オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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★がアベリオン丘陵で本格的に暴れ始めます。


第4章 第12話 -アベリオン丘陵戦記の始まり-

 

 

バザーは考える。

アベリオン丘陵の統一王となるために障壁となっているのは何なのか。

それは自身と同じ、10人の実力者である十傑の存在である。

 

この中でバザーが特に警戒する者は3人。

 

まずは魔現人(マーギロス)のナスレネ・ベルト・キュール。

恐らくは丘陵の中で最も魔法の技量が高い者で、魔法的な攻撃手段が無いバザーにとっては、いくつかの防具で魔法防御を高めているとはいえ、未知の手段で攻撃されるかもしれないという懸念は常にある。

また、魔法的攻撃に対する防御の術を持たない部下たちにとっては天敵になる可能性が高い。

 

次に、蛇王(ナーガラージャ)のロケシュ。

奴の七色の鱗は非常に防御力が高く、おそらくは丘陵で最も堅牢な存在である。

配下もロケシュほどでは無いが、種族特性による高い防御力で、部下たちによる攻撃が十全に通るか疑わしい。

奴の武器である渇きの三叉槍(トライデン・オブ・デハイドレーション)は、命あるものすべてに対する致命的な攻撃特性を持ち、これも危険である。

 

最後に、石喰猿(ストーン・イーター)のハリシャ・アンカーラ。

悪知恵が働く頭脳と、魔法的な効果を持つと言われている黄金の装身具で、自身が得意とする剣撃が通じづらいと予想される。

攻撃手段は飲み込んだ原石を吐き出す投石で、飛び道具であること、また、バザーが得意とする武器破壊の対象にならない事でやはり不利な戦いを強いられる可能性が高い。

 

攻撃手段などのことも考えると、例えば獣身四足獣(ゾーオスティア)のムゥアー・プラクシャーの闇にまぎれた暗殺術も脅威なのだが、先の3者を特に警戒する理由は、彼らの性質にある。

恐らくは協力者として共に歩めない者…つまりは仮に協定を結んだとしても、種族の王としての誇りなど無く、平然と裏切りを選択すると予想される者たちなのだ。

 

バザーは『カルマ値』という概念を知らないので、この感覚は直感的なものであったが、この3者は真にカルマ値が悪側に大きく傾いている者たちだった。

 

 

そう言う訳でバザーは、アベリオン丘陵の統一を目指すならば、この3者はどうあっても排除しなければならないと考えている。

“統一”とは言ったが、他の6名とは何なら協定を結び分割統治であっても良いとさえ考えている。

もちろん自身を頂点として、他の者は部下として配すことが理想ではあるが。

 

なのでバザーは、この3名をどうにかして安全に排除したい。

そして、それはこの者、ショータローの力があれば容易ではないかと考える。

 

ショータローが求める『金属の武具』、『魔法のアイテム』。

3名の装備を教え、ショータローの興味を彼らに向かせるか…。

いや、それをするにしても、自身の真の目的を説明しないまま、うまい事利用(・・)するような真似はしない方が良い気がする…

これ程隔絶した力を持つ者の、どこにあるか分からない虎の尾は決して踏んではならないし、逆にしっかりと己の計画を説明し理解が得られれば、今以上に心強い存在になるかもしれない。

例の不可侵条約で、意味もなく攻撃をされることは無いと信じたいが、ただの不可侵と真の協力関係の間には大きな差がある。

 

バザーは現在の山羊人(バフォルク)においての統一王になる過程で経験した、かつての各群の代表者達との、時には武力だけではない交渉の記憶によって、慎重な判断を選ぶことが出来たのだ。

 

 

 

「ショータローよ、金属の武具や魔法のアイテムの説明をする前に、まずはこのアベリオン丘陵に住む者どもの説明と俺自身の目標について説明しなければならない」

 

 

***

 

 

 

「ふーん…お前めっちゃよく知ってるな」

 

「…まあ伊達に十傑の一角ではないからな。で、どうだ。俺のアベリオン丘陵統一王になるにあたって、先ほど説明した3名の排除に力を貸してはくれないか?」

 

「確認するけど、金属武器とか防具とかをお前たち以上に揃えてる奴らはいないんだよな」

 

