オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
第4章もそろそろ終わりが見えてきました。
最初こそ、ネイアが突然現れた
「あー……俺はバザーだ。アベリオン丘陵十傑の一人で、丘陵内の
「あ…いや。私はパベル・バラハ。聖王国九色の“黒”を預かるもので、階級は兵士長だ。アベリオン丘陵では“凶眼の射手”と呼ばれていると聞いている。こちらは、娘のネイア。ショータローくんは娘の友達だな。ああ、それと、先の長雨の時期の戦いでは助太刀いただいて感謝している」
「あっ…あのっ…私はネイア・バラハです。えっと、ショータローくんの友達で、バザーさんのことは時々ショータローくんから聞いています。さっきはびっくりしてしまってごめんなさい」
「「「………」」」
会話はここで一旦止まってしまったが、その場にいる者は、お互い突然邂逅した相手は思っていたよりもだいぶマトモそうだなと思った。
というかこの中で一番マトモじゃないのは、共通の友人だなと思った。
バザーは、一度フェイク・ネイアの顔を見ているため、この娘がそのオリジナルだと瞬時に理解し、また、やはり予想通り“凶眼の射手”はネイアの父親だったと分かり、決してこいつらには手を出してはいけないし、何なら優先して守る必要があるので、必ず戻ったら部下に共有しようと考えた。
パベルは、バザーの自己紹介によって、自身が思っていたよりもアベリオン丘陵の勢力図は大きく変わっていることに驚き、言葉を交わした感じではバザーはだいぶ理性的なので、なんならこいつに丘陵を統一してもらった方が聖王国的にも安全なんじゃないかと思った。
ネイアは、バザーの事は事前にショータローから何度か聞いていたので、最初こそちょっと驚いたが、喋り方は別に普通だし、なんならヤギの外見はちょっと可愛いとすら思った。そして彼が言った肩書は良く分からなかったが、ショータローの友達だから自分も仲良くなれるかな?とか考えた。
その後は、バザーとパベルは大人の話し合いをすると言う事で、フェイク・ルベド・ワンに一応監視をさせ、ネイアとショータローは、フェイク・ペロロンを再起動して弓の稽古を再開した。
「で、だ。パベルよ。俺が貴様たち人間の国と協定を結ぶために必要なものは何だと思う?」
「そうだな…まずはお互いの信頼じゃないだろうか。今まで聖王国は敵対的な亜人種の侵攻を何度も受けている。こうやって話して、お前は理性的な者だと俺は理解したが、亜人を恐れる者は国の中枢にも多い。あとオルランド…あの、以前俺とお前が戦った時に、最初にお前と闘っていた人間だが、ああいう感じで十傑を倒すことが悲願の様になっている者もいる」
「成程な…だが真理だ。そしてそれは難しいな。ショータローと出会ってからは、俺は将来的には人間と敵対しない方が得策だと考えたからこそ、部下になる部族の者には、肉食であっても今後人間は食わない様に言っている。俺自身はそもそも種族的に好んで人間を食うことは無いが、そうでないものも居たからな。だが、貴様たち人間からすれば亜人は皆人間を食う者だと思っていると言ったところか…まあしかしお互い様だぞ。貴様、あらゆる亜人に滅茶苦茶恐れられているからな。主にその目つきと弓の腕前で、だ。一部の弱小種族はお前の存在のせいで、人間は皆恐ろしい目つきで遠くから弓を撃ってくるとか考えているからな」
「それは…フフ…笑えんな」
「あー笑わんでいい…貴様、笑った顔も中々怖いぞ」
「…分かっているが、それを娘には言わないでくれ」
「ん…ああ悪かった、了解した」
「ところで、さっきの自己紹介の通りだと、アベリオン丘陵は殆どお前の配下になっているという理解でいいのか?」
「いや、丘陵でもかなりの数が居る、
「ん?
