オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

85 / 133
★がバラハ家にご訪問です。
パベルさんが居たら大変なことになっていたでしょう…


第4章 第17話 -バラハ家ご訪問-

 

 

ショータローは夜が明ける前にホバンスに転移してきた。

現在彼は透明化状態で街中に悪戯ゴーレムを仕掛けている。

 

ネイアから得た情報で、大聖殿や学校とやらには透明化を見破れる司祭がいるらしいという事と、王城には透明化は見破る者が複数いた記憶があるので、そう言った建物には近づかずに、街中の石像のみを対象にしている。

 

ホバンスは首都だけあって広く栄えていて、公園などの公共施設も複数ある。

前回ネイアに案内してもらった時に大体の狙いは定めていて、噴水像や公園の門についている小さな像、あるいは公共施設の建物の外にある像などが対象となっている。

 

日が昇る前は人は歩いていなかったが、夜明けが近づくにつれて職務上早起きの者たちがチラホラ見え始めたので、ショータローはその時点で切り上げて、約束の広場のベンチに座った。

 

特にすることも無いので3時間程ぼんやりしていたところ、ネイアが広場にやってきた。

ショータローは透明化しているので、ネイアは彼を見つけられず、辺りをキョロキョロしている。

 

前回フェイク・ネイアを使って驚かせたら思いのほか大声を上げたので、今回人通りは少ないとはいえ街中で驚かせるのは止めとくかと思い、透明化のまま近づいて声をかけた。

 

 

「ネイアー」

 

「しょ、ショータローくん?どこ?」

 

「目の前に居るけど透明化してっから。右手を出して」

 

「え、はい」

 

 

するとネイアの右手に、いつだかの透明化看破効果のあるネックレスが乗っけられた。

 

 

「えっと、これ使えってこと?」

 

「そうそう」

 

 

ネイアがネックレスを首に掛けると目の前にはショータローが確かに居た。

 

 

「あれ?お前、“伝言のロザリオ”したままだよな?」

 

「え?ろざりお?」

 

「あーその、伝言(メッセージ)使える十字架のネックレスのこと」

 

「あ、これ?うん、したままだよ」

 

 

ネイアの首には2つのネックレスがかけられている。

ショータローは目を丸くした。

少なくとも自分自身は、ネックレスという装備を2つ同時に使用することが出来なかった。

だが、目の前のネイアはロザリオを首にかけたまま、透明看破のネックレスを首にかけ、その効果は発揮されているように見える。

 

 

「…えっと、どうしたの?十字架の方、返した方がいい?」

 

「いや、別にいーよ。お前2個同時にネックレス使えるんだな。ま、いーか」

 

「??」

 

 

ショータローは現在、別段何かを警戒しているわけでもないし、子供の思考パターンであったことも相まって、『この世界の人間は装備を重ね着できる』という事について深く考えることはしなかった。

 

 

「あ、そうそう。これもやる」

 

 

ショータローはそう言うと、突然その手の中に金属の輪のようなものを4個出現させた。

ネイアには、ショータローがそれをどこから出したか見えなかった。

 

 

「これ、アイテムの名前は良く分かんないんだけど、調べたら即死魔法に対しての耐性を上げる装備みたいで、同時に複数装備すればその分だけ耐性上がるっぽいんだよね。両手首両足首につければ良い感じかなって思うぞ。あ、ちなみに透明看破のネックレスはわりーけど返してな。それ、意外と使えるんだよ。俺は使わないけど、一緒に潜入する奴に持たせると便利だから」

 

「えっ…これなんかすごいアイテムなんじゃないの?!さすがに貰えないよ…」

 

「えーでも俺持ってても意味ないし、俺の知り合いで一番魔法耐性が低いのお前だからつけてた方がいいと思うんだけど」

 

「こっ…この十字架のネックレスも貰っちゃって、お母さんがこれをくれた人にお礼を言いたいって言ってるの。どっちにしても、一回お母さんにショータローくんのこと紹介してもいい?」

 

「えー………めんどい…」

 

「はー…」

 

 

ネイアは、ショータローの予想通りの反応にため息が出た。

でも、すでにお母さんには十字架のことはバレているし、今回ちゃんとお母さんに紹介すれば、今後はこんなふうにこっそりとではなく遊べるかもしれないので、少し頑張ってみることにした。

 

 

「えっとね、私のお母さん聖騎士なんだけど、誰かに親切にしてもらったり、何かを貰ったりしたら、ちゃんとお礼を言わないとダメって言うんだ。私は最初の森でショータローくんに助けてもらったし、ネックレスも貰って、その、ちゃんとお礼が出来てるか分からないけど、一回お母さんにちゃんと紹介すれば、これからはショータローくんのこと家に呼べるし、一緒にご飯とか食べることも出来るから、その、今回だけは駄目かな…?」

