オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ヘロヘロ様は次の街へ旅立ちました。

少しずつ、色々なものが交差しだします。


第3章 第13話 -それぞれの思惑-

 

 

「…旅立たれたか」

 

「はい。先ほど宿から連絡がございました」

 

秘書官のロウネからの報告に、ジルクニフは一つ息をついた。

本当に、嵐のような男だった。

だが、自分の対応は間違っていないと思う。

可能な限り友好的な関係を作り、まだ国名も知らぬが、間違いなく恐ろしき力を持つ、遥か南の国の王へあてた親書を渡せた。

 

ソルディフ殿の言動から察するに、カルサナス都市国家連合の競技大会に出場してからの帰国となるだろうから、便りが来るのは1年以内か。

次の戦いはその時だな。

それまでに出来ることをしておかなければならない。

 

腐敗を極める隣国との決着も付けておきたいし、内政ももう少し安定させて事務官を増やしておきたい。

どうやらあの自由な貴族、ソルディフ殿と比較して、自分はもっと働かなければいけないようだ。

まずは、モンスター討伐から帰ってきたじいに小言を言わねば…。

 

ジルクニフは今日も今日とて、限界まで働くのであった。

 

しかし、不運か幸運か。

ソルディフとの謁見を皇城で行わず、重要な会議の際にフールーダが欠席したこと。

そしてこれ以降はかの貴族を“ソルディフ殿”と呼ぶようになったことで、ついぞフールーダが第5位階魔法で(・・・・・・・)守られた部屋(・・・・・・)で“ヘロヘロ”という言葉を発することは無かった。

 

ニグレドが精神安定の指輪を通して、フールーダからその情報を聞くチャンスは訪れなかったのである。

 

 

 

****

 

 

———————時は遡り、ヘロヘロがこの世界に降り立つ前の、大陸中央のとある町。フールーダに精神安定の指輪を下賜した者達は皇城の様子を探りながらも、とある存在に警戒の意識を向けていた。

 

茶色がかった黒髪と同じく茶色がかった黒い眼をした、青年と中年の間の年齢の男と、その娘と思しき黒髪の美しい女たちが、街の宿で静かに会話をしている。

 

 

「やはりあれは巣に戻っていません」

 

「そうですか。これで一年近くなりますね。やはり私たちが全ての配下を消したことで警戒を強めたのでしょう」

 

「お父様、あれはもう戻ってこないのでしょうか?」

 

「あなたはどう思いますか?」

 

「半々と言ったところかと思います。あれには私たちの姿は見られておりません。仮に見られていたならば、警戒して戻らない可能性が高いと思いますが、現時点では何とも…」

 

「私はあれは高い確率で戻ってくると考えています。あの消滅させたナイトリッチたちの記憶によれば、あれはいずこかで目的を果たすでしょう。そして、やがて再び安住の場所へ戻ると考えています」

 

「…目的を果たす、という事は…いえ、申し訳ありません」

 

「分かっています。おそらく多くの犠牲が出る。私たちは残酷な決断をしました。ですが、この方法が我々にとっては最も勝率が高い…エリュエンティウや海底都市には入ることが出来ませんでした。なので、あれを討つことが現時点では唯一のユグドラシルに近づく鍵と考えます」

 

「はい…分かっております」

 

「お前たちには、つらい思いをさせてしまって申し訳ないと思っている。だが我々が持っていた20のうちの一つを使えば犠牲は回避できる可能性もあります」

 

「いえ、申し訳ありません。お父様が謝ることなど一切ございません」

「その通りでございます。過ぎた言葉、誠に申し訳ありません」

 

「いいのです。お前たちは私を支える善として思う事を述べてください。さて、ニグレド、引き続き監視をしていてください。アルベドは来る日に備えてシミュレーションを怠らぬよう」

 

「はい、タブラ・スマラグディナ様」

「はい、お父様」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

昼過ぎ。

ヘロヘロは、イベントアイテム『こうていのしんしょ』をアイテムボックスに入れると、2日間泊まった帝国の高級宿を後にした。

 

皇帝は、それはもう爆速で親書を作り、宿での会談の翌日の午後には完成した親書を宿の支配人に渡していた。

そのため、ヘロヘロはその日は引き続き宿泊し、翌日の昼頃に帝都を出発することにしたのである。

 

高級宿は流石皇帝が推すほどで、食べ物は美味しいし、部屋の豪華さや従業員の対応も一流であった。

しかしこのままだと、速やかに堕落する気がした。

主に夜のソリュシャンとのお風呂タイムが原因である。

 

ヘロヘロもソリュシャンも人間ではないので、テンプレの様にソリュシャンはツヤツヤ、ヘロヘロはヘロヘロという事にはならないが、昨日と一昨日の夜の××はかなり…かなりだった。

 

この2の世界を探索してもっとイベントを見つけたいので、このままここにいて、ソリュシャンと爛れた生活をし続けるわけにもいかないと、彼の中に残ったデスマーチ系プログラマーとしての責任感の残渣が告げたのである。

