オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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本編が始まりした。

ここから御方々の冒険が始まります。

各章の第1話は、転移後の心情描写が多くなるため、どうしても長くなってしまいますね。。




第1章 第1話 -皇城の錬金術師-

 

0時になる瞬間、私は顔を上げて玉座の間にある41の紋章旗に目をやった。

そうだ、あれは私の紋章。

あの紋章を考えるのに2週間以上かかった。

古代のアルケミア・シンボルからヒントを得て、賢者の石をモチーフに…

懐かしい。

ユグドラシルは終わる。

その終わりはラグナロクではなく、想像していたよりはもっと無粋なものだったが、それでも楽しかった。

ヘロヘロさんやモモンガさんは2が有る可能性を信じているようだが、正直私はあまり期待していない。

期待するとき結果は得られず、一方で思いがけない失敗が成功を導くこともある。

それに、私の最高傑作である娘たちをもう一度再現するのは難しいと言える。

 

しかし、果たして次の瞬間、思いがけないことは確かに起こった。

見上げていた41の紋章旗は消え、見たことがない同じ紋章が描かれた紋章旗がいくつか見える。

 

いつかD&Dで見た、コンティニュアル・ライトのような、どこか古めかしい明りが暗闇を照らす。

暗いはずなのになぜか部屋の様子は手に取るように分かり、私は、天井が高く地面に砂が敷き詰められた部屋のようなところにいる。

目の前には柱に縛り付けられた死の騎士(デス・ナイト)

一瞬モモンガさんのかと思ったが、動きが違う。

いや、違うというか…動きが妙にリアルだ。

デス・ナイトの手足はアバターやNPCとは思えないほど滑らかに動く。

デス・ナイトの息遣いが聞こえ、アンデット特有の腐臭がわずかにする。

 

それどころか部屋の中の少し埃やカビのようなにおいが鼻腔を通り抜ける。

 

匂い?

 

そういえば地面に敷かれている砂を少し強く踏みしめるとその感覚が足に伝わり、砂粒同士が触れ合う音が微かにする。

 

感覚?

音?

 

リアルすぎる。

電脳法を無視したアップデート?

何らかのバグ?

本当にYggdrasil 2がリリースされて、そして初期バグに巻き込まれている?

 

頭は異常を告げて目まぐるしく動いているが、逆に体はフリーズしている。

 

するとふいに背後から、鈴を鳴らすような声が聞こえた。

 

 

「お父様、これはどういうことでしょうか。ここはいったい…?いえそれよりも、お父様は何ともございませんか?」

慈悲深き純白の悪魔が私を“お父様”と呼ぶ。

 

「こ…れは、どういうことでしょうか。タブラ・スマラグディナ様、ご指示を頂ければ探知をいたします」

美しき喪服の怪人も私に話しかける。

 

そして二人ともまるで完璧に洗練された家臣が王にするように私に跪き、私の指示を待っている。

 

 

私は目を見開いて、また一瞬だけフリーズした。

なぜ、NPCが喋っている?動いている?意思疎通をしている?

しかし次の瞬間、不思議なことが起きた。

ささやくような幾つもの声が聞こえる。

しかしその声はどれも私自身の一部で、そしてその声はどれも知識の断片である。

それを受け入れた途端、私の脳内には無限の知識が湧き、全てを理解したような不思議な感覚が襲う。

 

 

「二人とも、面を上げなさい。アルベド、大丈夫ですよ。私たちは3人でどこかへ転移させられたらしい。私の感覚では周囲に敵対的かつ強力な存在はない。とはいえお前の力はこれから必要になる。今は油断はせずに私の横にいなさい。その時が来たら私が指示を出そう。ニグレド、今はまずお前の力が必要だ。できるだけ隠蔽した状態で、可能な限り広く周囲を探れるかい。できればあの扉の奥に何があるか、また、この部屋に目に見えない隠し扉がないか調べるんだ。そして、さあ、立ちなさい。二人とも今は跪く必要はないですよ」

 

