オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
私のつたない考察に基づく妄想なので、なんか矛盾があるかもしれませんが大らかな心でお読みいただければ幸いです。
黒き鱗の竜は嗤う。
自身の身体に魂が満たされていく。
前の塒、大陸中央で行っていた作戦は謎の現象により中止となった。
『深淵なる躯』と名乗っていたアンデッド集団を、旧友から貰い受けたのはおよそ200年前の事。
八欲王のガキどもによって魔法システムが歪められ、長く続いていた竜王の優位性が失われて以来、
旧友は、支配した『深淵なる躯』というアンデッド集団の研究からヒントを得て、竜王のままアンデッド化することで、死霊系の位階魔法を使用することを思いつく。
そして彼ら二体の竜王は、それぞれ使用できる6種の高位
そして同じく選んでいた“滅魂”は、彼ら二体の切り札となり無類の強さを誇った。
だが
■■の竜王改め
全く問題にならないと考えていた此度の転移者。レベルは30強と低く、何やら現地民と徒党を組みレベルアップを図っていたようだが“吸魂”と“滅魂”の前には意味など無いと考えていたのに…
『念のため』と言い、生きている仲間のうち“白金”と“七彩”が監視していた筈であったが、その戦いはこの2名を伴わぬ形で行われた。
話によれば天から9体の女神を召喚したなどと聞いたが、それが信用できるかも分からない。
それが200年前の事。
そして滅んだ旧友から、彼の支配していた『深淵なる躯』を貰い受け、彼の失敗を教訓に、慎重に隠れながら、大陸中央で機会をうかがっていた。
この場所は良かった。
周囲にいくつかの大国家が存在し、効率よく“吸魂”が出来る。
穴倉に隠れながら行使すれば、国家の者どもは気づかなかった。
だがそんな定期的な次の吸魂は、『深淵なる躯』の者どもが少しずつ数を減らしていくという怪現象により保留となる。
数が減り始めていると気づいたときから、竜の種族スキルで注意深く周囲を感知していたが、ごく初期に一度だけ覗かれている感覚があり―その時も結局相手の尻尾を掴むことは出来なかったが―、その後は一度たりとも感知に引っかからなかった。
だが何らかの意図があり、見られているのは確実。
余程優れた精神系魔法の使い手が、ギリギリ範囲の外から監視しているのかもしれない。
『深淵なる躯』の最後の一体が消えた時、一時的な撤退を決意。
“朽棺”の失敗が彼を慎重にさせた。
だがそれは言い換えれば『臆病』と同義である。
『何者かは分からんが覚えておけ…何処かの地で魂を集め、必ずその魂を滅してやる…下賤な存在が俺に楯突くなど、有っては成らぬことだ!!』
黒き鱗の中に浮かぶ紅い目を憎しみに歪めて、
そして今。
魂が体を満たしていく。
その数は恐らくは200万程。
300年前と100年前のプレイヤーを葬るために過去に2度の“滅魂”を行使し、既に残っていた魂は100万を切っていたが、これで100万程の魂を消費する“滅魂”を2回は発動できるだろう。
だが焦る必要はない。
さらに北に同規模…いや、若干多い数の生命が集まっていた。
比較的“善”の者が多く、切り札が有効には使えなそうだが、2回の“滅魂”があればこれを食らい尽くすことも出来よう。
次の“吸魂”を放つには時間必要だ。
この新たな洞窟で、ゆっくりと、待てばいい。
次第にその黒き竜の周りには、哀れな犠牲者のなれの果て、
黒き竜が降り立った後、南部聖王国の者達に不吉な波のようなものが押し寄せた。
その波はデボネまで完全に飲み込んで、デボネとカリンシャの間の街道まで及んだ。
その波はあらゆる生物から魂を引きはがした。
そこに身分や貧富、年齢の差別など無い。
グラネロ伯爵も死んだ。
コーエン伯爵も死んだ。
ボディポ侯爵も死んだ。
“藍”の伯爵夫人も死んだ。
“紫”のご老も死んだ。
彼らの屋敷に居た者も死んだ。
農民も、旅人も、子供も、犯罪者も、皆死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
…
後に残るは
