オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
やっと心のぺロロンのところまできて、作者的には満足です。
謁見が終わって、スレイン法国の数名と、ワーカーチーム『豪炎紅蓮』のメンバーが退室した玉座では、ドラウディロンと宰相がいつもの通り、意見を交わしていた。
しかしその意見交換はいつもとは違い、わずかに見えた希望のために明るいものとなっていた。
「なあ宰相…これでやっと、長年の国民の苦労と、私のストレスの元が解消されるという事だろうか?」
「まだ喜ぶのは早いです。シュエン殿が仰っていた通り、ビーストマンどもの被害を完全になくすためには、ビーストマン国へ攻め込む必要がありますし、火滅聖典の皆様の力を持ってしてもそれは難しいとのことです」
「ええい分かっているわい。お前、ちょっとネガティブが過ぎるぞ。私がはっぴーな気持ちになるような言い方はできないのか?」
「いや何言ってるんですか。国民が安心して暮らせるようにすることこそが私や陛下の仕事でしょうが。そのためには現実的なことを言わないでどうするんですか」
「はぁ…まあお前の言う通りなんじゃがな。で、その攻め込むための戦力となりそうな、オプティクスが言っていた者たちは探せそうなのか?」
「どうでしょうかね。他の街に駐在されていた火滅聖典の皆さまとオプティクス殿からの情報から御名前は分かりましたが、現在どこにいるかは分かりません。しかもどうやら他国の貴族の様ですので慎重なご対応が必要になるでしょう」
玉座にシュエンだけでなくオプティクスが謁見に訪れたのは、その“戦力”となりうる者について、過去にワーカーチーム『豪炎紅蓮』が接触していることが分かったからだ。
そもそも、『豪炎紅蓮』は王都の西側で最も王都に近い街、アダマンタイト冒険者チーム『クリスタル・ティア』は王都の東側で最も王都に近い街に駐在してもらっていて、国として雇い、ビーストマンの脅威に備えていた。
そして昨日、火滅聖典のシュエンは『豪炎紅蓮』とたまたま同じ街に滞在していたのだが、ビーストマンたちがいつもと違い街の外壁を囲むように集結していて、ついに攻め込んで来るかと警戒していた。
そんな折、真夜中に何者かが外壁を飛び越えて街の中に侵入し、驚くシュエンに『ここより西側の街がビーストマンの侵攻を受けたので殲滅して回っており、近くに他に侵攻を受けそうな街はないか』と聞いてきたという。
始めシュエンは、その者がスレイン法国の別の部隊の援軍だと勘違いし、ここから東の王都にはビーストマンが攻め込んだという情報は入っていない事、さらにその先のビーストマン国に近い街にはアダマンタイト冒険者チームが詰めていることを説明すると、『ならば西のフィールドのビーストマンを殲滅して回る』と言い残してまた街の外へ出ていってしまった。
出ていく際に所属と名前を聞いたところ、南方の国から来た“ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ”と名乗り、自国の援軍でないと理解したシュエンが色々と聞こうとしたときにはもうすでに去った後だった。
そしてその時初めて、シュエンは外に屯していたビーストマンがことごとくミンチになっていたことに気づいたという。
その後騒ぎを聞きつけた『豪炎紅蓮』が合流し、情報を共有したところ、彼はオプティクスたちが10日ほど前にカッツェ平野の避難小屋で会ったどこぞの貴族である可能性が高いと判明。
さらにその後、午前中に
「しかし、正直な話、私にはそのヘロ=ヘロ卿なる方の力が真実なのか俄かには信じることが出来ません。陛下の…
「いや、正直私には分からんな。私の魔法は厳密に言うと
「はあ、そうでした。陛下の力は使えないんでしたね」
「なんじゃその言い草は!私だってな…私の力が曽お爺様の様にもっと強力であれば、民にこのような苦労をかけていないことは分かっておる…私が曽お爺様から引き継いでいる力など、竜の感覚としてある程度力の大きさを図ることと、嘘を看破する程度…せめてこのような国難に曽お爺様がお力を貸してくれればと幾度思ったか…」
「とりあえずそのヘロ=ヘロ卿という方が、ロリコンか子供に甘い方であると良いですね」
