LCB、シャーレの先生になる 作:ハーメルンのTakamagi
なんと、評価ポイントが1000を超えていました!本当にありがとうございます!
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!
Q.どうして二週間空いたの?
A.スランプとリアルが忙しかった。だけどその時期も終わったので、投稿頻度は上がる、はず……。
キヴォトスに来てから、私たちの仕事はより一層過酷になっている。
今までそこら辺のネズミを都度排除するだけで済んでいたが、今回は事情が違う。異常に頑丈な敵、減る様子のない書類仕事などなど。それに加えて、肝心の囚人たちも過半数が不在という有様だ。
……やっぱり、先行きが不安で仕方がない。
「……お待たせしました。変動金利等を諸々適用し。利息は788万3250円ですね」
「はい、これで──」
「……はい、全て現金でお支払い頂きました。今月はこれで以上となります。カイザーローンとお取引頂き、毎度ありがとうございます。来月も宜しくお願いします」
スーツを着こなした機械人形は笑顔のアイコンを浮かべ、恭しく一礼した。彼はそのまま現金輸送車に乗り込み、駆動音を立てて発進する。
その後ろ姿を対策委員会の面々は、沈痛な面持ちで見送った。
今日は対策委員会の貸し手である、カイザーローンの集金日らしい。彼女たちがこの日の為にせっせと集めた大金をすべて手渡し、何とか今月分の利息を払い切ったのだ。
そう、利息だけを。
「……っは。クソみてぇな空気だ」
現金輸送車の姿がもう見えなくなった頃、この重苦しい沈黙に最初に音を上げたのは、ヒースクリフだった。
「あれだけの大金を払って、元金が一円も減ってねぇんだろ?詐欺だぜ、こんなの」
「言い返せないのも辛いところだね。でも、利息を払うだけでも精一杯、仕方ない事だよ」
〈命懸けなんだね……〉
彼女たちは終わらない借金返済地獄へ堕ちているような気がする。七億という考えるだけで気が滅入りそうな借金に、巨額の利息金。利息を払うだけでも精一杯なのに、本当に全て返済できるのだろうか……。
いや、それを嫌でも理解しているのは彼女たち自身だ。しつこく釘を刺す必要はない。
「……完済まであと、どれくらい?」
「三百九年返済なので、今までの分を入れると──」
「あー、言わないで!正確な数字まで出す必要はないでしょ!」
セリカは相当鬱憤が溜まっていたようだ。躊躇なく次々と愚痴を言い放っている。
「どうせ死ぬまで完済できないんだし!計算しても無駄でしょ!」
「セリカちゃん落ち着いて〜。ここで愚痴っても無駄なんだからね〜」
「……ところで、カイザローンはなぜ現金でしか受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して……」
ノノミが疑問を零すと、シロコが突拍子に目を輝かせた。
「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ」
「無防備に餌を見せびらかすところで、襲う馬鹿がいるかよ」
「……言いすぎ。そもそも分かってるから」
よからぬ事を思案していた彼女の横で、ホシノはカラッと笑って言う。
「ま、とりあえず先に解決するべきは、目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろー」
「全員揃ったようなので始めます。まずは、二つの事案についてお話ししたいと思います」
アビドス高等学校、会議室。
アヤネが真剣な態度で開会の言葉を告げた。
「それって、昨日襲撃してきた便利屋のこと?」
「はい。こちらでデータベースを照会した結果、次のようなことが分かりました」
そう言って彼女は、タブレットの画面をホログラムとして空中に投影する。浮かび上がったのは、昨日交戦した四人の顔写真と、その詳細データだ。
「私たちを襲ったのは『便利屋68』という部活です。金さえ貰えば依頼は何でもこなすサービス業者の集団で……ゲヘナでも危険で素性の悪い生徒たちだそうです」
そして、リーダー格の赤髪の生徒──アルの顔写真が拡大される。
「部活のリーダーは、陸八魔アル。自らを社長と称しているようです。そして彼女の下には三人の部員がいて、それぞれ鬼方カヨコ、浅黄ムツキ、伊草ハルカとのことです」
一通りの説明が終わったところで、資料を眺めていたヒースクリフが鼻を鳴らした。
「フィクサーっちゃフィクサーだな。だが、そこに載ってる実績は……そこまでみたいだが」
「……フィクサーって、この便利屋みたいなものなの?」
「似たようなもんだ。こいつらのお遊びより、よっぽど仕事らしいがな」
ヒースクリフは興味なさげに椅子に深く座り直す。
便利屋68は確かにそれ相応の実力はあるが……都市と比べたら微笑ましいレベルだ。
「は〜、何だか君が言う『都市』っていう所は随分と殺伐としてるね?いやぁ、にしても本格的だねー」
「ゲヘナ学園では、起業が許可されているの?」
「それはないと思いますが……勝手に起業したのではないでしょうか」
「あら……校則違反ってことですね。悪い子たちには見えませんでしたが……」
「いえ、それが今までかなり非行の限りを尽くしたようで、ゲヘナでも問題児扱いされているようでして……彼女たちが担う依頼も、破壊工作だとか戦闘行為が中心だそうで」
〈普通じゃない?〉
これでもかと彼女たちの悪行が語られるが、そこまで悪いようには思えない。
むしろ、キヴォトスでは日常茶飯事じゃないか?
