LCB、シャーレの先生になる   作:ハーメルンのTakamagi

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お気に入り数が遂に2桁を超えました──!
大変嬉しい限りです!これからも頑張ります!

さて、ここから本編に入ります。まだチュートリアル前編ですが、見てくれると嬉しいです。


キヴォトスへようこそ 〜前編〜

 

 突き抜けるような青い空。そして天頂に刻まれるように浮かび上がる、巨大な天輪の紋様。

 

 そんな幻想的な世界の下で築き上げられた、白を基調とした高層ビル群。


 しかし、その平和な景観の一部からは黒い煙が複数立ち上り、不穏な空気を漂わせていた。

 

 その様子を一望できる場所──『連邦生徒会』本部、統括室。

 

 

「……もう一度伺いますが、本当に貴方たちは『先生』ではないのですね?」

 

 

 広大な執務室の中心で、七神リンはこめかみを抑え、疲労を滲ませた声で問うた。

 急遽、連邦生徒会長の代理を務めることになった彼女の目の前には、突如この部屋に現れた、場違いなコートを纏った一人の女性──ファウストが立っている。

 

 

「ええ。少なくとも私の手元には、そのような招待状は届いていません」

 

 

 ファウストは淡々と否定しながら、虚空を見つめ、思考を走らせる。

 

 

 

 

──ゲゼルシャフト、接続不能──

  ──メフィストフェレス、信号途絶──

 

 

 

(……想定外ですね)

 

 

 彼女の表情は鉄面皮の如く崩れないが、内面では高速で現状を再演算していた。

 バスも、管理人も、他の囚人たちも消失した。自身にあるのは、僅かな手持ちの武装と、ここにいるイシュメール、ロージャの二名のみ。

 

 この情報が少ない未知の都市で孤立することは、死を意味する。

 

 ならば最適解は一つ。

 この都市の管理権限を一時的に掌握し、そのリソースを使って失ったもの(バスとダンテ)を捜索すること。

 

 

「ですが、貴方にとっても悪い話ではないはずです」

 

 

 ファウストはリンの瞳を真っ直ぐに見据え、交渉のカードを切った。

 

 

「現在、この都市は混乱の渦中にある。そして貴方が待ち望んでいた指揮官『先生』は不在。一方、私たちは指揮権と捜索のための目を必要としている」

 

 

 彼女はリンのデスクに歩み寄り、自身の武器を突き立てるように置くのではなく、あくまで知的に提案した。

 

 

「利害は一致しています。……貴方の『先生』が不在の間、我々LCBが代行を務めましょう。その代わり、この都市のデータベースへのアクセス権を要求します」

 

 

 明確に交渉内容を宣言したファウスト。一方、リンはというと、少し疑念を抱くような目で彼女を見ていた。

 

 

(データベースが目当て……?一体何の目的が……しかし背には腹は代えられない)

 

 

 少しの間彼女は思索に耽ると、改めてファウストと視線を合わせた。

 

 

「分かりました……貴方の交渉に承諾します。ただし、あくまで『代行』です」

 

 

 そしてリンは、ファウストの後方に設置されたソファに座るイシュメールとロージャに釘を刺すように注意した。

 

 

「……できればその物騒な武器をしまってはくれませんか?」

 

 

 すると二人は信じられない目でリンを見つめ返した。

 

 

「えっ……この武器しか持ち合わせていないのに、ですか?」

「……はい。少なくともこの建物内では戦闘は起きませんし、見てくれも悪いですからね」

「え〜、じゃあ私の直感を信じるなってこと?」

「何の直感は分かりませんが、一先ず……」

 

 

 リンの説得に、二人とファウストはホルスターや背中に武器をしまった。

 

 

「……しかし、突然このような未知の場所に来てしまい、訳も分からず『この学園都市の命運を懸けた仕事』に就かされてしまっている状況になってしまったこと、遺憾に思います」

 

 

 リンは眉を下げ、当てもなくここへやってきた彼女らに心から同情した。


 本来なら、温かいお茶とお菓子でもてなすべき来訪者なのだ。こんな火事場の最中でなければ。

 

 

「でも今は、私についてきてください。どうしても貴方達にやっていただかなくてはいけない事があります」

 

 

 その言葉を最後に、リンは出口へと歩を進めた。

 

 

「…………ついていきましょう」

 

 

ファウストの合図で、LCB一行はリンの後に続き、奥にあるエレベーターへと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラス張りの箱から、露わになった学園都市を眺め、いつの間にか彼女らは目的地へと辿り着いていた。

