オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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第4章はあと少しで終わります。



第4章 第27話 -聖騎士の矜持-

 

それはショータローたちが想定していた最悪のケースの1つだった。

 

ショータローに想定できない未知の魔法でホバンスが直接攻撃されるというもの。

尤もこれはかなり低い可能性だと考えられていた。

 

なぜならば、第一に、竜は高い確率で未だ始原の魔法(ワイルド・マジック)を使用できず、そうであれば奴にとっては魂の狩場であるはずのホバンスなどは襲わないだろうという事。

これはフェイク・デボネでの行動でほぼ確定したと思っていた。

 

そして第二に、ショータローが知る限り、記憶を覗かれるか持ち物を奪われるなどのことが無ければ、転移し逃げたショータローを追ってくる手段は無いだろうという事。

南方へ向かって逃げたように見せたので、その後にわざわざUターンしてホバンスまでピンポイントで戻ってくるなど考えられないと思っていた。

 

 

だが、ショータローにとって誤算だったのは、竜王が覚えている始原の魔法(ワイルド・マジック)の効果が、ユグドラシルのルールとは異なり、彼にとっても未知の効果のものが多数あったこと。

 

 

例えば注意深いタブラならば、その可能性も頭に入れて、念のためホバンスの住人は全て別の地へ逃がした後に作戦を開始したかもしれない。

彼の場合、そもそもこの状況に持ち込まれる前に対策を立てているかもしれないが…。

 

また、例えばアンデッドの精神に引っ張られた状態の、完全に利害による効率重視を考えるモモンガならば、さっさと聖王国を見捨てたかもしれない。

また、彼の場合は、そもそも聖王国に関わろうとはしなかったかもしれないが…。

 

だがショータローは、転移直後と比べれば成長したとはいえ14歳の精神性で、さらに友達とその大切なものを守りたいという、ある種の人間的な感情を優先してしまった。

 

友達に自身の本性たる異形の姿を見せたくないという気持ちにより、3年以上も天使の姿に戻らなかったことも、原因の一つだったかもしれない。

 

 

ともかくも今回、常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)が使用した始原の魔法(ワイルド・マジック)は<世界追跡>。

 

一度自身の目で見た存在について、その外見を覚えている限り、その所在地を感覚的に認識して転移できる魔法。

燃費が比較的悪く、また<世界移動>の様に他者を伴って移動することは出来ないが、一度対象を捉えてしまえば、対象がどこに逃げようと追いかけていくことが出来る。

 

ただ、転移先の状況は分からないので、対象に準備をされて集団で待ち伏せされるなどのリスクはある。

 

今回、常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)は逃げ去る5人の存在を見て、最後に出現した仮面の小さな人間か、途中から急に参戦した赤い衣を纏った女が首魁だと判断した。

これは、それまで戦っていた3名—フェイク御方ズ—が、比較的弱かった事で囮的に戦っていたと感じた事、その一方で突然参戦した赤い衣の女は、竜王目線でもかなり強く、自身の攻撃も通りづらかったこと、そして最後に姿を見た小さな人間は、そもそも交戦していないので指揮官的な立ち位置と考えた。

 

そこでまず小さな人間に絞って<世界追跡>を発動、しかし失敗。

次に赤い衣の女に発動、これも失敗。

そして最後に、塒に攻め入ってきた黒いローブと仮面の者に発動、成功。

 

飛んだ先には、目論見通り、元凶と疑わしき者どもが居て、さらに、多くの人間が住まう都市でもあった。

 

直感的に、この街は、“吸魂”が回復したら踏み込むつもりでいた北の都市のいずれかであろうと考える。

そして少し離れた高台のところにある建物はその作りから城であると感じ、ということはこの都市には王のような者が居るかもしれないと理解した。

なぜそのような知識があるのかは、自分でも分からない…覚えていない。

 

だがここは狩場にしたかった街。

貴重な魂の保管庫。

 

“吸魂”の回復はまだ先だが、ここに居る者どもは出来ることならば自身の養分としたい。

それまでは出来れば殺さず、逃がさず、この場所を取っておきたい。

 

そう考えた常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)はまずは一つの始原の魔法(ワイルド・マジック)を唱える。

 

 

「<世界断絶障壁>」

 