「まあ、とにかく。また便利屋が襲うかもしれないってことでしょ〜?だったら先生たちに任せなよ」
「確かにそうですね……ならこの問題は後にしましょう」
ともかく、彼女たちがこれ以上迷惑をかけてくるのだったら、ホシノのの言う通り、私たちで話をつけばいいのだろう。
「……さて。続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!」
「えっ!?何か分かったの!?」
アヤネの言葉に、セリカが椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。
「以前のセリカちゃん救出作戦で回収した兵器のパーツを分析した結果……現在は取引されていない型番だということが判明しました」
「もう生産していないってこと?」
「そんなこと、一体どうしたって言うんだよ」
ヒースクリフが退屈そうに欠伸を噛み殺す。
製造が中止された型番。一見関係ない情報に聞こえるが、それは一つの場所を示していた。
「このような型番を手に入れるには……『ブラックマーケット』しかありません」
〈ブラックマーケット……〉
「はい、あそこでは中退、休学、退学など、様々な理由で学校を辞めた生徒たちや、巨悪組織が棲まうキヴォトスの代表的な無法地帯です」
キヴォトスにも裏路地みたいな場所もあるようだ。
そして再度、ヒースクリフが鼻を鳴らす。
「ロクな場所じゃなさそうだな……ま、オレらが想像するやつよりかはマシそうだけどな。よもや、平然と内臓引っこ抜かれるわけねぇだろ?」
「も、もちろんですよ……とうか、ヒースクリフさんの倫理観はやっぱり少しおかしいです!命を軽んじるなんて、誰でもしませんよ!」
「そ、そうか……ったく、人殺せるレベルだっつうのに、ここまで完璧な倫理はあるんかよ」
どこか不貞腐れながら立ち上がるヒースクリフ。
彼の見解には共感できる部分は多少ある。一触即発の世界で、血の匂いが一つもしないなんて、ただ単にキヴォトス人が硬いのか、それとも全員が価値観を制御しているのか…………。
「ヒースクリフの世間話はいいとして……要するに私たちは、ブラックマーケットに向かうってこと?」
シロコが立ち上がり、涼しげな顔をしながら要点をまとめる。
「はい。『カタカタヘルメット団に兵器を送り込んでいる裏方の特定』、そして『便利屋68の実態調査』という二つの理由です」
「思い立ったが吉日ってね、早速ブラックマーケットに行こう〜。あ、もちろん、先生たちも協力するよね?」
〈あ、ああ……〉
わざわざ危険な場所に乗り込むのには気が進まないが、手がかりがある中、率直にそこへ向かうのが得策だろう。
「では、行きましょう!ブラックマーケットへ!」
「ここが──」
私の目の前で先行するセリカが、目の前に広がる市街地の光景を眺めて呟く。
アビドスの苛烈な日照りとは違い、ビルの陰で薄暗く、それでいて熱気を孕んだ黒い街。辺りは行き交う人々の喧騒と、昼だというのに毒々しく光るネオンサインで溢れている。
そして何よりも気になる、鼻をつく硝煙の匂い。
「──ブラックマーケット」
無法の市場。私たちはその入り口に立っていた。
「わあ☆賑やかですね!」
「小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて。連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった」
「うへ〜、普段私たちはアビドスから離れないからね、学区外は結構辺な場所が多いんだよー」
対策委員会の面々が黒く聳え立つビル群を見上げ、感想を漏らす。
「ほぉ、見てくれはいいな?」
〈いや、随分と大きいね……これ、一つの裏路地以上に広大なんじゃ〉
ブラックマーケットは、私たちの想像を絶するほど豊かで広大だ。
確かに無法地帯特有のピリついた空気はあるが、都市の裏路地とは少し違う。行き交う人々は活気に満ち、商品は山積みされ、ネオンはまるで希望のように輝いている。
住み心地が良さそうな場所に見えるが、そんな第一印象を帳消しにするほど、不安を煽る要素には事欠かない。
『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引されている場所です。何が起きるか分からないんですよ』
「分かってるっ──うわあっ!?」
インカム越しで注意を促すアヤネに、セリカが軽く返した瞬間。
銃声が、しかもそこまで遠くはない位置で断続的に響いた。
「銃声だ」
〈……備えてたほうがいいかも〉
不確実だが、警戒は怠らない。