自分でも驚くほど、“今”するべきことが頭の中に流れてきて、それを的確に指示として伝達する。

まるで人間を超越したような頭の回り方だ。

そしてその事実が当たり前であるかのような感覚がある。

 

ニグレドは、『探知対策(カウンター・ディテクト)』、『偽りの情報(フェイクリカバー)』などの対策魔法をいくつか唱えたのち、『千里眼(クレアボヤンス)』の呪文で扉の向こうなどを探っている。

アルベドは、扉と私の間に立ち、一見お淑やかに、しかし油断なく注意を払っている。

 

 

程なくして、ニグレドが言う。

「タブラ・スマラグディナ様。現時点で判明したことをお伝えします。まず、この部屋には魔法的・物理的に隠蔽された通路はありません。入り口は正面の階段上に見えているものだけです。そしてここは地下のようです。扉の向こうには階段があり、その上には廊下があります。廊下から続く建物は城のような形状をしています。上には生命体がおよそ300。全て人間種と思われます。また城の中には魔法的な罠はありませんが、弱い探知阻害の魔法がかかっています。ほとんどが第3位階以下ですが一か所だけ第5位階の探知阻害がかかった領域があり、その中には20ほどの生命体がいます。これもすべて人間種と思われます」

 

 

「ふむ…」

ニグレドの説明を聞き、状況を整理する。

どうやらここは人間種のみの城型拠点。しかし探知阻害が最高で第5位階というのはどうにもお粗末な守りだ。また、魔法的な罠もないとなると、かなりの弱小ギルドか守りを考えていないロールプレイングギルドと思われる。いや…あの『ネコさま王国』ですら、複雑ではないにしろ幾つか罠があった。ということは前者か?そして、第5位階以下の守りということは少なくともこの城には守るべきアイテム(例えばワールドアイテム)はないと考えた方がいい。

にもかかわらず、弱い探知阻害を張っている理由は?

 

そこまで考えると、私の中の別の私ともいうべき私が囁く。

“ではこのデス・ナイトは?”

“五感の刺激が意味するものは?”

“彼らには第5位階の守りが限界なのでは?”

“彼らなりに全力で守っているのでは?”

“城型拠点で弱い人間種が守るものは?”

 

頭の中の異なる私を構成する細胞たちが、私の考えを統合する。

そして“娘たち”へ言葉を伝える。

「得られた情報から私の考えを伝えます。ここは人間種の王城。第5位階に守られたエリアにはこの城の王とその近衛がいると思われる。王を守るために第5位階程度の守りを行使していることから、最大の魔法戦力は多く見積もってもレベル50前半。可能性としては低いが、高レベルの戦士職が存在することは否定できない。そしてこの場所は部屋のつくりから考えて、兵站の訓練場、あるいは魔法実験場。そして城の地下最奥と思われる場所にのみモンスターが配置されていて、それがデス・ナイトであることから、この城の最大戦力は少なくともデス・ナイトを召喚あるいは捕縛し倒すことはできるが、平均戦力としては対処が難しい。したがってこの場所にて訓練を行っている…アルベド、私の考えについて矛盾点や補足はあるかい?」

 

「ありません。流石私たちのお父様。至高の41人の中でも特に深淵なる知識の御方でございます」

 

「ふむ、ありがとう、アルベド。それで、ニグレド。もう一度確認させてもらうが、今この部屋に近づいてくるものはいるかい?」

 

「いません。仮に最もこの部屋に近いものが人間種の平均的移動速度で今すぐ向かってきた場合でも10分以上かかります。ただし、転移の可能性は考慮しておりません」

 

「ありがとう、ニグレド。本当にお前の力は頼りになる。転移についてもお前は正しい。転移魔法は最低でも第5位階なので可能性は低い。仮にその魔法的最大戦力が転移でここに来るとしても単独転移の可能性が高く、我々の敵ではない」

 

「はい、勿体ないお言葉…お褒め頂光栄でございます」

 

