オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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第4章最終話となります。


第4章 第29話 -2つ目のピース-

 

ショータローが原動天の熾天使(セラフ・プレモ・モビレ)として本性を現す少しだけ前、カルカたちは王城最奥の儀式の間にて、最終聖戦(ラスト・ホーリーウォー)発動のための大儀式を開始した。

 

カルカを取り囲む、ケラルトをはじめとした20名ほどの高位神官たち。

 

この場に恐れる者は誰一人としていない。

 

神官団に入団し、適性が確認された者には、有事の際にこの大儀式にて命を賭して国を守る責務が課せられる。

 

そして、その日が訪れたのだ。

 

恐らくはこの儀式に参加する者で、最も恐れを感じていたのはカルカであった。

 

収束具である王冠を身に着け、大魔法発射の起点となる彼女は、他の者と比べても高い確率で命を失う。

 

だが、今のカルカはもう迷わない。

 

その双眸には国を背負う者としての決意の色が浮かんでいる。

 

周囲に配する神官たちは徐々に自身の魔力が、収束具たる王冠を通してカルカに流れ込んでいくのを、いや、正確に言えば繋がっていくのを感じる。

 

王冠は儀式に参加する者達の魔力を繋ぎ合わせ、増幅し、聖王家の者が魔法を撃ち出す為の触媒なのだ。

 

 

彼ら彼女らは気づかない。

今王城の外では、真に竜王が自身の張った結界を破壊し、南の彼方へ飛び去ったことを。

 

そして、結界が破壊されたタイミングで、待っていたかのように大聖殿に一人の司教が転移してきたことを。

その者、【隔世盟主】はホバンスの異変を察知し、しかしながら竜王の始原の魔法(ワイルド・マジック)によって張られた<世界断絶障壁>を突破することが出来ず、その瞬間を待っていたのだ。

 

【隔世盟主】は転移先として、同胞にしてかつての師である【万能精霊】の元を選んでいた。

その場所は大聖殿の外。

【万能精霊】は膝をつき、涙を流しながら祈りを捧げていた。

 

 

「ミューギ殿!!状況は?!!」

 

「ああ……やっと…やっと我らが師たる番外様が150年間以上探し求めていた神の御1人…その御方が降臨成されました…あの子供こそが、神だったのですね…御覧なさい」

 

「あ…あれは……!40柱の御1人、熾天使“るしふぁー”様!!」

 

「そうです…転移が使える貴方は、すぐに本国へ戻り、番外様へこのことを…!」

 

「承知いたしました!!」

 

 

 

スレイン法国、法都シクルサンテクスの最奥の神殿。

この場所はかつて、闇の神の最後の従属神が封ぜられていた聖域。

 

その場所は普段は静寂に満ち、喧騒などとは無縁である。

 

そこを本拠地とする、列聖された聖人たちが暮らす領域。

 

そこに息を切らしながら走り込んできた男が大声を上げた。

 

 

「ああ、アンテリーネ様!!番外様に、番外様に早く御繋ぎください!!神が!!我らが探し求めていた40柱の神の御1人が、ローブル聖王国ホバンスに降臨成され、竜王と思しき存在を撃退いたしました!!!」

 

「な…何ですって…!分かりました。そこで待っていてください!!」

 

 

このような大声、この聖域においては本来褒められたものではない。

だが、事態が事態である。

 

ローブル聖王国周辺に降りかかると予言された厄災。

それが潜伏する隊員からの報告で竜王によるものだと分かったが、恐らくは輪廻聖典であっても戦う事が可能な隊員は番外席次と第一席次のみであり、かつそのためには公的には国に1つしか存在しない至宝を持ち出す必要があることが分かった。

 

余りにも不確定要素が多いことから、法国最高会議は輪廻聖典の直接戦闘を想定した派遣は行わず、可能な限り聖王国国民が生き残るための逃亡策の準備を支援していた。

 

だが【隔世盟主】の報告により事態は急変を迎える。

 

不可能と思われた竜王の撃退。

そして探し求めた神の降臨。

 

法都の転移可能領域から、この聖域まで全速力で走ってきたと思われる【隔世盟主】は肩で息をしながら、輪廻聖典の事務方の隊員から渡された水を飲み息を整えている。

 

そして深い御簾のようなヴェールの向こうから、第一席次のアンテリーネと共に、純銀の鎧をまとった聖騎士が現れた。

 

全ての隊員が膝をつき首を垂れる。

 

