとても素晴らしく、昨日まで泊まっていた宿も非常においしいと感じていたが、明らかにそれを超える質と量が出され、ヘロヘロは大満足であった。
もちろんこれは皇帝からの言伝が十二分に入っていた結果なのだが。
そして、夜。
風呂に入ろうかという時にソリュシャンが話しかけてきた。
「ヘロヘロ様、本日はお疲れ様でございました。闘技場での戦いやジルクニフという者から情報を引き出す手腕、誠に敬服いたしました」
「ああ、ありがとうソリュシャン。いつもあなたがメイドとしてこれ以上ない働きをしてくれるからこそですよ」
「そんな…勿体ない御言葉でございます…ですが、そのように仰っていただけるのでしたら、その…ヘロヘロ様へメイドとしてのご奉仕をさせていただきたく存じます…」
ソリュシャンの虚ろな目の中に蕩けた様な色が宿っている。
ヘロヘロは、ソリュシャンが言わんとしていることが分かってしまった。
「その…ソリュシャン、目覚ましは…」
「万全でございます!!」
「では…お風呂へ入りましょうか」
「はい、ご一緒させていただきます!」
今日も放蕩貴族とお付きメイドの夜は長くなりそうだ。
本当にしょうがない主従ですね。
ソリュシャンは武王との試合の後、ずっとこのことを考えていたので大分大人しかったです。