オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
鼻歌交じりで金属製ゴーレムを作り続けて数週間が過ぎた。
現在のショータローのお気に入りは天使型ゴーレムである。
思えばナザリックでは様々な悪魔型ゴーレムを作成した。
ソロモン72柱の悪魔を参考にした非常に戦闘力が高い悪魔型ゴーレムを、最高位天使たる自分が作るという皮肉のような行いが、どこかリアルの矛盾—人々が便利を求めて行きついた先がディストピアであったという二律背反のような現実を体現しているような気分だった。
確かに戦力バランスを考えて第9階層には天使型のゴーレムが何体かいるし、ルベドは一見すると天使のような造形だが、それでもテーマとして天使のゴーレムを作るという事を考えなかった。
最高位天使が天使を創造するなどという
だが今は違う。
今の自分はありのままの人間のショータローだ。
ショータローはヒトとしてその手で天使像を作ってみる。
リアルで見た映像資料の中のかつての世界遺産。
21世紀までは現存していた様々な礼拝堂や美術館の傑作。
記憶の中のそれらを作り出し、自分自身のアレンジを加えて偽りの生命を吹き込む。
子供の自由な感性は、ベルニーニの天使に全身タイツを着せたり、サモトラケのニケーに手を4本生やしたりしているが。
だが少なくとも、そういった像の“本来の姿”を知らない転移後の世界の住人からすれば、それらは少なくとも神々しい何かに見え、そういった天使ゴーレムが100体近く配置された中に存在するそのログハウスは、ともすれば異教の教会に見えたかもしれない。
ショータローにとっては、ネイアは結果的には友達になれた存在だったが、やはりこれ以上人付き合いが増えるのも面倒だった。
なので、彼が住む森の中には複数体の獣型ゴーレムも配置されていて、不用意に入ってきそうな人間には脅しをかけて追い出す準備も万端である。
とはいえ、ネイアの様に迷い込んでくるケースというのは稀なのだが。
そして1か月ほど経って盗んできた金属を使い切るころには、その森はかなりのゴーレム密度を誇る状態になっていた。
「あ、もう金属なくなったか…にしてもミスリルすら大した量無かったな…次はもっと高レベルのインゴットとか使いてーな…」
工房の中でゴーレムに囲まれながら仰向けになったショータローは呟いた。
***
ネイアは、ホバンスの神殿の中にある学校で教科書を開きながら授業を聞いていた。
魔法の授業は、ショータローの使っていた魔法を知れるかもしれないという期待からモチベーションはあるのだが、一方でどこか上の空である。
それは、1か月前、デボネから帰ってくる馬車の中で会話した以降、ショータローから一切連絡が無いからである。
なんか雰囲気的にすぐに次の連絡があるかなとソワソワしていたのだが、あれ以来全く音沙汰がない。
いや、確かに、次はいつ
にしても遅すぎるのではないだろうか。
もしかしたら森で魔獣に襲われたとか、南の山でモンスターに遭遇したとか…そういう嫌な想像をしてしまう。
『おーい、ネイアー』
「ひゃあ!」
教室のみんなの視線が集まる。
先生が怪訝な表情でネイアに話しかける。
先「ネイア・バラハさん…大丈夫ですか?」
ネ「だっ…大丈夫です!すみません…」
★『何が大丈夫なんだ?』
ネ「そーじゃない!」
先「えっ?!どうしたんですか?本当に大丈夫ですか?」
ネ「あっ…その…はい、えっと、体調が悪いので早退してもいいでしょうか?」
★『体調悪いのか?』
ネ「だから!!…あ、いえ、なんでもないです」
先「ええと…はい。もしおかしなところがあるようでしたら、司祭様のところに寄ってからお帰りくださいね。症状を言えば治療してもらえますので」
ネ「あ、ありがとうございます。それじゃ、すみません」
★『え、なんでお礼言うんだ?』
ネ(イラッ)
他生徒たち「ざわざわざわざわ…」
ネイアは机の上の教科書などを鞄にしまうと急いで教室を出る。
そして教室から十分離れたところの廊下で、声を低くしてショータローに向かって返事する。
「ショータローくん!びっくりするから、いきなりはやめてよ!今授業中だったの!!」
『ん?ああ、なんだ。お前、学校行ってたんだ』
「そうだよ!絶対変な子だって思われたよ…!」
『あはは、めんごめんご』
「もう……で、どうしたの?」
『あーそうだった。前さ、お前の住んでる街まで行くかもって話したじゃん。そのうち行くかもしれないからどこにあるのか教えてもらおうかと思って』
「え…あ、うん。えっと、私が住んでいるのはホバンスっていうローブル聖王国の首都だよ。デボネからだと、まずまっすぐ北に向かって進んで、カリンシャまで来たら、そこからまた西に進むとプラートっていう街があって、さらに西に行くとホバンスに着くよ。結構長旅になるからちゃんと準備した方がいいとおもう」
『カリンシャ…プラートか…結構街あるんだな。人多い?』
「え?えーっと、カリンシャはデボネと同じくらい大きな街だよ。北部と南部のちょうど間だから、旅の人が多いんだって。プラートはそこまで大きくないかな」