 

 小気味いいベルの音と共に、ガラス張りの箱の扉が静かに開く。

 扉の先はこのビルのレセプションルーム。本来であれば、青を基調としたデザインが静寂や規律を示す空間だ。

 

 しかし彼女らを待っていたレセプションルームは、静寂とは対をなす、喧騒さに包まれていた。

 

 

「……何やら、騒いでいるようですね」

「安心してください。このように文句を言われるのはいつものことです」

「は、はは……ちょっと怖いなぁ〜リンちゃん」

「……誰がリンちゃんですか」

 

 

 目の前の喧騒に青筋を立てるリンに目もくれず、連邦生徒会とは別の生徒ではあろう四人がこちらの来訪に気づいて詰め寄ってきた。

 

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を……って、後ろで困惑している大人たちは?」

 

 

 青色のツインテールに、白パーカーに黒スーツを着込んだ少女──早瀬ユウカがリンに詰め寄るが、すぐ後方にいるLCB一行の存在に気づいて眉をひそめる。

 

 一方イシュメールとロージャは、迫り来る四人の生徒を見て、逆に混乱に陥った。

 

 

「ええっ!?何あの子!?すっごいでっかい翼ついているわよ!?」

「それもそうですが……どうしてどの人も頭上に天輪らしきものを浮かばせているのですか?こんな特殊な身体強化施術、初めて見ましたよ……」

 

 

 眼前に休む間もなく、次々と理解不能な情報が飛び込んでくる。流石に『異常』に慣れている彼女らでも、このファンタジーじみた光景には当惑を隠せない。

 

 

「首席行政官。お待ちしておりました」


「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

 

 今度は黒く巨大な翼を生やした長身の少女──羽川ハスミが。

 今度は尖った耳を持ち、腕に『風紀』と書かれた腕章をつけた小柄な少女──火宮チナツが詰め寄ってきた。

 

 

「はいはいはいはい…………ええ、分かってますよ。今ここに集まられた皆様は、現在学園都市に起きている混乱の責任を問うためにここへ来たのでしょう?」


「ちょっと! 面倒臭そうじゃないの! というか分かっているなら、早急に対処しなさいよ!」

 

 

 今の惨状に、遂に本音を露わにしてしまったリンに、ユウカがさらに噛みついた。

 その瞬間、リンの堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「どうせ、風力発電所がシャットダウンだとか、連邦矯正局の一部の生徒が脱出だとか、不良生徒らの襲撃の急増だとか、兵器などの不法流通だとか………ああたかもこちら側が把握してないと言いたげに、問い詰めに来たのでしょう!?」

「ちょっと!!」

「わ、私のセリフが………」

 

 

 前回の発言を皮切りに、マシンガンのように不満を連射するリンに、周囲は驚愕し、ユウカですらたじろいだ。

 

 

「リンさん。一度落ち着いてください。まずは彼女らに伝えるべきことを伝えましょう」
「…………すみません。私としたことが……」

 

 

 横で静かに見ていたファウストが宥めたことで、一応の修羅場は防がれた。
 一度深呼吸をしたリンは、咳払いをしてこう述べた。

 

 

「………様々な事態に蹴りをつけたいのは承知です。ですが今は私たちの話を聞いてはくれないでしょうか?」


「わ、分かりました」

 

 

 閃光弾を持った真面目そうな少女──宇月スズミが、リンの要求に応じる。

 

 

「……まず連邦生徒会長は、行方不明になりました。結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」


「えっ!?」


「では……実質的に行政制御は不可能と……」


「ええ、先程までは」

「先程……ということは今は方法があるのですか?首席行政官」

 

 

 ハスミの質問に、リンは「はい」と力強く答え、後ろに控えるファウスト達を示した。

 

 

「この大人方こそが、()()()()()となってくれるはずです」

 

 

 リンの口から出た単語に、イシュメールとロージャがピクリと反応し、鋭い視線を交わす。

 

 

「ねぇ、フィクサーだって。私たちいつの間に協会に登録されたの?」

「まさか。おそらく、単に『揉め事を解決する人』という広義の意味でしょう」

「そ、そうなの?ちょっと心臓に悪かったなぁ〜」

 

 

 聞き馴染みのある言葉にヒソヒソと反応する二人を他所に、ファウストは一歩前へ出た。

 

 

