オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「カルカ様、先ほど神官団より報告があったのですが、例の南部貴族が被害に遭っている盗賊の子供と特徴が似通った者が数日前に王城内で目撃されたという情報が入っています」
「本当ですか、ケラルト?!」
「目撃したのは透明化看破が使える者で、泣いたような笑ったような仮面をかぶっているっている子供二人という情報も全く同じです。ですがそれ以降確認していないとのことですが…はっ…!お待ちください!」
ケラルトは素早く呪文を唱え会議室を見回したが、怪しい者は居ない。
「すみません、カルカ様。もしかしたら透明化のまま潜んでいるのではと考えたのですが杞憂だったようです…ですが、盗賊団の情報は公にはされていないはずですので、情報を知らないはずの神官がそこまで外見が一致している者を見たとなると、高い確率で一度侵入してきたと考えた方が良いと思います」
「そうですね…ですがなぜ王城は盗難などの被害が無かったのでしょうか…」
「おそらくですが、南部貴族は領民から高い税金を取り、屋敷にため込んでいたからそれを狙われたのではないでしょうか。それに、金属が大量に盗まれたというのも、鉱山を独占している貴族が屋敷内にため込んでいたからではないですか?」
「ふふ…そうですね。この王城には無駄遣いをするような金貨はありませんし、民の財産を搾取するようなこともしていませんからね。ですがそうなると、その盗賊団は義賊のような者の可能性もあるかもしれませんね」
「その考えはいささか早計かもしれません。単純に王城に目的の物が無かったというだけかもしれませんし、
「そうですね…亜人たちの件はレメディオスの報告を待ちましょう。ああ、いっそのことその盗賊団は
「カルカ様…仮にそうなったとしても、その金属が軍事利用されて我が国へ向けられれば同じでございますよ」
「そうですね…いえ、失言でした」
…当然のごとく、
雰囲気から、ここの重鎮っぽい二人の会話から、この城にはどうやら自身が求める物資はたいして無いと判断した彼は最後に、城の中のいくつかの彫像を攻撃すると倍返しで反撃してくるドッキリゴーレムに作り替えて、ホバンスの街に戻ってきたのだった。
「あ、ショータローくん」
ネイアは放課後、いつもの広場のベンチに友達が座っているのを見つけて声をかけた。
「お、ネイア。ちょうどよかった。聞きたいことあるんだけど」
「どうしたの?」
「
「えっ?!それって亜人の人たちだよね?!えっと、正確には知らないけど亜人たちはこの国の東側のアベリオン丘陵にいるってお父さんが言ってたけど」
「ふーん、そうか…」
「もしかして、行こうとしてる?駄目だよ!危ないよ!」
「この国の人間って、亜人と仲悪いのか?」
「え…えーと…お父さんやお母さんの話では、亜人の人たちは何度も聖王国に攻め込んできて、何年か前にはなんとかっていう亜人がこのホバンスまで攻め込んできて大勢の人が殺されたって…」
「ふーん…戦争してる感じなのか」
「だ…だから危ないから行かない方がいいと思うよ」
「うーん…まあ一回見て見て危なそうだったら止めるわ」
「や、やめなよ…ショータローくん」
「はー…じゃあさ、これやるよ」
ショータローはそう言って十字架のが付いた首飾りをネイアに渡す。
その手には全く同じものがもう一つあった。
「この十字架を握りしめて相手の顔を思い浮かべると、お互いこのアイテムを通じて会話できるんだよ。本当は2手に分かれて採集とかする時にぬーぼーさんと一緒に使ってたんだけど…」
「え?ぬーぼーさん?」
「いや、なんでもない。とにかく、その十字架に向かって話しかければオレに繋がるから、手が空いてたら返事するから」
「…貰ってもいいの?」
「ああ、多分もう使わないし。それで通話できればオレが無事だって分かるだろ」
「…ありがとう。でも危ないことはしないでね」
なんとか納得してくれたネイアに、ひと時の別れを告げた。
ショータローは日が落ちて人通りが少なくなったころに、街中の石像や噴水像などに悪戯をし、王城と同じようにドッキリゴーレムを仕込む。
落書き、ポイ捨て、攻撃等の狼藉を働く者を見つけると襲い掛かる仕掛けだ。
そうして一旦森の拠点に戻ってフェイク・ネイアを再び連れ出すと、透明化してアベリオン丘陵を目指すのだった。
カリンシャから数キロ離れた、国境の城壁の上からアベリオン丘陵を注意深く見守る者たちがいる。
レメディオス率いる聖騎士団の一部と、パベル率いる弓兵部隊の一部である。
パベルは急用で南部へ出かけているので、パベルの部下の隊長が一時的に指揮を執っている。
アベリオン丘陵の様子は普段通りで変わらない。
弓兵部隊の隊長は、パベルほどでは無いが高い視力を持ち、わずかな亜人たちの様子を確認しているが、その数は平時のそれと変わらない。
報告にあった
バザーは亜人しては賢いという事なので、こちらからギリギリ見えない位置にいるのかもしれない。
「…チッ…いっそ纏まって姿を見せてくればまとめて葬れるというのに」
「団長、さすがにそれは…」
「なんだグスターボ、お前は亜人どもの肩を持つのか?」
「いえ、そういう意味ではなく、奴らが出てこずに戦にならないというのが一番良いのではと思ったまでです」
「ふん…聖騎士たるもの邪悪な亜人などできるだけ数を減らすべきだ」
聖騎士団団長と副隊長の片割れの会話に、弓兵部隊の隊長は特に口を挟まない。