「ああ、
「笑える…か?まあ、それは置いておいて、大丈夫なのか?さすがのショータロー君とは言え、亜人王十傑の会議に出席するなど…」
「本人の了承は得た…というかな、実際のところあちら陣営の十傑はショータローのことを最も恐れていると思うぞ。正直俺も、アイツが色々な意味で一番怖いがな」
「そうか…」
「まあ、はっきり言ってショータローが居れば全面対決になっても大丈夫ではないかと考えている。それよりもむしろ、その後のことが気がかりだ。仮に丘陵の統一が果たせたとして、その後、どうやって貴様たち人間と協議するかだ」
「そうだな…まずは最低限の条件として、今後はお互い無暗に攻撃したり侵攻したりと言った敵対行為をしないことが重要だろうな。お前が王になった場合、それは可能か?」
「3部族は特別好んで人を食べる種族でないし、お互い不可侵という事ならば可能かもしれん。幸運にも、
「ああ…そうだな。オルランドは言って聞かせるが、腕試しはしたいと言い出しかねないな…あとは…聖騎士団団長がかなり厄介だ。その者の身内と王が理性的だから、そちらから説得させる必要があるだろうな」
「…なんか貴様も苦労しているようだな」
「…そう見えるか?」
「…お互い、
「…」
「まあ、だがこの話し合いは有意義であった。もし
「そうだな…まず、我が国では現時点でショータロー君との接触が第一となっているが、本人がそれを避けているから、その次に優先すべきはお前たち亜人との協定をどうするかという話になっている。俺個人としては、お前がアベリオン丘陵を統一して、先ほど話した内容で歩み寄れれば、協定を結ぶことも可能だと思う」
「ふむ…すべては3部族との交渉後だな。貴様も現時点で俺とこのように話していることがバレるのは不味いだろう。可能ならば、少なくとも俺と俺の部下は人間と敵対しないことをそれとなく伝えて欲しいが、それが無理でも人間側からこちらに攻め込むようなことはしないよう対処してほしい」
「ああ、努力はしよう。ショータローくんのことを聖王女陛下に伝えても良いかだけは本人に確認しないとな…フフ。まさか【豪王】バザーとこのように話す日が来るとは思っていなかった…ショータローくんと、ネイアに感謝だな」
「ああ、俺にも子が6人いる…子は大切にすべきだ」
「なに、そうなのか?それではお互いの子供の話をしようじゃないか!うちのネイアはな、最近俺と同じ弓の道を歩き始めてくれてな…!」
「…」
「…」
「…」
***
***
「なあ、バザーとパベルさん。そろそろ夕方だし、今日は帰ったほうがいいんじゃねーの?」
「…という訳でな、ネイアは可愛くて、可愛いんだ……と…随分と喋ってしまったな。まさか【豪王】とこれ程楽しく話ができるとは!バザー殿、また是非ゆっくりと話そう!!」
「おーなんか仲良くなったみたいだなー。じゃあまずはバザーから送ってくから、手出せよ」
「…ああ」
何故かバザーはゲッソリしていて、去り際に『ショータロー、助かった…今後はパベル殿との会話には注意が必要だな…』と呟いていた。
テッカテカになったパベルは、上機嫌で家に帰り、その日あったことをある程度ぼかして妻に説明した。
ショータローはネイアの友人として信頼できること、バザーは理性的で人間の敵になるとは考えづらいこと、後日ショータローを含めてアベリオン丘陵内で亜人間会議が行われることを伝えた。
またショータローにも、適切なタイミングで、ショータローが十傑との橋渡しなっていることを聖王女に伝えることも確認した。
そしてそれから2週間後、ショータローからの
場所はカリンシャに最も近い砦の東に広がる場所。
バザーからの伝言で、可能な限り王に近い人間たちは見ていて欲しいとのことだった。
カストディオ姉妹をはじめ、先のスラーシュたちの侵攻を経験した者は何かの罠だと反対した。
だがパベルは説得のために事前にショータローにその仮面を借りることを打診しており、パベルは謁見の場で、この提案は『仮面の子供』からのものであることを説明し、証拠としてその仮面を見せることで説得することに成功した。