そして、それらアンデッドに触発されて生まれた新たなアンデッドが、街を、街道を、畑を、あらゆる南部の街を支配し、やがてそれらは溢れ、北上していく。
最初にそれをホバンスの王城に伝えたのは、“緑”のラン・ツー・アン・リン殿であった。
彼は湾内で、“青”のエンリケ・ベルスエ海兵隊副隊長と共に、海洋上で犯罪者が麻薬を運ばないか目を光らせていた。
その時、あの不吉な波が押し寄せた。
僅かに南に居たエンリケはそれに囚われ、わずかに北に居たラン・ツー・アン・リンはそれを免れた。
そして彼の多くの部下と共に哀れな
王城にはバザーとヴァージュが招かれ、それは歴史的な協定が締結された日の夜であった。
皆、『まさか』とは思ったが、ただ事でないラン・ツー・アン・リン殿の様子から、決して虚偽などではないことが伺えた。
その場に居合わせた聖殿の司祭であるミューギは、恐怖に震えるラン・ツー・アン・リンの様子と、彼の証言から、ついに予言の厄災が訪れたことを確信した。
そしてそれは定時連絡により、南のカリンシャに居る法国の同胞にも速やかに伝えられる。
『隔世盟主』は法国へ緊急事態を共有。
法国は過去の記録から、かつてインベリア王国を滅ぼした竜王、
だが、本国からの命令は『聖王国民の保護』であり、元凶たる者へ近づくことや討伐は現時点では厳禁とされた。
少し遅れてローブル聖王国首脳陣は、ラン・ツー・アン・リン殿の言葉がすべて正しいことを知る。
選りすぐりの
やがて起こりうるアンデッドの侵略に備え、ローブル聖王国は聖騎士団、弓兵団、神官団の混成部隊をカリンシャに駐在させ、南のアンデッドの動きを注視する。
一方これらの感知とほぼ同じタイミングで事態に気づいたものが居る。
それは、南部の様々な街に設置したゴーレムが、一斉に作動したという現象を察知したことに始まる。
この世界に来てから、ショータローは自身が創造したゴーレムの現在の状況を何となく把握できるようになっていた。
ユグドラシルの頃は、コンソールを開くことで作製済みゴーレムの状況を確認できたのだが、コンソールが無いこの世界では、感覚でそれらの状況が分かるようになっていた。
これ程の数のゴーレムトラップが一斉に起動するなど、今までになかったこと。
そして傾向としては、南の街ほど起動数が多い。
ショータローは理由が分からず、一度ボディポ侯爵領へ転移する。
そこで見たのは死都を彷徨う無数のアンデッド。
アンデッドの一部が意思なくゴーレムにぶつかり、トラップの発動条件を満たしているのだ。
南部のいくつかの街へ転移したが状況はどこも同じ。
ショータローはすぐさまネイアとバザーへ
バザーには南部で起きていることを正確に伝え、ネイアの両親には直接会って、起きていることを口頭で伝えた。
ネイアには『南部の全ての人間が死んでゾンビ化している』ということは言えなかった。
バザーは既に、聖王国王城にてある程度情報を得ていたため、ショータローの報告はその情報が正しかったことの裏付けであった。
程なくして、カルカ・ベサーレスは王城に重要人物を呼び集める。
そこには再びバザーとヴァージュの姿があり、加えて、ついにショータローも正式に登城することとなった。
「…ショータローよ、俺の後ろから出てきたらどうだ?」
「いや…いい」
「では、お前から聞いた話を俺の口から喋っていいのだな?」
「うん」
「はぁ…分かった。では、ショータローが転移にて確認した南部の都市の状況を、俺の口からこの場にいる者へ伝える。都市単位で見ればデボネと言う都市より南の全ての街には生存者は恐らくおらず、街にはアンデッドが徘徊しているそうだ」
「本当に…本当に生存者は居ないのでしょうか…?!小さな村々や…教会などに避難している民などは…!」
始めにラン・ツー・アン・リンからの報告を受けてから、被害状況が明らかになるにつれてどんどんと絶望的な状況であることが伝えられてくる南部聖王国の状況にカルカは心を痛め、本来であれば寝込んでいてもおかしくない状態であったが、これほどの国難に自身が欠席するわけにはいかないと気力だけで参加していた。