 

 

ヘロヘロが向かう先は、カルサナス都市国家連合…ではない。

その国には“コネリエ”という競技大会があると聞いたが、次回は半年後との事。

TETの技術で、このゲーム内では時間感覚が拡張されているので、いくらでも楽しむことはできそうだが、そうはいっても体感半年もその国でぶらぶらしているのは飽きそうである。

 

なので、体感1-2か月でまず竜王国とやらに行き、そこでのイベントを確認してからカルサナス都市国家連合に行けばちょうどいいかな、と考えたのだ。

 

そう言う訳で、現在ヘロヘロは、スライム形態のソリュシャンを懐にしまい、最初にPOPした位置まで走っている。

馬車が通る道などを全力疾走すると、馬車を轢きそうで危ないので、方角的に最短のコースを進んでいる。

最初にPOPした位置に到着したら、今度は反対側に向かっていけば竜王国に着くだろう。

 

とはいえ出発したのが昼過ぎだったので、さすがにその日に竜王国に到着することは無く、帝国と竜王国を隔てる山道の途中で日が暮れた。

 

気が付くと道から少し逸れた場所には、いつぞやの洞窟。

正直、ここで休むのが最も効率がいい。

そっと洞窟を覗くと、いつかの時の様に中にはモンスターは居なかった。

以前居たサーベルウルフはもちろんのこと、野生動物も含めて何もいない。

 

理由は簡単で、主従の激しすぎる××の結果、そこら中に二人分の酸が飛び散っていて、それがマーキングの様になって何者も近寄れない領域となっていたためだ。

この時は、宿の浴槽の様に溶かしてはいけないと判断するものも無かったので、ソリュシャンも酸の中和を行っていなかった。

 

というか、初めての××だったので、嬉しさの余りそんな余裕はなかったのだ。

 

ヘロヘロは懐からソリュシャンを取り出す。

 

 

『あーソリュシャン、今日はここで朝まで過ごしましょうか』

 

ソリュシャンはその場所が、自分が“初めて”愛しい御方からご寵愛を頂いた場所だと気づき、もうすでに溶けそうになっている。

 

『ソリュシャン、それでは私もスライム形態になるので、』

 

『はい、ヘロヘロ様!アラームはお任せください!!』

 

……爛れた夜からは逃れられなかったようだ。

 

 

 

***

 

 

 

一方その頃、竜王国の玉座では、先ほど帰っていった客人たちと会話を振り返り、この国の女王と宰相がビーストマンへの対策をどうするか、あーでもない、こーでもないと話し合っている。

 

 

「なぜ法国(やつら)は、あれらの殲滅に動いてくれんのじゃ!」

 

「陛下、それはシュエン殿が言っていたじゃないですか。ビーストマンの意思確認が出来ていないからと。かの国の行動方針は今更言わなくても分かっておいででしょう?」

 

「おまえなぁ…あ奴の言葉、あれは完全にウチの国の民じゃないから言えるって分かってるじゃろ?!確かに都市に侵入されたり、大規模な侵攻は無いが、国民からすれば、自分たちを食い殺すモンスターが街の外でウロウロしとるんじゃぞ?!おかげで物流も停滞気味だし私だって碌に外にも出られん!」

 

「ではどうしますか?火滅聖典の皆さんが都市の周りを無償で警備していてくれていますが、彼らの好意を無視して、我が国の冒険者やワーカーにのみビーストマン討伐を依頼しますか?まあ確かに財源はあります。ビーストマン関係の防衛費はかかっていませんからね。でもその結果火滅聖典が撤退してしまったら?それこそビーストマンの大侵攻の開始ですよ」

 

「そんなこと分かっておる!だからシュエン殿がとっととビーストマンの王に会って意思確認を済ませてくれればよいのじゃ…もう何年この状態が続いているのかって話じゃ…さっさと殲滅認定して漆黒聖典が来てくれれば解決するだろうに」

 

 

二人の会話は堂々巡りである。

もう何度この会話を繰り返しているか分からない。

 

事の発端は十年程前、ビーストマンたちが比較的大規模な侵攻を仕掛けてきた時に遡る。

 

竜王国ではビーストマンの被害は古くから散見していて、都市を離れた国民が攫われて食われるという事が何度も発生していた。

だが十数年前に、どうやらビーストマンの中に統率する王のような存在が生まれ、その個体が成長すると小都市を狙って大侵攻をし、多くの国民に被害が出た。

 

当時は国内の冒険者やワーカーに依頼をして何とか持ちこたえていたが、だんだんと戦況が悪化。

しかしその折に、例のスレイン法国の聖典部隊が現れ、ビーストマンから国民を守ってくれたのだ。

 

当時女王も含めた竜王国の国民は、救世主の登場に法国に感謝の言葉を述べたが、法国の方針はあくまで『公平中立』。

2国間あるいは2種族間の対立の場合は、双方の意見を聞いて、大儀なき戦いの場合は介入して休戦を促す。

また、2種族のうち片方がモンスターで意思疎通ができない場合は、基本的にモンスター側を滅ぼすが、片方が亜人種で言葉が分かる場合は、亜人種であっても差別せず『大儀』があるかを勘案する。