勿論城壁の守りを手薄にするわけにはいかないので、聖王国の一般兵は満遍なく城壁の砦に配置し、カリンシャ近くの砦で、アベリオン丘陵を観察するのは、カルカ、レメディオス、ケラルト、カスポンド、そしてパベルとなった。
そして、予告されていた日、亜人たちが南側と北側から群を成して集まってくる。
北側の先頭はバザー、隣には仮面の子供。
そしてその周囲に3名の十傑。事前に聞いた話では【氷炎雷】、【螺旋槍】、【灰王】で、それぞれ、
南側の先頭は
そしてその周囲には、同じく
ショータローはともかく、他の9名は実質現在アベリオン丘陵の最大実力者達である。
砦上の人間たちと、多くの亜人の部下たちが見守る中、最初に口を開いたのはバザーである。
「ヴァージュ殿。先日の協議において我らの利害はそう遠くない所にあることが分かった。俺はヴァージュ殿陣営と争わなくともよいと考える。2陣営としてこの広大な丘陵を統治するというのは叶わぬか?」
「バザー殿、それはならんな。我ら力ある者に従う種族なれば、儂が認めても、我ら種族には禍根が残る。さすれば、貴殿が条件として挙げた、両陣営間および人間国家への不可侵あるいは和平協定というのはいずれ破られる約束となろう」
「そうか…では、仕方あるまい。だがこの戦いの条件、それは吞んでくれるだろうか」
「ああ、戦うは両陣営この5名のみ。無駄な血は流さぬ」
「感謝する」
5人の人間が砦の上から眺める中、亜人たちの戦いが始まった。
バザー陣営において、先頭を切って走り出したのはバザー本人。
大将が最前線に出るなど兵法的にはあり得ない事だが、こと亜人たちの戦いにおいては意味合いが異なる。
いかに勇敢に部下を率いることが出来るかという事が、力を信ずる者たちの心を掴むのだ。
現にヴァージュ陣営の一般兵たちも、勇猛なバザーに心を掴まれた者もいた。
しかしヴァージュとて歴戦の者。
右手に持つハルバードでバザーの攻撃を止めるとともに、素早く左手に持つショートソードで斬り上げる。
すかさず身をかわすバザー。
得意の武器破壊の武技を繰り出す暇がない。
「やるな、ヴァージュ殿!」
「貴殿の
最後尾のナスレネは、速やかに魔法の詠唱を始める。
自身の二つ名の通り、同時に3種の属性の魔法陣が浮かび上がり、氷属性、火属性、雷属性を纏った魔法の槍が、ヴァージュ陣営を襲う。
それを受け止めるは一体の
完全に無効化したわけではないが、ほぼ傷はない。
恐らくは魔法耐性のある盾なのだろう。
「さすがは【氷炎雷】。だが、魔法に気を取られていて良いのかな?」
「お前こそ、気を抜く場面では無かろう!!」
【螺旋槍】がその鱗に覆われたしなやかな腕を伸ばし、縦の隙間から二つ名の由来となっている魔法武器の槍を差し込む。
「ふんッ!!」
【獣帝】も怯むことなく、盾を使ったパリィで槍をはじく。
速やかに2体は向き合い、激しい戦闘が開始される。
次の瞬間、ナスレネの眼前に漆黒の短剣が迫る。
「…影渡り」
【黒鋼】のムゥアーの得意とする暗殺術が決まるかと思われた瞬間、その刃は補足強靭な腕に弾かれる。
そしてムゥアーの腕にはねばねばとした糸が絡み、攻撃の速度が殺され、逆にその強靭な腕が刃のごとき斬撃を放つ。
咄嗟に避けたムゥアーの前には、【灰王】の姿。
「貴様の相手は私がしよう。貴様の得意とする速さも、俺の粘着糸によって十全の力を発揮できないであろう…」
次の瞬間には、今度はヘクトワイゼスが素早くナスレネに迫り、得意とする騎士槍に武技を乗せて攻撃する。
「すまんな【氷炎雷】よ!魔法の力を持つお前こそが最も早くに潰すべき者なれば!」
素早い攻撃にナスネレはだんだんと押されている。
魔法を唱える隙が少なく、無詠唱にて放つ魔法はいずれも低レベルのものばかりとなってしまっている。
だがその低レベルの魔法でも、耐性が低いヘクトワイゼスにとってはそれなりに堪える様で、互いに傷が目立ち始める。
