オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「おい貴様、透明化するんじゃない!貴様が自分で交渉しろ!」
「…んだよ、うっせーな…」
バザーがこの会話をするのは3回目である。
ショータローは隙あれば透明化し、
バザーとしては、この者は恐らく自身より強いだろうと予想してはいるものの、一方でここまでコミュニケーションに難がありそうな者だとは考えていなかった。
すでにアベリオン丘陵北部の山脈に入り、
「お前知り合いなんだろー。だったら最初はお前が会話しろよ」
「最初は俺が会話するにしても、いきなり現れたら怪しい奴にしか見えないだろうが…せめて透明化はやめろ!」
「…っせーな」
バザーは王の誇りとか、そう言うのを通り越して、手のかかる子供の相手をしている気分になってきた。
ああ、そういえば三男は人見知りで幼いころは大変だったな…
6人の子供を育てている大家族のパパであるバザーは数年前の子育てのことを思い出していた。
「なんじゃバザ坊。人間なんぞ連れてきおって。奴隷との物々交換か?」
「ッチ…いい加減、昔のあだ名で呼ぶな。俺はもはや
「ほう…お前ら儂に用があるというのか。人間のガキに見えるが違うのかぁ?」
黒色に染まる皮膚の顔中に、深い皺を湛えた
ショータローは目線を合わせずに、面倒くさそうに答える。
「この山でブルーライトメタルとかシルバーメタルとか採れるのか?」
「なんじゃ、愛想のないガキじゃな…まあお前さんの言う通りじゃ。だがな、そういう金属は深部でしか採れんから、希少性は高い。深部には
「じゃあそれ取ってきてやるから、精製したインゴット俺にくれよ」
「ん…どういう事じゃ?」
バザーは深いため息をついて
「はぁ…ドゥエル、こいつは精製した金属インゴットが欲しいみたいだ。で、鉱石を取りに行ったり
ショータローは無言のまま頷く。
せめて仮面は取れよと思うが、今更だ。
バザーは呆れながら、通訳をして恩を売ることにした。
「そうは言うが、お前さん、
「あードゥエル…ちょっと来い」
「なんじゃバザ坊」
バザーは小声でドゥエルに伝える。
「認めたくはないが、コイツらは俺より強い。正直人間かどうかも怪しいから見た目通りに受け取らない方が良い…」
「な…なんじゃと…」
ドゥエルはバザーの言に驚愕の表情を浮かべる。
ドゥエルはバザーの強さも誇り高さも知っている。
“バザ坊”などと呼ぶが、それはドゥエルがバザーのことを子供のころから知っているからであり、また年齢もバザーの5倍以上は生きていて、彼の父もその父も知っている。
そのうえで、バザーはここ100年では間違いなく最も強い
その強く誇り高いバザーが、認める者。
ドゥエルは戦闘職ではないため、他人の強さというものが分からないのだが、バザーがそういうならば、それは正しいのだろう。
「バザー、お前さんの言う事は信じる…じゃが、この者とはどういう訳で知り合ったのじゃ?」
「…コイツは金属が欲しくて、どこかから俺がお前たち
「な…なんちゅう…」
ドゥエルは言葉を失う。
やっていることが無茶苦茶だ。
そして、この子供はその無茶苦茶を通す力があるという事なのだろう。
「お、お前さん、話は分かった。じゃが、さすがに2人じゃ人手が足りん。鉱床を掘る者、掘り出した鉱石を運ぶ者、あとはモンスターと闘う者。それに坑道は複数あるから最低でも30人くらいは必要じゃ。ここには儂含めて15人ほどしか鉱夫がおらんでな、このバザーにもそこまで多くは提供できておらんかったのじゃ」
「…じゃあ50人位いれば、どんどんインゴット作れるか?」
「ご…50?!いや、まあそうじゃな。もし仮に
