オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
ショータローは現在、坑道の奥まで進み、作業員たちが岩肌を削り、鉱石が集められている様を透明化したまま眺めている。
ユグドラシルでは金属の精製やインゴット化は鍛冶職を持った者の仕事である。
るし★ふぁーはそうやって作成されたインゴット等を用いてゴーレム等を作成するクラフト系の職業レベルを高めていた。
なので、“特定の鉱物が混ざる岩”から“純粋な鉱物”を精製する技術を持っていない。
またユグドラシルでは、特定の鉱石が取れるダンジョンは、ダンジョン内の特定の場所を叩けば鉱石そのものが採れることもあった。
ある程度の鑑定能力はあるので、現在目の前にある岩の中にわずかにミスリルが含まれるのは分かるのだが、これをそのままゴーレム化したら、わずかにミスリルが混入したストーンゴーレムになる気がする…
ショータローは、念のためストーンゴーレムを1体は作れる程度の石をこっそりアイテムボックスに放り込むと、生成されたミスリルあるいはそのインゴットを手に入れるにはどうするか考える。
掘り出された岩はトロッコに載って洞窟外へ運ばれる。
そして確認はしていないがどこかでまとめて箱か何かに積まれて、鍛冶工房等へ行き、そこで精製作業が行われるのではないかと考えた。
なのでショータローは、今来た道を戻り、トロッコで運ばれる岩を追跡することにした。
再び洞窟を出て、鉄条網を越える。
岩は予想通り、馬に曳かれた箱に積み込まれていき、箱がいっぱいになると馬が出発させられる。
その馬の列を追跡し、到着した場所はやはり鍛冶工房のようなところ。
当然そこにも無断で侵入し中を隅々まで調べると、生成された金属が種類ごとに分けられ、やや高級そうな箱に詰められている部屋を発見した。
さっさとすべて失敬しようかと思ったが、この金属の行先を確認しておいた方がいいなと思って、透明化をかけなおしながらしばらくそこで待つ。
すると騎士のような者たちが数人現れ、その箱を荷馬車に積んでいく。
ショータローの予想では、それらは複数の場所、例えば街の中の複数の工房へ分散して運ばれるのかと思っていたが、荷馬車の行先は全て同じ。
馬車の横についた紋章と、同じ紋章が掲げられた城であった。
荷馬車は城の正門でなく、裏の通用口のようなところから入り、城の倉庫と思われる場所へ行き、積荷はすべてそこに降ろされる。
その倉庫を見渡すと、今運ばれただけでなく過去に持ち込まれた大量の金属インゴットと、それを加工した武器のようなものが置かれていた。
なおここに来るまでに通過した検問のような場所の見張は、やはり透明化すら見破れないようだった。
やがて日が落ちて夜になると荷物の運び入れもなくなり、倉庫は外から施錠された。
ショータローは倉庫にある金属や武器などを片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。
何度か重量制限を食らったので、その都度ログハウスまで転移し、荷物を置いてきてもう一度戻ってきてはアイテムボックスに放り込むという作業を繰り返す。
3往復で全ての物を運び出し、倉庫は誇張なく完全に空になった。
ショータローは満足してログハウスに戻り、まずはストーンゴーレムを作りログハウスの拡張作業と倉庫づくりを命じる。
次は盗んできた金属やら武器やらを分類していく。
武器のほとんどは特に魔法効果もないゴミばかりだったので、解体し金属とそれ以外に分類。
朝になるころには、全ての戦利品を分類し終えて、とりあえず1体ゴーレムを作ることにした。
銅、銀、金、ミスリル、それに木材や土、岩も使用して質感や色を再現、最後にゴーレムとして命令を従わせる際の話し方パターンや、行動の基本ルールを設定して完成。
「よし、できたできた。お前は“フェイク・ネイア”だ!ネイアのヤツこれを見たら驚くだろうな!どんな悪戯して驚かせてやろうかな」
目の前には気持ち悪いくらいネイア・バラハにそっくりのゴーレムが佇んでいた。