懐のPDA端末と人格牌を握り締め、いつでもヒースクリフに人格を被せられるように準備する。
音が鳴った方へ視線を向けると、路地の奥から三人の生徒の姿が見えた。
「う、うわああ!ついてこないでください!」
悲鳴を上げながら逃げるようにこちら側に疾走する、白い制服の少女。その背中を追って、物騒なものを向けた二人組の不良生徒が走っていた。
逃げてきた少女は、そのまま勢い余ってシロコと正面衝突してしまう。
「い……いたた……ご、ごめんなさい!」
「大丈夫?……な訳ないか。追われてるみたいだし」
「そ……それが……」
彼女が目を潤ませ事情を話そうとした途端、追ってきた二人組が私たちを怒鳴りつけてきた。
「あぁ!?何だお前らは!?どけっ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用があんだよ!」
「あ、あうう……わ、私の方は特に用はないのですけど……」
〈……トリニティ?〉
聞き慣れないが、重々しい響きの単語。ファウストが言っていたゲヘナと同様の学園だったはずだ。
すると、私の疑問に呼応するように、アヤネがハッとして口を開いた。
『思い出しました、その制服……キヴォトス一のマンモス校の一つ、トリニティ総合学園です!』
「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!」
不良生徒の一人が下卑た笑みで付け足す。
ここでヒースクリフが、腹の底を見通すようにニヤッと口角を上げて割って入ってくる。
「なるほどな。要するに、その良家のガキからカネをたんまり恵んでもらおうってか?」
「へへっ、兄ちゃん話が早いじゃねか!見たところ腕も立ちそうだし、どうだ?一緒にやるなら分け前を────」
目の前の生徒が私の囚人を同類とみなし、悪巧みの勧誘を持ちかけようとした瞬間。
「……ん。お断り」
「えいっ☆」
「ぐえっ!?」
「あぎゃっ!?」
鈍い打撃音が二つ、ほぼ同時に響いた。
息を潜めていたシロコが銃床を鳩尾に叩き込み、ノノミが巨大なミニガンを鈍器のように振り回して薙ぎ払ったのだ。
不良たちは悲鳴と共にその場で撃沈し、動かなくなる。
「悪人は懲らしめないとです☆」
「うん」
「あ……えっ?えっ?」
見知らぬ人物たちが追っ手を瞬殺するまでの早業。
助けられたはずの少女──白い制服の生徒は、状況が飲み込めず、尻もちをついたまま震えていた。
戸惑う彼女のもとに、ヒースクリフとホシノの二人が近寄って、呆れたように声をかける。
「いや〜危なかったねぇ。おじさんたちが居なかったら身ぐるみ剥がされてたよ〜」
「あんた、そんな目立つ綺麗なカッコでここを歩くなんざ、カモがネギ背負ってるようなもんだぞ。変装するとか、方法はあっただろ?」
「え?あっ、は、はい……すみません……」
身が竦むような助言が飛び交ったところで、セリカが困り眉で口を挟んだ。そして二人を何とか制止したところで、目の前で萎縮する生徒の身を案じる。
「ごめんなさいね、うちの先輩たちが……それより、怪我はない?」
「え、ええ。何とか……ありがとうございます」
彼女は差し出されたセリカの手を掴み、立ち上がりながら感謝を述べた。
〈……君はトリニティの生徒なんだよね、どうしてこんなところに?〉
私が彼女の元へ近寄りながら尋ねると、彼女は私の頭部を見て目を丸くし、次に首に提げられたシャーレの職員証を見て、ビクリと肩を震わせる。
「ひっ……!?シャーレの、先生……!?」
〈いや、別にあなたの学校に告発する気はないからさ……大丈夫、安心して〉
「ほ、本当ですか?通報とか、しないんですか?」
〈別にパトロールしてる訳じゃないから〉
「そ、そうですか……よかったぁ……」
私の箱越しの合成音声に、彼女はホッとため息をつく。
その後、私たちはブラックマーケットの奥地へ進みながら、隣で同行する彼女──阿慈谷ヒフミの事情を伺った。
どうやらヒフミは、熱中しているものを求めここへ来たらしい。そんな理由でこんな危険地帯に?と疑ったが、何でもその探し物はここでしか取引されていないようだ。
そして、それが…………。
「何だそれ、悪趣味だな?」
「ひ、酷いです……!こんなにも可愛いのに!」
ヒースクリフが苦言を呈し、ヒフミが声を上げて擁護するそれは……今ヒフミが手にしている白い鳥のぬいぐるみ。
見た目はイカれた顔をして舌を出している白い鳥なのだが、これでも歴としたマスコットキャラとのこと。謂わば都市のコミだ。
「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよね!私はミスター・ニコライが好きなんです」