だがやはり魔法職に近距離での戦闘は厳しく、またMPも僅かとなって、ナスネレに致命的な槍の一撃が入りそうになる。
ショータローは何となく、余ったヴィジャーと向き合っていたが、ナスレネがやられそうになったのを見て、さすがに助けた方がいいかなと思った。
なぜならば、ナスレネがかなり苦戦しているのは、ショータローが彼女の武器防具を奪ったからである。
現在バザーから与えられた防具を着ているが、魔法力をわずかに上昇させる杖が無くなったことも痛手であった。
バザーがナスレネに防具を渡す時、ものすごく何か言いたげな顔でショータローを見ていたが、それについては気づかないフリをしていた。
そう言う訳で、ショータローのせいで殺されてしまったというのは、さすがに悪いので、ちょっとだけ助太刀に入ろうと思ったのだ。
だがその瞬間、ヴィジャーが叫ぶ。
「戦いの中余所見をするとは愚かなことだ!武技:決闘宣げ…」
そこまで言ったところで、目標の仮面の子供が消失した。
「…ん…何ッ!どこへッ!!」
ショータローは転移を使い、一瞬でヘクトワイゼスとナスレネの間に出現した。
そして、突き出されたヘクトワイゼスの騎士槍を軽く手で払った。
結果、ちょっと焦って力加減を間違えたショータローにより槍は破壊されて吹き飛び、勢い余ったヘクトワイゼスはナスレネに突っ込む形となった。
「ひっ!!」
「ぐあっ!!」
双方ダメージを受けたが、ヘクトワイゼスが先に立ち上がる。
一方ナスレネはMPもほとんど底をつき、肩で息をしていて立ち上がることが出来ない。
ヘクトワイゼスは見るとサブ武器の短剣を構えてナスレネに攻撃しようとしていたので、今度はちゃんと力を加減して、彫刻で使うハンマーで本当に軽く、ヘクトワイゼスの頭を叩いた。
脳震盪で崩れ落ちるヘクトワイゼス。
「あっぶねー…ナスレネもこいつも脱落ってことでいいよな。そっちで休んでろよ。
ショータローはナスレネとヘクトワイゼス両方に守りの魔法をかけて、前線へ戻っていく。
「ハァ…ハァ…すまんの…助かったわい【仮面鬼】よ」
再び前線へ戻ってきたショータローは、さっきまで向かい合っていたヴィジャーに再び向き合う。
「わりぃわりぃ。なんか言いかけてたよな?なんだって?」
「貴様…俺をコケにするのもいい加減にしろ!【仮面鬼】よ!俺は【魔爪】の息子にして、
「…そうか」
「行くぞ!武技<決闘宣言>!!」
「おお…!?なんか、お前の方に向かされる、面白いスキルだな!」
「ふん!驚け、【仮面鬼】よ!!武技<剛撃>!!」
ガン…ガン…ガキン!!
「クッ…武技<剛爪>!!」
ガギン!!
「クソッ!!」
ヴィジャーは素早く距離を取った。
<決闘宣言>による一瞬の硬直の隙をついた、低姿勢からの最速攻撃。
自慢の魔法武器たるバトルアックスの3連撃は全て防がれた。
だが3発目には風属性の魔法を付与した斬り上げ攻撃で、下方からの視界を封じる。
そしてすかさず、前足の爪で視界を封じた下方から切り裂く。
ヴィジャーにとって、初対面の相手に対する必殺の連携だった。
だが、最後の爪もあっさり防がれた。
奴の手を見ると、小さな彫刻刀のようなものを持っている。
アレで全て防ぎ切ったというのか…。
小細工は効かないと理解した。
そして蹴り上げた前足には痺れが伝わり、相手の力は尋常でないことも理解した。
「流石は【仮面鬼】、ロケシュを下した者だけあるという事か…この俺の相手として不足なし!!今度は俺が貴様の攻撃を受けきって見せる!!さあ、貴様の全力をぶつけるが良い!!」
ショータローは目の前のヴィジャーとかいう者の意外な言葉に悩む。
まず、今回の戦いでは可能な限り敵陣営の者を殺さないようにバザーに言われている。
バザーとしては、手加減したとしてショータローが負けるはずがないし、何ならやり過ぎて大惨事になった場合の方が、今後の丘陵運営に支障が出そうだなと考えている。
そう言う訳でショータローは、ヴィジャーの攻撃を受けながら相手が疲れるのを待ち、最後は軽く叩いて気絶させればいいかなと思っていた。