「さて、以上を踏まえてこれからの短期的な作戦を伝えますよ。今私たちに必要なのはさらなる情報です。理想は情報だけ手に入れ、誰にも気づかれずにこの城を出てナザリックへ戻ること。しかし場合によっては一部に接触して情報を得ることも視野に入れてよい。なぜならばおそらくその存在は、私たちよりも圧倒的に弱いから。接触相手の理想はこの拠点の魔法最大戦力ですね。お前たちはどう思いますか。遠慮なく意見してください」

 

「異存はありません」

「異存はありません…ですがご意見してもよろしいでしょうか?」

 

アルベドがニグレドをちらと見たあと、私に確認する。

 

「ええ、もちろん」

「では…意見を述べるのは大変恐縮ですが、仮にこの城の一部の者と接触してその者から情報を得る場合、その者は殺さずに記憶を消去するなどの方法で日常に戻すべきかと愚考します」

 

「ふむ…そうですね…一人でも存在が消えれば不審がられるもの。小さな不審はやがて大きな変化につながるかもしれない。では、アルベドの意見を採用した作戦を伝えます」

 

「「はっ」」

よく似た顔の娘たちは跪いて顔を挙げる。

 

その畏まった様子に、タブラは苦笑しつつも、今は速やかに作戦会議をすべきと判断し言葉を続ける。

「下手に動くよりはこの場所で待つことを選択します。そして最初にこの部屋に誰かが下りてきたタイミングが行動開始の時です。仮にこの場所に訪れるものが複数の場合、我々は完全不可知化を施して扉が開いているタイミングに外へ出て速やかに出口を探します。この場合、ニグレドがルートを確認しながら私へ伝言(メッセージ)で伝え、私はその情報を伝言(メッセージ)が使えないアルベドへ伝えます。外に出たらしばらくはそのまま進み、危険がないと判断できたら全体飛行(マス・フライ)集団転移(マス・テレポーテーション)でこの城型拠点を離れます。次に、訪れたものが単独の場合。この場合は、アルベドとニグレドのみ完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で隠れ、私はこのまま対処します。そのものが戦士系統であった場合はアルベドが強さを判断し危険…そうですね安全マージンを多めに取りレベル60以上の場合は私へ合図をしてください。そうでない場合は、まず私が交渉し、可能な限り情報を聞き出して最終的には記憶操作(コントロール・アムネジア)を施したのち、睡眠(スリープ)で眠らせて、その後の脱出は複数のパターンと同じです。訪れたものが単独の場合、ニグレドは速やかにこの部屋に静寂(サイレンス)をかけ、対象が部屋の中まで入ったのち、次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)をかけてください。以上ですが何か質問や意見はありますか?」

 

「お…恐れながら」

アルベドが少し震えながら口を開いたので、私はジェスチャーで先を促す。

 

「…この拠点内には人間種のみがいると伺いました。姉さまは人間に見えるかと思いますが私の角や……お父様は人間種には見えないかと思います。交渉をする場合、同じか近い外見の種族の方が油断を誘えると愚考しますがいかがでしょうか…」

 

その時になってタブラは、始めて自身の外見-脳食い(ブレインイーター)-を確認した。

その手はタコのような水生生物を思わせる醜悪なもの。

鏡が手元にないので見ることはできないがおそらく顔は、水を吸って大きくなった死体のような外見だろう。

この外見を常人が見れば、おそらくSAN値のチェックが必要になる。

 

しかし一方で、自身がその姿であることに不思議と何の違和感もない。

それどころか先ほどの、自身の中に集合知があるかのような常人離れした思考が、脳食いの設定の通りであると妙に納得できた。

 

それはつまり、自身の思考が、外見に引っ張られているということ。

先ほどアルベドが、対応者は殺さずに記憶を消すべきと進言した。

その時タブラは、瞬時に“効率が良くリスクが少ない方”を考えた。

その判断の中に、対応者への慈悲はなく、もし殺してしまう方が効率的であるならば、そちらを選択していた。

 

『私はヒトを辞めたのか』

 

その考えはおそらく正しい。

だとすればこの状況は何だというのか、いや、それは後で考えよう。

効率的でない。

 

今考えることは外見のことだ。

アルベドについては角を隠し、羽を出さないようにすればよい。

私の場合はどうするか。

 

