オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

84 / 133
久しぶりに人里に降りてきた★です


第4章 第16話 -悪しき者の胎動-

 

 

デボネの近くにあるログハウスの倉庫に、ドゥエルからもらったインゴットを仕舞った後、ショータローはいつものベッドに寝ころびながら、首から下げている十字架型のネックレスを握りしめてネイアに話しかけた。

 

『おーい、ネイアー』

 

 

ほとんど間を置かず、すぐにネイアから返信がある。

 

『ショータローくん?!大丈夫?!今どこに居るの?!』

 

『え、今家に居るけど、どうしたんだ慌てて』

 

『だって!昨日連絡したけど返信なかったし、アベリオン丘陵へ行くって言ってたから心配で…でも家ってことはデボネの森の中だよね?アベリオン丘陵は行かなかったんだね?』

 

『いや、アベリオン丘陵行って、色々遊んで帰ってきたとこだけど』

 

『あ、遊んで……?大丈夫だったの?』

 

『めっちゃ楽しかったぞ。なんか面白い奴がいっぱいいたし、闇小人(ダークドワーフ)の知り合い出来て金属のインゴットも結構手に入りそうだぜ』

 

『そ…そうなんだ…良く分からないけど無事ならよかった』

 

『あ、そういえばさ、アベリオン丘陵の遺跡(ナスレネの部屋)で即死耐性効果のある腕輪見つけたからお前にやるよ。オレ同じ効果のアイテム持ってるし』

 

『え…このネックレスも貰っちゃったし、悪いよ』

 

『別に気にすんなよ。てゆーかお前、即死耐性無いだろ?お前、バザーより弱いし、お前が持ってる方がいいと思うんだけど』

 

『ばざー?』

 

『ああ、めんごめんご。アベリオン丘陵でできた知り合いのこと。で、これ渡そうと思うんだけど、今から行っていい?』

 

『え…今からって…今デボネに居るんだよね?』

 

『ああ、転移(テレポーテーション)で行くから』

 

『て…てれぽーてーしょん?それって、魔法?』

 

『あ、なんだ。転移(テレポーテーション)知らないのか。そうそう、魔法。一回行った場所なら一瞬で移動できるから』

 

『え…?そんなことできるの?!……あ、でも今日はもう遅いし、この時間におうちの外に出るとお母さんに怒られちゃうから明日のが良いかな。明日は安息日で学校もお休みだし』

 

『じゃあ明日の朝、お前が住んでる街の広場に行くわ』

 

『うん、わかった。じゃあ明日の朝広場行くね』

 

『おっけー』

 

 

ネイアは、ショータローが言う魔法のことは、自身の想像の範囲を超えていたのでイマイチ信じることが出来なかったが、ともかくもショータローが無事だったことに安心し、そして明日、久しぶりに友達と遊べるという事に心を躍らせた。

 

父親が単身赴任中のバラハ家では、当然ネイアの母が家事を切り盛りをしている。

彼女は、夫が九色の黒を給わり、この国における重要な役職に就いたことと、それにより任務により家を空けることが多くなってきたことから、そろそろ聖騎士団を退職しようかと考えていた。

 

娘も成長してきて、そろそろ思春期、そして反抗期が始まるかもしれない。

そのタイミングで両親とも家を空けることが多くなっては、精神面での成長に問題をきたすかもしれないとの懸念による考えだ。

 

娘は、夫の外見、特に目元の特徴を強く受け継ぎ、非常に鋭い眼差しをしている。

精神面は非常に純粋で素直な子なのだが、この外見によって友達があまりできないことも理解している。

当然、夫のことは強く愛しているので、彼女としては娘の外見が夫に似ていることは嬉しいことなのだが、同時に外見的特徴が原因で友達ができないというのも可哀そうだと考えていた。

 

しかし、ここ最近、娘は以前と比べて明確に明るくなったし、笑顔の時間が増えた。

それとなく娘の学校の教師や隣接する大聖殿の方々などに聞いてみたところ、子供達のことをよく見ているミューギ司祭から、最近娘に友達が出来たという事を教えられた。

 

『なるほど』と思ったと同時に、物心がついて以来初めて出来たと思われる娘の友だちというのに少し興味が出てきた。

司祭の話では、魔法の才能に恵まれていると思われる少年で、どうやら学校に通っている子ではないらしい。

 

娘の様子を見るに、友達に対する感情は“親愛”であって“恋愛”ではないと感じている。

もちろん娘の気持ちが後者となった場合であっても、母としては娘を応援するつもりではある。

ただ現時点においても、愛する夫が『娘に男友達が出来た』という事実だけを知った場合、過剰な親心から何かしでかしそうだと考えているため、少なくとも夫より先にその友達に会っておいた方が良いと考えたのだ。