「お前、いい感じで締めようとしたのに台無しじゃ!大体お前のせいで官僚たちが皆“そっち”の気がある者ばかりになってる気がするんだが?!」
「ははは陛下、御戯れを」
***
『豪炎紅蓮』のオプティクスは、女王との謁見を終えたのち、急ぎこの王都へ来たことで宿をとっていなかったため中央通り沿いのいつもの宿に向かって歩いていた。
見ると宿の隣のカフェには見慣れた顔がある。
「あれは…あの時のメイドの方?!」
慌てて近づいてみると、メイドの膝枕で幸せそうに眠る男が一人。
先ほどまで散々話題になっていた、ヘロ=ヘロ卿その人であった。
「へロ=へ……!」
思わず声をかけようとしたが、自身の膝に主の頭を乗せ、その手で優しくその頭を撫でるメイドから、とんでもなくどす黒いオーラが発せられていることが感じられた。
『今声をかけるな殺すぞ』
オプティクスたちは静かにカフェに入ると、カフェで飲み物を注文して、ヘロ=ヘロ卿が視界に入る位置の席に、できるだけ物音を立てずに座るのだった。
「ん…」
ぼんやりと目を開けると、自身が何者かに膝枕をされていることに気づく。
そしてその者は、自身が趣味を詰めこんだ完成作品にして、いまやそのカラダ(スライムとしてだが)の隅々を知るに至った存在であるソリュシャン・イプシロンだった。
他人からは分からないが、ソリュシャンはそのスライムボディを利用して、ウォータークッションのような質感を再現した膝枕にヘロヘロの上半身を乗せていた。
「ヘロヘロ様、お目覚めでしょうか?」
「ソリュシャン…ああ、すみません寝てしまったようですね…って、もしかしてもう夕方ですか?」
「はい、お疲れの様でしたので、僭越ながらお目覚めになるまで膝枕をさせていただきました」
「ああ…とても気持ちよかったです。ありがとうございます」
「ああ…なんと勿体ない御言葉でございましょうか…!」
淀んだ眼に喜色を浮かべ、生態的に赤くなるはずないのに頬を赤らめるメイドと、いまだ膝枕のまま満更でもない笑顔の主のピンク空間はしばらく続いた。
歴戦の戦士であるオプティクスは、『まだ話しかけてはいけない』と理解して、遠巻きにその様子を伺っていた。
しばらくして、すっかり辺りが暗くなったころ、主はメイドに軽食と暖かい紅茶のお代わりを注文するよう言いつけ、同時に一日中席を占領していたにも拘らず、特に注意することも無く許容していた店側に多めのチップを払うようにと追加していた。
いや、実際は、メイドの殺気のこもった気迫で注意することが出来なかっただけなのだが…
空気が読めるオプティクスは、そのタイミングで話しかける。
「あの、人違いでなければ、ヘロ=ヘロ卿でしょうか?」
話しかけられたヘロヘロは、一瞬考える顔になったが、すぐにニコニコ顔に戻り応対する。
「これはこれは。オプティクス殿でしたっけ。このような場所で再びお会いするとは、奇遇ですねぇ」
「あ、ああ。覚えていていただき、光栄です。あの、プライベートなお時間に話しかけてしまって申し訳ないのですが、いくつか伺っても良いでしょうか?」
「ええ、もちろんです。皆様方の御飲物を追加で注文しましょうか。私は少々空腹なので何か食べながらになってしまいますが、皆さまも何か食べますか?」
「い、いや結構です。ありがとうございます」
ヘロヘロは新たなイベントの発生に少しウキウキしながら、ソリュシャンに『豪炎紅蓮』のメンバーの飲み物も追加注文するよう言いつけた。
***
「…それではやはり、昨夜、西の街のビーストマンの群れを倒して回っていたのはヘロ=ヘロ卿とソリュシャン殿という事で間違いは無いのでしょうか?」
「ええ、そうですね。まあ…色々ありまして。成り行きですが街が襲われていたようですので戦わせていただきました」
ヘロ=ヘロ卿からの説明と、昼間に火滅聖典のシュエンが喋っていた情報が完全に一致しており、状況証拠としては間違いなくこの御仁が数えきれないほどのビーストマンを屠ったという事なのだろうが、オプティクスはどうしても目の前の人の良さそうな男、しかも貴族が、それほどの人外の強さを持っているように見えないため、言葉を失ってしまう。
ヘロヘロも、イベントを進めるために自身の強さを信じてもらう必要があるのかな?と感じてはいたが、これまでのブレインや武王の反応から、安易に指輪を外すとマズいかもしれないという気持ちもある。