「分かります!哲学的なところが可愛いくて──……」
そこへノノミが高機嫌に「モモフレンズ」談義に参加し、ヒフミが嬉しそうに熱弁を振るう。
〈世界には物好きな人がいるみたいだね……〉
「ふ〜ん?じゃあ、その時計頭はダンテ先生が好んで、それにしたわけかな?」
〈す、好きでやったわけじゃないよ〉
熱弁する様子を遠目で見ていたところ、ホシノがにやにやと私の頭を指さして揶揄った。
「……ところで、アビドスと先生のみなさんは、なぜこちらへ?」
「うちらも似たようなもんだよ。探し物があるんだー。それが戦車なんだけど」
ホシノがさりげなく答える。
戦車という言葉にヒフミは驚くのかと思っていたが、意外にもそんな素振りを見せず、淡々と耳を傾けている。
「そう。今は生産がされていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるっていう噂を耳にして」
「そうなんですか、似たような感じなんですね」
ヒフミが事情を聞いて、ふむふむと首を振っていると────。
『皆さん、大変です!四方から武装集団が向かってきています!』
「何っ!?」
突如、アヤネが切羽詰まった声で接敵を告げた。
「急ですね……一体誰が?」
「……あん時ボコした不良共だろ。仲間呼んで戻ってきやがったか」
「ん、前方に複数。ヒースクリフの言う通り、さっきの不良生徒たちだ」
シロコが指差した先には、ぞろぞろと銃火器を携えた集団が、怒号と共にこちらへ駆け寄って来るのが確認できる。
かなり量は多いが、彼女たちの実力は高が知れている。後はヒースクリフと私が被弾しないように、安全な場所へ移動すれば難なく突破できるだろう。
〈私とヒースクリフを囲んで迎撃して、相手の追跡を振り切る。それでいい?〉
『賛成です。抜け道を探しつつ、サポートします』
「おじさんも賛成かな。先生たちに怪我させたら、寝覚めが悪いし」
方針が決まったところで……私は隣であわあわと震えているヒフミに視線を向けた。
彼女はごく普通の生徒のように見えるが、頭上に浮かぶヘイローと手にしているライフルが、彼女もキヴォトス人だと証明している。
〈ヒフミ、手伝ってくれる?〉
「えっ!?……は、はい!助けて頂いた分、精一杯頑張ります!」
無事、ヒフミの協力を得る事ができた。
私は正面へ向き直り、いつものタブレット二つと人格牌を取り出す。
そして、ヒースクリフの人格牌をPDA端末に差し込むと、硝子が割れる音と同時に、ヒースクリフの姿が変わる。
もちろん、終止符事務所フィクサー人格だ。
「よし、さっさと終わらせるぞ」
「えっ!?え?す、姿が変わった!?」
〈……それは後にしてくれ〉
異常現象を前にして驚愕するヒフミを言葉で制止させ、私は全員に向けて宣言する。
〈戦闘開始!〉
『敵との距離、次第に離れてきています……反応消失、撒いたようです!』
「やったわね!これでしばらくは楽できそうかな?」
ビル数棟分の移動と戦闘を繰り返し、漸く敵の追跡を振り切ることに成功した。
生徒とヒースクリフが手際よく敵を鎮圧していったのも一つの勝因だが、アヤネのナビゲート、そしてやけにここの地理に詳しいヒフミの誘導のおかげもあるだろう。
彼女は「あっちの路地は入り組んでいます!」とか「そこの角を曲がれば大通りに出られます!」と、まるで直接地図でも見ているかのような、迷いがなく具体的な先導をしてくれたのだ。
〈戦闘終了……それにしても、随分と詳しいんだね〉
「えっ?あ、あはは……限定グッズのために通い詰めていたら、自ずと頭に入っちゃいまして……」
ヒフミは恥ずかしそうに頬を搔く。
私の解釈が間違っていなければ、彼女はここへ何度も来たことになる。これがトリニティ総合学園の淑女の姿か……恐るべし。
「ま、理由が何だろうが、今回は助かったしな。それに品のいいトコ出身にしては、逃げ足も場慣れしてやがる」
私の合図と同時に、姿がいつもの服装に戻ったヒースクリフは、感心したように鼻を鳴らす。実際、彼女の知識のおかげでここまで来たのだから、その熱意を咎めることなんてできない。
「ま、また姿が変わった……一体どうなっているんですか……?」
ヒフミが人格が変わるヒースクリフに、困惑しながら疑問を投げかける。
「私たちにも分からない。先生たちが頑なに教えてくれないから」
「えぇ?……そんな素性の分からないものを気安く使ってもいいんですか?」
〈大丈夫。何回も使っているし、安全性は保証されているから。今は言えないけど、とりあえず便利な力だと思ってくれても構わない〉
「そ、そうですか……」
彼女はどこか釈然としてなさそうだが、とりあえず納得はしてくれた。