それを手で制し、純銀卿は【隔世盟主】へ言葉を述べる。

 

「第五席次【隔世盟主(フェナー・アンフューア)】。貴方の日々の献身と此度の報告に感謝します。早速ですが、ローブル聖王国ホバンスまで、私を伴って転移をお願いいたします。私は転移が使えませんので」

 

 

その言葉にアンテリーネは目を見開く。

 

「番外様、よろしいのですか?!」

 

「ええ。“神”の御迎え。これは私が出なければいけないのです。大丈夫、御時間までには戻ります。それまでは第一席次【輪廻聖典(リンカナーチオン・シュリフト)】、あなたがこの地を守るのです」

 

「畏まりました」

 

「それでは行きましょう」

 

そうして、純銀の聖騎士は100年以上ぶりに他国の地へと足を踏み入れた。

 

 

純銀の聖騎士は、【隔世盟主】の言により、まずは王城で聖王女たちが行っている儀式を止めることが必要だと考えた。

既に竜王は退避しているにも拘らず、聖王女たちは命を賭した儀式にて大魔法の発動準備に入っているという。

 

自身の正義に従い、無駄な犠牲を生むことを良しとしなかった彼は、王城で待機していた【万能精霊】の案内で王城の中の最奥儀式の間へ走った。

 

その最奥の扉を開けると、今まさに儀式は最終段階へと入ろうとしていた。

中央の薄布を纏った女性が収束具たる王冠と共に虹色に輝く。

 

 

「緊急時のため、失礼いたします!!」

純銀の聖騎士はもはや一刻の猶予もないと判断し、腰の聖剣を抜くと信じられない速度でカルカに近づき、剣の腹で王冠を叩き落とした。

 

カーーーーン!!

 

激しい音を立てて壁にたたきつけられたその王冠は、されど壊れることは無く、急速にそのエネルギーを失って虹色の輝きをなくしていく。

同時に疲労のため、カルカはその場に崩れ落ちそうになる。

 

「何者ですか!!」

 

ケラルトが叫ぶと同時に、純銀の聖騎士はカルカが床に体をぶつけぬ様、優しく抱きとめた。

 

 

「カルカ・ベサーレス聖王女陛下、並びにローブル聖王国神官団の皆さま、緊急事態にてこのような無礼な振る舞いお許しいただきたい」

 

そこまで言うと、純銀の聖騎士はカルカをケラルトに預ける。

そして剣を腰にしまうと、2名の配下の者、【隔世盟主】と【万能精霊】は、その純銀の聖騎士の左右に、片膝をついて首を垂れた。

 

 

「私はスレイン法国の輪廻聖典、番外席次の【絶対正義(アブソルト・ゲレヒテカイツ)】と申す者。私の部下たるこの2名から、この国に神が降臨したことを聞きお迎えに上がりました。そして、神は既に邪悪な竜王を退けこの都市から脅威を取り除きました。あなた方がその身の犠牲を払う必要はなくなったのです!」

 

純銀の聖騎士は、輝くオーラを背負いながら自己紹介と現在の状況を説明した。

 

 

「はぁ…はぁ…それは…誠でございますか?」

 

「ええ、カルカ・ベサーレス聖王女陛下。バルコニーへ向かいましょう。その目でご覧いただければご理解いただけるでしょう」

 

「畏まりました…はぁ…はぁ…ですが少し…呼吸を整えさせてください」

 

 

やはり魔法発動の中心となっていたカルカの消耗は相当で、今もやっとの事ケラルトに支えられている。

一方でケラルトも、カルカほどでは無いが消耗は激しく、カルカを支えながら今すぐにバルコニーへ向かうのは難しい。

 

「お二人、不敬を承知で提案いたしますが、良ければ手をお貸しいたしますが」

 

 

純銀の聖騎士が述べる。

ケラルトからすれば、いきなりの闖入者たるこの者は、普通であればとても信用できるものではないのだが、左右に控える2名の者、スレイン法国から派遣された2名は完全に平伏していて、特にホバンスに駐在しているミューギについては、ケラルトも高い信頼を寄せている人物であった。

 

「…それではお願いできますでしょか。カルカ様もよろしければ」

 

「ええ…お手を煩わせて申し訳ありませんが」

 

 

二人がそう答えると、純銀の聖騎士は軽々と二人を、それぞれの左右の腕で抱きかかえた。

 

「なっ…」

「はぅっ…」

 