そして、魔法や戦士としての実力という意味では最も信頼できるショータローと言う少年からの言葉で、想定できる最悪の状況であるという事が突き付けられ、今にも倒れそうになっている。
カルカからの質問を受け、ショータローはバザーに何やら耳打ちをした。
バザーがその言葉を皆に伝える。
「カルカ殿…残念ながらその可能性は低いとのことだ。ショータローが知る限りの町を回り確認したが、アンデッドの数は尋常ではなく、その環境下で生きている人間が居るとは考えづらいとのことだ」
「…そうですか…申し訳ありません…少し取り乱してしまいました…」
目の周りに隈を作り、焦燥するカルカの様子を見、最も心を痛めているのはカストディオ姉妹である。
アベリオン丘陵に住む亜人達との平和協定を樹立し、ローブル聖王国は確かに建国以来最もめでたい時を迎えたと言ってもいい状況からの急転直下であった。
しかし実のところ、ケラルトは南部の異変を何となく感じていた。
亜人国家との協定の話が国中へ伝えられた時、南部貴族は予想通り難色を示し、これだとばかりに将来の危険性と何か問題が起きた際の責任をどうとるのかという内容の反論をしてきた。
だが、実際に平和協定の内容が完成し、その内容には相互不可侵のみならず交易の開始にまで触れた内容であったにもかかわらず、南部貴族はピタリと反論の意見書を送ってこなくなった。
交易の開始はすなわち、北部聖王国が南部以外にも交易先を開くという事で、これは南部貴族の利益が目張りする未来が示されたということである、と言うのにだ。
そしてショータローの言葉でそれを納得する。
もはや全ての南部貴族は死に絶え、だからこそ反論など言ってこなかったという訳だ。
レメディオスもまた、ラン・ツー・アン・リンの報告後結成された、カリンシャ先のアンデッド防衛戦線を指揮する者として、状況がかなり悪いことを直感していた。
少しずつではあるが、アンデッドの数が増えている。
そして少しずつ、アンデッドの難度が上がってきている。
先の奇跡的なアベリオン丘陵の亜人との和解のおかげで、現在防衛線戦では、聖王国の者と共に亜人たちも防衛に当たっている。
これは協定による共同作戦と言う意味だけでなく、カリンシャをアンデッドに越えられた場合、アベリオン丘陵にもアンデッドがなだれ込む日がそう遠くないと予感できているからである。
そう言う訳で現在は、数的にも質的にも、アンデッドは防衛線戦を超えてはいないが、このまま南部の中で強力なアンデッドが発生していった場合、この状況をいつまで保てるかは分からない。
「くっ…何とか、何とかならないのか!!バザーたち亜人の中には善の心を持つものが居ると分かった!だが、南から来るアンデッドは、知性など無く唯々生者を憎み、街を蹂躙しようとしているだけだ!!」
レメディオスの言葉は特定の誰かに向けて発せられたものではなかった。
彼女の性格とこの場にいる者のことを考えた場合、それはショータローに向けて発せられたと考えてもおかしくはない。
だがショータローは現在に至るまで、聖王国、バザー陣営それぞれから、正確にどのような者なのかを理解されていない。
アベリオン丘陵統一の戦いの後にバザーが言ったように、バザーはショータローの友人であることは周知の事実である。
また、どうやらパベルとも一定の信頼関係があるようで、バザーが居ない場ではパベルがショータローからの伝言役になっている。
だが一方で、パベルもバザーも、ショータローが正確にはどこに住んでいるかを知らないし本人もそれについては言わないので、下手に刺激しない様にこちらからも質問をしていない。
なので、バザーないしはパベルを通してお願いすれば、アベリオン丘陵および聖王国の治安維持に対して非常に協力的な、恐ろしく強い人間の子供、と言う認識止まりである。
パベルは、ショータロー本人が望んでいないようだし、愛娘を国政に巻き込みたくないという思いから、ショータローとネイアの関係は共有していなかった。
そう言う訳で、『存在がかなり不気味だけど、恐ろしく強く、両国に協力してくれる人間の子供』と言う扱いからは出ていない状態だった。
レメディオスの言葉に反応したのは、この街、ホバンスの大聖殿にて司祭を務める、ミューギだ。