「35レベルを50と、器用な作業ができるのが1体か…35となるとコアは流石にストーンじゃダメだな…しゃーねー、手持ちのインゴット消費するか…ちょっと待ってろ」
子供は何やらぶつぶつ言いだしたかと思うと、もう一人の全く喋らない子供を残して突然消失した。
「なっ!!」
ドゥエルは再び驚愕の表情を浮かべ、バザーも辺りを見渡すが、ショータローの姿はない。
バザーは、その場に残されたもう一人の子供に念のため聞いてみる。
「おい貴様…ショータローはどこへ行ったんだ?」
「家に帰っタ。素材を持ってくるヨ」
バザーは心の中で『うお、喋った!!』と驚いたが、それは声に出さず、それよりももっと驚愕の事実である、『転移魔法を使用した』という可能性に唖然とした。
そして5分ほど後に目の前に再び出現したショータローは、袋から明らかに袋の容量よりも多い金属インゴットを出した。
「なあ、お前、コアは俺のもの使うから、この辺の岩とか使っていいか?あと、せめて鉄とか無いか?」
「は…?え…?」
展開についていけていないドゥエルに、バザーは呆れを通り越した先の落ち着きでもって、自分の予想を解説する。
「はぁ…ドゥエルよ。おそらくコイツはお前が言った労働力になる存在を創造か召喚しようとしているように思う。そのための材料が欲しいのだろう。違うか?」
「そうだ、ゴーレムだ」
「…だそうだ」
ドゥエルもバザーの解説で、ショータローとやらの考えていることが何となく分かったので、とりあえずは了承の意を示す。
「あ…ああ、この辺りの岩は別に使って構わん。それと鉄じゃったか…お前さんが出したインゴットほど精製されたもんは在庫が無いが、銑鉄なら多少はある」
ドゥエルが在庫の銑鉄を運んでくると、ショータローはそれらを並べると袖をまくり何事かの呪文のようなものを唱えだした。
数時間後、そこには50体のバザーそっくりゴーレムが並んでいた。
「おい貴様…なぜ俺にそっくりのゴーレムを作った…」
「いや、お前くらいの強さのゴーレムってことでイメージしてたらお前そっくりになっちゃった。それにほら、こいつらは背中に通し番号入っているからお前とは見分けつくぞ」
ショータローの言う通り、バザーゴーレムの背中には“1”から“50”までの数字が入っている。
バザーは「そういう事じゃない…」と何か言いかけたが、ため息をついて言うのをやめた。
というか、バザーと同じ強さのゴーレムが50体というのが事実であれば、それだけでとんでもない戦力の部隊が完成したという事になるのだが。
「貴様…まあいい。ところでこのゴーレムとやらは、本当に皆俺と同じ強さなのか?」
「まあ、だいたいな。オレのゴーレムクリエイトスキルで強化したから35レベル位には達しているぞ」
「そうか…なあ、相談なのだが、お前が求める鉱石が手に入った後で良いから、このゴーレムを俺に貸してはくれないか?」
「はー?鉱石終わるまではぜってーダメだぞ。その後だったらいいけど、なんに使うんだよ?」
「うむ…まあとりあえずは将来的に貸してくれるというのであれば、条件や目的などはその時に相談しようではないか」
「まぁ、じゃあその時な、あ、それとこれから、このフェイク・バザーズを統率する指揮官ゴーレム創るけど、それは貸さねーからな」
「指揮官…?ああ、まあ良い。俺としてはこの50体でも十分すぎるくらいだ」
腰を抜かして呆然としているドゥエルの横で、ショータローは袋から新たに、闇色に輝く鉱石を取り出す。
これはユグドラシル時代に手に入れた希少金属の一つで、ショータローはこの希少金属『プルートーの闇石』でコーティングした60レベル越えの指揮官ゴーレムを作成することにしたのだ。
「にひひ…山羊の指揮官と言えば山羊の大悪魔だろー!」