しかしこのヴィジャーという奴は力比べでもしたいのか、互いに交互に攻撃し合おうみたいなことを言っている。
これはヴィジャーが中立のカルマ値を持ち、かつ、この場で唯一十傑ではない自分が、父をはじめとした他の皆に認められたいという気持ちが強いためで、結果、小細工や不意打ちでなく、堂々と力比べをして勝ちたいと考えに至ったのだった。
ショータローから見てヴィジャーの戦士としてのレベルは30は超えていそうだがバザーには劣る程度。
当然戦士としては50レベル程の腕力を持つ彼からすると、かなり手加減をしないとエライ事になりそうだなと感じている。
そのため武器での攻撃は止めた方がいいなと考え、彫刻刀をアイテムボックスにしまう。
「おっけー。じゃあ俺も攻撃すんぞ」
「来い!!」
無造作に近付くショータロー。
ヴィジャーは武技を用いて防御を固めようと思ったが、先ほど全力で攻撃をするために3連続で武技を行使したばかりで、体への負担が大きく更なる使用を躊躇った。
そして、鍛え上げた肉体に力を入れて攻撃に備えることにした。
結果から言うとその判断は間違いだったかもしれない。
無造作に繰り出された拳が自身の全身鎧に当たった瞬間、とてつもない衝撃が走り、そのまま体が後方へ吹き飛んだ。
驚いたのはヴィジャーだけではない。
砦の上で見ていた人間たちは突然
それ以外の戦い、それは確かに十傑と言われる者達らしく、非常に高度であった。
だがそれはまだ理解できる範囲。
一方で、明らかな人間の子供が武器も持たずに軽く殴った様子からは想像がつかない事態。
既に一度、ショータローの戦いを眼前で目撃していたカスポンドを除く4名は、何となく強いらしいと聞いていたその子供の実力を文字通り目の当たりにし、改めてその実力が飛びぬけていることを正確に理解するに至った。
「あの子供…相手は十傑ではないようだが、他の亜人どもと比較しても遜色ない強さだった。それを、あの軽い一撃であれほど吹き飛ばすほどの実力…!」
恐らくこの場で最も戦士としての力量が高いレメディオスは、その中でもひとしお驚いている。
「姉さま…あの少年の戦士としての実力はどの程度と思いますか?」
ケラルトの問いに、レメディオスは目線をショータローから逸らさずに答える。
「…あれが全力には到底見えないが…少なくとも難度100以上は確実だな。それに、先ほど後方の
ケラルトとカルカは、その言葉で、少年が信仰系だけでなく魔力系も少なくとも第3位階まで使用できる可能性に気づく。
だがその直後、パベルがさらに驚きの事実を述べる。
「レメディオス聖騎士団団長の仰る通り、魔法を使用したという理解で正しいと思われます。仮面を借りるにあたり、わずかな時間ながらあの子供と接触しましたが、彼は転移魔法を使用できるとのことです」
「なっ…魔力系も第5位階まで使用できると言う事ですか?!」
「カルカ様…
「ええ、ケラルトの言う通りでしょう…それらに加えて、私がロイツで見た通りゴーレムと思われる神像の作製とそれらを複数同時に操ることもできることも覚えておくべきです。この戦いではその能力は行使していないようですが、いざとなればそのような手札もあるという事でしょう」
その場の5人は言葉を発したわけではないが、皆同じ考えである。
あの少年と、何があっても敵対することだけは避けなければならない、と。
吹き飛ばされたヴィジャーは一瞬何が起こったか分からなかったが、地面に着地するときの凄まじい衝撃と、殴られた箇所に走る激しい痛みで、自身に起きたことを少し遅れて理解した。
「ぐああああぁぁぁぁぁッ!!!」
激しい痛み。
充分に注意していたつもりだった。
だが、まだ足りなかった。
己の読みの甘さを呪う。
そして、これを乗り越えてこそ、十傑と呼ばれるに相応しい存在になれると、改めて自身を鼓舞して立ち上がる。
「【仮面鬼】!!貴様は強い!!だが…必ず貴様に一矢報いてやる!!次代の