ちなみに、その友達が“悪”に属するものでないことも確認しておきたい。

 

そう言ったことを考えていた矢先、娘はいつの間にか見慣れぬネックレスをするようになった。

性格的に、ネイアがアクセサリーを好んでつける子ではないことを知っている彼女は、ピンときた。

『これは、例の友達から貰ったのだ』と。

 

聖騎士であるネイアの母から見て、そのネックレスは強い“聖”の気配が感じられた。

 

ロザリオというのは、この世界では本来聖なる形の象徴ではないのだが、これはこのアイテムの効果によるところが大きい。

 

このロザリオ型のネックレスは聖遺物(レガシー)級アイテム。

カルマ値“善”の者しか装着できず、装着しているお互いのアバターの顔を知らなければならず、さらに使用時は握った状態でなければならない、これらの条件の下で、装着している者同士が1日に5回まで通信ができるというユグドラシル的にはちょっと微妙なアイテムだった。

ぬーぼーもるし★ふぁーも、魔法やスキル構成的な意味でカルマ値は善側だったので使用できたが、比較的悪側のカルマ値を持つ者が多いAOGではとても限定された条件でのみ使用していた。

 

そう言う訳で、コンセプト的に“善”であり、しかも現地では破格なクラスのアイテムなので、聖騎士の感覚的には何かしら引っかかるところがあったのだ。

 

だが余り直接的に聞くわけにもいかず、それとなく見守っていたが、その日、夕食の席でネイアが唐突に聞いてきたのだ。

 

 

「お母さん、明日友達と遊ぶ約束をしたから、朝ごはん食べたら出かけてもいい?」

 

 

ネイアの母は、とても好都合だと思った。

もし仮にこの場に夫が居た場合、きっとこう言うだろう。

 

『そうか!ネイアにも友達が出来たか!!よし、じゃあお父さんも一緒に行こう!ちなみに友達はどんな子だ?まさか男の子じゃないだろうな?』

 

デリカシーの欠片も無く、全てを台無しにする最愛の夫の幻影を振り払い、彼女は娘へ優しく返事する。

 

 

「ええ。気を付けて、街の外には出ないようにね。お昼ご飯はどうするの?もし迷惑でなければお友達の分も用意しておきますから、うちへ来てもらってもいいわよ?」

 

「うん。お母さん、ありがとう。でもどうだろう…すごく人見知りの子だから、うちに来るのは嫌がるかもしれない」

 

「そうなの。無理にとは言わないから、もしお友達が大丈夫そうだったら、連れてきなさいね。お友達のお名前は何て言うの?」

 

「えっと、ショータローくん」

 

「ショータロー…あまり聞かない名前ね。外国のご出身なのかしら?」

 

「えっと…良く分からない。もしかしたら前にお母さんに教えてもらった孤児なのかなって思って、ちゃんと聞いていないの。一人で住んでるみたいだったし」

 

「そうなんだ…ホバンスに住んでるの?」

 

「えっと…デボネの近くに住んでるみたい」

 

「え?デボネ?じゃあショータローくんは今はホバンスまで来ているの?」

 

「あ、えーと…よく分からないけど、てれぽーてーしょんっていう魔法ですぐにホバンスまで来られるんだって」

 

転移(テレポーテーション)…!!まさか…それほどの魔法…」

 

 

ネイアは、呆然とする母の様子を見て少し焦った。

自分には理由が良く分からないが、魔法のことは言わない方が良かったかもしれない。

何となくお父さんに言うのは止めた方がいい気がしていたが、お母さんなら大丈夫と考えてしまっていたのだ。

勝手にショータローくんのことを言ってしまったことで、ショータローくんに嫌われてしまうかもしれない。

 

そう考えたネイアは、涙目になって母に懇願する。

 

 

「おっ…お母さん!あの、ショータローくんのことは、お願いだから他の人に言わないで…!」

 

 

ネイアの母は、軽い気持ちで聞いた娘の友達が第5位階魔法を使えるかもしれないという事実に驚愕をしたが、同時に娘の様子からも、このことは気づかないフリをしてあげるべきだったと反省した。

 

仮にショータローという子が本当に第5位階魔法を行使できるとして、おそらくはその事実は秘匿していて、友達のネイアにだけこっそり教えたのだろうし、その事実を自分が広げてしまえば、ショータローくんはネイアに裏切られたと感じて、娘は友達を失ってしまうかもしれない。

 

だが一方で、それほど強い力を持つかもしれない者、悪しき者でないかだけは確認しなければならないと考えた。

 

 