「ああ、貴様に隠し事をすべきではないと判断したから正直に言うが、この丘陵内で我ら山羊人(バフォルク)以上に金属の武器防具をそろえている部族はいないだろう。そもそも鉱石加工技術を持つ闇小人(ダークドワーフ)と、我ら以上の頻度で交易をしている者は居ない。だから、貴様が求める金属の武器防具やマジックアイテムは、他の十傑が持つ特殊な防具や武器が主な入手先となるだろう。お前が求めるような量は得られないだろうが、その分特殊な効果を持つ物が手に入る可能性はある」

 

「ふーん、そっか…ちなみにさ、お前以外の、その十傑とかいう奴らの部下とかから防具とかを剥ぐのはOK?」

 

「先ほど言った3者は確実に敵対することになるからな。あいつらの部下はいいだろう。だが他の6名についてはまずは交渉して、協力ないしは部下になるというのなら止めてくれないか?」

 

「うーん…まあドゥエルが持ってくる分があるし、そんくらいはいいか。でも交渉はオレはしないからな」

 

「当たりまえだ。交渉するのはもちろん俺の仕事だ」

 

「おっけ。ならいいよ。ドゥエルの持ってくるのが楽しみだな!」

 

「…貴様、まさかとは思うが、ドゥエルが精製した金属、全て貰おうとか考えていないだろうな?」

 

「え?駄目なの?」

 

「当たり前だバカ!奴ら闇小人(ダークドワーフ)はそれで生計を立てているんだぞ!報酬もなく全て奪うというのは奴隷の扱いだ!俺だってちゃんと物々交換で購入していたんだぞ!!」

 

「そっかー…まあ確かにお前の言う通りだなー…でも俺この国の通貨とか持ってないぞ。人間の国の金なら少し持ってるけど、それでもいいかな?」

 

「はぁ……アベリオン丘陵の者は通貨など使用していない。まあ闇小人(ダークドワーフ)どもは興味を示すかもしれんから一応は見せてみるのもアリだな。それと…そうだな、お前が作ったゴーレムを今後労働力として何体か譲るというのはどうだ?それでも足りなければ俺が多少は援助してやる。それで、まあ採掘量の60~70%くらいを譲ってもらうというのが落としどころじゃないか?」

 

「6~7割かぁ…まあいっか。また頼めばいいんだしな。お前、さすが王サマだな!」

 

「黙れバカ!お前はもう少し常識というものを身につけろ!!…にしても何なのだお前は…俺の知る限り、貴様のような常識外れの強さを持つ人間はいなかった。貴様は本当に人間なのか?」

 

「…どーだろうな…今は多分人間なんじゃないのか?それにオレはガチビルドじゃないし弱い方だぞ」

 

「なんで自分のことが分かんないんだよ…というか貴様が弱いとしたら、どんな化け物がいるというのだ…以前俺は聖王国の兵士の人間と一騎打ちで戦ったことがあるが奴もなかなかの強さの人間だったのだと思うが、それでもお前のような常識外れでは無かったぞ」

 

「ん?そういえばお前、聖王国と戦争してるのか?」

 

「いや…戦争とは言えないな。我ら亜人は遥か昔より人間とは敵対してきたし、聖王国の人間どもも近づけば攻撃してくるから、基本的には出会ったら戦うという感じだ。さっき説明したように、現在はこのアベリオン丘陵内での派閥争いが活発だから、それを無視して人間の国に攻め入るという事を本気で考えている十傑はいないだろうな」

 

「ふーん…もし仮にお前がこのアベリオン丘陵を統一したら、その後は聖王国と戦争するのか?」

 

「ふむ…それは難しい質問だな…まず、俺たち山羊人(バフォルク)は特段人間を食料とはしていないし、仮に人間を捕まえても捕虜とか奴隷にするくらいだな。だが、他種族の一部では人間を好んで食料とする者もいる、そいつらにとっては人間の国に攻め入りたいという考えがあるだろうな。だから俺としては人間の国と戦争する理由は無いが、俺が仮に統一王となって、部下にそのような種族のものが居た場合は考える必要が出てくる」

 

「ちなみに人間を食料にする種族って何?」

 

