LCB、シャーレの先生になる 作:ハーメルンのTakamagi
やっぱりこの二つのゲーム、どっか似てるんだよなぁ…………。
新たな黄金の枝の在処
「次の黄金の枝の在処は…………都市の理の外です、ダンテ」
〈…………え?〉
ヴェルギリウスが突拍子もなく告げたその言葉に、私は思わず思考停止してしまう。
「ふむ……さっきからカチコチ鳴る音が聞こえないが……彼の演算能力でもショートしたのか?」
「大丈夫ですかダンテ。こんなことで理解を拒んでしまってはこの先の事象にはついていけませんよ」
長い間全く動かなくなった私にファウストがどこか呆れたように声をかけた。
〈いや、ごめん…………そ、それでどうして外郭なんかに……?〉
「外郭に赴く理由を求めています」
私の音をファウストは淡々と共通語に翻訳する。するとヴェルギリウスは冷ややかな視線をこちらに向けた。
「私は一度も外郭だと仰ってはいません。あくまで『都市の理の外』とだけ言及しています」
〈いや、そうじゃなくて…………えっ?〉
かろうじて絞り出た疑問に、彼は言葉遊びのような正論で切り捨てる。再び思考の海に沈みかけた私を意にも介さず、赤い瞳の案内人は続けた。
「実のところ今回の黄金の枝は数ヶ月前に存在は確認されてはいてな、上から何度も依頼を要請されている」
「しかし、適切なタイミングを選ぶのが困難でした」
「気持ち悪いぐらいに催促してきたな……。その度に応酬しなければならずうんざりだった」
以前にも聞いたような会話を成す二人の声。だが私はその内容より「都市の理の外」という響きに、漠然とした不安を抱かずにはいられなかった。
すると後方で黙って聞いていた囚人達の中から、疑問の色を見せる声が響く。
「なぁ、『都市の理の外』ってどこのことだ?」
私と同様の疑問を抱いたヒースクリフに、ヴェルギリウスは呆れたように言う。
「そこまで深掘りしなくても良い。言葉通りの意味だ」
「はっ?いやだから、それってなんなん──」
「…………上からの命令だ。それ以上執拗に詮索するなら、命令すら聞けない者として『面談』の時間を設けることになる」
案内人の「都市の理の外」の一点張りにヒースクリフは納得できず声を上げるが、彼の「面談の推奨」という脅迫にヒースクリフは身を引いてしまった。
ヒースクリフはヴェルギリウスが行う「面談」にいやな記憶しかない囚人の一人だ。彼から告げられる言葉は予想以上の火力を有していた。さすがに昔以上の仕打ちはしないだろうが…………。
「今お前らがヒースクリフと同じ意見を持っているのは承知の上だ。ただ今はそんなことを考える必要はない。黙ってやれってことだ」
案内人の釘を刺す言葉にその他の囚人も遂には黙り込んでしまう。そんな囚人達を見て私も理解するしかないと、反抗するのを諦めた。
「と、とりあえずどんな任務をやるのかは分かった。だがそんなところに行くにはどうすればいいんだ?」
今度は虫の腕を持ったグレゴールが質問する。
「ふむ、逆に問おう。そんな辺境に行くためには何が必要だと思うか?」
いつも通りの核心をつかない正論が返ってくるのかと思いきや、彼は試すように質問で返してきた。
「そ、そういえば……都市と外郭の境界線には一本の列車が都市を囲むように運行している*1と学校で学びました。ワープ列車も使えない以上今回はそれを使うんだと思いますけど……」
おどおどと答えるシンクレア。しかしそんな幼稚な回答はヴェルギリウスではなく、ウーティスが否定した。
「今我々が立っている場所は、その列車の駅からは随分と離れている。そもそもその列車を介する移動は極めて非効率だ」
彼女はシンクレアを一瞥もせず、まるで「私は優秀な将校ですので理解しております」と言わんばかりの態度でファウストへ視線を送った。
「ならば、以前定期検診を行う際に使用した『新生W社とP社と連携して制作した転送用車両』でも使うのだろう」
するとファウストは目を閉じて答えた。
「ええ。ウーティスさん仰る通りです。今回の目的地に移動するために新生W社の協力を仰ぐことにしました」
どうやらウーティスが正解を導き出したようだ。するとまた後方から、ロージャの不満げな声が響く。