ソリュシャンは、愛する絶対の主が疑われていると察して、表情には表れていないが、殺意がにじみ出始めている。
その気まずい沈黙を破るように、オプティクスが追加の質問をする。
「あー、その。以前カッツェ平野でお会いしたときは帝国へ向かわれると仰っていたと思ったが、結局竜王国側にいらしたのですね」
ヘロヘロは、会話イベント内容に若干の助け舟が入ったことに、本当にほんの僅かだけ運営に対する好感度を上げた。
「ああ、帝国には一度向かいましたよ。皇帝陛下と国家間のお話をして、その後、闘技場で武王と対戦させていただきました。幸運にも勝利できまして、現在は9代目の武王という称号を頂いておりますが」
「なっ…!!いや…あれだけの数のビーストマンを屠るほどの力量の方であればその程度は当然なのかもしれんな…いずれにしろ、一度女王陛下にお会いいただけないだろうか。私はワーカーとしてただの雇われの身ではあるが、この国で生まれた者として貴方のお力が必要だという事を陛下にお伝えすべきだと考える。私が御繋ぎするのでご同道いただけるだろうか?」
オプティクスは正直のことを言うと、このヘロ=ヘロ卿の強さを完全に信じたわけではなかったが、9代目武王の襲名など後で調べれば簡単に発覚するような事について嘘をつく理由が分からないし、無表情のメイドの女は相変わらず自身より強い感覚があるし、何より、バハルス帝国皇帝と政治の話をするような他国の貴族の不興を買いたくないので、この男のことはさっさと同じ王族の女王陛下に引き継ぎたかった。
ヘロヘロもヘロヘロで、以前この男と出会っていたことが、単なる名前設定のチュートリアルというだけでなく、気になっていた竜王国の女王に合うための条件だったと理解し、頑張って罠モンスターの殲滅作業をしてよかったと考えたのだ。
そう言う訳で、せっかく立った新たなイベントフラグを折ることなくスムーズに話が進んだことに改めて上機嫌であった。
お互いズレたところで利害が一致し、オプティクスたち『豪炎紅蓮』は火滅聖典のシュエンにも情報を共有し、改めて王城の門番に事情を説明して謁見を申し出る。
シュエンは、ヘロ=ヘロ卿の顔を見るなり、深く頭を下げ、昨夜の礼を何度も述べていた。
その様子を見たオプティクスは、やはりこのヘロ=ヘロ卿こそが昨夜ビーストマンを倒して回った方という事で間違いないのだなと理解した。
そして本来はあり得ない事なのだが、内容が内容だけに、早急に御礼と情報共有が必要としてその日のうちに謁見をすることとなった。
深夜の玉座の間に入ったヘロヘロは、竜王国女王の姿が、想像していたものとあまりに違っていたので、一瞬フリーズした。
ヘロヘロが想像していたのは、まんまドラゴンが玉座に座り、王者の風格を醸し出しながら人語を話す姿。
しかし玉座は想像の数十分の一のサイズで、そこにちょこんと座る者はあまりに小さい。色々な意味で。
どう見ても10歳にも満たない幼女が多少威厳のある衣服…しかし明らかに子供服を着ていて、子供の元気な生足を放り出して大きすぎる椅子に腰かける様子。
そしてその子供はヘロヘロを見るなり口を開いた。
「そなたが、昨晩我が国の街を幾つも救ってくれた、ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ卿で間違いないじゃろうか?」
ここで満を持して、心の中のペロロンチーノが登場した。
『え…ウソでしょ?!実在するのじゃロリ?!!
『そうですねぇ…彼女が竜王国の女王で間違いないのならば、竜の化身とかであの姿から成長しないとかかもしれませんねぇ』
『……ねえヘロヘロさん、ヘロヘロさんにはソリュシャンがいるよね?ね?』
『ええ、もちろんですよー』
『じゃあさ、あののじゃロリはオレが攻略したいからフラグ立てちゃダメ!絶対!!でいいよね?!!』
『ええ、メイドではないですし明らかに私の趣味ではないので大丈夫ですよー何なら合流したら紹介しますよー?』
『おっけー!!サイコーだよヘロヘロさん!!オレ、信じて待ってるから!!早く合流しようね!!』
ヘロヘロは実際にこの場にペロロンチーノが居たとしても、同じ反応をしただろうなという強い確信があった。
今週ちょっと仕事忙しいので、毎日更新はできないかもです。