仮に人間種が“人間”であったとする。

そしてその人間が、異形種に対して恐怖を抱く-まるでリアルにおける普通の人間のように-だったとしよう。

いる筈のない闖入者を見つけて、それが脳食いの場合……間違いなくSAN値チェックのダイスロールだ。しかも5/6で発狂する。

とすれば、この指輪の力を使う必要がある。

 

「アルベド」

 

「はっ…はい!」

 

「ありがとう」

 

「……へ?」

 

「私はお前が指摘してくれなければ、私の外見について思考が及んでいなかった。お前の言うとおりだ。私は人間へと変化しよう。お前は羽をしまい、このベールを被って角を隠しなさい」

 

そう言うと、アイテムボックスから弱い認識阻害効果を持つだけのベールを出しアルベドに渡す。

 

アルベドは、驚いたように慌てながら、なぜか少し涙を浮かべて、ベールを恭しく受け取り、それを装備する。

羽をしまった姿は、美しい黒髪の人間にしか見えない。

 

「お…お父様…私を叱責しないのですか…私は…私は…」

目に涙をためそのようなことを呟く。

 

「?なぜ叱責を?お前の助言は的確だった。褒めることこそすれど、叱責する理由がないですよ」

 

「わたくしは…恐れ…恐れ多くも…それが最善と愚考し、お父様の、至高の存在のお姿を隠せと申しました…」

 

一瞬タブラは何を言っているか分からなかった。

しかし先ほどから、この娘たちは自分のことを“至高の存在”とか“至高の41人?”とか言っているし、異常なまでに畏まっている。

もしかしてこの子達NPCは、創造主とか、ギルメンに対して忠誠を超えて神聖視してる?

なんか“お父様”とか言われて、ちょっとロールプレイな感じで、賢く美しい娘に対して、尊敬できる気高い父親風に喋ったけど、実は失敗だった?

なんかもう引き返せない感じになってしまった??

ていうか今、焦ったらちょっと人間っぽい思考が表面化したな。

これが無くなってしまったら私は完全に脳食い(ブレインイーター)になってしまうのだろうか。

いや…これも後で考えよう。

それよりも今は人化だ。

 

ロキの指輪(リング オブ ロキ)があって本当に助かったと言える。

いや、無くても、幻影を使うとか、私は隠れてニグレドかアルベドに対処させるという手もあった。

しかし、やはり、このような状況になることを想定してこのアイテムが手に入ったような気さえする。

ナザリックに帰ったら、この点をゆっくり考えて、ぷにっとさん辺りと状況を整理する必要があるな。

 

そこまで考えるとタブラは、とりあえずアルベドを慰め、彼女に完全不可知化の杖を渡したのち、自身の指輪の力を開放した。

その瞬間タブラは、ヨーロッパ系の高い鼻と少し縮れた茶色がかった黒髪、同じく茶色がかった黒い眼をして、どこか東洋人のエッセンスを含んだ顔立ちとのとなった。年齢は青年にも中年にも見える。

これは彼が好んだ、中世から近代ヨーロッパの有名な錬金術師の若き頃の姿に、自身の本来の造形を取り入れたものである。

タブラが選んだ種族は“人間”である。

 

瞬間、自身のビルド構成が変更された感覚があるが、人化後の構成もこれから行う作戦に支障はないものになっている。

 

ロキの指輪で構成変更可能と分かったのち、AOGの各メンバーは変更後のレベル構成については主に以下の2パターンから選択している。

・元々の構成(異業種時)では出来なかった別の方向性のビルド

・元々の構成に類似しているが、人間種でのみ可能なビルド

 

タブラは後者である。

人間種として、魔法力を高めたビルドということだ。

 

「ふむ、感覚的には問題なしだな」

 

そうつぶやいた直後、ニグレドが真剣な顔で告げた。

「タブラ・スマラグディナさま、人間種が一名、明確にこの部屋に向かって歩き出しております。このスピードですと扉が開くのは5分後。歩行の仕方から、高齢者である可能性が高いです」

 





引き続き、私の妄想を楽しんでいただければ幸いです。

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