さて、こうやって無事に戦闘を乗り越えられたが、ふと私たちの目的がまだ前進すらしていないことを思い返す。
ブラックマーケットの奥地へ入り込めたのはいいが、その調査する方法が明確に立てられていないのだ。
〈みんな、さっきの問題を解決したことだし、そろそろ調査を始めないと〉
私は全員にそう呼び掛ける。しかし返ってきたのは予想外の提案だった。
「それはさておき、たい焼きでも食べませんか?」
〈……え?〉
「ほら、数時間ぐらい戦闘しましたし、少し疲れちゃったじゃないですか。だから、たい焼きでも食べて休みましょう♪」
〈えぇ……〉
私は唖然とした。ここの住民は、どこか能天気すぎないか?と。
ノノミが指差す先には、確かに一つの屋台が建っているが…………。
「いいねぇ〜ノノミちゃん。おじさんも疲れちゃったし、そうした方がいいと思うよ〜」
「まあ、私も賛成かな」
「ん、食べる」
次々と生徒たちが賛同し、屋台へ向かう様を見て、暫し言葉を失っていると、私の肩にポンと手が置かれる。
「まぁ、いいだろ時計ヅラ。お前は腹は空かねぇだろうけど、こっちはそうじゃないからな」
〈それもそうか……ごめん〉
少し張り詰めすぎたみたいだと、心の中で反省した。
生徒の突発的な行動にも、時には賛同するのも先生のあるべき姿なのだろう。
────あの後、私は少しでも償ってやりたいと考え、この場にいる全員分のたい焼きを奢らせてもらった。
ノノミが散々口にしていた「たい焼き」という食べ物は、魚の形をした焼き菓子で、中に「あんこ」という黒くて甘いペーストが入っているらしい。
店主から受け取ったたい焼きが詰まった紙袋からは、少しだけ温もりが伝わってきた。
「美味しい!」
「おおっ、ウメェなこれ!」
「いやぁ、ちょうど甘いモノが欲しかったところだったんだー」
路地の隅で、たい焼きを頬張る生徒たちとヒースクリフ。
その緩んだ表情だけでも、そのたい焼きが絶品だと十分に伝わってくる。
「アヤネちゃんには、戻ったらちゃんとご馳走しますね」
『あはは、大丈夫ですよ。私はここでお菓子とかつまんでいますので……』
束の間のブレイクタイム。唯一の癒しに私が参加できないのが惜しまれる。いや、空腹の概念がないのだからそこまで悔やむことではないが。
「……変ですね。アビドスのみなさんが探している物品の情報が、ここまで出ないなんて」
そんな中、ヒフミがたい焼きを齧りながら、推理するように呟いた。
〈どういうこと?〉
「思い返してみて思ったんです。……戦車の部品を回収したのはいつですか?」
「一週間は経ってないはず」
「そうですか…。…そんな前から流通しているなら、いくら隠そうとしても必ず情報が漏れるものなんです。特に、過去の型番であればあるほど」
ヒフミの推理に、思わず耳を傾ける。
これほど巨大な市場だ。一つの物品でも数多くの取引が重ねられる。こんな治安の悪い場所なら尚更、口の軽い売人から情報が漏れるのは必然だと、彼女は言いたいのだろう。
「ですが、ここまでやっても出ないとなると……全ての物流を誰かが意図的に隠しているように感じます」
「バレたらまずいのか?」
「それもあるとは思いますが、ここまで情報を検閲するなんて普通ではあり得ないことなんです」
彼女はそう語ると、目の前に聳え立つビルを指差した。
「ブラックマーケットに拠点を置く企業は大抵、開き直って悪行を見せびらかすんです。例えばあそこのビル。あれはブラックマーケットを中心に名を馳せる闇銀行です」
「闇銀行!?」
「噂だと、キヴォトスで行われる犯罪の十五パーセントの盗品があそこに流されているそうです……。横領、強盗、誘拐、さまざまな犯罪によって獲得した財貨が、違法兵器に変えられてまた他の犯罪に使われる……そんな悪循環の温床です」
中々に恐ろしい話だ。ある意味、この都市の犯罪を、この無法地帯の経済を牛耳っていることになる。
「へっ、傑作だな。表じゃ澄ました顔で商売してるくせに、裏じゃゴロツキと同じことやってんのかよ。これだから、金持ちの考えることは気に入らねぇ」
説明を聞いたヒースクリフは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
彼に取って重要なのは「犯罪かどうか」……というのもあるが「立派な建物を構えた奴らが、裏路地の連中と同じように汚い金を回している」という偽善。それが、彼の神経を逆撫でした最もの理由なはずだ。
〈だからといって、どうこうできる問題でもなさそうだね〉
「ここまで浸透している以上、根本を取り除くのは不可能なんでしょうね」
ノノミが嘆いていたその時。