さらに数時間をかけて作られたそのゴーレムは、シルクハットをかぶり、上等な闇色のマントを着た黒山羊の大悪魔。
「フェイク・ウルさん、完成!!」
ドゥエルにもバザーにも、ショータローが、何がそんなに嬉しいのかは良く分からないが、小躍りしながら作られたその山羊の悪魔のゴーレムは、明らかにとびぬけた強さを持っていることが感じられた。
「よーし、じゃあフェイク・ウルさん、まずはこの
「ああ、分かっタ。おい、
「ひっ…ひえっ!!」
「恐れるな
バザーは、ショータローが“指揮官”として作り出したゴーレムがあまりにも強いと感じながらも、『この悪魔のゴーレム、めっちゃ喋るな…』と少々現実逃避気味になっていた。
一通りドゥエルによる作業の説明が終わると、指揮官の悪魔ゴーレムは、50体のバザーゴーレムたちに役を割り振り、速やかに作業が開始される。
どこか遠い眼をしているバザー本人はともかく、なぜか尊大な喋り方をするあまりに強い悪魔のようなゴーレムとの会話をしていたドゥエルは疲れ切って座り込んでいる。
ショータローがゴーレム作成を始めてから、途中で2回の食事休憩を挟んだとはいえ、ストレスはマックスに達しているだろう。
「なあ、えっと、ドゥエルだっけ?」
「…な、なんじゃ」
「精製作業はもう一人いると早くなるって言ってたよな」
「あ、ああ、そうじゃが…」
「じゃあさ、オレの相棒のフェイク・ネイアに作業を教えてやってくれよ。こいつ凄く器用だから多分作業できると思うぞ」
そう言ってショータローは、仮面をかぶったもう一人の子供の肩を叩いた。
「おじいちゃン、よろしくネ」
「あ…ああ、よろしくな、儂はドゥエル・ブルースキンじゃ」
「私ハ、フェイク・ネイアだヨ」
ドゥエルはその仮面の子供が、先ほどのバザー軍団と比べてとても会話が通じそうだったので、少し安堵した表情になって挨拶をした。
まあ実際は、フェイク・ネイアもショータローがかなりこだわって作成したゴーレムであるから、フェイク・バザーズよりはだいぶ強いのだが…。
最終的に、ショータローは何日かおきに様子を見に来るという話となったので、ショータローとバザーは一旦帰ることになった。
「それじゃあ俺は一旦帰るぞ。貴様もついてこい。今後のことを少し話しておきたい」
「ああ、いいけど。じゃあ転移でいいよな?」
「は…?!いや…うむ、構わん」
「じゃあ、
景色は一瞬で変わり、先ほどまでいた
時間はほぼ半日以上経っていて、妻や子供たちはもう起きだして外に出て活動をしていたようでベッドルームには誰も居なかった。
相棒と言われていたフェイク・ネイアとやらが、『ショータローは家に帰った』と言っていたし、おそらくは転移魔法だろうとは思っていたが、改めて自身で体験すると、その無茶苦茶さが良く分かる。
仮に一瞬で敵の本拠地に侵入することが出来るのならば、もはや軍隊や戦略などは意味を成さない。
十傑の中にこの魔法を使えるものが居るだろうか。
可能性があるのは
という事は使えないと考えた方がいい。
そして先ほどショータローが作り出した50体の自身の分身たるゴーレム。
単純に考えて、十傑たる自身が50人いれば、他のどの十傑にも勝てるだろう。
コイツが忍び込んできた時、選択を誤らなくて本当に良かった…。
この者が目的である金属集めを終えた暁には、うまく交渉し、このアベリオン丘陵の統一王になる夢に向かって本格的に歩き出そう…。
バザーは明るい未来を夢見て、ともかくも今は目の前の、人間の子供の形をした得体のしれない化け物のような協力者と、友好な関係を継続していこうと考えるのだった。
「なあバザー、ところでさ、このアベリオン丘陵の中で金属の武具を使ったり、魔法のアイテムなんかを多用するような奴らって他にいる?」
★の中でバザーは現地人2人目の友達認定が出ました。