オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ネイアちゃんとパベルパパのお話です。

原作より前の時間軸なので、まだネイアちゃんはそこまで親離れしていません。


第4章 第2話 -聖王国南部の情勢-

 

 

「老侯、本日はこのような機会をお与えいただき、感謝に耐えません。これが私の娘のネイアでございます」

 

「いやパベル殿。同じ“九色”としてこのように見識を広めることは、この国にとっても重要なこと。次の時代を担う若者がこの儂のような老人から得られるものがあれば、それに勝ることは無いじゃろう」

 

「ご配慮痛み入ります。ネイア、ご挨拶をなさい」

 

「はっはい。私はパベル・バラハの娘のネイアと言います。ほっ本日はお誘いいただき感謝いたします!」

 

 

ネイアは普段は着慣れぬ整った衣装を着て、可能な限り丁寧にお辞儀する。

ここは南部貴族の中でも特に力を持つ大貴族である通称“ご老”の屋敷。

彼は、聖王家への忠勤の功により“紫”を賜る愛国者でもある。

 

本日はご老の配慮により、同じ九色の“黒”を預かるパベルと、その娘ネイアが招かれ昼食会を行っている。

これは同じ九色同士の親睦を深める会食…というのは表向きの理由で、本来の目的のためのカモフラージュである。

 

聖王国の南部の一部の貴族は、神殿勢力と前王によって推薦されてある意味強引に即位した現国王のカルカ・ベサーレスに対して心から従っているわけではない。

可能ならば都合のいい別の王家の者を担ぎ上げ、自分たちが甘い汁を吸える環境を作りたいと考えている。

 

しかしカルカが即位して5年余り、消極的ではあるが大きな失策もない政策と、『ローブルの至宝』と言われる彼女自身の美しさから来る人気でこれと言って攻める材料が無く、また、女王の両翼を担うカストディオ姉妹の、特に政治的な優秀な妹の方に、何度も計略を邪魔され痛い目を見てきた。

 

それでもあらゆる手で計略を巡らそうとする貴族たちに対し、このご老は王家のために南部の情勢を鋭く注視し、問題がありそうな案件や手に入れた情報などを北部王家へ伝えているのだ。

 

この伝令の役目としてパベル・バラハに白羽の矢が立ったのがおよそ1年前である。

 

パベルを適任と選んだのはカストディオ姉妹の政治的に優秀な方の妹である、ケラルト・カストディオ神官団団長である。

理由は、パベルが対外的に政治の中枢にいる人物ではないことと、同じ九色の一員としてご老と接するという口実があること、そしてネイアという娘を伴い訪問することで、政治的な目的ではなく、あくまで同じ九色としての友好的な付き合いであると見せることである。

 

パベルは当初、国の政治のことに最愛の娘を巻き込むことに難色を示していたが、ご老をはじめとした傑物と話す機会や、普段は中々訪れることのできない南部の街へ娘と共に旅行できるという事で説得され、娘の見識を広めるという意味でも良いことであると納得している。

 

昨日と一昨日で、本来の目的である、ご老からの南部情勢の情報共有は済んでいる。

そして明日は、同様に九色の“藍”を与えられている、芸術家の侯爵夫人と会食の予定が入っている。

こちらについては完全にカモフラージュと、娘の経験ための時間である。

 

 

 

「せっかく頂いた機会だ。お聞きしたいことがあれば伺いなさい。老侯はこのローブル聖王国の生き字引ともいえる御方だ。特に南部のことについては老侯以上にご存じの方はいらっしゃらない」

 

「ははは。“夜の番人”たる御父上の様に戦の中で敵を見通す力は無いが、街のことや歴史のことならば儂がお答えしよう」

 

「そ、それでは…私は南部はこのデボネしか来たことが無いのですが、私が住んでいるホバンスと比べると、聖騎士の方や兵士の方が少ないと感じました。その、南部の方がモンスターとかそういう危険なことは少ないのでしょうか?」

 

 

ネイアは、ここで質問しないのは逆に失礼と思い、必死に考えて質問をひねり出した。

実際のところこれは疑問に感じていたことで、父親の話では、南部はホバンスよりも治安が悪いから気をつけなさいと言われていたし、街の非常に近くにある森も少し入ればモンスターがいた。

その割にはホバンスよりも戦う職業の人間が少ないと感じていたのだ。

 

ネイアの質問にご老は、70代も半ばに差し掛かった老人とは思えぬほど、鋭い視線となった。

…いや、バラハ父娘の素の状態の方が視線は鋭いのだが。

 

 

「成程…いや、さすがはパベル殿のご息女。この御年で素晴らしい視点をお持ちだ」

 