彼女はスレイン法国から送られて来ている者で、かねてから聖王国の聖王女派には協力的であり、人々の平和と安寧に尽力してきたことを、ホバンスの者は皆知っている。
だが彼女は本来、このような政治的な場に顔を出す者ではない。
しかしながら、今回、初めてミューギ司祭からケラルトを通じて、会議出席の打診があったのだ。
「皆さま…大聖殿でお世話になっているミューギです。まずはこの会議に出席させていただいたこと感謝いたします。そして、この度の大災厄…どれほど言葉を尽くしても亡くなった方の無念を代弁することなどはできません…ですが、未だ生きている聖王国並びにアベリオン統一国の皆さまのために、わたくしが知っていることをお伝えする必要があると理解し、スレイン法国からも情報開示の許可が出ましたのでお伝えいたします」
この場に出席する皆の表情が一気に驚愕の色を浮かべる。
それは『スレイン法国の許可』と言う言葉。
それはつまり、現在の未曽有の大厄災について、かの国が何かを掴んでいるという事。
そして彼女の言葉によっては、スレイン法国による戦線参加や、解決策があるかもしれないという事だ。
「まず始めに申し上げます。わたくしの本名は、ミューギ・リンカ・ヤアセ。“ミューギ”以外はスレイン法国の神に連なる存在より頂いた名前です。わたくしがこの名を名乗るときは、スレイン法国の特殊部隊の一員として任務を果たす時。そもそもわたくしが、この国へ赴任していたのは我が国の未来視を行える者が、この国に大きな厄災が降りかかることを予言したためです」
一同は驚愕の表情を浮かべたが、一方でカルカやケラルトは『やはり』という気持であった。
彼女は『司祭』という、教会においては比較的低い地位ながら、なぜか度々スレイン法国からの親書を神官団へと渡す役をしていたのだ。
そして、その親書は明らかに聖王女派ないしはローブル聖王国にとって有益な情報であり、結果的に国民のためのものばかりであった。
かつてバザーが
ミューギは言葉を続ける。
「厄災の事…今までお伝えすることが出来ず誠に申し訳ありませんでした。これは徒にこの国の国民へ恐怖を与えないためと言う理由と、私を含め、スレイン法国でも厄災の内容が不明であったために正確でない情報を伝えることで不要な争いがおこることを避けていたためです」
カルカはその言葉に納得する。
もしこの情報が、バザー統一王との協定の前に齎されていた場合、高い確率でローブル聖王国は、アベリオン丘陵の亜人の侵攻を“厄災”と捉え、敵対し、こんにちの和平など叶わなかっただろう。
バザーと目があった。
バザーもおそらくは同じ考えに行き着いていたようで、小さく頷いた。
「スレイン法国の最高会議は、今回の厄災の原因は竜王…具体的には
「お…お待ちくださいミューギ殿、いくつか確認させてください。まずはその
「仰る通りです、ケラルト・カストディオ神官団団長」
「そして、お話の内容から推察しますと、スレイン法国においてはその効果を打ち消す手段となるアイテムがあるが、それを持ち出すことは出来ず、またその魔法を扱う竜王を討伐あるいは退ける手段も無いと?」
「…残念ながらその通りでございます」
その言葉にカルカは絶望的な顔を浮かべる。
しかしケラルトは続けて質問する。
「ですが、あなたはその元凶たる
「…かつて
「神…13英雄……そうですか」
ミューギの口から出た存在は、いずれも御伽噺の中の存在。
現代において、それらはあくまで御伽噺。
ケラルトの頭脳をもってしても、それら存在と比肩する者に心当たりはなかった。
いや…一人いたが、それは明らかに御伽噺の英雄や神ではないので、もっと現実的な手段を考えるべきだと思った。
「…提案が二つあります」
カルカは、この場で最も起きていることについての情報を多く持ち、また、解決可能性を持ち合わせているミューギの言葉に一瞬歓喜しかけたが、その提案を口にするミューギの表情はどこか暗いものであったため、覚悟をするため一呼吸してからその続きを促した。
