オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
なんか花粉飛んでますよね?
めっちゃ目がかゆいです。
『…ショータローくん』
その日、珍しくネイア側から連絡が来た。
ネイアからすれば、最後にショータローに会ってから1年以上の時間が経過していた。
この1年半でネイアは多くのことを学んだ。
主に学校では、魔法についての知識を修め、時にはミューギ司祭に質問をし、ショータローが行使していた魔法がいかに高位のものであったかを、少しだけ理解することが出来た。
亜人族の侵攻以来、父も母も忙しく働き、父は単身赴任で家を空けることが以前にも増して多くなり、母もホバンスを離れることは無かったが、聖騎士として都市の守りを担っていた。
ロイツには、ショータローと遊びに行った日以来、訪れていない。
顔を知っている人が殺されて食われたという事実に心がざわつくのもそうだし、あれ以来ロイツの治安は急速に悪化し、南部から流入してしまったという麻薬の中毒者が増えて昼間でも裏路地は危ないという事から、わざわざ行くことが無くなったというのもある。
そして今まで、はっきりとは聞いていなかったが、ロイツの襲撃においてショータローは何らかの働きをした。
これは、ロイツの事件の後1か月ほどしたときに、母から聞いたのだ。
母は今まで以上に真剣な表情でネイアに尋ねた。
ショータローが次、いつ遊びに来るのかと。
そして、場合によってはこの国に勤める聖騎士して、彼と話をしなければいけないと。
母の話ではショータローくんはとても強い力を持っていて、その力を国民を守るために使った可能性がある。
そしてその力はこの国の未来のために必要であるとのこと。
まだ、聖騎士団には報告をしていないが、次回ショータローくんと話をして、それが確認出来たら、正式に報告をする必要があるかもしれないと。
母の真剣な言葉に、ネイアは悩んだ末、『次に遊びに来た時に、私から確認して、ショータローくんが賛成してくれたらお母さんと話すようにお願いする』と答えた。
ネイアの母はそれを許可した。
ショータローの性格上、無理に迫れば逃げてしまう気がする。
何度かの訪問で、ネイアの母にはだいぶ慣れて、顔を見て喋る様にはなったが、知らない大人に対しては相変わらずの人見知りの様だった。
このタイミングで、もうすでにショータローはただの『ネイアの友達』ではない可能性が高くなったので、ネイアの母はショータローの件をパベルにも共有する。
単身赴任から一時帰宅したある日、夕食の家族団欒の席でネイアの母はパベルに、自身が知る『ショータロー』の人物像を語る。
始めパベルは、娘に男の子の友達が出来たという事実に、パベルらしい反応を見せたが、話が進むにつれてその顔は真剣な殺人者のものになっていった。
そして、自身が砦での戦いで目撃した仮面の子供の姿と、ネイアと妻が語る人物像がほぼ一致していることを認め、この件がただの娘の友達についての話ではないことを正確に理解した。
「基本的には賛成だ…だが、仮面の子供の件は弓兵隊にも指示が出ている。見つけ次第すぐに報告をすることになっているから、ネイアを通じてそのショータローという子供を説得するまで報告をしないというのは命令違反になるのではないか?」
「ええ、分かっています。ですがこれは、この国の未来を切り開くための選択です。そしてそれ以上に、接触の仕方を間違えれば、ネイアは友達を失う事にも成りかねません。聖騎士である以前に母として、これは譲れません。何か文句がありますか?」
「いや…全く無い」
そう言う訳で、バラハ家におけるショータローへの対応は決定したのだった。
しかしそこから、1年以上の時間が流れる。
ショータローはまるでバラハ家での話を知っているかのように、ぱったりと遊びには来なくなってしまった。
勿論関係が切れてしまったわけではなく、それどころかネイアとの
もうすぐ13歳になるネイアは、その心も大きく成長させている最中である。
身近な人間と言えば、両親と聖殿のミューギ司祭、そして友達のショータローくらいである。
両親は誇れる存在だ。
