オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

65 / 133
もう少しだけ、現在の法国の内情が垣間見えます。


第3章 第18話 -列聖された者たち-

 

 

深夜の定例会議の後、ハーフエルフの女は神殿を奥へ奥へと進んでいく。

そして一見すると何もない壁の前で立ち止まり、その壁の前で何事かを呟く。

するとその壁には今までなかった黒いしみが広がり、女はその中へ消えて行く。

 

ここは“輪廻聖典”の居住地。

神都の最奥にして、スルシャーナ様の従属神様が住まわれていた聖堂を守る聖域。

 

 

そして輪廻聖典が生まれ、私という存在も再び生まれた場所。

第一席次たる私は、この場所で神に救われ、そして今は輪廻聖典隊員たちの管理と、番外席次たるあの方を補佐するお務めを賜っている。

 

夜更かしは神も推奨していないそうなので、秘匿性からどうしても深夜に会議に出なければならない私を除き他の隊員は既に眠りについている。

 

「クレマンティーヌには明日の朝伝えましょう」

 

私はそう呟くと自室に入り、眠りについた。

 

 

 

***

 

 

 

翌朝、朝の定例情報共有会には、各国へ散っているものを除き、現在この神都に詰める輪廻聖典の隊員たちすべてが出席した。

 

 

「…そう言う訳で、ビーストマンによる大儀無き侵攻により、竜王国は東のビーストマン国と戦争に突入する可能性が高まりました。国民の戦力を考慮すると竜王国は明らかに劣勢。そこで今回我々から隊員を出し、竜王国内のビーストマンと戦い、同時に傷ついた竜王国民やすでに現地にいる火滅聖典の治療を行うことになります。身分を隠して素早く潜入し、戦闘と回復を行使できる者として、私は第九席次が適任と判断しました」

 

「承知いたしました。それではこの後身支度を整え出発いたします」

 

「ありがとう、クレマンティーヌ。決して無理をしないよう。そして傷つく者が一人でも減る様、現地ではまずけが人の回復を優先してください」

 

 

クレマンティーヌは私からの命令を受けると、一瞬私と目を合わせ、その猫のような目を一瞬悪戯っぽく緩ませた。

 

 

およそ一時間後、クレマンティーヌはシスター服に身を包み、聖域の扉の前まで進んだ。

 

 

「じゃあクレム、気を付けてね」

 

「うん、だいじょーぶよ。うまい事、女王にも会って戦争が酷いことにならないよう伝えるからさ」

 

「ありがとね、私は番外様の補佐があってからここを離れられないから」

 

「いや、ねーちゃんはそれがお仕事なんだからしょうがないでしょ。んじゃ行ってくるねー」

 

 

クレマンティーヌは闇の向こうへ消えた。

 

同じ聖典部隊員として話す時はお互いわきまえた口調になるが、二人の時は本来の口調に戻る。

この国にも残念ながら、犯罪や家庭問題など様々な理由から不幸な道に落ちかけた者、あるいは一度落ちてしまった者が生まれる。

そういった者の多くは番外様に救われ、元の世界に戻っていくが、様々な事情から日常に戻れない者もいる。

それらが集うのがこの部隊、輪廻聖典。

 

輪廻聖典に所属するものは、表の世界では死んだこととされ、“列聖”されてこの部隊に入る。

私は彼女が幼子の頃から知っている。彼女も私も同じく家庭問題が原因であったが、彼女は家族と折り合いをつけられず“列聖”されてこの部隊に入ることが決まった。その日から、私はあの方から受けた恩を返すように、彼女を妹の様に可愛がり、彼女もまた私に懐いてくれた。

 

そんな妹が出陣するというのは、やはり少し心配な気持ちもあるが、あの子は番外様から直接手ほどきを受けた、今ではこの国でも最高峰の聖騎士。

英雄を越えて逸脱の領域に足を踏み入れた者が早々やられることも無いだろう。

 

私は番外様の部屋へ行き、今日の執務を始めるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

夜が明けた竜王国王城の玉座の間に4人の者が居る。

 

2人はこの国の女王と宰相。

残る2人はヘロヘロとソリュシャン。

 