 

今回の場合、ビーストマンは亜人種で言葉が分かる状態であったが、王との接触が出来ず、ビーストマン側の主張が分からない。

なので聖典部隊は『大儀』が確認できず、一方で竜王国の国民が被害にあわないように街の守りは行うが、積極的なビーストマンの殲滅は行えていないのである。

 

その間にビーストマンは、聖典の守りが薄い旅人や、荷馬車を襲い、繁殖し子供を増やして、竜王国内でその数を増やしていった。

 

なので大侵攻や街への侵入は起きていないが、街の外にはビーストマンがウジャウジャいるという状態になってしまった。

 

 

 

***

 

 

 

一方今回、竜王国の防衛を担当しているシュエンも、実は非常にこの状態を歯噛みしている。

彼は火滅聖典副隊長であり、2種族間の争いを調停するのに適した火滅聖典の中でも高い戦闘力を持つ者である。

彼は、自国の掲げる『公平中立』の理念は正しいと思いながらも、一般的な人間種としての感情から、今竜王国で起こっている事態は望ましいものではないと考えている。

 

この状態はジリ貧だ。

ビーストマンの王は頭がいいらしく、街に侵入さえしなければ積極的に攻撃されないという事を理解していて、とにかく数をどんどん増やしている。

それでいて、野良ビーストマン経由で伝言を渡しても王にはつながらないし、どこにいるか正確に分からないので会うことが出来ない。

2週間ほど前に、なぜかカッツェ平野に面する西側の領域では一時的にビーストマンの数が減っていたが、山から新たな個体が下りてきて、その減少が補われるのもそう遠くない。

 

もしビーストマンの数が想定を超えて増えてしまい、我々でも守り切ることが出来ないほどの数で都市になだれ込まれたら…

そうなる前に処理していきたいというのが本音ではある。

 

実際シュエンは、数日前に本国に向けて早馬を出した。

この現状を早く中枢に伝えるために。

 

本国にはいくつかルールがあり、例えば戦場などの多数の者が居る場所を魔法で覗いてはならないというのがある。

これは、魔法による遠隔視に対して、自動的に反撃する魔法というのが存在するらしく、これを食らうと遠隔視ができる高位術者へのダメージが大きいからとのことだが、第4位階までしか使えないシュエンには、本当にそういう魔法があるかもわからない。

 

ただ、そういったルールのせいで、本国はこの戦場の様子を直接覗くことが出来ないので、シュエンは早馬ができるだけ早く本国に到着し、本国が速やかに危険性を理解してくれるのを祈るしかない。

 

戦闘任務に向いている部隊は表向きには3つ。

 

種族間戦争の対応に向いている、自身が所属する火滅聖典は、あまりに多いビーストマン

への対応で他に手が回せなくなりつつある。

 

国家間戦争への対応や、犯罪者グループ、国家腐敗に対応することが多い陽光聖典はリ・エスティーゼ王国にかかりきりだ。

 

戦闘力特化の漆黒聖典は、一部が現在聖王国との国境付近のアンデッド対処に追われていて、一部はアーグランド合議国の種族間闘争が、リ・エスティーゼ王国に波及しないよう北部に詰めている。

 

他3部隊は諜報、情報収集、守護任務を担当している。

 

そしてもう一つ、“あるらしい”と言われている7つ目の部隊は、シュエンはそれが本当にあるのか知らないが、本国にて重要な任務を負っているとのうわさだ。

 

仮にこの事態を国が理解しても、回してもらえる人員がいないかもしれない…

シュエンはその絶望的な想定が杞憂であることを祈りながら、部下たちとの情報共有と明日の方針の伝達を行うのだった。

 

 

 

***

 

 

 

夜が明けて、ソリュシャン幸せボイスアラームで我に返ったヘロヘロは身支度を整えるとソリュシャンを再び懐にしまい道を急ぐこととした。

 

やはり野外での宿泊はヤバい。

 

魔法が使えない2人なので要塞創造(クリエイト・フォートレス)のようなお泊り手段の魔法はないし、モモンガの様にアイテムコレクターでもないので、便利な野宿アイテムも持っていない。

そう言う訳で洞窟などでの野宿になることが常なのだが、その際スライム化した方が身を隠せるので、結局ずるずると××が始まってしまう。

 

今自分たちが出てきた洞窟を振り返ったが、それはもうすごい酸とかの飛び散り様だ。

あの洞窟は数十年は生物が棲めないのではないだろうか。

段々ソリュシャンのお求め(・・・)内容が激しくなっている気がするし、自分もそれに喜んで応えてしまっている。

 

人型で眠れる場所に泊まることが今日の目標と考え、今日中には竜王国の都市に到着することを心に誓った。

 

 





久しぶりのタブラ様が登場でした。

明日はちょっと忙しいのでお休みすると思います。
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