母は聖騎士として働き、母親としてもネイアを優しく、時に厳しく見守ってくれる。
母は間違いなく、将来なりたい姿の一つだ。
父はこの国の最高峰の九色に数えられ、たくさんの部下に信頼され、多くの戦場を生き抜いている歴戦の弓兵だ。
家ではちょっと暑苦しいけど、自分のことを大切に思ってくれていることはちゃんと理解している。
ミューギ司祭は、自分に友達が居なかったころから、一人の人間として優しく接してくれる存在で、ネイアは彼女から多くのことを学んだ。
普段の様子からは分からないが、魔法に関する知識は非常に高く、おそらくはとても強い大聖殿の守護者なのだろう。
そしてショータローくん。
はじめての友達で大切な存在。
ショータローとの出会いで、ネイアは以前ほど自分の目つきにコンプレックスを抱かなくなった。
時々ハチャメチャなことをするけど、私のことをいつも気にかけていてくれていることを知っている。
そして詳しくは分からないけれど、ショータローくんはこの国にとっても重要と言えるような力を持っていて、おそらくはロイツを救った人なのだ。
ネイアは悩む。
自分だけが弱いままだ。
自分はまだまともに魔法を使うこともできないし、お母さんみたいに剣を振ることもできないし、お父さんみたいに弓を放つこともできない。
いつかお父さんは、私にも
お母さんも、お父さんも、ミューギ司祭様も、そしてショータローくんも正義なのだ。
自分の力で、自分の大切なものを守れる正義なのだ。
私だけが弱いままだ。
私はまだ、大切な人を守れる力を持っていない…
少しずつ乱れていく国に対する不安と、成長できていないと感じてしまう思春期の不安定な精神が、ネイアを少しだけ動かす。
ネイアは、ショータローと会いたいと思ってロザリオを握りしめたのだ。
一方ショータローはというと、ロケシュ達
バザーやネイアの様な友達が無事でいて欲しいという気持ちだけは少なくとも間違いではないという気持ちにより、彼らに会いに行ってはいないのだが、こっそり近くまで行き大幅に強化した護衛のゴーレムをこっそり設置している。
例えばネイア宅の周囲にある
このスタチューはネイア及びネイアの家族を守るように命令されていて、場合によっては殺傷命令も許可されている。
バザーに貸しているフェイク・バザーズのうち40~42番の3体は防御力と攻撃力がアップデートされていて、バザー自身がダメージを受けたのを確認すると優先的にバザーを守り敵を倒す仕様になっている。
正直なところ、バザーは元々35レベル程あるのでそこまで心配していないが、ネイアについては5レベル有るか無いか程度なので、ショータローはロケシュから奪った魔法鎧に、その鱗を使用した改造を施してネイア専用の防具を作っているが、これは本職ではないためかなり苦戦していた。
また種族に関する悩みから、ネイアにとってもバザーにとっても遠い存在として考えられている異形種である天使の本性には戻りたくないという気持ちが芽生えていた。
そのためここ1年以上、ショータローは人間形態のまま過ごしている。
そんな中で、ネイアから
彼はネイアの会いたいという言葉を受け入れる。
ちょうどネイア専用の防具を渡したいと思っていたからである。
ショータローの提案で、ネイアはデボネ近郊の森の中にあるログハウスで話をすることにした。
この場所は、ゴーレムの獣による見張りを強化していることで、今のところ誰も近づく様子はなく、安全であると考えていたからである。
学校のない日の朝、ネイアが母に持たされた2人分のお弁当を持ちホバンスの広場で待っていると、何もない空間から声がした。
ネイアは、その透明な存在に手を引かれ、
そのアトリエと言える場所には、以前にはなかった像や家具が多数増えていた。
家の広さも広がっている気がする。
そこで姿を現したショータローは、自分と同じように前の記憶と比べて少し成長しているような気がした。
「椅子作ったから、座れよ」
「うん、ありがとう」
いつもの
しばらくの沈黙の時間の中、ネイアは頭の中のどの言葉を口にすればいいのか迷っていた。
「あ、えっと。にゃんか久しぶりだね。」
噛んだ…。