そして手に持っていた武器を放り投げる。
素手で殴られて吹き飛ばされた。
だから、自身も素手でやり返す。
単純なことだ。
「オオオオオオオオオオオオ!!!!」
全身全霊の一撃。
小細工も何もない。
四足で最大の加速を得て、右拳を敵の顔にめり込ませる。
「おおっ!」
ショータローは半歩だけ後ろに下がった。
その一撃は、初めてバザーと会った時に食らったものと同等だった。
レベル差はあるが、バザーは武器破壊にレベルを割り振っているため、純粋な力はヴィジャーと同程度だったのだ。
だが、ダメージはおろか、仮面に傷一つつけることは出来なかった。
「クッッ……さあ来い、貴様の番だ!!」
「んー…おっけー」
先ほどよりも加減が分かってきたので、ヴィジャーが吹き飛んだ距離は10メートルほどに縮まった。
そこからお互い1発ずつの殴り合いが続く。
実を言うと、他の者達の決着はついている。
【黒鋼】は粘着糸で速度を失い、また灰王の種族特性たる硬度によって致命的な攻撃を繰り出すことは出来ず、一方で【灰王】は攻撃力で一歩及ばず、決定打に欠ける。
しばらくの攻防の後、お互い体力が切れて座り込んだ。
【獣帝】と【螺旋槍】の実力は拮抗していて、かつ、お互い似た戦闘スタイルであったため、千日手に近い状態となった。
だがお互いが騎士道精神を持つ者であったため、戦いの中で互いを尊敬する精神が生まれ、最終的には勝負がつかないと判断して、どちらが言うでもなく他の者達の勝敗を見守ることで全体の雌雄を決めることとなっていた。
そして大将同士の戦いは、バザーに軍配が上がった。
これはひとえに、互いの年齢差によるものであった。
実力は互角、いや経験値でやや【魔爪】がわずかに上回っていたかもしれない。
だが最終的には体力の差により、ヴァージュが一手遅れ、その隙を見逃さなかったバザーが獲物を破壊して、剣先をヴァージュの眉間で止めた。
「ふっ…【豪王】よ、見事だった。儂の負けだ。首を刎ねるが良い」
「何を言う【魔爪】よ…戦略では貴方の勝利だった。全盛期ならば俺が負けていただろう…それに貴方の力と知識は、これからのアベリオン丘陵に必要だ。首を刎ねるなど、あり得んな」
「ふふ…今が儂の全盛期じゃよ…だが、分かった。今後は貴殿に力を貸そうぞ」
「助かる…だが、まだ彼らの勝負は決していないようだ。まずは最後まで共に見守ろうではないか」
「ヴィジャー…ああ、我が息子の戦いを邪魔してはいけないな」
戦いを終えた十傑、それぞれの配下、そして5名の人間が見守る中、仮面の子供とヴィジャーの殴り合いが続く。
誰の目から見ても、ヴィジャーは限界だ。
対する仮面の子供は一切のダメージを負っている様子が無い。
だが、誰もがその戦いを止めることは無い。
それを止めることが出来るのは、真に戦っている2名だけなのだ。
「【仮面鬼】ィィィィィ!!!」
最後の力を振り絞ってヴィジャーが拳を突き出した。
だが前足が限界を迎えていたため腰が砕け、拳の軌道が変わる。
そしてその拳は仮面の端をひっかけ、仮面が外れた。
「ここまでか…俺の…負けだ……だが……一矢は報いることが…でき…た…か…」
そのままの勢いで、ヴィジャーは素顔をさらしたショータローに倒れ込む。
ショータローは、何とか殺さずに終われたことに安堵して、ヴィジャーにこれ以上ダメージが入らないよう優しく抱きかかえた。
「お疲れさん…
ヴィジャーは光に包まれ、体中の傷が嘘のように消えてゆく。
そしてヴィジャー自身も信じられないという顔で、立ち上がる。
「貴様……いや…俺の、完敗だ…。だが、いつか、いつか必ず貴様を超えて見せる!!それまでは、貴様に跪こう。強き戦士よ」
「そこまでじゃ!」
【魔爪】ヴァージュ・ラージャンダラーが声を上げた。
「この勝負、儂らの完敗じゃ。今日を持って、我ら
その言葉に、バザーを除くすべての十傑は膝をついて頭を下げ賛同の意を示す。
続けて、各陣営の背後の控えていた数万の亜人たちも皆跪く。