「初めまして。『先生』の代行を務めることになったファウストです。事態解決までの指揮、および戦闘管制を担当します」

「よ、よろしく……って、なるわけないでしょ!」

 

 

 淡々としたファウストの挨拶が終わるや否や、ユウカが猛犬の如く噛みついてきた。

 

 

「突然現れた怪しい大人……しかもその代理だなんて、すぐに信じられると思ってるの!?」

「……これだから、早とちりな計算機は困りますね」

「誰が計算機よ!!」

 

 

 ファウストは嘆息し、激昂するユウカをあっさりと無視し、残りの二人に自己紹介を促した。

 

 

「はぁ、結局どこに行っても、こういう揉め事が付きまとうんですね…………。私のことはイシュメールと呼んでください。ファウストさんと同じく代行を務めます」

「はいはい〜、次は私ね!私はロージャ、分かってるとは思うけど『先生』の代行で〜す」

 

 

 二人の自己紹介も終わると、生徒の何人かが口を挟んだ。

 

 

「この方達が……シャーレの先生に成り代わる方達ですか……」

「ファウストさんはともかく、お二人方じゃ少しやば……いえ、個性的な方々のようですが」

 

 

 生徒たちの遠慮のない評価に、ロージャは腰の斧に手を添え、ウィンクをして見せた。

 

 

「あら、手厳しいわねぇ。ちょっと若いからって、お姉さんたちのこと舐めすぎじゃない?」

 

 

 彼女は怒るどころか楽しそうに笑っている。だがその瞳の奥は品定めをするように鋭い。


 一方、横にいるイシュメールは深く溜息をついた。

 

 

「はぁ……ロージャ、生徒相手にムキにならないでください。……というか、私まで一緒にしないでくれます?」

 

 

 お互いにぎくしゃくした空気が流れるが、ファウストが手を叩いて割って入った。

 

 

「親睦を深めるのは後にしましょう。我々には今すぐやり遂げなければならないことがあります」

 

 

 話し終わると、彼女はリンへ視線を運ぶ。しかしリンはタブレットを見つめたまま、小刻みに肩を震わせていた。

 

 

「あの……リンさん?さっきから肩を震わせているようですが……」

「……だ、大丈夫です。……頭の痛い報告が入っただけですので」

 

 

 リンはギリギリと奥歯を噛み締めながら、努めて冷静に事情を話した。

 

 曰く、その行政制御権を奪回するためには、ここから数十キロ離れた外郭にある『シャーレオフィス』へ向かわねばならないとのこと。

 しかしここで問題発生。

 シャーレ周辺で『矯正局』──つまり、素行の悪生徒を収監する施設から脱走した囚人を中心に様々な不良生徒らが、現在騒ぎを起こしていて無闇には近づけない状態らしい。

 

 

「脱獄囚、ですか。それは厄介ですね」

 

 

 ファウストが眉をひそめる。LCBの囚人ならば戦闘は本分だが、土地勘のない場所での戦闘はリスクが高い。

 

 一通り説明し終えたリンは、暫し悩んでいると、ふと名案が浮かんだのか──眼鏡の奥の瞳を光らせ、四人の生徒に鋭い眼光を向ける。

 

 

「……?」

「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

「そういえばここに、各学園を代表する立派で暇そうな方々がいましたね?」

 

 

 リンの深い意味が込められた言葉は、熟考せずとも理解できてしまった。

 

 

「我々が向かう以上、現地の土地勘を持つ護衛をつけるのが妥当でしょう」

「ちょっと勝手に話を……!」

 

 

 ユウカが悪態をつくよりも早く、ファウスト含めるLCBの囚人とリンは躊躇いもなく出口へと歩き出す。

 

 

「ちょ、ちょっと!本当に待ちなさいってば!」

「……どうやら行くしかないようですね」

「……ええ」

 

 

 ユウカは喧騒な声で彼女らを呼び止めようと、その他の三人達は諦観の意を示しながら、彼女らの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には、黒煙と銃声に埋め尽くされた、阿鼻叫喚と化した市街地が広がっていた。

 

 D.U.外郭地区・シャーレオフィス付近。

 ここでは事前の情報通り、数多くの不良生徒がのさばり、辺りを火の海にしている。

 

 シャーレへ向かう一行はヘリを介して、シャーレ付近へ辿り着くや否や早速戦場に駆り出されてしまっていた。

 

 この世界に来て初の戦闘は──彼女達の常識の範囲外を遥に超えていた。

 

 