彼が比較的寡黙という事もあるし、口を挟むと面倒なことになるという事も兵士長から聞いているからである。
「先ほど、今日の門番からの報告の早馬が来ました。本日も金属や武器などを運ぶ怪しい通行人はいなかったようです」
城壁の階下から、もう一人の副団長であるイサンドロが現れ、レメディオスに簡潔に報告する。
これは件の金属泥棒に関する警戒のための報告で、念のため毎日カリンシャからその日の報告が届くのだが、交易に関することなどはレメディオスには難しすぎるため、内容を精査するのは、専らどちらかの副団長の仕事である。
「そうか…ちなみに通行するのはどのような者が多いのだ?」
気まぐれに、レメディオスは報告の内容を聞いてきた。
余りに変わらない丘陵の状況に少々飽きてきたのか、あるいは分からないながらも多少なりとも分かろうとする努力をしているのかもしれない。
「はい、やはりカリンシャは南部と北部をつなぐ交易都市ですので、旅人の他は物資の運搬者が多いですね。特に南部で手に入りにくい食料品や香辛料などを運ぶ商会の馬車が目立ちます。今日南部方面へ向けて通過していった荷馬車で最も大きいものは、日持ちがする干し肉、酒、乾燥した野菜の他、野菜の種を大量に積んでおりました。南部は平野が多く、畑の開墾も可能ですのでおそらく来年の春に蒔く野菜の種などでしょう」
「ふーん…行商人の名前や商会の名前も記録しているのか?」
「ええ、もちろんです。商会の名称や、乗っている者の名前、特徴などは記録しています。尤も、リ・エスティーゼ王国から来た者などは問い合わせることが出来ないので、仮に偽名などだったとしても分かりませんが、少なくとも積荷は全て確認するので金属や武器などがあれば分かります。例えば先ほど言った食料品を運んでいた商会は王国と思われます。聖王国では聞かぬ名前でしたので…えっと“シュグネウス商会”という名ですね」
聖騎士団の一部はカリンシャに留まり、このような情報を得るために門番と共に交易の状況を監視している者もいる。
門は日が落ちるころには閉められるので、その後は緊急の連絡係を交代で行い、それ以外の者は街中を見回ったのち休みに入る。
「大司教様、お疲れ様です」
「皆さま、精が出ますね。私どもは休みますが、何かありましたら起こしていただいて構いませんので」
カリンシャに詰める聖騎士団がその日の夜の挨拶をすると、この街の教会の大司教である人物は穏やかな笑顔を浮かべて教会に戻っていった。
大司教は教会内の自室に入り扉を閉めると、何事かを呟き、部屋の外に音が漏れないような結界を張る。
そしてその部屋にはいない、何者かとの会話を始める。
「
『はい、聞こえます。ホバンスは通常通りです。亜人種の侵攻は認められません。その他特段変わったこともありません』
「そうですか。こちらも動きはありません。本国からも追加の指令や“占い”も届いていません。明日も引き続き今のペースで定時連絡を行います」
『承知しました…漆黒の『占星千里』の予知では、数年以内に大災害が引き起こされるというものでしたよね?本当に場所はアベリオン丘陵なのでしょうか?』
「わかりません…ただ、聖王国周辺であることは間違いないようです。あなた様の故郷も“周辺”と言えなくもない。逸る気持ちは分かりますが、私も南の領域を含めて監視しております」
『分かっております…『隔世盟主』殿、神の血を目覚めさせた者である貴方を疑ってなど居りません。ただ、恐ろしいのです…予知では多くの命が失われると…。私のいるホバンスの子供たちがそのような目に遭わぬ様に…祈っているのです』
「同感でございます…同じ時期にリ・エスティーゼ王国でも天魔の戦いが起こると予知があります。あの国には私の高弟達が駐在していますが…同時にどれだけの命を守ることが出来るか…ですが我々はやるべきことを成すだけと考えております。番外様…
『その通りです…私たち輪廻の者は皆、
「お任せください。ですがそのような日が来ない事こそを、私は祈りたいです」
メッセージでのやり取りが終了し、エルフの女はもう一度祈りを捧げると、教えに従い健康的な睡眠時間確保のために眠りにつく。
彼女こそ、スレイン法国の輪廻聖典第二席次『万能精霊』のミューギ。
他の輪廻聖典の者同様、神に救われ列聖された者で、最も古株の隊員の一人である。
彼女の魔法力はそこまで高くはなかったが、200年近い月日の中で少しずつ研鑽を重ね、低位階ながらも様々な魔法を習得し、それらを適切に使用して多くの後輩たちの成長と国の安寧を見守ってきた。
数年前、後に漆黒聖典に配属されることとなる現『占星千里』により、ローブル聖王国とリ・エスティーゼ王国に大きな災禍が降りかかることが予知される。
これを受け、スレイン法国は各国へ輪廻聖典を含む強力な力を持つ隊員を教会の神父、シスターとして密かに配属。
特に多数の死者が出ると予言されたローブル聖王国には、自身、第二席次『万能精霊』と共に、第五席次『隔世盟主』が配置された。
第五席次は、現在の法国に3人しかいない、神の血を覚醒した者の一人である。
———彼女はまだ、自らが信ずる神と同等の力を持つ子供が聖王国に降り立っていることを知らない。
★はコミュ障なので、きっと友達になった者以外との会話は極力避けると思うんですよね。
なので、問題や迷惑ごとを起こすのは★なのですが、4章の物語は一見★から離れたところで進んでいきます。