「一つは、速やかに逃亡することです。幸運なことに、ローブル聖王国とアベリオン統一国は友好国家となりました。なので、聖王国北部の国民は速やかに国を捨てて東方へ進み、アベリオン丘陵あるいはスレイン法国へ亡命をすると言うものです。この提案にはいくつか問題点があります。まず、厄災の正体が予想通り竜王であった場合、かの竜王が逃亡を許してくれるか分からないという事です。そして、スレイン法国が現在受け入れられる難民の数は多くて50万。それ以外の方はアベリオン丘陵、あるいはその他の国へ逃げていただく事になると思われます」
カルカをはじめ、この場にいる聖王国の人間は複雑な表情となった。
これはつまり“ローブル聖王国”の歴史が終わるという事。
また民の多くは難民となり、苦労が絶えない生活を強いられるという事。
カルカが目指した『弱き民に幸せを、誰も泣かない国を』と言う理想とは大きくかけ離れたものとなる。
レメディオスなどは、声には出さないが、信ずる君主の信念が果たせないだろう未来に苦悶の表情を浮かべ、血が出るほど強く唇を噛んでいる。
「そしてもう一つは…より険しい道ですが、かの竜に対抗し、撤退させる方法を模索することです。これにはまず、元凶たる存在の捜索と特定、そして有効な戦術を考える必要があります。まず、先ほど申しましたが、現時点で我が国をはじめおそらく近隣国において竜王に対抗する手段は持ち合わせておりません。そのため神話に残る話を紐解き、有効な手段を模索することが必要です。伝承によれば、強力な
誰もが押し黙る。
ミューギが語る二つの案はどちらも絶望的な色をしている。
為政者として選ぶべきは“逃亡”だろう。
こちらの方が、全てではないが民が生き残る可能性が高い。
だが、“ローブル聖王国”を残し、本当の意味での解決を図るならば、戦う事を選ぶべきである。しかしながらこの選択肢は、全ての民を犠牲とする可能性がある。
カルカは絶望的な未来に、今にも涙が零れそうになっていた。
そして、この話が出た時から頭の片隅にある、一つの魔法。
自身の被る王冠を収束具として発動する、ローブル聖王国王家に伝わる、ただ一度きりの大魔法、
伝え聞く話では、この魔法は王城最奥の儀式の間に記されている大儀式を行い、行使できる強力な神聖魔法とのこと。
だが収束具を持つカルカは元より、儀式に参加する高位の神官たちは皆命の保証があるか分からぬ程の消耗を強いられる。
純粋に現実味を帯びた死の恐怖。
結局、結婚と言う細やかな夢を叶えられないだろうという悲しみ。
そして、そこまでしても全ての民を救うことが出来ないという現実。
震えそうな手を必死に抑える。
そしてミューギの提案に堪えなければならないのは自分自身なのだと理解している。
バザーが口を開く。
「…和平協定だけではない。貴国の危機はアベリオン統一国の危機と同義だ。可能な限り力は貸す。仮に逃亡するという選択を選ぶならば、我が国へ移り住む貴国の国民には可能な限り不自由がからぬよう努力しよう」
「…ありがとうございます。バザー殿」
カルカは悩む。
為政者としては逃亡を選ぶべきか。
はたまた
だがそれで倒せなかった場合、その後の民はどうなるだろか…
「ミューギ殿…優柔不断な策ではありますが、逃亡の準備をしながら、対抗策を模索するというのはいかがでしょうか。まず、現在生き残っている民のうち他国へ逃亡できる者、例えば親戚などが外国にいる者には早急な移動を打診します。次に残った民を可能な限り大都市へ集めます。ホバンス、リムン、プラート、カリンシャの4都市であればある程度の人口増加にも耐えうるでしょう。そして、私たちはここホバンスで対処する方法を模索し、一方で移住する決意をした民は陸路はカリンシャから、海路はリムンから国境を越えます。そして、もし、かの竜王が行動を開始してしまった場合は…我が国に伝わる秘技にて一度だけ足止めをしてみます…この時点で残っている民は、この隙に移住をしてもらいます」
カルカの言葉に、ケラルト、レメディオス、カスポンドは、カルカが
その言葉にミューギは答える。