バザーがショータローの元まで行き、声を上げた。
「アベリオン丘陵に住む、全ての者よ。本日をもって、この丘陵は統一された!俺はバザー!この丘陵に住む全ての者の王であり、全ての者を守る者だ!俺の元、全ての種族は平等で、今後争う事は許さん!」
そこまで一気に言うと、今度は城壁上の人間5名をチラと見た後、再び数万の者達を見ながら言葉を続ける。
「そして、この統一は俺一人の力では成しえなかった!わが友、人間であるこのショータローの働きが無ければ、この統一と、これから約束する丘陵の平和は訪れなかった!だから俺はここに宣言する!今後アベリオン丘陵に住む全ての者は、人間国家に攻め入り、敵対し、人間を食う事を許さぬ!これが守れぬ者は我が陣営、そしてアベリオン丘陵に暮らすことを認めぬ!そのような者が居れば今すぐこの地を去るが良い!!」
バザーはそこで一旦一呼吸を置き、見渡す限りの亜人たちを見つめる。
誰一人として跪く姿勢を変えず、賛同の意を示す。
それを確認すると今度は、5人の人間の方を向き喋り出す。
「人間たちの王よ!この瞬間を見守っていてくれたこと、感謝する!聞いての通り、アベリオン丘陵は今後貴様たちと敵対はしない!その城壁を国境とし、我が国の者が許可なくそこを越えぬよう徹底する!貴様たちと我らに過去の因縁があることは重々承知だ。だが、これを機にどうか不可侵の協定だけでも結んではもらえないだろうか!いずれお互いが今以上に歩み寄れる日が来たら、交易も行いたいと考えている!」
バザーの提案に、5名の人間は息を飲んだ。
ここまで見せられた戦い、そして統一王となったバザーの言。
恐らくは殆ど全ての丘陵に住む亜人たちが居る前で宣言された、バザーの言葉は嘘などではないのだろう。
だがバザーが言ったように、それを簡単に肯定できるほど、人間は亜人を信用できていない。
カルカは迷っていた。
直感的には、バザーの言葉は信じることが出来る気がした。
ショータローと呼ばれた少年の存在も、その考えを後押ししている。
だが国民はこの決定を受け入れることが出来るだろうか。
南部の貴族はこれを機に糾弾をするのではないだろうか。
一旦持ち帰って、ケラルトやカスポンドと話して…
そこまで考えた時、横の人物が飛び出した。
「バザァァァァァァ!!!」
余りの勢いに誰も止めることが出来なかった。
砦から飛び降りたレメディオスは剣を抜き、真っ直ぐバザーに向かって走っていく。
カルカも含めて4名の人間は『しまった!!』と思ったがもう彼女には追いつけない位置まで進んでいた。
そして、空気の読めなさではどこぞのバードマンと2トップを張るショータローですら、なぜこの流れで、この女がバザーに斬りかかろうとしているのか理解できなかった。
バザーを除く十傑や、その他の部下たちも焦り動こうとしたが、バザーが「待て!!」と手を上げたため、心配そうに人間の女騎士の様子を見守っている。
レメディオスは、バザーの5メートル手前まで来ると止まり、歯をギリと噛みしめてバザーを睨む。
「人間の騎士よ。なぜ、俺に斬りかかろうとする?」
「バザー!!貴様たち亜人は、これまで、我が聖王国に幾度となく侵攻をし、多くの国民の命を奪ってきた!私はお前たちのような悪を信用することは出来ん!」
「そうか…かつて、その様なことがあったのは理解している。だが、俺は、その関係を変えたいと思っている。だからこその提案だ。貴様は、その様な未来を望むことは間違っていると思うのか?」
「く…貴様たち亜人は…悪だ。悪と信じてきた!」
レメディオスは言葉を詰まらせる。
自分が言っていることは何一つ間違っていないと思っている。
だが、このバザーが言っていることも間違っていると思えない。
だからこそ混乱しているのだ。
悩むことが苦手な彼女が、悩んでいるのだ。
「貴様が言う悪というのは、俺には正確に分からん。だが、貴様にとって俺が悪でないと理解するには、俺はどうすればよい?」