ネイアは顔が真っ赤になる。
「あ、おう。そういえば、お前に渡したいものがあったんだ」
ショータローは、ネイアが嚙んだ件には特に触れず、突然どこからか輝く服を出現させた。
「魔法の装備をベースにしてるからサイズとかは大丈夫だと思うんだが」
前回の腕輪の時といい、明らかに高価そうな物をポンと渡してくるショータローに対して、ネイアはいい加減申し訳ない気持ちになる。
「そんな、毎回貰う訳にも行かないよ!」
「別にオレは使わないからいーんだよ。ほら着方教えるから立ってくれ。この服は鎧の素材使ってるから着方にコツがあるんだ」
こう言いだしたショータローは、いくら言っても聞かいことも分かっているから、ネイアは仕方なく立ち上がって、腕を左右に広げた。
確かにその服は、一般的なものと違い、背中側から体の左右に巻き付けるように纏う必要があり、交差する部位に留め具がある。
七色に輝く鱗の様な地肌に、所々同じく七色に輝くような金属が散りばめられていて、以前貰った腕輪を装備したときの様な、魔力を感じるような不思議な感覚がある。
きっと魔法の装備なのだろう。
そして装備は体を覆うものとは別に、左右の腕を覆う者も存在し、肩と肘部分は、所々に散りばめられている七色の金属の防具の様なものが付属してた。
ショータローにその装備を着せられている時、ネイアはそれまで感じたことが無い不思議な感情を覚えた。
恥ずかしいような、くすぐったいような変な感じ。
それは結論から言うと、心が成長している少女が、異性に体を触られている時に感じる正常な羞恥心だったのだが、ネイアも、ショータローも、そういうことは一切考えていなかったので、ネイアの中に疑問が残るだけとなった。
「どうだ?」
「え…これって…」
服をまとった体は以前より軽く感じられ、さらに自身の体が背景に溶け込むような感覚がある。
「防御力も高めたけどそれ以上に速度上昇と
「…いつものことだけど、こんなものタダで貰うのは駄目だと思うよ…」
「別にオレは使わないから気にすんなよ。それに、お前、そのままだと弱いから、なんかあったら困るだろ?」
「………うん」
ネイアは、ショータローのその言葉に自分の弱さを思い出した。
そして、同時にショータローの強さと、伝えなければいけない事があることも思い出したのだ。
「ショータローくん…1年ちょっと前に、夜中に
「………」
ショータローは押し黙った。
ネイアは迷ったが、言わなければいけないと思った。
母に言われた事、ショータローが亜人から街を守ったのではないかということ。
そしてそのことが国にも知られていて、母を通じて聖騎士団や場合によっては女王に会って、国のために戦ってほしいと思われていること。
そして最後に、これは自分の思いとして、どうすればそれほど強くなれるのかという事。
これらを一気に話した。
ショータローの強さについて聞いている時、気づいたら涙があふれていた。
理由は良く分からなかった。
弱い自分に対する不甲斐なさか、あるいは最近の国の不安定な状態によるものか、戦いで死んでしまった人たちのことを考えたからか、どれだったのかは分からない。
ただ、何となく怖かっただけなのかもしれない。
突然泣き出したネイアに、ショータローは一瞬驚いたが、すぐに落ち着いてネイアの涙を手で拭った。
ショータローはハンカチなど持っていなかったからである。
「なんだよバカ、泣くほどの事じゃねーよ…オレだって別に強い訳じゃねーよ…」
しばらくして泣き止んだネイアは、友達の前でひどい顔になっていたことに気づき、袖で顔を拭おうとしたが、袖は先ほど着込んだ鎧の服で、どうしていいか分からなくなった。
ショータローは横で控えるフェイク・ルベド・ワンに手ごろな布を探させ、ネイアは結局その布をハンカチとして使用した。
「えっと…つまりお前は強くなりたいってこと?」
「あ、えっと、うん。でも私、まだ魔法も使えないし、お母さんみたいに剣もうまく使えないし、お父さんみたいな弓も使ったことが無いから…」
「オレは武器使うタイプじゃないから、ちゃんとしたの持ってないんだよな…あ、でもゴーレム用に準備してるものはあるから一旦それらで練習してみるか?ゴーレムが持って初めてちゃんと効果発揮するもんだから、試し振りだけになると思うけど」