『お取り込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中!』
アヤネの報告だ。だが、その声色は先程のような緊迫したものではない。
『気付かれた様子は確認できませんが、一度身を潜めた方が良いと思います』
「……えっ!?あれは、『マーケットガード』です!身を潜めましょう!」
「マーケットガード?それってどういう────」
ヒフミが慌てふためき、半ば強引に私たちを路地裏に引きずり込んだ。
「ちょっと!乱暴じゃない!」
「落ち着きなよ〜。ヒフミちゃんがここまでやるってことは……」
「……マーケットガードは、ここの治安組織でも最上位の戦力と規模を誇る武装集団です!ですが、どうやら何かを護衛しているみたいですが……」
ヒフミが疑問に思いながら、物陰からそっと外を覗き込む。
私も釣られて外を覗き込んだその先には、黒を基調とした機械人形や、ならず者の生徒で構成された集団が道路を闊歩しているのが見えた。
「トラックを輸送してる。現金輸送車だね」
「向かう先は……例の闇銀行みたいですね?」
その武装集団は一台のトラックを守っていたようだ。そして、その集団はヒフミが云っていた闇銀行の入り口にで停止する。
降りて来た人物を見た瞬間、私たちは息を呑んだ。
「あ、あれって……!」
「……今日来た受取人じゃねぇか?」
その車両から降りて現れてきたのは、笑顔のアイコンを浮かべた機械人形──今日、アビドスへ利息を受け取りに来た、カイザローンの集金担当者だった。
「あれ、ホントだ」
「……どういうこと?」
『ほ、本当ですね!車もカイザーローンのものです!それも、今日の午前中に利息を支払った時のあの車と同じようですが……』
「カイザーローンですか!?」
アヤネがそう口にした刹那、ヒフミの悲鳴が路地裏に響く。
「っせぇな!?こそこそしろって言った張本人が叫ぶんじゃねぇ!」
「短気だな〜。それより、ヒフミちゃん。もしかして知ってるの?」
「カイザーローンといえば……かの『カイザーコーポレーション』が運営する高金融業者です……」
「有名な……まずいところなの?」
「あ、いえ……カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいません。ですがグレーゾーンでうまく振舞っている多角化企業で……」
ヒフミが説明する途中で、ヒースクリフが口を挟んだ。
「はぁ……言わなくても分かる。要するに……オレらが払った金は、ここに送られて犯罪に使われてるってことだろ?」
〈決めつけるのは早いと思う……だけど、状況証拠としては真っ黒だね〉
正規の金融業者が、わざわざブラックマーケットの銀行に現金を運び込む理由など、ロクなものではない。
「アヤネちゃん。あの現金輸送車の走行ルート、ハッキングで割り出せる?」
『はい、やってみます…………うーん、駄目ですね』
「やっぱり、ね。流石にそこら辺はしっかりしてるか」
「ですが、証拠がありませし、完全にそうだと断定するのは難しいです……」
私たちが手詰まりを感じていた、その時。
銀行の入り口を見ていたヒフミが、ハッとして声を上げた。
「……あ!見てください、あそこ!」
彼女が指差した先では、カイザーローンの担当者が、銀行員らしき生徒にバインダーを渡し、何やらサインを求めているところだった。
「今ちょうどサインしていた集金確認の書類です!あれを見れば、誰が、いつ、どこへ金を運んだのか、一発で分かります!」
「……なるほど。動かぬ証拠ってわけか」
「おお、そりゃナイスアイデアだねー」
ヒフミが提案したものは、状況を覆す唯一の証拠だといえる。
ところが、ヒフミは重大な欠陥に気づいたように、肩を落とした。
「……でも考えてみたら、書類はもう銀行の中にいってしまいましたし……無理ですね。ブラックマーケットでも最も強固なセキュリティを誇る銀行の中となると……それにあれだけの数のマーケットガードが目を光らせてますし……」
改めて思えば、例の闇銀行は要塞のようだ。数多くのセキュリティと武装した警備兵を突破するなど、常識的に考えれば無謀以外の何者でもない。
────常識的に考えれば、だが。
「……ん、ないよ。他の方法は」
「え?」
「ホシノ先輩、ここは例の方法しか」
「そうかぁ。あれかぁ。あれしかないかぁ」
「あ……!!そうですね、あの方法なら!」
シロコが真顔で切り出し、ホシノがのんびりと同意し、ノノミがポンと手を叩く。
三人の思考が一瞬でリンクしたのを見て、セリカの顔色が青ざめていく。
「何?どういう──まさか、あれ?私が思ってるあの方法じゃないよね?」