久しぶりにある程度満足した作品を作れたショータローは、フェイク・ネイアとその他のゴーレムたちに護衛を命じた後、布団に入って休むことにした。
すでに日は昇っているのだが、あえて睡眠無効の指輪をしていない彼は流石に20時間近く起きていて疲れたのだ。
布団に入って、自分の小さい手をワキワキと動かしてニヤッとすると、ショータローはすぐに眠りについた。
多くのAOGギルメンは
しかし、るし★ふぁーは2つ目の種族でもゴーレムクラフターを選ぶという暴挙に出た。
いや、彼の中では暴挙でも何でもない。
天使種族としてのゴーレムクラフターだったときは、種族レベル由来のクラフト技能を使えた一方、そのスキルを得るために種族レベルを取らざるを得ないので、プレイヤーとしては強くなるのだが、特定の職業スキルを取れなかった。
だが2つ目の種族に人間種を選んだことで、天使では取れなかったクラフト系スキルを取ることが出来るようになったのだ。
例えば先ほど行った武器の解体は天使種族の時はできなかった。
いや、ゲーム的にはそんなスキル無くても別にいいのだが。
だが彼がやりたいことはあくまで芸術的な作品を生み出すことなので、そういった些細な技術を欲し、それを
人間種の子供を選んだ理由も、そういった彼の拘り所以である。
年齢も含めたアバターは子供から老人まで選べるのだが、外見や年齢というのは基本的には強さに関係が無い。
だがそれでも彼が子供を選んだのは、“子供の頃の感性”が得られる気がしたからだ。
実はリアルの彼も結構若い。
ギリギリ成人はしていて、グラフィックデザイナーとして働いているが、それは彼の本望ではない。
彼の家系はいわゆるエリートであった。
ご先祖様には非常に有名な芸術家や学者などがいる。
彼はその才能を非常に強く受け継いでリアルの世界に生まれた。
だが荒廃したリアルでは、もはや芸術というものに価値はなくなっていた。
彼の兄が家督を継ぎ、巨大複合企業の一部門を担う取締役をしている。
その家族という事で、その弟である岡本正太郎にはグラフィックデザイナーという職が自動的に用意された。
だが本当に彼がやりたかった芸術はそういうものじゃない。
自ら手を動かし、筆をとり、彫刻刀を操り、彼の中にある芸術的なものを形にする。
それだけが彼にとって本当に価値があることである。
<Yggdrasil>には、完全とはいえないまでも、その自由度の高さゆえに彼がしたかった表現をする場所があったのだ。
そのために彼は苦手な人付き合いを(彼なりに)頑張り、AOGに加盟し、そして絢爛豪華で荘厳の極みであるナザリック地下大墳墓を創造していった。
そして手に入れた
次に彼が望んだのはよりリアルな芸術表現。
天使の御業でなく、人の手が作り出すより感情がこもった創造表現。
そしてもっと若かったころ、それこそ10歳やそこらの子供だったとき持っていた、偏見や恐れのない、本能的で自由な表現力と想像力。
それを求めて今の姿を望んだ。
ユグドラシル最後の1年は、それまでできなかった創造表現をわずかながらすることが出来た。
それ自体はとても嬉しかった。
嬉しくて調子に乗って、ナザリックの中には誰にも共有していないトラップめいたゴーレムをそこら中に配置した。
だが最終日、タイムカウントが0:00を超えた時に自分がいた森の中には、一度でいいから素材として存分に使ってみたかった自然物がいくらでもあり、その上、ゲームの時に手に入れた力や技術もその手にあった。
この場所がどこなのか、ゲームなのか、現実なのか、そんな事はどうでもいい。
この場所では、まだ触ったことが無い素材がいくらでもあり、まだ創ったことが無いよりリアルな作品が作れる。
彼は、その小さく器用な手と、失いかけていた子供の感性が宿る姿になり、欲求の赴くまま作品を作り続ける。
***
夜が明けて、ショータローが眠りについたころ、そこから遥か南にある城のような屋敷の中は怪奇現象が起きていた。
最初のきっかけは、屋敷の衛士が朝のルーティーンである見回りを行った際、武具や金属を置いておく倉庫の鍵を開けたところ、倉庫の中に何もなかったことから始まった。
衛士のアレシャンドロが倉庫の鍵を開けた時、最初に思ったことは『あれ、部屋を間違えたかな?』だった。