「承知いたしました…それでは私と、もう一人、現在カリンシャの聖堂で司教をしている者は私同様スレイン法国の特殊部隊の身分を持つ者です。ここホバンスとカリンシャにつきましては、万が一にもアンデッドが入り込まぬよう、我らで街全体を守護いたします。可能であれば、集める民はこの2都市を優先してください」
「…畏まりました」
カルカは、自身が抱いている恐怖が表に現れぬよう、必死に表情を作って答えた。
カルカとミューギのやり取りから、今後の聖王国の方針が概ね決まり、後は民への情報発令と、その後の移住の準備に向け、官僚たちが働く時間となる。
それらを進めるため会議は終わりのムードとなり、官僚たちへ情報を伝えるケラルトや、民への情報発令の草案を作成するカルカは行動を開始しようとしていた。
だがその空気を止めたのは、またしてもミューギであった。
「お待ちいただけますでしょうか。カルカ・ベサーレス聖王女陛下のご決定された今後の方針のために、この場でどうしてもお話しなければならない方がいらっしゃいます」
皆、その言葉に動きを止めた。
そしてミューギの次の言葉を待つ。
「ショータロー様、どうか此度の厄災から人々を守るために力をお貸しいただけないでしょうか」
仮面の子供、ショータローは突然のご指名に固まる。
というかそもそも、この会議は知らない大人達だらけで参加したくなかった。
だが、パバルとバザーがどうしてもと言うので、会話は全てバザーに丸投げをするという条件で渋々参加したのだ。
だが今、ミューギと言うエルフ…確か以前ネイアと一緒に透明化で大聖堂に忍び込んだ時にすれ違ったシスターで、その後のネイアの言葉で透明看破を使えるという事が分かり、その後は避けていた人、から指名されたせいで、全員の視線が突き刺さる。
人見知りのショータローとしては非常にいやな気分だ。
仮に仮面をしていなかったら、何も言わず転移で逃げているところだった。
そんなショータローの様子にパベルとバザーは気づき、比較的遠い席に居るパベルはどうしようかと目を泳がせていて、バザーはため息を一つついてショータローの代弁をしてくれた。
「あー…ミューギ殿。こいつは他人と話すのが得意ではない。俺が代弁する形で話すのでもいいだろうか?」
「あ…左様でしたか。申し訳ありません。それではバザー様お願いできますでしょうか?」
「うむ」
「えっと…ショータロー様はローブル聖王国並びにアベリオン統一国の和平協定樹立に大きく力を貸されたと伺っています。また、高位の魔法を使用し神像の作製とそれを操る技量をお持ちだとか」
バザーの影に半分隠れたショータローが小さく頷く。
「此度の厄災の元凶となる竜の魔法は伝承によれば生者の魂を奪う事に特化しており、また南部を徘徊するアンデッドは生ける者に対して攻撃を仕掛けてきます。貴方様が使役する神像がゴーレムのようなものであれば、それは命を持たないために、犠牲を出さずに竜の調査を行うことが可能となると思われます。この作戦のためにお力を貸していただけないでしょうか?」
その言葉を聞き、ショータローは少し考えた後、わざわざ
バザーは突然頭の中に響く声に一瞬驚いたが、いつもの事なのですぐに冷静を取り戻し、その言葉をミューギに伝えた。
「…ショータローはミューギ殿の言葉に賛同し協力するとのことだ。そして状況は俺とパベル・バラハ殿を通じて共有するとのことだ」
「ありがとうございます!あなたのお力が借りられれば、竜の情報を集めるのは随分と容易くなります!」
ショータローの肯定的意見に、ミューギだけでなく、その場に居る聖王国の全ての者が頭を下げた。
ショータローはついに耐え切れなくなって、転移で逃げていった。
ここからの作戦と、消失したショータローについて、『万能精霊』ミューギは考える。
この作戦は、法国から命令されている竜王との接触禁止というものに対して、自身が取れるギリギリの策だ。
ショータローのゴーレムを使う事で、人が直接接触することなく、調査ができる可能性が出来た。
というか、カルカに進言した二つの策のうち、後者のものはそもそもショータローという存在がいなければ実行は不可能なものだった。
いつも一人ぼっちで心配していたネイアという少女の心を開いた、魔法に愛された少年。