他の関係者である、火滅聖典、『豪炎紅蓮』、『クリスタル・ティア』のメンバーはこの場に居ない。

単純にまだ王都に戻ってきていないのだ。

 

ヘロヘロとソリュシャンは、汚れ一つなく涼しい顔をしているが、彼らの言によれば竜王国内の目につくビーストマンは全て殲滅したという。

他のメンバーからの報告はまだなので、それが事実なのか裏が取れているわけではないが、もはやドラウディロンも宰相もそれを疑ってはいない。

 

そして彼らがここにいる理由。

それは昨夜の殲滅完了の報告ではない。

本題は、『このまま国境を越えてビーストマン国に攻め入っても良いか?』というものである。

 

一見すると放蕩貴族とその御付きメイドにしか見えない2人だが、その放蕩貴族の口から発せられる余りに好戦的な言葉に、ドラウディロンも宰相もどう反応していいか分からない。

 

まず、ビーストマン国を一国家として考えるならば、これは国対国の戦争である。

これが人間同士の国家間戦争ならば、最低限の礼儀として宣戦布告を行うところから始めるべきであろう。

そういうことをすると、大抵の場合、各国の教会経由でスレイン法国へ情報が伝わり、彼らが介入してくる。

 

しかし今回の場合、すでに彼らの火滅聖典が介入済みで、かつ相手は人間を食う亜人国家。火滅聖典は彼らの行いを大義無き侵略と認定済みで少なくとも国内のビーストマン殲滅には協力的だった。

 

だがこのまま国境を越えて攻め入ることについては、彼らはどのように考えるだろう…正直な話、普通はそんな戦力は無いので、そこまですることは考えていなかったというのが本音であろうが。

 

 

また、竜王国とビーストマン国との戦争に、全く関係が無い第三国の貴族が参戦するというのはどうなのだろう…現時点でヘロ=ヘロ卿の祖国と竜王国は同盟国でも何でもない。

まだお互いの国王同士面識すらないので、書き上げた親書にも軍事同盟のことなど触れてすらいない。いや、ヘロ=ヘロ卿の話から、間違いなく今日の国は高い軍事力を持つと推察できるので、あちら側には竜王国と軍事同盟を結ぶメリットなど無いように思える。

 

ヘロ=ヘロ卿も祖国の王に対して、外遊の中で未知の国と勝手に同盟を結んだり、果ては名前も知らない国を勝手に亡ぼすなどの説明をして出てきているとは思えないし…

いや、実はヘロ=ヘロ卿はそれも含めてこの外遊をしているのか…?

3日前に、ヘロ=ヘロ卿は城下町のカフェに、注文分とは別に金貨10枚のチップを渡していたことが情報に入っている。

普通はあり得ないことだが、彼の強さと資金力を見る限り、実は祖国でも相当の権力を持った地位についており、彼の行動は実は彼の国を代表した外交政策の一環なのだろうか?

 

ヘロヘロのゲームプレイヤーとしてはありがちな行動の数々は、現地の人間にとっては明確に常識の範囲外であったので、ドラウディロンも優秀な宰相も大いに混乱し、どこぞの帝国皇帝のようなズレた深読みが始まってしまう。

 

国家間の話は避けては通れないと判断した宰相は、意を決してヘロ=ヘロ卿へ問いかけることとした。

 

 

「ヘロ=ヘロ卿、ここから先はいわば竜王国とビーストマン国との戦争です。そのため、お力を貸していただけるのは本当に嬉しいのですが、どうしても確認しておかなければならないことがあります」

 

「ん?何でしょうか?」

 

「卿が参戦されるという事は、卿の祖国が私どもの国の同盟国として参加いただくと同義です。貴国には王が居ると伺いましたが、その御方の了承無くご参加いただいても問題ないのでしょうか?」

 

 

この国の宰相と名乗ったNPCの発言に、ヘロヘロは現在の状況を正確に理解した。

“これはこれから起きる戦争イベントに参加できるかの分岐点である”と。

 

もちろん参加するためには『はい』の選択肢を選ばなければならない。

ここで参加しなかった場合、せっかくの竜王国関連イベントはここで止まってしまうかもしれない。

正直なところ、この女王の先祖の“竜王”とやらに会ってみたいと考えているヘロヘロとしては、ここで女王との縁が切れると竜王イベントまで無くなってしまう可能性を感じている。

また最悪のケースとしては、ここで戦争イベントを無視した場合、竜王国が戦争で負けて滅ぼされるかもしれない。

 

そこまで考えて、ヘロヘロは気づく。

これは…あの罠イベントと思われたタワーディフェンス戦から繋がっているのでは…?