言うなればそれぞれの片腕でのお姫様抱っこであり、にも拘らずその安定感や安心感たるや、男性に全く免疫が無い2人は揃って顔を赤くしたが、既に自分たちから申し出たことであり、降ろせとも言えずただ固まっている。

 

「それでは行きましょう」

 

純銀の聖騎士は、速やかにバルコニーに向かう。

だが一方で、抱きかかえた2人に振動や衝撃が伝わらぬ様、慎重に優しく歩いているのが分かる。

 

予想外の心臓が跳ねるわずかな時間の後、3名と自分で歩ける神官団員はバルコニーへ到着する。

 

優しく降ろされた2人が見た者は、【絶対正義】と名乗った純銀の聖騎士が言った通りの光景。

竜王の姿はすでになく、上空には神聖なオーラを纏う熾天使。

だが同時にその下、街には多くの壊された建物と殺された人間や亜人。

それらの光景はまるで、天から遣わされた存在が、悲惨な戦争を嘆く一枚の宗教画のようであった。

 

だが次の瞬間、その天使が何事かを呟くと、世界は夜に、続いて神聖な白に包まれる。

 

そこから起こる奇跡。

 

天からゴーン、ゴーンと鳴り響く天国の聖堂の鐘の音。

 

鐘の音が一つ鳴るごとに、地上には光が溢れ、犠牲者たちが復活を遂げる。

 

それはまさに神の所業。

 

カルカもケラルトもそこに居る神官団や聖騎士団の者は皆、ただただ滂沱のごとく頬を濡らし、膝をついて祈りを捧げていた。

 

 

「…これ程…ですか……」

 

純銀の聖騎士は呟く。

 

そして最後の鐘が鳴り、熾天使の腕の中で少女が復活すると、世界は元の空を取り戻し雲間からは太陽光が差し込んで、熾天使と少女を照らした。

 

熾天使はそのまま地上に降り立つと少女を静かに降ろし、そこに佇む5名の者へ言葉を述べた。

 

 

「オレは、まだやらなければいけないことがあるから、街の守りはお前たちに任せていいか?」

 

「ああ、構わん…やはり、ショータローなのか?」

 

バザーの問いに熾天使は頷く。

 

「色々と…説明をしなければいけないかもしれないけど、とりあえずオレは、オレだ…だから、パベルさん達も、えっと、レメディオスさんだっけか。祈ったり、跪いたりしなくていーから」

 

その言葉にバラハ夫妻とレメディオスは遠慮がちに合わせていた両の手をほどき、立ち上がった。

 

「えっと、まずフェイク・ウルさんの指揮権はバザーに、フェイク・ペロロンの指揮権はネイアに渡すな。フェイク・ウルさんは、この街に配置したゴーレムの指揮権を与えとくから、がれき撤去とか、あと街の外のアンデッド退治とかに使ってくれ」

 

「うむ」

「えっと…うん、がんばる」

 

 

「で、こっちのフェイク・モモンガさんだけど、パベルさんに任せていい?このゴーレムは魔法性能が高くて、死霊系のダメージは無効化するけど、火と神聖系に弱いから、その特性をうまく使ってくれ」

 

「あ…ああ、ありがとうございます。ただ、私はそこまで魔法に精通していないので特に神聖系となるとレメディオス団長か妻の方が良いかもしれません…」

 

「えっ…そんな畏まった喋り方しないでよ…じゃあ、ネイアのかーちゃんとレメディオスさんにもサブの指揮権渡すから3人でうまく使って」

 

ネイアの母とレメディオスは、ここまでの会話から、この神ともいえる熾天使の正体がショータローであると理解したが、余りの事に言葉が出ず、ただコクコクと頷いた。

 

 

その時である。

 

「とうっ!!」

 

その声と共に、るし★ふぁーの前に降り立つ純銀の騎士。

その姿を見た、るし★ふぁーは固まる。

 

「たっ…ち…さん…!」

 

周囲の5名の者は、一瞬その純銀の聖騎士は敵か何かと思い身構えたが、ショータローの反応が明らかに知人に対するものであったから、その様子を見守ることにした。

 

 

「150年…いや、もっとでしょうか…やっと見つけましたよ。るし…」

 

「まって」

 

 

るし★ふぁーの言葉で聖騎士の言葉が止まる。

 

 

「えっと…たっちさん。その、オレ、まだやり残してることあるんだ。だから、その、また今度ね!!転移(テレポーテーション)!!!」

 

