オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
一方、バラハ父娘はお仕事を終えてお家へ帰ります。
翌日。
ネイアは森の中のログハウスへ遊びに来ていた。
「ふーん…南の山か。そのリ・エスティーゼ王国とスレイン法国っていう国と南の山はどっちが近いか分かるか?」
「えっと、ここからだったら南の山の方が近いと思うよ…もしかして行くつもりなの?私は行ったことないけど、お父さんは馬車でも近くの街まで1週間以上かかるって言っていたよ」
「いや馬車とか使わないし。
「えっ…あの、実は私、明日ホバンスへ帰るんだ…」
ネイアは、ショータローが“一緒に行く?”と聞いてきたことが嬉しかった。
“ふらい”という移動手段が良く分からなかったが、そもそも現実的にはそんな長距離の移動はできないだろうなとは思い、友達とどこかに出かけるという経験が無かったので、それでも誘ってくれたことが嬉しかったのだ。
だが一方で、恐らく初めてできた友達と、今日でお別れという事はとても残念だった
「なんだそうなのか。じゃあなんか分からない事あったら連絡してもいいか?」
「え…えっとそれってお手紙とかくれるってこと?」
「いや、
「めっせーじ?」
「あ、そうか。お前魔法職じゃないのか。魔法で連絡するってことだ」
「ショータローくんやっぱり魔法が使えるんだ…良く分からないけど連絡してくれるのは大丈夫だよ」
「よし。じゃあ
「えっと、デボネから馬車で2週間ぐらいだよ」
「…ふーん」
「あ、あの…もしショータローくんがホバンスに来ることがあったら私が案内するから!」
「ホバンスって人多いのか?」
「えーと、デボネよりは多いと思うよ」
「そうか…まあ考えとく」
そんな会話をして、その日ネイアはショータローと別れた。
ネイアは少なくともしばらくは友達と会えないことが寂しいと思った。
だが手段は良く分からないけどいつか連絡をくれるという約束が出来て、もしショータローがホバンスに来ることがあれば、また遊べるという事が嬉しかった。
学校では
ちなみに、ショータローのことは父親には言わなかった。
魔法のこととかゴーレムのこととか、ネイアの理解の範囲を超えていることが多く、うまく説明が出来なそうというのもあったが、なぜかショータローのことを父親に言ったら面倒なことになりそうな予感がしたからである。
***
デボネを出発して3日目。
バラハ父娘は馬車にて街道を北上中である。
パベルは今回の任務にあたり、馬車と馬を貸与されている。
無論王城からの依頼という事は伏せる必要があるため、聖王の紋などがある馬車でなく、安全面等で十分上等なものを普通に借り、その費用を後日王城から受け取るというものである。
そのため馬車自体は上等であるが、旅人としては一般的な範囲内のものである。
御者の椅子にはパベルが座り馬を制御する。
これは第三者である御者を雇う事で情報の漏洩が起きるという事を防ぐとともに、レンジャーとして高いレベルにあるパベル自身が周囲を警戒した方が安全という理由もある。
先ほどまではネイアも隣に座っていたが、現在は彼女だけ馬車の中に戻って本を読んでいる。
行きと同じ景色に少し飽きてしまったという事と、この3週間ほどの旅行期間で少し遅れてしまった勉強のために、持ってきた教科書を読んでいるのだ。
これは神殿の中にある教育機関に通う子供に貸与されるもので、基本的には貴族や神官になる予定の子供が通う場所であるが、ネイアは、母親が聖騎士で父親が兵士長かつ九色の一人という事で、やや例外的に通うことが出来ている。
尤も彼女は魔法を使うことが出来ないので、魔法の勉強はそこまで進んでいない。
世界への接続はできているのだが、位階魔法を使用するまでには至れていないのである。
だが初めてできた友達が、どうやらかなり魔法を使えるような雰囲気があったので、もっと仲良くなるために魔法の勉強を頑張ろうと思ったのだ。
「うーん…友達と一緒に一瞬で移動する魔法とか載ってないなぁ…」
ネイアはショータローが使った魔法と思われるものを調べていたが、教科書には載っていなかった。
神殿勢力下の教育機関で教えられている魔法は殆どが神聖魔法であり、また魔力系の魔法も載ってはいるが、精々第2位階程度までで、第5位階とか第6位階といった内容は当然載っていない。
またこの世界ではゴーレムクラフトは非常に稀有な技術であり、そのゴーレムの目からビームが出ると言ったギミックも当然初心者向けの教科書などには載っていないのだ。
仕方なくネイアは、前回習ったところから順番に教科書を読み始めた。
その矢先だった。
『おい、聞こえる?』
「ふあっ?!」
突然頭の中にショータローの声が響く。
確かに今、ショータローくんのことを考えていたけど、まさか幻聴が聞こえるほど深く考えているつもりはなかった。
確かにずっと友達が欲しいと思っていて、ほとんど初めて友達が出来たことに舞い上がっていたかもしれないけど、幻聴が聞こえるほどだったとは…
ネイアはそう考えて何だか恥ずかしくなった。
しかし…
『おーい…あれ?聞こえないか?』
確かにショータローくんの声が聞こえる。
ネイアは馬車の中を見回したが、やっぱり自分しかいない。
でも念のため、声に出して友達の名前を呼んでみた。
「えっと…ショータローくん?」
『なんだ、聞こえてるじゃん。もう出発したんだよな?』
「え…ちょっと待って。ショータローくん?どこにいるの?」
『え、どこにって…あれお前もしかして
「え…“メッセージ”って魔法の?その…学校ではメッセージは声がうまく伝わらないから信用できないって習ったんだけど…」
『え?オレの声聞こえづらい?』
「えっと…ちゃんと聞こえます」
『じゃあ大丈夫だな。あ、ちょっと聞きたかったんだけど南の山って顔料になる青い鉱石ってのの他、何が採れるって聞いてる?アダマンタイト採れるとか言ってた?』
「え…ごめん、そこまで聞いてない」
『そっかーじゃあ自分で調べるか』
「…ショータローくん今どこにいるの?」
『南の山まで来たんだけど、坑道みたいな入り口がいくつかあってどれだか良く分かんねーんだよ』
「へっ?!」
『まーいいや。テキトーに探してみるわ。またなんか見つけたら
「ちょっと…!」
ブチッという小さな音がして、それ以降はショータローの声は聞こえなくなった。
何度か呼び掛けてみたが返信は無い。
再び馬車の中を見回したが当然ショータローはおらず、窓から顔を出して外をキョロキョロとしたが、やはり姿はない。
状況からしてショータローが言ったように、彼が
当然ネイアにとって
いや、それよりもショータローは『南の山まで来ている』と言っていた。
馬車で1週間以上かかる場所までたった3日で到達したという事だろうか?