 

初見クリア不可能に近い罠イベントと見せかけて、それを奇跡的にクリアした場合に、普通はその時点で参加できないようなイベントへの道が開けたり、レアアイレム、それこそWI級のアイテムが手に入るレアイベントに繋がるというものだ。

 

そういえば1の時も、特定のWI、特に20などを入手するイベントの発生のためには、今回のような普通は選択しないようなルートを選ばないといけないことがあった。

モモンガさんのクラスである“エクリプス”所得条件もそうだったし、餡ころもっちもちがロキの指輪(リングオブロキ)の力で変化したのちに得た職業レベルも普通にプレイしてたら絶対に選択しない組み合わせから得られたのだった。

 

あの運営ならやりかねない…そう思ったヘロヘロは、なんとしてもこの戦争イベントは参加したいと考えた。

 

そこで気になるのが、今この宰相NPCが言っていたこと。

 

流石に国同士の戦争となれば、それに介入するには理由が必要だ。

自分が一介の旅人なり冒険者なりであれば『この国の国民のため共に戦います』と勇者ロールもできただろう。

しかし、現在はナザリック国(※仮名)の貴族というロールなので、自分が他国の戦争に介入するとなると暫定国王であるモモンガさんの承認が必要になる。

仮にナザリックないしはAOGの代表として参加したこのクエストで失敗などした場合、AOGの悪名がwikiに載るという可能性が再浮上してくる。どうしたものか…

 

『いや待ってください…よく考えたら私今のところAOGのこと一切喋っていませんよね?』

 

ヘロヘロは気づいた。このまま最後までAOGのことは喋らず、あくまで個人のプレイヤーとして押し通せないだろうか。これをシステムに確認したいところだが、コンソールが見れない2の仕様では、現在自分にAOG所属のアイコンが残っているか分からない。

 

なのでヘロヘロは、ロールプレイとしての姿勢は崩さずに目の前のNPCを通じてシステムに問いかけることにした。

 

 

 

「宰相殿、これから始まる戦争については、私はあくまで一個人でご協力したいと考えています。つまりこの戦争の結果がどうであれ、私の国とは関係ありません。いかがでしょうかね?」

 

 

宰相とドラウディロンは、このヘロヘロの言葉に目を見開いた。

卿はつまりこう言っている。

 

『竜王国の国難を救うために、国を背負うことなく力を貸したい』

 

これはドラウディロン達にとっては天恵のような言葉である。

彼の性格上、単純に戦いたいというのもあるだろう。

だがそれ以上に、貴族でありながらこれほどまでに、無辜の民を救うために無償で手を貸してくれる彼の覚悟に、ただ純粋に心を打たれたのだ。

 

ドラウディロンにとっては、ビーストマンの被害が始まった時から思うところがある。

国の危機に、なぜ曽お爺様は力を貸してくれないのかと。

この部屋の玉座の背後には、国を興したとされる曽お爺様が描かれた巨大なタペストリーが飾られている。

この国の象徴であるはずなのに、自分ですら最後に曽お爺様と会ったのは自身の戴冠の時のこと。

 

あれ以来、自分自身も曽お爺様が棲む山へ行く時間が無かったのは事実だが、曽お爺様の力をもってすれば、この国の状況など分かるだろうに…

 

ヘロ=ヘロ卿は余りに大きな力を持ち、自身の力ではその性質も読み解くことはできないが、すでに彼にこの国の国民は何度も救われている。

彼が貴族でなければ、我が国に迎えたいものだ。それこそ与えられる最高の貴族位を与えて…

 

そんな思いを小さく振り払い、ドラウディロンは宰相を見遣る。

彼も覚悟をした顔で頷いた。

 