るし★ふぁーはその場から離脱し、速やかにルベドが送ってきている座標まで転移していった。

 

不思議だったのは、その転移の瞬間、頭の中に声が聞こえたのだ。

 

 

 

『太陽が飲み込まれました』

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)は逃げる、逃げる。

最初彼は、ホバンスに来る前に寄った、たくさんの人間が残っていた街—デボネ―を目指した。

 

だが、その上空まで来た時、高度を落として街をよく見ると、そこには全く動かずに整列する石や泥で作られた人型の存在が佇んでいた。

そして近づく常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)の方を一斉に見る。

 

その様子に彼は、この者達が実は人間でなくゴーレムで、つまりは先ほどまで戦っていたWI持ちプレイヤーの配下であると理解し恐怖した。

 

そしてそれ以上に、なぜかその光景、命無き人形が一斉にこちらを見遣る景色—それはまるでディストピアの様だった―に恐怖を覚えた。

 

なんだ、これは。

何故だ。

何故俺が恐怖を覚える。

 

あの光景。

ディストピアのような景色。

そこに住む下賤の民が一斉に蜂起し、俺の安全を脅かす恐怖。

 

俺はそれにいつも怯えていた気がする。

いつも?…いつだ?それは?

 

いや待て、なぜ俺は“ディストピア”などという言葉を知っている?

搾取される者達が徒党を組んで、突然なりふり構わず襲い来ること。

そうだ、それを“テロ”と呼ぶ。

俺は、それをいつも恐れていた。

 

いつかあの者どもが牙を向き、俺を脅かすことを恐れていたのだ…

 

 

背後から迫り来る赤い天使。

奴もまたWIを持つプレイヤーなのだろう。

今の弱っている自分では敗北の危険がある。

魂を使い切ってしまえばそれは即ち死を意味する。

 

ダメだ、ダメだ!

兎に角逃げなくては!

あの南の山?

いや、あの場所はあいつらにばれている!

となればかつての住処だ。

 

あの場所に逃げ込み、気配を消してやり過ごす。

そして、折を見て“吸魂”にて周りの国の者どもの魂を吸う。

これしかない!

 

そうと決まると常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)は進路を南東へ変える。

 

 

 

 

 

かつて常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)が身を潜めていた洞窟があった場所。

その場所には現在3名の人影があった。

 

そのうちの1名。

喪服を着た怪人が声を上げる。

 

 

「タブラ・スマラグディナ様、アレがこの場所に高速で向かってきています!」

 

「やはりそうなりましたか…それで、体力などは?」

 

「はい…これは…体力は非常に低下し、想定されていた動死体(ゾンビ)を纏っておりません」

 

「なるほど、ではパターンAですね。ニグレド探知は一旦停止。準備に入ってください。アルベドも真なる無(ギンヌンガガプ)を攻撃形態に変えて準備…2人とも油断せずに行きましょう」

 

「「はっ!!」」

 

 

 

ニグレドは胸元につけたアイテムを起動する。

そのアイテムは幾重にも重なった歯車の形状。

ニグレドがこの世界に来る前から装備していたワールドアイテム。

 

その名は、【アンティキティラ・マシン】。

このアイテムをNPCに装備させることで、そのNPCは一つだけ超位魔法を使用できるようになる。

 

彼女が使用できる超位魔法は世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)

タブラがニグレドの設定を書き換えた後、ニグレドは守護領域から外に出ることが出来る設定となった。

そして第6階層の氷河領域というスリップダメージが入る場所でこの魔法を発動させ、侵入者を迷わせるという嫌がらせを行うことを想定していたのだ。

結局一度も使うことは無かったが。

 

ただ、このWIを使った超位魔法は、本来のものの劣化版であり効果範囲が狭く、またニグレドのレベルでは1日に2回までしか使えない。

 

何度かの実験の結果、範囲は狭いものの、この世界では作り出す幻はかなり融通が利くことが分かっている。

そして、ワールドアイテムの効果がおそらく効かない竜王であっても、ワールドアイテム使用の結果、使っている超位魔法については無効化できないと想定された。

 

後は発動時間のタイムラグだが、どうやら竜王到着前に完了できたようである。

万が一のために準備していた課金アイテムを使う必要はなかった。

 

 

 

常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)は必死に逃げる。

なんとか目視では見えないところまで赤い天使を引き離し、あと少しでかつての塒である洞窟まで来た。

 