「うん、だいじょうぶよ、ネイア。誰にも言わないわ。でもね、転移(テレポーテーション)という魔法は誰にでも使えるものではなくて、そのショータローくんは友達のネイアだけにこっそり教えてくれたのかもしれないから、今後は他の人には言わない方がいいわ」

 

ネイアは滲んでいた涙を拭きながら、首を何度も縦に振る。

 

「それと、そのネックレス、もしかしてショータローくんから貰ったの?」

 

「えっ…!あの…うん」

 

「やっぱりそうなのね。それについては、ちゃんとお礼を言わないといけないから、明日、お昼の時でもいつでもいいから一回だけお母さんに会わせてもらっていい?」

 

「う…わかった。がんばってみる」

 

 

ネイアの反応から、ショータローという子はよっぽど人見知りなのか、あるいは強力な魔法を行使できると言う理由から極端に他人との接触を避けているのかもしれない。

仮に本当に第5位階を行使できるとなると、魔法的実力は聖騎士である自分は元より、この国の最高峰であるケラルト神官団団長すら超えている可能性もある。

 

色々な意味で慎重に接触しなければいけないと、小さく決意するのだった。

 

 

 

 

 

バラハ家でそのような会話が繰り広げられているとは露知らず、ショータローは久しぶりに人間の国に来たことと、懐(金属ストック)が暖かくなっていたことで、透明化状態で南部の街々に転移しては、街中に悪戯を仕掛けていた。

 

特に領主の屋敷に忍び込んでマジックアイテムを失敬した街については悪質なトラップを仕掛けている。

例えば、屋敷から盗んだ貴金属の装飾品を、街中に飾られている像などに持たせ、その像をゴーレム化する。

そして、その装飾品に触れた者に何らかの悪戯を仕掛けるというものだ。

 

後に、館から盗まれた装飾品のブレスレットが屋敷前の石像にはめられていることに気づいた衛士がその石像に触れた瞬間、魔法の染料(マジック・ダイズ)をぶっかけられて全身ピンク色に染色されたり、あるいはネックレスに触れたある領主は石像に捕まえられて、また屋敷中の廊下を走り回るという、トラウマになっていることをされたりと散々だった。

 

街中にも、噴水像や門のオブジェなど、至る所にある像にゴーレム化が施されていて、ポイ捨て、落書き、唾吐き、像への攻撃などの迷惑行為を働いたものには様々な報復行為が為される。

 

ショータローが満足してデボネ近くのログハウスに戻ったのち、深夜にとあるゴーレムの前でポイ捨てをした男が居た。

 

瞬間、男の死角でその像の目が赤く光り、音もなく近づくと、石像は男を掴んで噴水の中に放り投げる。

着水する瞬間、男の耳には確かに何者かの声が聞こえた。

 

『ポイ捨てする者、己がポイ捨てされることで罪を知るが良い!これは治安維持のための制裁である!!』

 

 

訳も分からずにずぶ濡れになった男は、アジトに戻ってくる。

 

 

「おい、お前、何サボって…ってなんでずぶ濡れなんだい?!」

 

「す…すんません…おいらにも何が何だか…噴水に落ちちまったみたいで…」

 

「はぁ…全く…街から離れた村々に畑も作らせ終わったし、明日には帰るんだよ。せっかくここまで上手くいってるのに、変に目立つようなことはしないでおくれよ」

 

「すんません、ヒルマ様すぐに片づけ再開します」

 

「ちゃんと明日の朝には出発できるように準備しておくんだよ」

 

「へい」

 

 

翌日の朝、『シュグネウス商会』の馬車は逗留していた街を出発し、何週間かかけて彼らの本拠地であるリ・エスティーゼ王国に戻ることとなる。

聖王国南部に、何人かの配下と、多くの畑を残して。

 

この時期、ヒルマ・シュグネウスは、リ・エスティーゼ王国の他、近隣の人間国家、時にローブル聖王国とバハルス帝国に自身の手を伸ばし始めていたのだった。

 

帝国に蒔いた種は大きく育たなかった。

これはこの時期、帝国の影に潜んでいた規格外の存在が、表の世界に見える形で強力な魔法詠唱者(マジック・キャスター)を育て、その過程で不純物が入り込む可能性を潰したから。

 

だが、聖王国南部は違った。

王国ほどでは無いが貴族による腐敗と平和ボケにより、ヒルマの目論見は少しずつ実を結んでいき、後に訪れる国の大混乱によって不安に駆られた弱い国民たちは、その甘美な毒に少しずつ侵されていく。

 

 




★編は聖王国の話とアベリオン丘陵の話を同時にする必要があるので、ちょっと他より長くなるかもです。
各章は20話前後のつもりで考えているので、あまり長々とならない様に気を付けて書いていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。