オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
それは私が、10歳の時のことでした。
お父さんが国のお仕事で、“ご老”という貴族の方とお話しするために南部のデボネという都市へ行った時。
私はお父さんについていき一緒にデボネの街へ宿泊していましたが、お父さんは昼間はお仕事で居ないので、私は街の中を色々と歩き回り、ある時街の外の森の中へ入っていってしまいました。
今考えればそれはとても危険なことで、まだ自分の身を守る術を持っていなかった私は、案の定森でモンスターに囲まれてしまい、もう二度とお父さんとお母さんに会えなくなるということを理解して、涙をあふれさせながら座り込んでしまっていました。
ですがモンスターの牙や爪が私に届く前に、見たことも無い人形のようなものがモンスターを倒してくれたのです。
多分それは“ゴーレム”というもので、前にお母さんから聞いた話では、高位の術者が使役する人造兵器という事でした。
きっと街の衛士の方か聖騎士の方が私のことを守ってくれたに違いない、そう思った私は頑張って立ち上がり、その方にお礼を言おうとしました。
でも現れたのは私と同じくらいの年齢の男の子で、『やっぱり何度やっても素材とかデータクリスタルが出ない…どうしたらいいんだ…』と呟いた後、私の方を一瞬見たにもかかわらず、私のことを無視して、森の奥へ消えて行ってしまいました。
しばらく呆然としていましたが、お母さんが『親切にしてもらったら必ずお礼を言いなさい』と何度も言っていたことを思い出し、私はその子が歩いて行った方へ進んでいきました。
しばらく歩くと、森の中に不思議な空間がありました。
私を助けてくれた人形のようなものや、正面中央・上部・背面に三つの顔と左右に腕のようなものがついた像が複数立っていて、その奥にログハウスのような家がありました。
そしてログハウスの前で、さっきの子供が粘土のようなものを捏ねていて、それはあっという間に新しい人形—ゴーレム—になったのです。
私は、とにかくお礼を言わなければいけないと思い、その子供に聞こえるように少し大きい声でしゃべりました。
「あっ…あの!私はネイア・バラハと言います!さっきは助けてくれてありがとうございます!」
その子供は私の方をチラッと見ましたが、特に何も言わず、少し嫌そうな表情を浮かべた後、ログハウスの中に入っていってしまいました。
私は少し悲しい気持ちになりました。
私はお父さんによく似ていて、目つきがすごく悪いです。
だから皆怖がって友達もできず、いつも一人で遊んでいます。
多分あの子も、私の顔を見て私のこと嫌いになったんだ…
私はまた少し涙が出てきました。
ログハウスのドアをノックする気になれず、もう帰ろうかなと思ったのですが、急いでここまで来たせいで帰り道が分からなくなってしまっていました。
「どうしよう…」
森の中で迷ってしまったという事に気づくと、さっき私を助けてくれた人形や良く分からない像までが、急に怖く感じられました。
その瞬間、その良く分からない像の上部の顔の目から赤い光線のようなものが出ました。
光線は私の背後に向かって放たれて、その方向を見ると、今度はサーベルウルフの群れが集まっていることに気づきました。
私はまた怖くなってその場に座り込んでしまいました。
サーベルウルフが私の方へ近づいてきます。
ですがまた、いくつかの像の顔から赤い光線が出て、サーベルウルフが次々と倒されていきます。
気づくと、サーベルウルフは全て倒されるか、逃げてしまって、私はまた生き残ることが出来ました。
するとログハウスのドアが突然開いて、さっきの子供が出てきました。
そして辺りを見回してサーベルウルフの死体を確認すると、私の方に近寄ってきて言いました。
「お前、バカなの?死にたいの?あんなのも倒せないなら二度と来るなよ」
私はまたちょっと泣きそうになりましたが、お母さんの言葉を思い出して、頑張って声を出しました。
「あの…ここには迷ってきてしまいました!二回も助けてくれてありがとうございました!!」
私がそう言うと、その子は驚いたような顔をして私の顔をじっと見たあと、少し目線を逸らしてから言いました。
「なんだよ…別に助けてねーよ…あの程度のモンスター倒せないなら死んじまうぞ…一旦ウチ入れよ」
私はお辞儀をして、その子の後についてログハウスに入りました。