だが洞窟の上空まで来た時に異変に気付く。

その洞窟の山には、数えきれないほどの亜人が出入りしている。

そしてその者たちは山から鉱石を運び出している。

 

恐らくは自身が長らく家を空けたことで、いつの間にかアリ共が入り込み、鉱脈でも見つけ、鉱山として利用しているのであろう。

 

搾取されるだけの下賤の者が自身の住処を荒らしているという事実に怒りを覚えかけたが今は都合がいい。

まだ完全には回復していないが、多少無理してでもこいつらの魂を吸い上げて回復しようではないか。

 

見たところ洞窟の周りにはいくつかの集落のようなものも形成され、先ほどまでいた人間の街ほどの人口が有りそうだ。

 

常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)はニヤリと笑うと、その洞窟のある山の中央上空まで来て、慌てふためく眼下の亜人たちを見ながら“吸魂”を発動した。

 

だが、すぐに違和感に気づく。

 

魂が集まらない。

 

むしろ魔法発動のために魂を消費だけしている。

 

謎の現象に首を傾げた瞬間、頭上から声がした。

 

 

「おんどりゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

ガギン!!

 

その声に続く激しい衝撃。

飛行状態を保つことが出来ず、そのまま山へ落下する。

しかし、山に体が当たることは無く、山をすり抜けてさらに体が落下していく。

 

その瞬間、坑道に出入りする亜人たちも、周りの集落も、山さえもが消失し、恐ろしく深い奈落へと落下していくのを感じる。

 

「どりゃあああああ!!!」

ガギン!!

 

2度目の衝撃。

ここで初めて、その衝撃を与えてきた者の姿を目視する。

それは純白の悪魔。

 

その双眸は金色に輝き、縦に割れた瞳孔は怒りを湛えている。

 

「貴様がぁあああ!!無垢なる者達を殺し操っていたこと!絶対に許さないぃぃぃぃ!!!!」

 

瞬間、ドラゴン・センスで感じ取った感覚。

強い『善』の気配。

ダメだ…切り札が意味を成さない…!!

 

魂が、削られる!!

 

 

 

この日のためにアルベドが、竜王の元の住処の洞窟を破壊して真なる無(ギンヌンガガプ)で掘った大穴に、ニグレドの超位魔法で元の地形と多数の亜人の幻覚を餌に誘い込み、魂を吸収する始原の魔法(ワイルド・マジック)を発動する瞬間の隙にタブラが上位転移(グレーター・テレポーテーション)で竜王の真上にアルベドを運んで、真なる無(ギンヌンガガプ)で穴に叩き落とす。

 

そしてアルベドは穴底で殴れるだけ殴り退避。

最後にタブラの魔法がさく裂するという手順だった。

 

ここまでは非常にうまく、作戦通りに行っていた。

2つ予想外だったことがある。

 

1つはこのタイミングで頭の中に響いた謎の声。

『太陽が飲み込まれました』

意味が分からない…不確定要素だが、ここで作戦を止めるわけにはいかないと気を引き締める。

 

もう1つは、アルベドが竜王を穴底に叩き落とす最中、1体の赤く輝く天使がその穴へ高速で飛び込んだこと。

 

 

「あれは…可愛い末の妹!!」

 

ニグレドがそう叫んだことでタブラは瞬時に理解する。

ここまでこの竜王の体力を削った存在の正体を。

 

 

「アル姉さま、私も助太刀します!」

 

赤く輝く天使の少女は、その手に持つ剣に聖なる力を込めて竜王の身体を切り刻む。

 

「ルベド?!」

 

アルベドは突然の妹の登場に一瞬驚いたが、すぐにすべきこと、そしてルベドの存在から予想できることに希望を抱き、さらに3発の打撃を竜王に叩き込む。

 

「ルベド、そろそろ時間です。最後はお父様が魔法を放ちますから私たちは退避を!!」

 

「わかった!!」

 

 

ルベドはアルベドを抱きかかえ、凄まじいスピードで穴から離脱する。

離脱しながら、数発の聖属性エネルギーを穴底に打ち出す。

 

ルベドとアルベドが穴から飛び出した瞬間、タブラ・スマラグディナは詠唱に入る。

 

魔法三重化(トリプレット)魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)…るし★ふぁーさん、とても助かりました」

 

 

 

度重なる重いダメージと、途中から参戦した赤い天使の聖属性攻撃により、体力は5%を切っている。

身体がほとんど動かない。

死ぬのか…

俺は…死ぬのか…

この見知らぬ世界で…

…そうだ、思い出した…

ここは異世界。

俺は…イチノセの研究に出資して…

あの終わりが近い地球から抜け出すために…

 