「……おいおい。マジかよ、お前ら」
その不穏な空気を察知して、ヒースクリフが呆れたように、しかし口の端を吊り上げて呟いた。
「あんな警備の塊に、正面から喧嘩売ろうってのか?……イカれてやがる」
〈…………〉
……止められない、私の直感がそう告げている。
「あの、全然話が読めないんですが、『あの方法』って一体なんなんですか?」
「……残された方法はただ一つ」
ヒフミの疑問に、シロコは言葉で答える代わりに、鞄からある物を取り出した。それは数字の「2」が書かれた、怪しげな青い目出し帽だった。
彼女はそれを慣れた手つきですっぽりと被り、素顔を隠す。
「銀行を襲う」
「はいっ!!?」
淡々と告げられた解決策は、あまりにも直球な犯罪予告だった。
「だよねー、そういう展開になるよねー」
「わあ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
「えええっ!?ちょ、ちょっと待ってください!」
〈なんで普段から持ち歩いてるんだ……?〉
あまりの急展開に、私とヒフミの思考が追いつかない。
私は助けを求めるようにセリカへ視線を送る。いつもの彼女なら、常識的に却下するはずだが…………。
「はあ……マジで?マジなんだよね……?ふぅ……」
だが、彼女は深くため息をつくと、諦めたように自身の鞄を弄り──赤い目出し帽を取り出した。
「なら、とことんやるしかないわね!」
「あ、うあ……?あわわ……?」
彼女までもが覆面を被り出したのだ。
『……はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……』
アヤネが匙を投げたことによって、対策委員会の全員が作戦の共犯者になったのだが…………。
一人だけ、我関せずを貫こうとする男がいた。
「……けっ。バカバカしい。オレの覆面はないんだろ?だったら、オレはここで待って──」
ヒースクリフが興味なさげに背を向けるが、
「何勘違いしてるの?」
「……ひょ?」
振り返ったヒースクリフの胸に、紫色の目出し帽が強引に押しつけられる。
「だってヒースクリフも仲間だから。ちゃんと用意してある」
「は?……なんでそんな用意周到なんだよテメェは!?」
彼は困惑しながら、手元の目出し帽とシロコの真剣な眼差しを交互に見比べる。
「ごめんヒフミ。あなたの分の覆面は準備できてない」
「うへー、ってことは、バレたら全部トリニティのせいって言うしかないねー」
「えぇ!?そん……え?」
「それは可哀想です!ヒフミちゃん、これをどうぞ☆」
既に緑の覆面を被ったノノミが、紙袋に工作を施し、先程まで鯛焼きが入っていた紙袋に、指で穴を開け、で差し出した。
「たい焼きの紙袋?おお!それなら大丈夫そうー!」
「え?ちょっと待って──」
「ほら、被りましょう?」
「あ、あうう……」
抵抗も虚しく、ヒフミの頭に油性ペンで「5」と書かれた紙袋が被せられる。ここまで目出し帽だったのに、一人だけ紙袋なのは、申し訳ないが滑稽、いや不憫に思える。
「ん、完璧」
「番号も振っておきました!ヒフミちゃんは5です!」
「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源って感じ〜!」
「わ、私もご一緒するんですか?闇銀行の襲撃に……?」
「さっきダンテ先生に言ったじゃん?『助けて頂いた分、精一杯頑張る』って」
「1」と振られたピンクの覆面を被るホシノは、ヘラヘラと言いながらヒフミの退路を断つ。
……一瞬、紙袋の穴の奥から、ヒフミの助けを懇願する目と合った気がするが、私は見て見ぬ振りをした。
どうせ、私もこの作戦に参加するだろう。ヒースクリフが巻き込まれた時点で、必然的だった。
「問題ないよ!私らは悪くない!悪いのはあっち!だから襲うの!」
「ん、それじゃあダンテ。例のセリフを」
〈いや、無理だよ?〉
「……どうして?」
彼女たちの出鼻を挫いてしまうが、この作戦には、致命的かつ重大な欠陥があるのだ。
〈一応、ヒースクリフは私と同じ所属、シャーレの職員だよ?〉
「だから、覆面を被れば──」
〈キヴォトスに『人間の男性』なんて、私と彼ぐらいしかいないでしょ?覆面をしたところで、体格とかで即バレだよ〉
「…………」
私の指摘に、シロコが固まった。
ロボットや動物の男性はいても、人間の形をした男はこの世界におけるユニークな存在。覆面などで誤魔化せるレベルではない。
「それじゃあ、ヒースクリフを変身させればいいじゃない?その時のヒースクリフも強いし、一石二鳥じゃん?」
「おじさんもそう思ったけどねぇ。でもあんな長物じゃ、戦闘は難しいだろうし」
