オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「じゃあ、透明化解除するぞ」
「う…うん。この子はどうするの?」
「お前の透明化解除と同時に、こっち透明化かけるから」
夕方のホバンスの広場で、一人の少年と少女(のゴーレム)が会話をしている。
実際に喋っているのは、ショータローとゴーレムの隣で透明化しているネイアである。
先ほど、門外でのネイアの悲鳴を聞きつけた優秀な門番が速やかに確認に来たのだが、ショータローは速やかにネイアに透明化をかけ、その首に透明看破のネックレスをかけた。
そしてネイアの口をふさぎながら、耳元でささやく。
『シーッ!オレのこと見えるだろ。今お前にも透明化かけたけど、そのネックレス、透明化看破の効果があるものだから。そんでこれ、お前そっくりに作ったゴーレムだから、あいつらの相手、ゴーレムにさせてみようぜ』
ネイアの頭の中は大混乱だったが、門番たちは自分やショータローは見えていない素振りで、“ゴーレム”のネイアに声をかける。
ゴーレムはちょっと言葉のアクセントがおかしい気がするが、危なげなく会話をし、悲鳴も虫が居たと説明している。
ゴーレムは門番と一緒に歩き門を越えて街の中に入る。
透明化したショータローとネイアはその後を一緒に歩く。
そしてそのまま広場のベンチまで来たという訳だ。
ショータローが何事か呟いた。
何も変わっていない気がしたが、ショータローが言う通りネックレスを外すとゴーレムのネイアが見えなくなった。
「いやーうまくいったな!門番たち、全然疑ってなかったな!」
ネイアは色々と言いたいことがあったが、とりあえずは普通にショータローに話しかける。
「はぁ……えっと、ショータローくん、ホバンスにようこそ。びっくりするからもう驚かさないでね」
「いや、あんな驚くとは思わなかった。めんごめんご」
「それにしても、今日の朝メッセージが来たからてっきり今日出発したのかと思った」
「ん?今日の朝出発したぞ?」
「え…?だって、デボネからここまで1日じゃ着かないでしょ?」
「いや、まっすぐ飛んできたけど着いたぞ?」
「???」
「まーいーや。お前さ、明日ってヒマ?」
「え?えっと…普通に学校があるんだけど」
「あ、そういう感じかー…いや、学校はさ、ゴーレムのフェイク・ネイアに行かせるってのはどーよ?」
「え、それってバレた時すっごく怒られる気がするんだけど…」
「じゃあ明日はオレ達は透明化で、フェイク・ネイアがバレないか見ていて、大丈夫そうだったら、どっか遊び行かない?」
「えー…」
ネイアはなんだかすごく悪いことをさせられている気がしたが、正直に言うと友達と遊びたいという気持ちもあったので強く否定することが出来なかった。
翌日、透明化した状態でショータローと一緒に様子を見ていると、フェイク・ネイアは特に問題なく授業を受けている。
というか、普段からクラスメイトと遊んだりすることが無いおかげか、フェイク・ネイアは誰とも喋らずに過ごしたのでバレる様子はない。
何だか悲しくなったが、ショータローが『遊び行こう』というジェスチャーをするので、もう気分を切り替えてついていくことにした。
廊下でミューギ司祭とすれ違ったが、彼女も気づく様子は無く、ネイアはより一層悪いことをしている気持ちになったので、心の中で謝った。
「で、なんかこの街面白いとこある?」
「あ、えっと…ショータローくん彫刻とか絵とか好きそうだったから、この街の画材とかのマジックアイテムを売っているお店を教えてもらったよ」
「お、いいじゃん。いこうぜー」
「あ、でも、私お店の外で待ってるよ。一回、お父さんとそのお店行ってるから、学校ある時間に行くとバレちゃうかもしれない」
「透明化すればよくない?」
「あっそっか」
その後、透明化したネイアの案内で、ショータローは街のいくつかの店を回った。
画材屋では、いくつかの見たことが無い染料を購入した。
これらは
店主に、このアイテムは人体に使えるかと聞いたところ、『おすすめはしない』と言われた。一般的には使わないという事だろうか。
またショータローは、いつか森でネイアが言っていた青い鉱物染料:ウルトラマリンストーンも販売されているのを見つけた。