瞬間、ホバンスには半球状で半透明の結界が覆われる。

 

消費の激しい魔法であるが、どうやら使用した魂は50万弱。

まだ200万以上の魂は手元に残っている。

そして、

そして、“吸魂”が使用可能になった暁には、この街の魂を吸い尽くせばいい。

 

常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)の紅い目がニヤリと歪む。

そうだ、それまではこの場所が俺の塒だ。

魂を吸う準備が整うまでは『深淵なる躯』共の様に、この場所に居る者どもを使い、暴れぬよう言葉を掛けて留まらせればよい。

 

だがそのためにも、俺のことを虚仮にしてくれた下賤の者どもは殺しておかなければならない。

特にあの赤い衣の者。

アレは俺から見ても随分と強かった。

アレさえ殺せば、この場所で俺に楯突く者は居るまい。

 

そうして常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)は、先ほど自身に戦いを挑んできた、五月蠅い5匹の子蝿を見据える。

 

 

 

ホバンスの王城では、突然街の広場に黒竜が出現したことが衛兵から伝えられ大混乱となった。

王城にはカルカとケラルトが居たため、二人は衛兵や神官団に守られながら王城から街を見下ろすバルコニーに上り、その様子を目に納めた。

 

 

「まさか…あれが例の竜王…それではショータロー殿は…」

 

「失敗した…というよりは、事前に彼が仰っていた通り、竜王が未知の手段を使用したのではないでしょうか…竜王もダメージを負っている様に見えます」

 

 

ケラルトの言う通り、竜王の体表の鱗は所々が剥がれ、体にはいくつかの傷がある。

また、事前に聞いていたように体を纏っているという動死体(ゾンビ)の姿はない。

これは、少なくともそれらを剥がすという、ショータローの最初の作戦は成功したという事なのだろう。

 

だが次の瞬間、竜王から半透明の光が広がり、その幕はホバンスの空をすべて覆い尽くした。

 

 

「これは…!」

 

「…状況から考えてこれは竜王の魔法ではないでしょうか…今のところ何も感じませんが、例えば特定の魔法の発生を阻害するものか…あるいは外からこのホバンスを覗き見できないようなものかもしれません」

 

 

竜王は、ショータローたちの方に向き直ると、黒き身体をよじり、その長い尾をショータロー達に叩きつけた。

尾は黒く輝き、何らかの強化がされているように見える。

 

僅かに遅れて、その衝撃音がカルカたちにも届く。

それほどの衝撃だったのだろう。

だが、土煙の中から現れたのは、その尾を一人で押さえつける赤き衣を纏った女だった。

 

 

「な…なんという衝撃ですか…ですがあの女性は?」

 

「分かりません…味方の様ですが、会議にも参加したことは無いですし…もしかしたらショータロー殿が作成した神像かもしれません」

 

「あれが作成された像だというのですか…とても像とは思えない動きでした」

 

 

ケラルトの言葉を裏付けるかのように、その赤い女に続き、三体のゴーレムが一斉に竜王に攻撃を開始する。

 

黒いローブを纏った者と、バザーのような山羊の頭を付けた者、二体のゴーレムが左右から炎を爆発させるような魔法を放つ。

そしてカルカたちには正確に目で追うことが出来ていないが、上空に輝く人型の存在が、同じく炎の光線のような攻撃を放つ。

 

3方向からの攻撃がしばらく続き、戦いは硬直状態に見えた。

しかし局面は突然動く。

竜王はその右翼を大きく動かし、魔法を浴びることも厭わずに、山羊の頭を持つゴーレムを掴んだのだ。

 

竜王が身体を黒く光らせると、山羊の頭のゴーレムは砕け散った。

そしてそのまま竜王は位階魔法を発動する。

 

第十位階死者召喚(サモン・アンデッド・10th)

 

竜王の上部に一体のアンデッドが召喚される。

蒼い馬に乗った禍々しいその騎士、蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)は勢いよく上空へ登り、輝く存在と戦いが始まる。

先ほどまで魔法を放っていた黒いローブを纏った仮面のゴーレムもその戦いに参戦し、2対1の様相となったが、程なくして上空から凄まじい爆発が起きた。

 

 

「フン…相打ちか。さて残るは貴様らだけだ」

 