「え〜?またアレを使うの?私さ『場合によっては体が真っ二つに分かれて済む』って忠告を聞いてさ、すっごい緊張したのよ?ちょっと気が引けるわ〜」
確か例の車両で告げられた忠告の一つだ。前回はなんの問題もなく成功したが、今回はどうなるか分からない恐怖は、簡単には拭えるものではない。
するとヴェルギリウスは、冷ややかながらも口角を上げて言葉を返した。
「そう恐るな。今回の技術はあの時よりかは信頼性におけるものだ。それに、その車両に乗り換えることは、当任務の方針には合わない」
「それって……どういうことですか?」
私達の意見を代弁するかのようにイシュメールは声を上げる。
「今回の作戦は、バスごと転移を行う。故に私とカロンも同行することになっている」
ヴェルギリウスの予想外の言葉に、私は度肝を抜いた。
まさか、あの固い「契約」に縛られ、頑なに任務に参加しなかったヴェルギリウスが(ただ単に任務が遠足になってしまうという懸念という理由もあるが)目的地まで同行してくれるとは…………。
特色の参戦に、いくつかの囚人は歓喜の色を示していた。
「えっ!?本当ですか?」
「おお!?まさか特色殿が参じてくださるとは!当人、恐悦至極!感激の余り失神しそうでありまする!!」
シンクレアやドンキホーテのように喜びに浸る囚人もいる中、ウーティスだけは神妙な面持ちで案内人を見据え、一人ごちる。
「まさか案内人様が参戦するとはな…………。しかし、彼が同行するということは、当任務は想像を絶する困難さを伴うと予想できる」
「……ほう。さすがの勘の良さだな、ウーティス」
ヴェルギリウスはその洞察を評価するように、短く鼻を鳴らした。
「まあ、俺でも詳細は知り得なかったが…………今回の任務は面倒で長丁場だということは確かだ」
彼の言葉によって、私たちが感じた喜びはぬか喜びに過ぎないと理解してしまった。ついさっきまで喜んでいた囚人達は今、不満だらけの表情で静かに席に座っている。
「さて、これで大方の質疑への回答は終わったな。早速だが目的地への移動を開始する。カロン」
「わかった。走らせるよ、ぶるんぶるん」
ヴェルギリウスが締めの言葉を述べ、カロンに声をかけた。カロンは難なく了承し、ハンドルを切り中央道路から外れ、バスを走らせた。
どこへ行くか、そんな大前提の疑問すら解決できなかった私達は黙ってバスの行く末を見守った。
────数分後、バスは緩やかに停止した。
「うーん、ビルとビルの合間の路地に着いたようですね?」
窓の外を覗いたホンルが、相変わらず呑気な声で感想を漏らす。
辿り着いた先は、普遍的なビルとビルの合間に存在する路地。昼だというのに光が一切地上には届かない、湿った暗い場所だ。
「陰気臭い路地だな。本当にここから行けるのか?」
単純に疑問に思うホンルと難色を示す良秀だが、それらに関わる会話はそれ以上生まれなかった。そんな中、ファウストが黙々と運転席まで足を運び、そこに付属されているパネルを操作し始めた。
「座標固定…………次元屈折準備、完了しました」
ファウストの声と同時に、鼓膜をつんざく電子音が響く。
直後、バスの外側──メフィストフェレスの先頭にある装飾から、何やら金属が軋み、ぶつかり合う音が断続的に鳴り出した。
そしてそれが鳴り止んだと思った刹那、前方に強烈な光が照射される。
「な、なんですか!?」
シンクレアの絶叫と共に放射された光は、だんだんと天使の輪のような形を成し、巨大な光の穴となって私達の目の前に現れたのだ。
「ふむ。切断プロセスを省略した、次元跳躍技術のようだな」
「見て分かりますよ…………ただ」
ムルソーの言う通り、今目の前で披露された技術はどことなく旧W社の「次元切断」に似ていたが、形成過程やその安定性が決定的に異なっていた。
イシュメールがその違和感を口にしようとした途端、突如二つの声がそれを遮った。
「……
「──待て。この技術、私は以前に見た覚えがあるぞ」
イサン、そしてウーティス。
イサンは遠い記憶を手繰り寄せるように。ウーティスはまるで戦場でとんでもない兵器を目撃したかのように、かつてないほど鋭い眼光で光の穴を見据えていた。