だが、上がって来る報告を聞くたびに、その少年はとてつもない存在だと理解していった。
恐らくは
もしかしたら、今回の揺り返しの者かもしれない。
だが、番外様のような領域には到達していないと思われる。
なぜならば、高度な神聖系魔法を使いながらも、
番外様の説明では、神聖系魔法を極めた者が
これらから番外様のような
番外様から何度となく説明された、探すべき40柱の神。
その神は皆、異形種であると伺っているので、それらの方々とも違うのだろう。
番外様が本国を離れていただければ…何度となくそう考えたが、かのお方は、あの地を離れられぬ定め。
何としても、使える手段を用いてこの悲劇を回避しなければならない。
番外様の正義、困っている者を助けるという当たり前の事を、今度は私が為すために。
***
その数日後、聖王女から正式に国民への情報発令が為され、北部聖王国は未だ嘗てない混乱を迎える。
国外に親戚を持つ者は僅かであり、最初の移住者は100名程度のみであった。
やがて多くの国民たちは複雑な気持ちを抱えたまま、ホバンスなどの大都市へ移り住んでいく。
用意された新しい住居は、空き家の活用や国有地を率先して提供したために、決して不自由なことは無かったが、南部の全ての国民が死に絶えたという事実と、その運命がやがて自分にも訪れるかもしれないという不安は国民の気持ちを暗くした。
人がほとんどいなくなった小都市や村々には、有ろうことか犯罪者集団が入り込み、麻薬の栽培拠点を幾つも作る結果となってしまった。
気持ちを暗くした国民の一部には麻薬に手を出す者も現れ始める。
スレイン法国の特殊部隊たる者が目を光らすホバンスとカリンシャでは、蔓延は殆どなかったが、リムン、プラートの裏路地では麻薬の流通が目に見えて増えていく。
一方バザーは、アベリオン丘陵に戻って直近の部下たちへ状況を共有。
仮に聖王国からの難民が来た場合は丁重に受け入れるように各部族へ厳命した。
ショータローは、もはや南部の森へネイアやバザーを呼ぶことは出来ないと悟り、フェイク・ペロロンによるネイアの訓練は森では行わなくなった。
訓練はアベリオン丘陵のバザーの家の近くへ移り、念のため練習の際はパベルも同行する。
そしてネイアは、少し遅れて、カルカの情報発令で今自分の国に起きていることを知った。
一般的な13歳の少女として、多くの人が死んだという事実に恐怖し、そしてこれからもっと人が死ぬかもしれないという未来に暗い気持ちを抱く。
だがそれ以上に、彼女の中に育っていた“正義”の気持ちは、彼女自身が国の弓兵隊として所属することを選ばせた。
パベルの強い強い意向で、ネイアはホバンスを離れることは無い街を守る部隊に配属された。
彼女の弓の実力は、フェイク・ペロロンとショータローの実践的な訓練のおかげで、この時点で班長~隊長クラスにまで達していた。
部隊の皆は、ネイアを(その視覚的特徴も含めて)バベルの才能を強く引いた天才と讃えた。
このような事態でなければ、パベルはもろ手を挙げて喜び、こと有るごとにオルランドを捕まえて長時間娘自慢をしただろう。
だがこの国難の時期、ネイアの成長は彼女を戦場へと向かわせるのではないかと言う気持ちにより、素直に喜ぶことは出来なかった。
ショータローは見張る。
南部の各街と主要な地形を。
ミューギの情報により、その敵は恐らくドラゴンで、その身体のサイズを考えると非常に目立つだろうと考えた。
南部に配置したゴーレムは全て行動設定を書き換え、竜を探す巡回モードとなった。
だが上空からアンデッドの様子を観察していた時、ショータローはあることに気づく。
アンデッドのうち、なぜか
充分に距離を取りながら山を周回すると、海側に以前は無かった大きな穴を見つける。
そしてゾンビに擬態して作成したゴーレムにて、ついにその者の居場所を突き止める。
その者は体中に
幸い、魂を持たないゴーレムはその竜の探知の範囲外であった。
それに気づいたショータローは、可能な限り高レベルのゾンビ擬態ゴーレムを作り出す。
ゴーレムはその巨体に静かに近付いては、気づかれぬよう、1枚ずつ鱗を剥がしていく。
★のゲリラ作戦が始まります