「そうでしょう!そうでしょうとも!娘はどうしてなかなか優秀だと、父親ながら感じているところです!」

 

 

この会合も初めてではないので、ご老はパベルの親バカぶりをすでに知っていて、そしてそれを微笑ましいと思っているので、パベルの反応にわずかに笑いながら答える。

 

 

「ネイア殿、良い視点じゃな。これはまず地理の話からしなければいけない。ローブル聖王国は、大陸から突き出した半島の形をしておる。そして大陸との玄関口となっているのは北部じゃ。隣国はリ・エスティーゼ王国だが、同時に複数の亜人種が棲むアベリオン丘陵にも接している。このアベリオン丘陵から来る亜人から国を守るために城壁が築かれている…“スラーシュ”という亜人の侵攻の話はご存じかな?」

 

「はっはい。おと…父から聞きました。北部のいくつかの街で被害が出て、それで徴兵制になったと聞いています」

 

 

パベルが横で嬉しそうに、うんうんと頷いている。

ネイアはそれをちょっと恥ずかしく感じた。

 

 

「左様。地理的に亜人に攻められやすいことと、その経験があるから北部はある程度危機意識がある。一方で南部は亜人がすぐには攻めてこない地形だから危機意識が生まれづらいのじゃ。これに加えて亜人が攻め入らないので逆にモンスターは繁殖しやすくなる。こうなると南部の方が安全と言えるかな?」

 

「えっと…北部の方が攻め込まれやすいけど、皆そのために戦う準備出来ていて、逆に南部は攻め込まれにくいから準備が出来ていない、という事でしょうか?」

 

「そうじゃ。それに、貿易が難しいという問題もある。南部は陸路で武器やその材料の金属などが輸入しづらい。海路もあるが、どうしても陸路よりは時間もかかってしまう。人魚(マーマン)族のラン・ツー・アン・リン殿をご存じかな?彼が率いる者たちのおかげで、この海路の輸送は比較的安全に行われていて、南部にも武器だけでなく食料も問題なく輸送できているが、どうしても南部の人間は北部と比べると様々な危機感が育ちにくいのじゃ」

 

 

ご老の話を聞いて、ネイアは『そういえば友達になったショータローくんが金属のことを知りたがっていた』と思いだした。

 

 

「あの、例えば金属は南部では手に入りにくいという事でしょうか。南部に金属が採れる鉱山とかは無いのですか?」

 

「ふむ、それも難しい問題だな。聖王国は比較的なだらかな地形が多く、そういう意味では住みやすいのだが、山が少ないので金属はあまり採れない。東のスレイン法国やリ・エスティーゼ王国からの輸入が多いのじゃが、国内で採れる場所となると、南部の最も南端付近の山脈と、北部のアベリオン丘陵に近い山じゃな。北部は採れた金属は王家や神殿を経由して効率よく兵士の武器にされる傾向が強いが、南部は、領地内に山脈を持つ貴族が独占してしまう傾向がある」

 

「それじゃあ南部は貴族の方がそれぞれ自分の領土の兵士のために使用するんですね」

 

「…それが理想じゃな」

 

 

最後のネイアの質問に対して、老侯ははっきりとは答えられなかった。

昨日、一昨日の秘密裏の会談で、パベルに渡して説明した情報の中には、一部の有力貴族が様々な資源を独占し、領民のためではなく私腹を肥やすために利用している形跡があることも含まれているから。

そしてネイアに説明したように、南部の貴族は平和ボケが進み、国の一員として亜人やモンスターの脅威から民を守ろうという意識が薄れ、愚かな権力闘争を画策している者もいる。

 

南部に属し、このローブル聖王国に属する貴族として嘆かわしく感じるが、寄る年波により若いころの様に大胆に動くことは難しくなっている。

自身の目が黒いうちは何としても南部の治安は守って見せるつもりでいるが、それがあと何年続けられるかは分からない。

 

自身が思うように動けなくなった後、南部で最も力を持つのはボディポ侯爵だろう。

だが彼は残念ながら、老侯が見る限りでは愚かな側の貴族で、最近は何やら怪しげな犯罪者集団とのつながりもあるという噂まである…。

 

 

 

 

「本日はありがとうございました」

 

バラハ父娘は老侯に礼をすると屋敷を後にした。

宿への帰り道、パベルは娘に向かって静かに言う。

 

 

「お前は賢い子だ。今日、老侯が仰っていた事はよく覚えているといい。お前が将来どのような道に進もうとも正しいことを為すために役に立つことだからな」

 

「正しいことってなに?」

 

「そうだな…人道的に正しいこと…“正義”だろうか。お前にとっての“正義”に反しない事かな。でもお父さんはお前が無事で平和に暮らすことが一番だから、危ないことはしちゃだめだぞ」