だが、それ以上の詮索を良しとしなかったのか、ファウストが食い気味に、そして冷徹に口を開いた。
「────出発します。舌を噛まないように」
有無を言わせぬ彼女の声と共に、バスは急発進。凄まじいGがかかり、車内の私たちは大きく揺さぶられた。
〈ちょちょ、ちょっと!運転が!運転が荒いよ!?〉
私は必死に安全運転にと頼むも、ファウストの耳には届かない。
「…………図星か」
ウーティスの不満が込められた呟きを最後に、私の鼓膜は甲高いノイズ音に支配され、視界もホワイトアウトする。
〈あ、これ死ぬやつ──〉
過度な刺激に耐えられず、私は意識を切り離した。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。ガタンゴトン。ガタンゴトン。
自然音の一部に組み込まれた金属の音。足元から伝って響く規則的で心地よい揺れ。それらが調和して生まれる空間の中で、私は意識を取り戻した。
〈わ、私は…………〉
うつらうつらと視界を回復させて最初に目が入ったのは、いつも乗っていたバスの床ではなく、フローリングされた綺麗な白い床だった。
〈どこだ……?私が乗っていたバスでもない…………〉
違和感を覚え視界を上げる。規則的に並んだ座席、汚れがない白い壁、天井からぶら下がる吊り革の列。そして白い壁に備え付けられた窓からは────
〈綺麗な……空だ〉
黄昏時だろうか。対面に見える窓からは地平線から太陽が姿を現している。仄かに、しかし確かに存在している太陽から放物線状に淡い桃色と水色のグラデーションで塗られたキャンバスが広がっていた。
都市では、いやこの世界では滅多に見られない、透き通った蒼空。
〈……いや、まずは囚人を〉
私は思わずその景色に見惚れてしまった。心の中に喝を入れ、立ち上がろうとする。
────動けない。どうしてか腰に力が入らないのだ。
だが、かろうじて顔は動かせた。仕方なく私は念入りに周囲を見渡す。だが囚人どころか、生命の気配すら感じられない。この空間は、静寂というより、閑かさで満たされている。
〈ダメだ。ここから体を動かせない以上、私は…………〉
手の打ちようがない。私が諦めムードに入ったその時────。
「そうですか。今はあちらで『管理人』に勤めているようですね」
〈…………え?〉
鼓膜に優しい、鈴を転がしたような声が響いた。
私は音の発生源を探そうと、動かない体を叱咤して視線を正面に戻す。
────いつから、そこにいたのだろうか。
誰もいなかったはずの目の前の座席に、一人の少女が閑かに座っていた。
〈わ、私を知っている?貴方は……誰だ?〉
時計の音しか響かないはずなのに、私は思いがけず口を開いてしまう。
「……私の名前を知る必要はありません。きっとそのうち、全てを思い出しますから」
彼女は私の言葉を遮るでもなく、ただ諭すように静かに告げた。
その視線は、異形となってしまった私の頭部──時計の文字盤を、悲しげに、けれど愛おしそうに見つめている。
「姿かたちが変わり、記憶を失っても……貴方のその『在り方』までは変わらなかったのですね」
〈在り方……?〉
「ええ。他者の痛みを我が事のように引き受け、傷つきながらも針を進める……。その優しさと責任感こそが、貴方が貴方である何よりの証明です」
彼女はゆっくりと顔をあげ、窓の外に広がる蒼空を見上げた。
「この世界は今、少しだけ……『捻れて』しまっています。私の、ミスによって」
ねじれ。その単語に私の奥底がざわりと反応する。だが彼女は振り返り、祈るように手を差し出した。
「だから、再度貴方にお願いしたいのです。捻れて歪んでしまったこの物語の結末を、貴方の手で導いてあげてください。かつて貴方が、そうしてくれたように」
〈待ってくれ、私はただの──!〉
「お願いしますね、ダンテ」
私の問いかけは光に飲み込まれた。
最後に見たのは、少女の儚い微笑みと、世界を覆い尽くす眩い白だった。
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