 

 

言っている自分でも、結局何を言いたいのか分からないような言葉だった。

ネイア自身、コミュニケーションが得意な方ではなかったので、しょうがないことなのだが、それでもネイア的には精いっぱい説明したつもりだった。

 

見るとショータローは、少しだけキョトンとしたような顔をして何事か考えている。

 

ショータローの脳裏に浮かんだのは、在りし日の仲間との会話。

確か、そうだ。

何人かで世界征服しようぜなんて話をした後、ばりあぶる・たりすまんと2人で話したのだった。

 

“世界征服”の話をした後、ウルベルトとベルリバーは、何とも言えない雰囲気だった。

うまく言えないが、“世界征服”という冗談が冗談ではないような、それでいて何処か諦めのような雰囲気。

 

ライトゲーマーだった、ばりあぶる・たりすまんには文字通り“世界征服”は冗談だったのだろう。

その感性は自分自身も同じで、その感覚がウルベルト達とは何となく違う事を感じて、2名でその後の他愛もない会話をしたのだ。

 

 

「はー…にしても仕事ツラ。俺さ、明日から残業確定で1週間くらいログインできねーのよ。るし★ふぁーさんは、最近どうよ?」

 

「んーまあ同じ感じかな。1週間何するの?」

 

「上司と一緒に缶詰めでデータ処理だよ。超つまんないの。その間ずっと上司と一緒に飯食うんだよ?別に飯なんか旨くないけどさ、飯の時間くらい一人で居たいって思うじゃん?」

 

「…そーだね」

 

 

るし★ふぁーは、AOGのメンバーに自身のプライベートを喋ったことは無かった。

だから当然ばりあぶる・たりすまんも、るし★ふぁーがアーコロジー内に住んでいる所謂エリートで、食事などは比較的上質なものを食べていることを知らない。

 

だから、るし★ふぁーと、ばりあぶる・たりすまんの間に、食事に対する認識のズレがあることを、るし★ふぁーは敢えて喋らない。

 

るし★ふぁーも食事は1人で食べるものであった。

だがそれは彼が望んだことではなく、彼の家庭がそういうものだったからだ。

別に家族仲が悪いわけではないし、彼が疎まれていた訳でもない。

 

だが家庭は、優秀な兄を中心に周っていたし、兄や両親が忙しくて時間が取れないから食事は別々だっただけのこと。

芸術家として誰よりも鋭い感覚を持っていた、るし★ふぁーは、そのことを少しだけ残念に感じることが出来たし、食事という本来欲求を満たす行為の方法、例えば誰かと食事を共にすると言ったバリエーションが広がれば、自身の創作活動はもっと幅を持つことが出来たのではないだろうかと考えた日があった。

 

結局AOGの一員であった頃のるし★ふぁーは、当たり前の様に一人で食事をし、そして食事というものに興味を失っていた。

 

それはこの世界に来てからも同じで、念願の子供の姿になって感性を取り戻した後も、いつか考えた食事のバリエーションなど忘れて、ほとんどの場合飲食無効の装備を使用していたのだった。

 

 

 

「…オレ、あんまり食事の仕方とか分かんないけど、大丈夫かな?」

 

 

 

ショータローの言葉に、ネイアは自身の気持ちが届いたのかもしれないと感じて嬉しくなった。

その顔は、嬉しさの余り目をさらに細めて笑い、悪鬼羅刹のごときものとなっていたが、ショータローは、そう言ったことは特に感じない変わり者であったため、そのネイアの表情を怖がる素振りは一切なかった。

 

 

 

***

 

 

 

「あなたが、ショータロー君ね。私はネイアの母です。娘のお友達になってくれてありがとう。それと、そのネックレス、あなたがネイアにプレゼントしてくれたのだと聞きました。本当はそのような高価そうな物、受けっとってはいけないと思うのですが、ネイアはとても気に入っているみたいなので、ありがたく頂きたいと思います。でもその代わり、これからはいつでも…いえ、ネイアのお父さんが居ないときならばいつでも家に遊びに来て良いからね。とりあえず今日はお昼ご飯は食べていってね」

 

「…どもっス」

 

 

人見知り100レベルのショータローは、ネイア母とは全く視線を合わせず、最小限の言葉で会話をしている。

だが、ネイア母は、ショータローのことは“悪”の存在ではなく、また、人見知りが強い子だという事も聞いていたので暖かい眼差しで見ている。

ネイアの目つきのことについては一切気にしていないという点も、ネイア母的には高得点だった。

 

また、その子供は“悪”どころか、信じられないほどの“聖”の気配がするのだ。

 