 

ショータローは、さすがにまずいと感じた。

ルベドは現在ほとんど一人で竜王と闘っている。

正直、ルベドと完全に1対1で周りのことを考えないのであれば、時間を掛ければ倒せるかもしれない。

だが、周りにいる者達へ危害が及ばない様に戦うとなるとかなり難しい。

 

ショータローは後ろにいる者達―バザー、ネイア、パベル、ネイアの母を守るように動くのが精いっぱいだ。

 

フェイク・ウルさん達が壊されたことで、殆ど他の動きが出来ず、フェイク・ウルさん達の修理は元より、応援のゴーレムを呼ぶこともできない。

尤も敵のレベル的に、30レベル程度のゴーレムでは一瞬も持たないだろう。

だがそれは、後ろにいる者達も同じだ。

最もレベルが高いバザーでも40レベル弱。

彼らは、衝撃波や攻撃に伴い飛んでくる瓦礫などを避けることで精いっぱいだ。

 

この広場の外には、万が一の時に人間をアベリオン丘陵へ避難させるため、旧十傑が幾人かの部下と共に潜伏しているが、戦いの激しさ故、割り込んでくることが出来ずに様子を見守る以外のことは出来ていない。

 

対して敵のレベルは恐らく90はある。

この世界に来て初めての強者との戦闘。

そもそも戦闘職でないショータローには非常にまずい状況である。

 

この局面をひっくり返すのに一番手っ取り早い方法は、自身が本性を現すこと。

そうすれば熾天使としての力は元より、ルベドの性能を80%まで上げることが出来る。

だが、ショータローはそれを躊躇う。

 

異形種たる自身は、ネイアに、バザーに、今まで通り受け入れてもらえるだろうか。

それ以上に、自分は天使に戻った時、仲良くなった人間に、亜人に、今のままの気持ちを持ち続けることが出来るだろうか…

 

 

竜王が放った何度目かの尻尾の攻撃を、ルベドが受け止めた。

 

 

僅かに生じた隙に、ショータローは振り返らずに、小さく呟くように言葉を発する。

 

 

「ネイア、バザー…オレが……人ではなくても、友達でいてくれるか…?」

 

 

「そんなの、関係ないよ!」

「今更何を言っている。俺は最初から貴様がただの人間などと信じていないと言っただろう。それに、人と亜人を繋いだのは貴様だろうが」

 

 

「…そうか」

 

 

ネイアやバザーの言葉を聞いてもなお、ショータローは迷う。

なんとかこのまま、あの竜を追い払う術はないか。

ルベドの防御を落として攻撃出力をもう少し上げれば、有利になるかもしれない。

だが、ルベドの損傷が大きくなりすぎると、この資源の乏しい世界では完全にルベドを修理できないかもしれない…

 

その時である。

街の入り口から一人の聖騎士が、竜王を目指して突進してきた。

 

その者の名はレメディオス・カストディオ。

この国の最高戦力であり、聖騎士団団長を務める者。

 

彼女は野性的勘が働き、今日この日、副団長のグスターボと共にホバンスの入り口を守っていた。

何故か今日はホバンスを守らなければいけない。そんな気がしていた矢先、街は突然半透明のヴェールで覆われる。

試しにそのヴェールに触れてみたが、外に出ることは叶わなかった。

 

何らかの敵対的な攻撃と理解し、速やかに王城を守るため街に戻る。

そこで見たのは巨大な黒竜。

これこそがおそらく、南部聖王国を滅ぼし、北部聖王国に混乱と絶望を振りまいている元凶。

カルカ様の理想を邪魔する存在—————悪。

 

長らく悪だと信じてきた亜人は、実は悪そのものではなかった。

悪たる亜人は、善たる亜人王が積極的に間引いてくだろう。

アベリオン丘陵は悪の巣窟ではなかったのだ。

 

だが、この竜はどうか。

多くのものを殺し、アンデッドを生み出し、麻薬蔓延の原因でもある、分かりやすい悪。

 

単純なレメディオスは答えを出した。

悪は撃たなければならない。

 

そして、戦士としては高いレベルに居る彼女は同時に気づいてもいる。

恐らくは自分では勝つことは出来ない。

 

ならばすべきことは何か。

 

簡単だ。

 