「そうだな…好んで食うのは石喰猿(ストーンイーター)人食い大鬼(オーガ)、それに人食い大鬼(オーガ)の近縁の精霊大鬼(ウン)の種族か。好むわけではないが場合によっては人間も食べるのが、スラーシュ、刀鎧蟲(ブレイダー)蛇王(ナーガラージャ)獣身四足獣(ゾーオスティア)半人半獣(オルトロス)人蜘蛛(スパイダン)辺りか……やはり人間が食われることは許容できないか?正直なことを言うと、俺は貴様が人間であるというのはかなり疑っているがな」

 

「いや、聖王国にはオレの友達が一人いるからそいつに危害が及ばなければいいと思ったんだ。それに人間はたまに、とんでもなく強い奴もいるぞ。人間の国と戦争を始めた場合、いずれそういう奴が出てきて、お前がやられるかもしれないから、特に理由が無いんだったら戦争はやめた方がいいと思うぞ」

 

「そうか…まあ、考えておこう」

 

 

ショータローの言葉には、暗に『お前は友達だから、お前に危害が及ばない方がいい』という意図が込められていた。

それに気づいたバザーは、悪い気はしなかった。

 

とはいえ、人間に対しても山羊人(バフォルク)に対しても、特に偏見なく対応し、どちらとも友人となれる者。

いや、コミュニケーションにはかなり難があるようなので、種族とかの以前の問題はあるのだが、その様なショータローの態度を見るに、バザーはいよいよこの者が人間であることを強く疑うのだった。

 

 

「まあ良い。では、まずは石喰猿(ストーンイーター)のハリシャ・アンカーラの排除から始めようか。奴はアベリオン丘陵の北東の領域に住んでいる。先ほど説明したように、飲み込んだものを吐き出す攻撃を得意としていて、主に石を飛ばしてくるため、石が多く転がっている山岳地帯に隠れ住んでいるようだ。奴は特定の原石を食うと特殊能力を得ることが出来るらしいから、貴様が求める鉱物も持っているかもしれんな。まずは近くまで行き奴の部下の様子や、奴自身の隠れ家を探す必要があるだろう」

 

「なあ、そいつらってさ、透明化を見破る力持ってる奴いる?」

 

「…おそらくだが居ないだろうな。ハリシャ自身が特殊な原石の力でそのような能力を得ていれば可能性はあるが、奴らは基本的には魔法などは使わず物理的な攻撃を行う種族だ」

 

「だったらさ、透明化して飛行(フライ)で偵察すればいいんじゃね?」

 

「いや、貴様はそれができるかもしれんが、俺はそういった魔法は使えん」

 

「いや、透明化はお前に掛けるし、集団飛行(マス・フライ)で行けば一緒に行動できるぞ。オレは透明看破魔法使えるし、お前も看破できるみたいだからお互い透明化してても見えるだろ?」

 

「…貴様、やっぱり滅茶苦茶な奴だな…」

 

 

 

ショータローが『さっさと行こうぜ!』と急き立てるので、バザーはため息を一つつくと、兵士のテントへ向かい側近へ外出することを伝え、自身が留守の際の集落の守りを指示した。

 

部下たちはなぜか防具を纏っていない者も居たため、『あまり気を抜くんじゃないぞ』と念のため釘をさす。

何だか部下の目が泳いでいた気がしたが、そうこうしているうちもショータローがメッセージ(伝言)という魔法で、頭の中に話かけてきて『早く行こう』とうるさいので、ちょっとイライラしながら部下との会話をさっさと切り上げ出発した。

 

イライラが表に出てしまったのか、部下は少し青い顔をしていた。

悪いことをしてしまったと思ったので、戻ってきたら労ってやらねばと頭の中にメモをする。

 

高速で空を飛ぶ経験は初めてだったので正直非常に恐怖を感じたが、王の威厳を守るため何でもないというふりをして石喰猿(ストーンイーター)の棲む山岳地帯を目指すのだった。

 

 




おそらくヤルダバオトのような飛びぬけて強力な指導者が居ない場合は、十傑はお互い牽制しあっているので、聖王国とか人間国家に攻め込むというのは起こりづらい状況だったのではないかと妄想しています。

人間国家からすれば、なんか亜人増えてきてるし、めっちゃ強い奴もいるから攻め込まれるかもしれない!と常に戦々恐々でしょうが。
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