彼女は聖騎士として、非常に高い地位にあるわけではない。

だが彼女自身の元々の性質と、聖騎士として培った経験から、ある程度相対する者の性質を感知できることが出来る。

これはスキルではなく、直感だ。

…そうでなければ、あの悪鬼羅刹のごとき大殺戮者顔の男の顔を恐れずに、その優しく家族想いな本質を見抜くことなど出来なかっただろうから。

 

ネイアの友達は、黒目黒髪で、ネイアとほとんど同じか少し上程度の年齢。

服装は、聖王国ではあまり見慣れない、動きやすそうな服。

しいて言うなら“藍”のご婦人のような芸術家が好む作業着のような印象だ。

そして気のせいでなければ、その服は外見に反し、高い魔法的な力を感じる。

 

彼女が想像したショータローの経歴は以下の通り。

 

外見から、少なくとも出身は聖王国でなく、おそらく南部の出身。

親が居ないことから孤児なのは確実。

一方で非常に高度な魔法が込められた装備やアイテムを持ち、娘の話が事実であるならば高い魔法力を持つ。

 

これらから、元々住んでいた国で何らかの災禍に見舞われ孤児となったが、高い魔法力と親族から受け継いだ魔法のアイテムによって生きるのには問題が無かった。

恐らくはその災禍により、転移で遠く離れた見知らぬ地に逃げのび、孤独に隠れ住んでいる…。

こういった経験が、彼の人見知りの性質の原因であることは容易に想像がつく。

 

“聖”の気配の源は分からない。

もしかしたら、彼のご両親は非常に高位の神官等だったため、彼もその性質を受け継いでいるのかもしれない。

 

 

「ショータローくん、あのね、今まで私、ショータローくんのこと誰にも言わない方がいい気がしていたから、最初にショータローくんに助けてもらったこと、お母さんにも言ってなかったの。その、最初に助けてもらったこと、言ってもいいよね」

 

 

ネイアが思い出したようにそう言うと、ショータローはバラハ母娘から目線を外したまま、小さく頷いた気がした。

 

それを確認するとネイアは、母に最初の出会いを説明する。

本人に確認せずにショータローの力のことなどを詳細に説明すべきでないと考えたネイアは、ゴーレムのことは直接的には言わずに『魔法的な力で』助けられたと説明した。

 

その説明にネイアの母は驚愕するとともに、やはり自分の直感は正しかったと確信し、ショータローに何度も頭を下げた。

 

それ以降ショータローは、ホバンスに訪れる際はバラハ家へ足を運び何度か食事を共にするようになった。

リアルでは殆ど経験できなかった、『誰かと食事をする』という行為は彼の感性に確かに影響を与えた。

 

ショータローは初めて、1000年以上前の宗教画にすら、食事の描写があったことの意味を、感覚的に理解することが出来た。

そして、ここに来て初めて転移後世界でのまともな食事を経験し、その味が元のリアルよりもはるかに美味であることを知ることになる。

 

とはいえ、この善性の出会いによって彼の悪戯が減ったかと言えば、それは無かったが。

 

 

 

 

 

アベリオン丘陵では、バザーが新たに増えた部下を統率し、今後、多くの他部族と共存するための方策を必死に考えている。

 

澄んだ目をしたナスレネは、バザーに魔法的な観点からの助言をし、丘陵内に居る他の部族についてどのようにアプローチしていくべきか議論を重ねている。

 

時々、空に向かって祈るナスレネを見て、バザーは若干の気持ち悪さを覚えつつも、彼女のおかげで魔現人(マーギロス)と明らかに協力的な関係を築けそうなことを喜ばしく感じている。

 

丘陵の中でも大きな力を持つ3つの種族が手を組んだことは、少しずつ他の種族へも広がっていく。

 

この変化を訝しむ者、歓迎する者、危機を覚える者、そして、これを好機ととらえる者。

 

アベリオン丘陵の勢力図は変遷の時を迎えている。

 

その変化は、やがてローブル聖王国にも影響を及ぼし始める。

 

 




私の勝手な★の解釈です。

コミュ障だけど、気を許せそうな友達認定の人には悪戯を仕掛ける。
これは幼少期、自分の気持ちを外に出せない孤独な環境だったのでは、と思いました。

また、芸術的センスは一流という事ですが、あのディストピア世界で、一般人が芸術センスを磨くような余裕はないと考え、アーコロジー内のエリートかつ、書いたような内容の職業・家族設定としました。

フレンドリーファイア解禁などの想定は流石になかったでしょうから、風呂場ゴーレムは大問題になりましたが、本来は大事になることは無かったはずなので、本質はかまってちゃんだけど悪寄りではないと感じました。

★は余り情報無いので妄想100%なのですが、実は背景には結構ドラマがあるかも…なんて考えて降り立っていただく御方に選びました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。