中に入ると、そこはいつかお父さんと一緒に行った“藍色”のご婦人のアトリエの様に、いろんな素材や絵の具が散乱しているアトリエのような場所でした。
奥にはひと際目を引く美しい赤い服を着た女性がいます。
この子のお母さんかもしれないと思いましたが、その人は全く動きません。
もしかしたらこの女の人も人形なのかもしれません。
「お前、迷子なの?」
その子が私に聞いてきました。
私は首を縦に振りました。
「あっちにある街から来たのか?」
「うん、たぶん、そうです」
「さっさと帰った方がいいだろ」
「うん、でも道が分からなくて…」
「じゃあ送ってやるから」
そう言うと、その子は私の腕を掴みました。
友達がいなかった私は、少しドキッとしてしまいました。
ですがその瞬間、周りの景色が変わったのです。
目の前にデボネの入り口の門。
どういう訳か、私とその子は一瞬で森からデボネまで移動してきたみたいです。
「この街だろ?」
その子が言いました。
私は一瞬何が起こったのか分からず、また呆然としていましたが、そこがデボネであると分かると首を縦に振りました。
「じゃあもう一人で来るなよ」
その子がそう言って街とは反対側を向いたので、私は慌てて言いました。
「あ、あの!あなたの名前を教えてください!」
するとその子は、振り向いて一瞬驚いた顔をした後言いました。
「オレは…ショータロー・オカモトだ」
「ショータロー…くん?…その…友達になってくれませんか?」
私は精いっぱい頑張って言ったのですが、ショータローくんは少し目線を逸らしてちょっと変な顔をすると、一瞬でその姿を消してしまいました。
「はぁ…やっぱり私の顔が怖いのかなぁ…」
私はため息をつくと、宿に向かって歩き出しました。
その日あったことはお父さんには言いませんでした。
勝手に森に入ったことを言ったら怒られそうという気持ちもあったのですが、それ以上にゴーレムのこととか、ショータローくんが一瞬で消えた事とかをうまく説明できない気がしたからです。
私にはそういう才能は無いのですが、魔法ではそういうことが出来るとお父さんに聞いたことがあります。
もしかしたらショータローくんはそういう才能を持った人なのかもしれません。
でも、あの森の中で暮らしているのはどうしてなのか分かりません。
赤い服の女性が人形だったとすると、家の中には他に誰も居ない気がしました。
だとするとショータローくんは、たった一人でモンスターがいる森で暮らしているという事になります。
あの赤いビームとかのことを考えると、モンスターは倒せるのかもしれません。
でも一人で森で住んでいる理由がわかりません。
もしかしたらあの子は、私と同じで友達が居ないのかもしれません。
そう考えたら、私と同じだから、友達になれるかもしれないと思いました。
翌日。
お父さんはまた、ご老と仕事のお話をするために出かけていきました。
私は、ショータローくんと遊びたいなと思いましたが、またあの森に一人で入って、あのログハウスまでたどり着けるか分かりませんでした。
ですが足は勝手にデボネの門を越えて、森の入り口まで来てしまいました。
私が森に入ろうかどうか考えながらウロウロしていると森の中から一人の女性が歩いてきました。
私はびっくりして木の陰に隠れようとしました。
お父さんが言うには、最近この国には子供や女性を攫う犯罪者集団が増えていて、路地裏や街の外で怪しい人に会ったらすぐに逃げるように言われていたからです。
でもよく見ると、その女性は、昨日ショータローくんの家の中に居た赤い服を着た人にそっくりだったのです。
赤い服は着ていませんでしたし、全体的な色も茶色っぽかったので別人だとは思うのですが、きっとショータローくんの関係者かあるいはゴーレムだろうと思いました。
なので私は勇気を出してその人に話しかけてみました。
「あっ…あの!ショータローくんの知り合いですか?」
女の人は無表情のまま私の方へ顔を向けて喋りました。
「アナタノ、ナマエハ?」
「ネッ…ネイア・バラハです!」
「カクニンシマシタ。ツイテキテクダサイ」
女の人はそれだけ言うと、くるっと振り返り、森の中に向かって歩き出しました。
私は、なんだか抑揚のない不思議な喋り方から、やっぱりこの女の人はゴーレムなのかな?と思いながら、ついていくことにしました。
辿り着いた先は、やっぱり昨日のログハウスでした。