勝つことが出来る可能性がある者へ繋ぐことだ。

 

 

「グスターボ、聖騎士団は貴様に任せたぞ」

 

「だ…団長」

 

 

その言葉を残して、レメディオスは腰の聖剣サファルリシアを抜き、竜王へ走り寄る。

 

 

「聖王国を汚す、悪の竜よ!!正義の一撃を受けるが良い!!<聖撃>!!!」

 

光り輝く聖剣に、常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)だけが眩しさを感じ目を閉じた。

 

「ふふ…やはりお前だけだ!この場にいる悪は!!」

 

レメディオスの渾身の聖撃を纏った剣が、竜王の首元に刺さった。

 

「グゥ…その程度…何だというのだ!貴様ら人間など、俺の養分にすぎんゴミだ!死ねェ!!!」

 

レメディオスはそれがスローモーションのように感じた。

目を閉じたまま薙ぎ払う竜王の爪が自身の胸元をゆっくりと通り過ぎて行き、下半身と離れ離れになって、視界はゆっくりと闇に染まっていった。

 

最後の力を振り絞りレメディオスは叫ぶ。

 

「ショータロー、今だ!!」

 

 

 

レメディオスの声に、弾かれたようにショータローは動く。

 

「ホバンスの全てのトラップゴーレムよ、竜王に突っ込み自爆しろ。ルベド、物理・魔法防御を20%低下。物理・魔法攻撃を20%上昇。火属性の攻撃を開始」

 

 

レメディオスの覚悟を目の当たりにしたバザーは、竜王が目を閉じた隙を見逃さなかった。

すぐさま攻撃力上昇と速度上昇の武技で自身を強化し、武器破壊効果を込めた攻撃をたった今レメディオスを切り裂いた爪に集中して浴びせた。

 

「破壊の豪王の矜持、見せてやろう!!」

 

 

ネイアの母もまた、聖騎士としてあるべき姿をその命で以て示した団長に敬意を覚えながら、自分が今できる最大の攻撃のため弾かれたように飛び出す。

目の前に飛んできたレメディオスの上半身から零れ落ちた聖剣サファルリシアを素早く拾うと、レメディオスには劣るものの<聖撃>を唱え、その剣を竜王の開いた口へねじ込んだ。

 

 

パベルは素早く左に体をスライドさせると、武技とスキルを叩き込んだ弓の一撃を、閉じられた竜王の右目へ打ち込む。

そして「ネイア、右だ!!」と叫ぶ。

 

 

ネイアは、目の前でたった今、この国の聖騎士団団長が殺されたことを理解した。

一瞬の硬直、だが、父の言葉と、正義のために培ってきた意志の力で、体を右にスライドさせ、フェイク・ペロロンと共に修行して覚えた、オリジナル武技<聖弓撃>を発動。

4本の聖なる光が、竜王の閉じられた左目に刺さる。

 

 

 

王城のバルコニーからその様子を見守っていたカルカとケラルトは、姉であり、親友である者の死を目の当たりにした。

声を上げることは、正義に生きた彼女を侮辱するような気がして、意志の力でその名を呼ぶことを押しとどめた。

 

だが次の瞬間、4名の素早く連携の取れた攻撃が竜王に届き、同時に都市中の至る所から神像や天使像が現れ、一斉に竜王に突進していく。

 

その姿はまるで神話の光景の様であった。

 

100体近い神の像が空を飛び交って体当たりをしては爆発し、先ほどの赤い衣の女性はその爆発を巧みにかわしながら、竜王の外皮を切り裂いていく。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

竜王の悲鳴が響く。

神話の戦いにより、悪しき竜王は倒されると誰もが確信した。

 

 

だが次の瞬間、竜王が叫んだ。

 

 

「ゴミムシどもがァァァ!!!絶対に許さんぞ!!!!貴様らの魂など最早要らん!!<滅魂の瘴気>!!!!」

 

 

赤のような紫のような、深い闇のオーラが広がり、全ての神像、赤い衣の女、そしてショータローと4人の者を包んだ。

 

 




カルカとケラルトが無事で、周りを善性の者に囲まれ、倒すべき唯一の悪を認識したレメディオスは、きっと聖騎士としてあるべき精神を持てると思うんですよね。
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