「……私の剣を…この聖剣サファルリシアの一撃を受けてみよ!!この剣は悪しき者に対し、絶対の効果を持ち、逆に正しき者には効果を与えない!!」
「…いいだろう!!」
ショータローが『マジで?』という顔でバザーを見たが、バザーはショータローの方を見ずに言葉を述べた。
「ショータローよ。この者の言っていることは確かに滅茶苦茶だが、だが、確かに人間と亜人の溝の体現でもあると感じる。俺はこれから貴様たち人間と歩むために、この者の申し出を受けなければいけないと思うのだ」
それを聞いてショータローは一歩下がった。
万が一の場合は回復すればいいかと思ったのだ。
「…と言う訳だ。来い!!」
「チッ…行くぞ、バザァァァァ!!<聖撃>!!!」
聖剣サファルリシアが光り輝き、その光の刀身が伸びてバザーに襲い掛かる。
眼前に迫る光を、バザーは瞬き一つせず見つめる。
鍛え抜かれた動体視力を持つレメディオスも、そのバザーの様子がはっきりと見えた。
そして、その剣は、バザーの眉間で寸止めされた。
「…瞬き一つせず、聖なる光を受け入れる…本当に…善なる者と言うのか…亜人が…」
驚愕の表情を浮かべたレメディオスはバザーの眼前で止めた剣を鞘にしまった。
「…亜人王バザー…認めよう…聖剣は貴様を善なるものと認めた!私は…まだ、亜人をすべて信じることは出来ないが、貴様が善であることだけは、認めよう!!」
それだけ言うと、レメディオスはショータローの方を一度だけ見つめて礼をした。
そして足早に砦まで戻り、他の4名の中に混ざる。
「姉さま…何という事を…」
顔を真っ青にしていたケラルトがレメディオスに小言を言う。
しかし当のレメディオスは、なぜかすっきりした顔でカルカに述べた。
「カルカ様、他の亜人は分かりませんが、あの者…バザーだけは善性のものであると認めます」
カルカもケラルト同様、最悪の事態を想定して顔が真っ青になっていたが、憑き物が落ちた様なレメディオスの表情を見て、ある意味決心がついた。
そして、バザーを見ると言葉を述べた。
「アベリオン丘陵の統一王、バザー殿。私はローブル聖王国の聖王女、カルカ・ベサーレスです。貴方の言葉、しかと受け取りました。ローブル聖王国聖王女カルカ・ベサーレスとしてここに宣言します。聖王国は貴方の提案を受け入れ、ここに相互不可侵の協定を結ぶことを誓いましょう。詳細は後日。ですが、相互の国民を傷つけない、これだけは、この瞬間から約束していただけますか?」
「もちろんだ。感謝する、聖王女カルカ・ベサーレス殿」
この瞬間、近隣のいずれの人間諸国も決して成しえることが出来なかった、完全に対等な人類と亜人の共存が達成された。
これはスレイン法国の悲願でもあり、このニュースは本来、聖王国内に潜伏する2名の輪廻聖典隊員が本国へ伝え、そして法国から聖王異国へ祝いの言葉が届くべき案件であった。
だが、その祝辞は達成されない。
なぜならば、聖王国の悲劇はここから始まるのだから。
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遠く離れた大陸中央のとある洞窟から、黒き鱗を持つ一体の竜が飛び立った。
全ての配下たるアンデットが何者かに消され、自身が使える魂も心許ない状況で、未だ確認できない何者かと闘う事を嫌ったが所以である。
その黒き竜は探す。
適度に生物が多く、そして自身が持つ秘宝の効果が通りやすい“悪”の特性の者が多い地を。
土地に住まう者全てが“善”と言う恐るべき土地を避けるため、かの竜はその地を西に迂回する。
そして、やがて内海を囲む半島に到達する。
その半島の南部には“悪”の気配が多く感じられた。
黒き竜は嗤う。
その半島の南部は、ちょうど自身の魔法効果の範囲と同じくらいであり、人口が多い街がいくつか存在する様だ。
南端に近い山の中に人間が掘っている坑道と、その最奥に広い空間を見つける。
ちょうどいい新たな隠れ場所に収まることに決め、その竜は力を開放する。
魂を吸い上げる、
4章ラスボスの登場です。