女の人がドアを開けてくれて、中に入るとショータローくんがこちらに背を向けて、岩の塊を小さなノミのようなもので削っていました。
「あの…ショータローくん?」
声をかけたのですが、ショータローくんは振り向きもしません。
仕方がないので私はその場に座って、ショータローくんの作業が終わるのを持っていました。
たぶん1時間ぐらいたったころ、ショータローくんの手が止まり、こちらを振り向きました。
ショータローくんは私を見ると驚いた顔で「うおっ」と言い、しばらく固まった後口を開きました。
「なんだ、お前。来ていたならオレに声かければよかったのに」
「声かけたけど、気づいてなかったみたいだったから…」
「…そうだったか」
「うん…」
ショータローくんはどうやら集中すると周りが見えなくなるタイプの人みたいでした。
「あ…えっと、あの女の人が案内してくれたの。お礼を言ったんだけど特に何も言ってくれなくて…あの人もゴーレムなの?」
私は無言の時間が気まずくて、気になっていたことを聞いてみた。
「ああ、あれはオレが木と土と石から作ったゴーレムで名前はとりあえず“フェイク・ルベド・ワン”。お前、また森に来そうだったから、お前が来たら案内するように命令しておいたんだ」
「そ、そんなことが出来るんだ。その…ありがとう」
「いや、お前が来たら聞きたいことがあったんだ。この辺にヒヒイロカネとかアポイタカラの鉱山とかないか?それか高レベルのインゴットとかを持っている奴知らないか?」
「え?ヒヒイロ…?ごめん、何だか分からない…」
「あー…硬い金属だよ。お前が知っている一番固い金属って何?」
「え…えっと…アダマンタイトかな…見たことは無いけど」
「アダマンタイト?!そんな柔らかいものしかないのか?!」
「へっ!!ご…ごめん!!」
「あ、いやお前に言ったわけじゃないから…マジか…そんなレベルなのか…」
私が言ったことにショータローくんはなぜかショックを受けているみたいでした。
その後は何かをぶつぶつ呟いていていましたが、しばらくして私の目をじっと見つめながら言いました。
「じゃあアダマンタイトでいいから鉱山の場所とか、インゴット持っている奴とかいたら、教えてくんない?」
「え…あの…ごめん知らない。でも調べてみるから何か分かったらまたここに遊びに来ていい…かな?」
「ん、ああ別にそれは構わないけど、お前弱そうだから森に入るときはフェイク・ルベド・ワンに声かけろよ。帰りは送ってやるから」
「うん!ありがとう!」
それから私は、ショータローくんと少しお話をしました。
なんで一人でここに住んでいるの?という質問には『わからない』と答えました。
ショータローくんは、どうやらこの国の生まれではないようです。
名前もこの辺りでは聞かない感じだから、そうじゃないかな?とは思っていました。
私がそのことを聞くと、『100%リアル本名だ』と言いました。
ショータローくんの国の言葉は、私にはちょっと発音しづらいかもしれません。
『ずっと遠い国には家族がいた気がするけど、今は一人だから作りたいものを作る』と言っていました。
硬い金属はそのために必要なんだそうです。
もしかしたらショータローくんは孤児なのかもしれません。
戦争や犯罪の犠牲になって家族を失った子供が、街の路地裏や森の中で孤児として住んでいることがあるという事を、前にお母さんから聞いたことがあります。
そういう子は神殿や孤児院などの親切な人に保護されなければ、死んでしまったり、犯罪組織に加入してしまうことが殆どだと聞きました。
ショータローくんの場合は、ゴーレムを作る才能が有ったから、自分の身を守ることが出来て生き残ることが出来たのかもしれません。
私は、今後はその話題はできるだけ触れないようにしようと思いました。
私が言うのもなんだけど、正直、すごく変な子だなって思いました。
歳は多分私と同じくらいなのに、変に大人っぽくて、なのに何かに集中している時は私よりもずっと子供っぽい。
でも、皆に怖いって言われていた私の目をじっと見つめても嫌そうな顔は無くって、たぶん、初めての友達が出来たんだと思えてその時は嬉しかったんです。
これが、私が、ショータロー・オカモトくんに会った時のお話です。
この時の私は、ショータローくんがとんでもないトラブルメーカーだとは知らずに、ただ新しく友達が出来たことを喜んでいました。
聖王国に、誰とは言いませんが★が舞い降りました。
今回は御方の内面描写は、ストーリー都合上後になります。