いや、もしかしたらもっと北の場所にある山に到着して、そこを半島南端にある山と勘違いしているのかもしれない…
ネイアは御者台のところに行き、父親の横に座る。
「お父さん、あの、老侯さんが言っていた南の山のことだけど、そこよりももっと近いところにも鉱山ってあるの?」
「ん?どうしたんだネイア…ああ教科書で聖王国の地理の勉強をしていたのか?いや、老侯が言っていたように南部は殆どが平野で、南端まで鉱山があるような山は無いな」
「そ…そうなんだ」
「それよりもさっき、馬車の中で何か喋っていたか?何かあったのか?」
「あ…えっと、教科書声出して読んでたみたい。ごめんなさい」
「いや、謝ることは無いぞ。音読した方が頭に入ってくるからな。母さんに似て賢い子だなぁ」
そう言って撫でてくれる父親だったが、撫でられたネイアの頭の上には『?』がたくさん飛んでいるのであった。
ものすごく走る方法とか、行ったことが無い場所に瞬間移動する方法とかがあるのだろうか…これを父親に聞くとなるとショータローのことを説明しなければいけなくなるので、ネイアは次にショータローが話しかけてきた時に聞こうと心に決めた。
***
ネイアとの
期待はしていなかったが、やはりネイアから情報があまり得られなかったので、自分で坑道の様子を確認することにしたのである。
ショータローはここまでの道を殆ど
陸路を走っても良かったし、ぶっちゃけその方が早いのだが、誰かと会って会話するとかの事態になるのが嫌だったので、極力人との接触を避けるやり方で移動してきた。
空から見ると山というものはここまでほとんど存在せず、時々モンスターらしきものを見つけると、地面に降りて撃破するのだが、やはりアイテムやデータクリスタルのドロップは無かった。
そう言う訳で寄り道をしつつ
まあ、一度行った場所は
やっと見つけたその山の中腹を見遣ると、少なくとも5つほどの坑道と思しき道がある。
そう判断したのは、その山へ入っていくトンネルの道にトロッコのレールが敷設されていて、屈強な男たちがチラホラ出入りしているのが分かるからだ。
遠目での判断だが、トロッコで運び出されているのは
5つのうち1つの坑道から運び出される鉱石のみ、わずかにミスリルが混じっているように見える。
だがその坑道は、入り口に続く道が鉄条網のようなもので覆われ、門にあたるところには武器を持った者が見張っているようだ。
まあ、上空からは入り放題なのだが。
とりあえずはこの中で最もレアリティが高い鉱石が出そうなのは、その鉄条網がある坑道かなと判断し、自身に透明化をかけて坑道の入り口まで下りていく。
坑道の出入り口付近でしばらく様子を見ていたが、出入りする男たちは透明化すら見破る者は居ないようだ。
また外見は屈強そうに見えるが、精々レベルは10も無いだろう。
ショータロー・オカモトこと、るし★ふぁーは種族レベル構成的には魔法職であり、
とはいえ、工具や彫刻刀などを使用するためのクラスが武器を使える戦士寄りに分類されているため、その男たちが自分と比べて弱すぎるという事は分かる。
逆に言うとこの洞窟には強いモンスターやボスのような存在はおらず、そういう洞窟は大抵レアリティの低い鉱石しか取れないのだが…
だが、ログハウスを建設した拠点付近はモンスターもあまりに弱く、ゴーレムの材料となる鉱物も
万が一見つけた坑道に強いモンスターや高難度の罠などがあれば、一旦戻って戦力となるゴーレムを連れて来ようとも考えていたがその必要もなさそうだ。
少なくとも金属はありそうだし、さっさとゴーレムを1体作ってそれを護衛にすればいいだろう。
坑道の入り口には立札があったが、そこに描かれている文字のようなものは彼には読めなかったので、特に気にせず奥に進むことにした。
やっとまともな金属が手に入りそうだ。
ショータローの足取りは軽い。
『ここはコーエン伯爵所有の領地内であり、産出される鉱石や植物を含む一切の所有権はコーエン伯爵家にある。許可なき侵入や鉱石等を含む物品の持ち出しは重罪である』
もし仮にショータローがこの立札の文字を読めたとしても、残念ながら彼の行動は変わらなかっただろう…。
現在の★の行動原理は『ゴーレムを作りたい』。
ただそれだけです。