これは、すでにボディポ侯爵屋敷から失敬しているので持っていたが、他のものと比べるとかなりの値段が付けられていた。
どうやらこの辺りでは、例の南の山でしか取れず、また侯爵が流通を握っているため中々手に入らないかららしい。
屋敷にあったのは全て失敬したので今後はもっと値段が上がるかもしれないが。
ちなみにショータローはここで初めて買い物というものをした。
今までコミュ障ゆえに街で買い物をしたことが無かったのだ。
金貨は屋敷から失敬した金貨を使ったのだが、黄銅板、銅貨、銀貨といった硬貨も存在し、ユグドラシル金貨は流通していないようだと認識したが、欲しければ失敬してくればいいので特に今後も気にすることは無いだろう。
ネイアが見ているので、一応ここはちゃんと金を払って購入している。
一通り店を見終わった後、広場のベンチに座ってネイアと今後の予定を話す。
「なあネイア、オレさ、明日あの城の中見てみたいんだけど普通に入れてくれるのかな?」
そう言ってショータローが指さすのは聖王女の居城である。
「えっと…あれは王城だからさすがに無理だと思うよ」
「そういう見学ツアーとか無いの?」
「聞いたことないよ」
「お前は入ったことある?」
「ないよ。お父さんはお仕事で入るけど…」
「ふーん…」
ショータローは少し悪い顔で笑った。
翌日は、ショータローは一人で観光すると言ったので、ネイアは普通に学校へ行った。
授業の後、廊下を歩いているとミューギ司祭に話しかけられた。
「あら、ネイアさん。今日はお友達は一緒ではないんですね」
ネイアは一瞬、心臓が飛び出るかと思った。
昨日、確かに司祭とはすれ違ったけど、バレている感じはなかったと思っていたのだが。
「ふふ。あまり授業をさぼるのは良くありませんけど、お友達と遊ぶのも大事ですからね」
「あ…あの…ごめんなさい」
「他の人は多分気づいていないから大丈夫ですよ。昨日すれ違った時は透明化していましたけど、お友達の魔法だったんですか?」
「はい、そうです」
「司祭様は、透明化していても見破れるんですか?」
「ええ、そうですね。より高位の魔法は見破れませんが」
「すれ違った時、司祭様はこっちを向かなかったので分かりませんでした…本当にごめんなさい」
「いえ、さっきも言いましたけどお友達との時間も大切ですからね。それに見たところ悪さをしようとしていた訳では無さそうだったので気づかないフリをしたのですよ。お友達とは何をして遊んだのですか?」
「はい…えっと、学校を抜け出して街のお店を案内しました」
「そうですか。あまりにさぼるのはダメですけど、お友達と過ごす時間はかけがえのないものです。大切になさってくださいね」
「はい…ありがとうございます」
同じ日の朝、その“お友達”は悪さをする気満々で、王城の入り口まで来ていた。
当然横にはフェイク・ネイアを従え、透明化した状態である。
まずは王城の周りをぐるっと回って裏口を探す。
これはここ数か月の経験から、物資の倉庫は正門とは別の搬入口のようなところから運び込まれるという事を学習したためである。
裏側に、荷馬車が充分通れる通用口を見つけ、しめしめとばかりに入ろうとしたところ、警備をしている者のうち、神官風の服装の男が、怪訝そうな表情でこちらを見つめてきた。
『やばっ』
これは2番目に入った屋敷と同じパターンだと悟り、その男が透明看破の魔法を唱える前にダッシュで城内に入りこむ。
入った場所は倉庫の様で、さっそく金属を探したが全く見つからない。
確かに武器などはまとめて置かれているが、武器はかさばる割に金属部分が少なく、
しかしやはり見つからない。
ショータローはこの時点で知る由もないが、これは、王城が金属を独占するわけもなく、加工された武器等を普通に購入しているという状況だったので、王城の中には南部貴族の屋敷の様にまとまった金属が保管されていないという事に起因している。
その後、フェイク・ネイアと手分けして城内の倉庫を片っ端から見て言ったが、やはり金属は見つけられなかった。
『うーん…この城は金属は無いのか?じゃあマジックアイテムとか探すか…でも今日はもう遅いし明日だな』
ショータローは今日は一旦切り上げることにして城を後にした。