 

「ヘロ=ヘロ殿、あなたの覚悟に、本当に感謝が絶えない。どうかもう一度、私たちに力を貸してくれるだろうか」

 

 

少しの沈黙の後、意見に肯定した女王の様子を見てヘロヘロもまた安堵した。

どうやらAIによるイベント内容の確認等が入りしばらくローディングが入ったようだったが、個人としてのイベント参加が認められたようだと。

 

 

そこからはヘロヘロが自分が考えている作戦を宰相たちに説明した。

 

現時点では竜王国内にビーストマンは殆どいないと言ってよい状況だ。なので各街には最低限、野良のビーストマンが倒せる戦力を残し、それ以外の戦える者は、国境まで進軍。

 

ワーカーチーム、冒険者、火滅聖典のシュエンと、竜王国兵士が国境を守り、ビーストマンが入り込まないように防衛線を張る。

 

その状態でヘロ=ヘロ卿とソリュシャン殿のみでビーストマン国へ攻め入り、2人で国内のビーストマンを倒せるだけ倒すというもの。

 

普通に考えれば、頭がおかしいとしか言いようがない作戦なのだが、ここまでのヘロ=ヘロ卿の戦力を見れば、それも可能かもしれないと思ってしまうから不思議である。

 

後は、火滅聖典、『豪炎紅蓮』、『クリスタル・ティア』のメンバーが王城に戻るのを待ち、この作戦を伝えたら行動開始である。

 

 

その待ち時間の中で、ヘロヘロとドラウディロン達は細部を詰めていく。

 

 

「ヘロ=ヘロ卿、各街を守る戦力なのじゃが…」

 

 

するとヘロ=ヘロ卿は少し考える素振りをした後、ドラウディロンに言う。

 

 

「陛下、ここからは私は一個人として参加するので、ただのソルディフとお呼びいただいてもよろしいですか?」

 

「う…うむ。わかった。それではソルディフ殿。街の守りは我が国の兵に任せたいと考えておる。国境までの移動時間を考えると、火滅聖典やワーカー、冒険者よりはだいぶ時間がかかってしまう」

 

「そうですね。それで問題ないと思いますよ。あ、そうでした。私からも陛下に確認しておきたいことがあったのでした。」

 

「む、なんじゃ?」

 

「ビーストマンには王が居ると聞きました。王は生け捕りにしますか?それとも倒してしまった方がいいですか?」

 

「な…生け捕りなどが可能なのか…いや…そうだなソルディフ殿であれば可能なのであろうな…ふむ…危険が無いというのならば生け捕りをお願いしても良いだろうか。私はこの国の王として、戦争相手国の王と話さなければならぬ」

 

「分かりました。では可能であれば生け捕りといたしますね」

 

 

そんな会話をしていると、火滅聖典たちが王城に到着した。

昨夜のヘロヘロの戦闘…いや正確に言うと戦闘後のビーストマンの残骸を目の当たりにした者たちは未だ顔面蒼白な様子であったが、ともかくも自分たちが確認したことを女王に説明する。

 

もはや疑ってなど居ないが、ヘロヘロたちの活躍の裏が取れたところで、今度は宰相がこれからの作戦を説明していく。

 

一同は再び言葉を失うが、実際にヘロヘロの力を確認した者たちは文句を言わず従った。

 

唯一、冒険者チーム『クリスタル・ティア』のリーダーのセラブレイトという男は、作戦中の女王の護衛を申し出ていたが、女王は子供っぽく首を横に振り、宰相がセラブライトの提案を却下していた。

 

ヘロヘロは何故、ドラウディロンが『クリスタル・ティア』の前でだけは見た目通りの子供っぽい振る舞いをしているのかわからなかったが、セラブレイトがドラウディロンを見る目が、いつかペロロンチーノがお気に入りのロリ系エロゲを愛でている時と同じであったことに気づき、この作戦が終わったら、危険だからセラブレイトの前では子供っぽい振る舞いを止めた方がいいとアドバイスをしようと考えたのだった。

 




ビーストマンには残念なお知らせですが、ヘロヘロさんの参戦が決まりました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。