なにせ、部屋の中には例えでもなんでもなく何もなかったからだ。
倉庫である場合、そんなことは普通あり得ない。
そこで彼は一旦倉庫の外に出て廊下の端から部屋の数を数えなおしたが、やはり今自分がカギを開けた部屋は、裏口につながる金属倉庫で、そしてその中に何も入っていないという事を遅れて理解した。
だがその時点でも、彼はそれが盗難だとは疑わなかった。
『そういう報告は無かったけど、在庫が全部売れて運び出されたのかな?』と考えた。
コーエン伯爵は、最大派閥とは言えないまでも比較的南部では有力な貴族の一人である。
南部では“ご老”に次ぐ力を持つ貴族としてボディポ侯爵家があるが、このコーエン伯爵家はそのボディポ派閥としては最大級の力を持っている。
領地もボディポ侯爵領に隣接し、南の広大な山脈の一部を領有していて、そこから産出される金属や薬草は、この領地を潤わせている。
だが当代のコーエン伯爵は比較的欲深く、自領の物は何でも独占し使いたいという欲求があるため、山から採掘された金属は精製後全てを屋敷倉庫に集め、そこから領内の鍛冶師や貴金属店に売りつけている。
この倉庫は、それら在庫を置いておくための場所である。
また、倉庫には、伯爵家お抱えの鍛冶師が作成した衛士向けの武器を一時的に置いておく場所でもあった。
ごくまれに採掘される希少価値が高い宝石や鉱物は倉庫に置くことなく、コーエン伯爵の私室に運ばれるのだが。
そう言う訳で、倉庫が空になるという事は、普通に考えれば在庫が全て売れたと考える方が現実的であり、総重量が何十トンあるか分からない金属全てが盗まれたと考えることは難しかったのだ。
アレシャンドロは、そのままルーティーンの見回りを続け、最後に衛士の詰め部屋に戻ると、日誌に確認した出来事を記入した。
次の見回りの担当者は偶然、昨日倉庫の鍵を閉めた者だった。
彼は朝担当したアレシャンドロの日誌を確認して、違和感を覚えた。
そこには『異常なし』と書かれているのだが、金属倉庫が空だったと書かれている。
少なくとも昨日の夜鍵をしたときは、倉庫の中はいつも通り大量の金属と武器が置いてあった。
首をかしげながらルーティーンのコースを見回り、金属倉庫を確認するとそこは確かに空っぽだった。
昼過ぎには今日採掘された分が運び込まれてくるかもしれないので、通用口側の扉を開けなければいけないのだが、さすがにこれはおかしいと思い、彼の上長にこれを伝える。
報告を受けた上長は、台帳を確認しながら倉庫の異常に改めて気づく。
そして、彼は伯爵へこれを伝えるとともに、屋敷内の他の場所に金属が間違って運び込まれていないか、屋敷の者総動員で探すように指示を出した。
普通に考えて、数十トンの金属が一晩で盗まれたというのは考えづらく、備蓄場所を間違えたという方がよっぽどあり得ることだと思ったから。
しかしやはり無くなったと思われる金属類は見つからない。
報告を受けたコーエン伯爵も執務の合間を縫って確認したが、ついぞ納得がいく答えは得られなかった。
消えた物の量があまりに多く、また、金銭や宝石などの貴重品類が盗まれていると言ったことも無かったので、正常性バイアスのようなものが働き、この一件はこの時点では記帳ミスか怪奇現象の類として片づけられることなる。
そしてショータローもしばらくは手に入った素材を加工するのに忙しく、また金属を手に入れるルート…つまり城に行けば倉庫らしきところに金属がある可能性が高いという事が分かったので、今度は別の城に忍び込んで金属を探せば、もっとレアリティが高い物も見つかるかもしれないと考えて、コーエン伯爵家に次に忍び込むのはずっと先になった。
これらの結果、これが事件であると認識されるのはもっとずっと後になった。
張本人のショータローは本来の性格が元々そうであるというだけでなく、感性が子供になっていることもあり、この件についての罪悪感などは一切存在せず、“フェイク・ネイア”を使ってネイア本人にどんな悪戯をしてやろうかと無邪気に考えていたのである。
この章の最大の被害者はおそらくネイアちゃんになると思われます