「そっか……」
ヒースクリフの今の囚人姿を普段着だと定義すれば、彼に人格を被せればいい。しかし、彼女たちが想像している「終止符事務所フィクサー」では、屋内戦での活躍は難しい。
仮に建物外からの狙撃でも、貫通できそうな窓がない、あるわけがないのだから、攻撃はロジックアトリエ弾の一回しかないのだ。
「残念ですが、ヒースクリフさんはここで待機ですね」
〈いや、方法はある〉
私は端末を操作し、新たな人格牌を取り出した。
終止符事務所のような遠距離特化ではない。狭い屋内で斬り込むための人格だ。
パリン、と硝子が割れる音が響き、彼の姿が変貌する。
乱暴なバットとワイシャツは消え去り、現れたのは、必要最低限の防具のみを身につけた、黒い戦闘服姿だった。
露出した太い腕には歴戦の傷跡が刻まれ、その手には身丈ほどもある鋭く赤い刀が握られている。
人格〈南部シ協会5課 ヒースクリフ〉
過酷な労働環境と、死と隣り合わせの暗殺任務を遂行する「シ協会」の人格。その全身から放たれるのは、隠しきれない疲労感と、それを上回る研ぎ澄まされた殺気だ。
これに覆面を被せれば、もはや「熟練の傭兵」にしか見えないだろう。
「おぉ!別の姿に変わった!」
「刀?ま、まあ屋内は向いてそうだけど」
「ん、軽装備すぎる」
「お?なんだ、文句か?」
銃火器を持つ生徒たちによる軽口に、ヒースクリフは思わず刀を握り締めた。
「はっ、まあいい。これでも立派な傭兵さ。暗殺特化のな」
『えぇ……先生たちの故郷は一体どうなってるんですか……?』
「で、着替えたからってオレが強盗の片棒を担ぐ理由はねぇぞ。金庫破りは、もうこりごりだ」
ヒースクリフが顔を顰め、忌々しげに吐き捨てる。
言うまでもない、あの大湖での出来事だ。
彼がここまで頑なに銀行強盗を避けているのは、あの理不尽な暴力を学習し、生存本能が警鐘を鳴らしているからに他ならない。
「……そう。ヒースクリフはそこまでの臆病者だったんだね」
「……あ?」
その時、シロコが失望したように、僅かに怖気つくヒースクリフを冷たい視線を送った。そこに侮蔑の色はない。ただ買い被ったという無関心な冷たさだけがあった。
「私が知ってるヒースクリフは、どんな人にも噛み付く狂犬だったはずなのに……そっか、本当は想像以上に勇気がないなんて」
「は?おい待──」
「大丈夫。無理しなくていいよ。どうせ、私たちだけでも解決できる問題だ」
「…………」
彼のプライドを傷つける、切れ味の鋭い挑発。
シロコは年上の男に向かって、躊躇いもなく戦力外通告を言い渡したのだ。
そして彼女はその言葉を最後に、興味を失ったように背を向けて歩き出す。
「……待て、シロコ」
ドスの効いた低い声が響く。
ヒースクリフも、今はもう安い挑発に乗って暴れるような子供ではない。
だが、「見下されたまま背を向けられる」ことだけは、彼の魂が許さなかった。
「誰がビビってるだ?あぁ?」
ヒースクリフがシロコの肩を掴んで引き止める。その額には、怒りの青筋が浮かび上がっていた。
「……上等だ。その銀行、更地にしてやるから見とけ」
「……ん。やりすぎ、かも」
シロコは彼の剣幕に少し驚きしつつも、満足げにフッと笑みを浮かべる。
そして手にしている紫の覆面をそっと差し出した。
「なら、この作戦に参加するで、いい?」
「……もちろんだ」
ヒースクリフは了承の言葉と共に、紫の覆面をひったくり、乱暴に頭から被る。
彼の姿は、まさしく裏社会の傭兵といえるほど、凄まじい雰囲気を帯びていた。……絶妙にダサいことを除けば。
「わあ。ヒースクリフさん、それっぽいですよ〜♪」
「ひゅー、いいぞぉヒースクリフ君!それが男だ!」
「忍者に目出し帽?それってダサ──」
〈い、言わない方がいい……〉
セリカの本音を、私は慌てて手で制する。
実際、本人であるヒースクリフも薄々そう思ってそうだが、この場の空気を読んで黙っているのだから。
しかし、シロコの話術には驚嘆した。
まだ出会った数日なのに、ヒースクリフの性格を手にとるように把握していたのだ。野生の勘、というやつだろう。狼だし。
「あはは……息が詰まりました。ヒースクリフさんって本当に怖いんですね」
「ん、強いし怖いから、頼りにしてる。……それじゃあ、改めて。ダンテ、例のセリフを」
シロコが私を見つめる。
覆面の奥の瞳が、先生の合図を待っている。
私は覚悟を決めて、その言葉を口にした。
〈……銀行を、襲おう〉
約1万4千文字……これが二週間分の精算だ。
めっちゃ疲れた。
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