常闇の竜王(ディープダークネス・ドラゴンロード)の意識は、その後すぐに彼を襲った、紅蓮の炎と熱により掻き消える。

 

その穴から上がった火柱は上空100メートル以上まで吹き上がり、近隣諸国の者達はその天変地異に恐怖した。

 

炎の柱が消えた穴からは、輝く銀の鍵と、太陽の刻印がされたチョーカーが現れる。

 

タブラがその鍵を手に取ると、その鍵の情報が頭に流れ込む。

 

『特殊アイテム:黄昏の鍵(キー・オブ・ザ・ラグナロク)4/6』

 

 

チョーカーの方は手にとっても情報が流れ込んでは来ない。

魔法で鑑定するとそれは、ワールドアイテム“光輪の善神(アフラマズダー)”であった。

 

さすがのタブラもこれには驚き、「ブッ」と変な音を出した。

 

 

程なくして、タブラの予想通り、ある者がこの場所に現れた。

 

 

「うわっタブラさんじゃん!アルベドと…ニグレドも居んの?!」

 

「お久しぶりですね、るし★ふぁーさん。早速ですがあなたが追いつめてくれた、竜王、こちらも準備していたので倒してしましましたよ」

 

「あ、マジで?ちゃんと息の根止めた?」

 

「ええ、勿論。それで面白いアイテムを落としたんですよ…と、その前に、るし★ふぁーさん、あなたもしかして大いなる太陽(シャマシュ)使いました?」

 

「げ…マジかよ速攻バレんの?!」

 

首元を手で隠す、るし★ふぁーを見て、タブラはヤレヤレという表情を浮かべつつも、そのWIの効果を思い出し、彼がここまでに成してきたことに思いを馳せた。

 

「なータブラさん。やっぱモモンガさん怒るかな?」

 

「どうでしょうね?まあ1回は『ぐぬぬ』って顔するでしょうねー」

 

「うわー…やっぱそうだよなー…たっちさんも怒るかな?」

 

「あーたっちさんですかー…読めませんねぇ…まあちゃんと説明すれば大丈夫かもですね。とりあえず、さっきの竜王みたいなのが使う始原の魔法(ワイルド・マジック)とやらは、WI持ってないと無効化できないみたいですよ。さっきの竜王倒したら手に入ったので、これ装備しておいたらどうです?」

 

「え…これ光輪の善神(アフラマズダー)じゃん!いいの?!」

 

「いや、装備だけですよ。いきなり使うのはナシですよ」

 

「おっけ、おっけー!」

 

「ああ、そうだ、るし★ふぁーさんちょうど良かった。実はあなたのゴーレムの力を借りて探索したいところがあるんですよ。協力してくれません?」

 

「いいよ!あ、でもちょっと待って。ネイアとバザーには連絡しとかなきゃ」

 

「ああ、この世界の人ですか。まあ追々ここまでどんなことしてきたか教え合いましょうね」

 

「おっけー!そんで、ゴーレム使って何すんの?内容によっては聖王国まで一旦戻ってもう出来てるゴーレム持ってきた方がいいかもだからさ」

 

「ああ、そうですね。ある程度…うーん…30レベル位のと60レベル位のが必要ですかね。30レベルのは10体くらいいると助かります」

 

「オッケー。60のは連れてきた方がよさそうだな。で、何させるの?」

 

「いえ、実は妖精の迷路(フェアリーズ・メイズ)のフィールドエフェクトがかかった領域の調査がしたいんですよ。何があるか分からないので、今までは安全性の観点から避けてきたのですが、ゴーレムが居れば安全に探索できますからね」

 

 

 

るし★ふぁーはこっそりと、怒られたくないという思いから純銀の聖騎士の事は言わないことにした。

 

2人の至高の御方が楽しそうに会話する様子を見、3姉妹も同様に、心から幸せな気持ちとなる。

5人がこれから目指す場所はリ・エスティーゼ王国北東部の大森林。

 

そこで待ち受ける出会いは、彼らの心にどのような思いを抱かせるのか。

 

慈悲深きメイド長は、今日も待ち続ける。

愛しい御方との再会を。

 

 




次回、1話だけ閑話を挟んでその次は第5章に入ります。
いつも私の妄想話を読んでいただき感謝です。
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