『ふーん…わかった。じゃあ出発するときまた連絡する』
「あ、ちょっと…!」
ネイアは急いで声をかけたが
今度連絡してくるときはびっくりしないように、連絡してくる時間とかそういうことをちゃんと言っておきたかったのだが…
「もう…バカ…」
ネイアは自由気ままなショータローの振る舞いに軽く怒りを覚えたが、それは遊びに来た時にちゃんと言ってやろうと思った。
とりあえずは、さっき先生に言われたので一応司祭様のところへ行ってから
帰ろうと思った。
大聖殿の神殿にいる司祭様は、魔法の知識も豊富だと聞いたことがあるので、もし可能だったらショータローが使う魔法のこともそれとなく聞いてみようと思ったのだ。
「失礼します」
ネイアが聖堂の中に入ると、優し気な表情を浮かべた茶色い髪の女性司祭が聖堂内を掃除していた。
「あら、学生さんですね。どうされたのですか?」
「あ、えっと。実は授業中少し気分が悪くなってしまって早退してきたんです。先生が念のため司祭様に診て貰いなさいと仰ったので」
「そうでしたか。それではこちらに座ってくださいね」
司祭はネイアを座らせると、自分もその向かいに座り、顔にかかっていた茶色い前髪をかき上げて長い耳に掛けると、ネイアの額に手をかざして何らかの呪文を唱えた。
司祭の手が光ると、その優しい光がネイアの中の疲れを癒してくれたような気がした。
「特に病気などではありませんね。何か悩んでらっしゃることなどは有りますか?」
「あ、えっと。はい。最近南部の街へお父さんと行った時にお友達が出来たんですけど、その子が、色々と魔法のことに詳しくて。でも私は魔法がそんなに得意じゃないからその子の言っていることが良く分からなかったんです。だから…悩みとかじゃないんですけど私も魔法の勉強頑張らなきゃなって思ってたんです」
「そうなんですね。それは素晴らしいことです。お友達と一緒にお勉強を頑張って色々な魔法を覚えることが出来れば、それはあなた自身にとっても大きな将来の資産になります。お友達はどのような魔法のお話をされるのですか?」
「えっと、
「あら、
「やっぱりそうなんですか?」
「ええ、
「そうなんですね」
エルフである司祭様の師匠となると、きっと非常に高齢で魔力の高い方がいるのかもしれない。
エルフというのは長命な種族で、外見の年齢と実際の年齢には乖離があり、司祭様はまだ十代に見えるが実際の年齢はその十倍かもしれない。その人の師匠ともなると500歳とかもあり得そうだ。
自分と同じくらいの歳に見えるショータローは人間であるから年齢は見た目通りだろうが、それでもやはりとても強い魔法の力を持っているのだろうとネイアは考えたのだった。
「体調大丈夫そうなので、今日はもう帰ります。ミューギ司祭様、いつもありがとうございます」
「いいえ、困っている生徒さんをお助けするのは、私たちにとって当然のことですからね。お大事にされてください。もし、いつかお友達が遊びに来ることがあれば、良ければ遊びに来てくださいね」
「ありがとうございます!」
ネイアは、ショータローの突然の
とはいえ、実際に彼が来るのは、また何か月か後になってからなのだが…
***
ショータローは
行先は北のカリンシャ…ではなく、また南の山の上をふらふらしている。
ネイアの言葉で、いくつかの人が多い街を通過しなければいけないし、どうやらネイアが住んでいる場所は大きな街で人が多そうという事が分かった。
知らない他人と極力関わりたくない彼はとりあえずはホバンスに行くという事は先延ばしにして在庫が切れた金属の採集(窃盗)に向かうことにした。
今回は自分一人ではない。
いや、人間は彼一人なのだが、ゴーレムの相棒を連れてきている。
「よし、それじゃ今回は山のもっと西の方へ行ってみて他の鉱山が無いか探してみるぞ。見つけたらまた金属が運ばれていく城見つけて一気にゲットだ!」
「うン、わかっタ。ショータローくン」
かなり精巧かつ器用な動きが出来るように設定された肝いりのゴーレムである“フェイク・ネイア”の初出陣である。
今後このゴーレムを使ってネイアを驚かす際に、色々なことができるかどうかのテストを兼ねて今回はフェイク・ネイアを連れていくことにしたのだ
ただ、やっていることは窃盗なので、さすがに知らない所で犯罪者にするのも可哀そうかなというわずかな良心が働き変装をさせている。
今回のようなミッションモードの時は、髪色が黒になるように設定されていて、顔にはショータローが持っていた仮面をかぶせてある。
その仮面の名は『嫉妬する者たちのマスク』。
ユグドラシルでクリスマスに一定時間以上ログインしていると強制的に手に入ってしまうアイテムである。
ショータローは特に深く考えずに、手元にあったこのマスクを自身もかぶると今回の作戦を開始した。
今回の標的となってしまったのはグラネロ伯爵領。
そうして、『嫉妬する者たちの盗賊団』とでもいうべき二人は、グラネロ伯爵家の屋敷までたどり着いた。
★は放っておいても誰かに迷惑をかけます