「…良く分かんないけど、やってみようかな」
「おっけー。じゃあとりあえず剣と弓にしてみるか」
ショータローがどこからともなく取り出した、真っ白な剣と弓も使って、コテージの外の広場で練習をしてみる。
すると剣については全く以て使うことが出来なかったが、弓についてはある程度使うことが出来、10本中4本が的に命中した。
「うーん…オレ、剣も弓も使わねーから良く分かんないけど、弓は結構才能あるんじゃない?」
「そうなのかな…?」
「確かお前の父ちゃん弓使いだったよな?父ちゃんから教えてもらえば?」
「お父さんは忙しいからそれは難しいかな…」
「そうか…ん、待てよ。じゃあさ、弓を教えられそうなゴーレム創ってやろうか?」
「え…そんなことできるの?」
「たぶん行ける。ちょっと時間かかるからそこ座って待ってて」
そこからショータローは見たことも無い光る金属や、ネイアは聞いたことが無いナントカ石というコア?を使って特性ゴーレムを作成していった。
ネイアはその様子を見ながらショータローに話かけた。
「えっと…ショータローくんのことを、聖騎士団に紹介するって言うのはどうすればいい?」
ネイアとしては、作業中のショータローにはきっと声は届かないだろうと考えていて、返答は期待していなかったが、意外にもしばらくの沈黙の後、ショータローは小さく呟いた。
「そっちの話は今は止めて欲しい…オレからそのうち王女さんに声かけるから、そっちから来ないでほしいって伝えてくれ」
ランチを食べてさらに時間が経過し、夕方に差し掛かったころ、ショタ―ローは小さく「よし」と呟いた。
目の前には光り輝く鳥人間の様な姿の亜人?像が出来上がっていた。
「おっし!フェイク・ぺロロン完成!!竜血の秘石をコアにしたガチもんだぜ!!」
とても嬉しそうに小躍りするショータローの様子で、目的とするゴーレムが完成したのだと分かった。
ショータローが『フリートークモード:起動』と言うと、そのゴーレムは突然喋り出した。
「うわっ、るしふぁーさン、マジ?!マジでいいノ?!めっちゃストライク年齢なんですけド!!あ、でももしかしてこの子、るしふぁーさんお気に入リ?主人公の年齢も子供で開始するエロゲって意外とないんだけド、オレも結構好きだヨ!その場合は攻略対象って大体年上でおねショタモノになることが多いかラ、完全に子供同士のインピ…」
そこまでその鳥人間が喋ると、ショータローは大声で「METH!!」と叫んだ。
その瞬間ゴーレムは言葉を止めて力なく崩れ落ちる。
そしてため息を一つつくと、ショータローは『姉監視モード:起動』といった。
するとゴーレムは再び動き出し、先ほどのハイテンションが嘘だったかのように、落ち着いた言葉で喋り出した。
「こんにちワ、マスター。私はフェイク・ぺロロん。何なりお申し付けくださイ」
ネイアは一連のやり取りの意味が全く分からなかったが、ともかくもそのゴーレムは非常に高い弓使いのスキルを持っていて、その日から暇があればネイアはショータロー宅を訪れて、フェイク・ぺロロンから弓の使い方を習うようになったのだった。
***
アベリオン丘陵の十傑の一角である、
「ヴァージュ殿、此度の相談、受けていただき感謝しよう」
「ヘクトワイゼス殿、こちらこそだ…さて、早速だが、ムゥアー殿によると、ついに【灰王】と【螺旋槍】もバザー陣営に加わった」
「…そうか……して、
「ああ、この事態、貴殿の申し出を受ける他ないだろう……儂はもう隠居して息子に次代を委ねたかったのだが、そう言ってはいられぬようだ」
「ああ…賢明な判断感謝する。そして、これからは、
「よもや老骨に鞭打ってこれ程の事態を動かすことになるとは…それでは参謀、ヘクトワイゼス・ア・ラーガラー殿。これよりバザー陣営との交渉を開始する…無論衝突は避けられないだろう」
アベリオン丘陵戦記は最終局面に移行する。
★は、内なるぺロロンの呼びかけを基本無視します。
彼はそういうとこあるので。
なので、あふれ出すぺロロンがゴーレムの形をとりました。