ネイアは学校が終わり、家に帰る前に広場に行ってみると、案の定ショータローがベンチに座っていた。
司祭にばれていたことは言わなければいけないと思い、隣に座る。
「ショータローくん」
「お、ネイア」
「今日は何してたの?」
「あーうん。色々と街を見学してた」
「そうなんだ…えっとさ、昨日一緒に学校行ったでしょ。その時廊下ですれ違った司祭様にバレちゃってたみたい」
「お、マジか。まあ透明看破くらい使える奴いるかもだし気を付けないとな」
「もう…司祭様は許してくれたけど、やっぱりあんまり悪戯しちゃいけないと思うな」
「じゃあもっとバレない様に気を付けるわ」
「そうじゃない!」
ショータローは反省などしていなかったようなのでネイアは一つため息をついた。
翌日、ショータローはフェイク・ネイアと共に王城内に転移する。
そして今度は、倉庫だけでなく様々な部屋を探す。
この城は、神聖なイメージのある模様や調度品が置かれているが、贅を尽くした感じでは無く、貴重品の類が成金的に飾られているわけでもないので、ショータロー的に欲しいものというのがなかなか見つからない。
なので結果的に、フェイク・ネイアと行く健全な御城見学になりつつあった。
ショータローが次に入った部屋の中には、神官風の服装をしたものが複数居た。
ショータローは知る由もないが、ここは神官団の部屋で、普段は団員が訓練等を行っている場所でもある。
彼ら神官団の一部は第3位階まで行使できる者が居り、運悪く透明看破の魔法を唱えているものが居た。
「ん…仮面をつけた子供?」
「どうした?」
「いや、あそこに子供が」
「え?私は見えないが?」
「と…透明化か!」
ショータローは彼らの会話から、透明看破が使えるものが居たことを理解し、そそくさと部屋を後にして一旦転移で逃げた。
「さすが城だけあって、透明看破くらい使う奴が複数いるのか…うーん…欲しい物ないし、どうすっかなー…」
考えた末、ショータローは一旦フェイク・ネイアは拠点に戻し、久々に本性の姿となると
一方城内では、先ほど怪しい仮面をつけた子供2人を見た神官が団内で情報を共有し、城内の探索を行ったが、やはり子供は見つからなかった。
「子供は二人で、二人とも泣いたような笑ったような仮面をかぶっていた…あとは…二人とも黒髪だったくらいか…」
「疑う訳じゃないんだが、幻とかじゃないよな?」
「いや、違うと思う…確かに見た。多分10歳かそこらだと思うんだが…でも確かに王城内に透明化した子供がいるっておかしいよな…王城に出入りしてる子供っていたか?」
「そんな報告は無かったと思うな…子供って言うとパベル兵士長が御嬢さんの事を永遠と語ってくるのを思い出すが、兵士長も居ないし、娘さんが来るって話も聞いていないしな…」
「ああ、そういえば、子供のうちの一人はパベル兵士長の娘さんにちょっと似ていたかもな。だが黒髪だったしさすがに違うだろう。一応団長が戻ってきたら報告しておくか…」
この時点では、まだ、南部貴族の屋敷を荒らしている盗賊団の話を聞いた者たちが王城に帰還しておらず、『顔なし盗賊団』の話は共有されていなかった。
なので子供を目撃した神官は、彼の上司であるケラルトが帰還後、見たままの情報を伝えることになる。
一方で数日後に帰還したケラルトは、部下からの報告を聞き、すぐに頭の中に『顔なし盗賊団』のことが浮かんだ。
ついに例の盗賊が王城にやってきた可能性があると理解して、一緒に帰還したカルカと緊急の会議を開くのである。
ショータローはこの間、るし★ふぁーの本性で
暇潰しに聖堂っぽい場所の石像をゴーレム化して、聖堂でうるさくするものが居た場合は動き出して悪戯するトラップ等を仕掛けるくらいのことしかしていない。
しかし正門のところを見ていると上等な馬車から重要人物っぽい者が降りてきたので、この城の探索を止める前に、最後に彼女たち張り付いて宝物庫などの情報を喋らないかなと会話を盗み聞きすることにしたのだった。
お目当ての金属も見つからず、
金属が無かったのでテンションが上がらず、楽しい悪戯もたいしてしませんでした。
(全くしなかったとは言っていない)
聖王国の王城ってなんか高価なものとか置いていなそうな気がします。