 

 

そう言って頭を撫でる父親の手を、何だかくすぐったく感じながら、ネイアは初めて、少しだけ“正義”という言葉のことを考えたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

翌日、父娘は“藍”を賜っている公爵夫人の元へ伺った。

ここでの会合はカモフラージュであるが、政治的な意味合いが無く、またネイアにとっても見ていて面白いものがたくさんあるため、父娘はリラックスしてお茶をご馳走になった。

 

 

「ネイアさん、お久しぶりね。今日はあなたが自由に絵を描いて良いカンバスを準備しましたのよ。さ、こちらに座って思うものを描いてご覧なさい」

 

「あっありがとうございます…えっと、これが絵の具というものですか?」

 

「そうよー。この筆で絵の具をとって、カンバスに塗るの。色を混ぜたり調節したいときはこのパレット板で混ぜてね」

 

 

ネイアは絵をカンバスに描くというのは初めての体験で、新鮮な楽しさを感じた。

だが、何を描いていいか分からないので知っているものを考えたが、お父さんやお母さんの顔を描くのは何だか恥ずかしいと感じた。

それに人の顔というのは結構難しい。

 

そこで思い出したのは、ショータローくんの家の周りにいた良く分からない像。

三角形の塔みたいな体に、いくつか顔がついていて、左右には小さな手のようなものがある。

それならば人の顔と違って変な感じにならないかな、と思ったのだ。

 

描いてみると意外と記憶の通りに描けた気がした。

その像の絵を見て、お父さんが『これは何だ?』と聞いてきたので、どう説明していいか分からず困ってしまった。

 

 

「えっと…これは顔がついた像で、この顔のところから魔法が出て、モンスターを倒してくれるの」

 

実際にあったありのままを言ったのだが、お父さんは頭の上に『?』を浮かべた。

夫人は逆に『まあ!この子は芸術的なセンスがあるかもしれませんわ!ご実家でも絵のお勉強をされればいずれ大成するかもしれませんわよ!』と興奮気味に語る。

 

それを聞くとお父さんもとても笑顔になり『本当ですか!それではホバンスで画材が買える店を探さなければ!』と大人二人で盛り上がりだした。

 

そういえば、ショータローくんが作った元々のこの像の顔には青い目が描かれていたし、赤い色の模様もついていた。

ショータローくんはやっぱりご婦人と同じように絵の具で色を塗っていたのかな?

 

 

「えっと、質問してもいいですか?」

 

「ええ、もちろんよー!」

 

「この“絵の具”っていうのは、何から作るんですか?」

 

「あら、絵を描く人でもなかなかそういう事を考えるようになるまでは時間がかかるものよ。パベルさん、やっぱりこの子才能が有るかもしれませんわよ!」

 

「そうでしょうとも!ああ、やはり我が娘は賢く才能にあふれている…!」

 

「あ…あのー…」

 

「あら、ごめんなさいね。絵の具の材料ね。これは自然のものから作っているのよ。岩や土、植物の場合もあるわ。中には貴重な宝石や鉱物を原料とするものもあるのよ。例えばこの優しい桃色や、この目が覚めるような青色は鉱物を砕いて粉にして、カンバスになじむように塗る前に薬を塗って…色々準備をすることでこの美しい色を出すことが出来るの」

 

「鉱物なんですか…それじゃあその鉱物はこの国の山で採れるんですか?」

 

「そうね…取れるものもあればそうでないものもあるわ。例えばこの青を出すための鉱物は南の山で採れるのだけど、採れる洞窟は限られているし、そこを領地にしている領主の方にお願いしないといけないので、手に入れるためにはとてもお金がかかってしまうわね」

 

「そうなんですね…南の山ですか」

 

「ホバンスでこの青が買えるお店があるかは分かりませんが、わたくしがいつも画材を購入している商人の方をご紹介しますね」

 

「ありがとうございます」

 

 

その後、公爵夫人に紹介してもらった商人は、絵の具の素材となる鉱物や土、植物が採れる南部の山のことを教えてくれた。

山は3人の貴族の領地に跨っていて、それぞれグラネロ伯爵、コーエン伯爵、ボディポ侯爵という方々の土地らしい。

 

南部の山へはかなり距離があるので実際に行くことはできないだろうが、そういう場所があるよという事をショータローくんに教えることが出来るので、それを口実にまた友達に会いに行けると思い、ネイアは嬉しかった。

 

 

 




基本コミュ障の★が転移した場合、何かのきっかけが無いとおそらくずっとどこかで籠っていると思うんですよね。
ネイアが迷い込んだことが、きっかけになってしまいました。
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