「ふぁ、ファウストさん……今私が見てるものって……本当に現実ですか?」

「ちょっと待ってよ、何であの子達は変然とあんな銃火器をぶっ放してるわけ!?あれ一発でいくらすると思ってるの!?」

 

 

 二人の通算何度目の驚嘆。

 主戦場から離れた障害物の陰から見えた光景は、都市の人間にとっては悪夢、あるいは狂気そのものだった。

 

 どこにもいそうな女子生徒らが、明らかに都市の厳しい銃規制に違反する自動小銃や機関銃を次々と持ち出し、何の躊躇もなく、まるで水を撒くように弾丸をばら撒いているのだ。

 

 

「あの銃火器が有する殺傷能力は……ここからでも簡単に推測できますね」

「分析してる場合ですか!あんな堂々と銃を使ったら……すぐに『頭』が嗅ぎつけてきますよ!?」

 

 

 イシュメールは顔を青ざめさせ、空を見上げた。
 彼女の脳裏には、タブーを犯した者に下される無慈悲な処刑者──「爪」の姿がよぎっていたのだ。

 

 

「逃げましょうファウストさん!ここにいては粛清の巻き添えを喰らいます……!」

 

 

 パニックになりかける彼女に対し、ファウストはあくまで冷静に、諭すように口を開いた。

 

 

「落ち着いてください、イシュメールさん。……前提が間違ってます」

「前提が……?いやどういう──」

「ヴェルギリウスさんの言葉を思い出してみてください。…………彼は言いましたね。『都市の理の外』へ向かう、と」

 

 

 イシュメールがはっとして口ごもる。

 

 

「つまりここは『頭』の目が届かない場所。即ち、都市の絶対的なルールである禁忌も、弾丸一発に課せられる高額な税金も存在しない世界なのです。彼女達にとって、銃は贅沢品ではなく、ただの安価な道具に過ぎません。故に、どれだけ撃とうが粛清者が現れることはありません」

「そ、そうなのね……?はぁ……つまりあの弾丸はそこまで高くないってことね?」

 

 

 側で聞いていたロージャが、心の底から安堵するように息を吐いた。

 別に金額どうこうは彼女の懐事情には関係ないのだが……貧民街出身ゆえか、どうしても気にしてしまうのは彼女の性だろう。

 

 誤解が解けたところで、ファウスト達は再度主戦場へ目を向ける。

 

 

「いっ、痛っ!?痛いってば!?あいつら違法JHP弾使ってるじゃないの!?」

「伏せてください、ユウカ。それにホローポイント弾は────」

 

 

 銃撃を受けたユウカが、悲鳴混じりに毒づいている。

 ……被弾したというのに、出血はおろか、ただの打撲程度の反応。

 あれが、あの「天輪」による加護か。

 

 

「……頑丈なのは結構ですが、だからといって根本的な問題が解決するわけがありませんね」

 

 

 ファウストが冷静に分析する通り、戦況は芳しくなかった。
 戦線は膠着状態。ファウストが後方から指示を飛ばしてはいるものの、やはり別々の学園による即席チームゆえの連携不足か、あるいは単純な手数の差か、ジリ貧になりつつある。

 

 そんな煮え切らない現状に、イシュメールが苛立ちを隠さずに盾を鳴らした。

 

 

「はぁ……見ていてイライラしますね。後方にいろとは言われましたが、あんな非効率な消耗戦を見せられては黙っていられません」

「私もそれには同感かな〜。無闇には死ねない状況だけど、このままジリジリ追い詰められるよりは、私たちがドカンと動かす方がマシでしょ?」

 

 

 今にでも武器を掲げ突撃しそうな野蛮な二人を見て、ファウストは小さく頷いた。

 

 

「……分かりました。では私たちも前線へ。『先生の代行』(大人)として、格の違いを見せつけてあげましょう」

 

 

 ファウストも、同様に傲慢であった。

 

 

「その言葉、待ってました〜!」

 

 

 威勢の良いロージャの声と共に、彼女らは主戦場へ駆け出す。

 

 ──彼女らの自信はどこから湧き出たのか?

 簡単にいってしまえば、実戦経験の差だ。

 

 今まで死線を掻い潜ってきた大人と基礎すらなっていない子供。

 銃弾という最大のリスクはあるものの、それ含めてもこちら側が有利だと、彼女ら判断したのだ。

 

 

「……?えっ!?待ってください!一体どこへ!?」

「手間を増やしますが。サポートお願いします」

 

 

 目的地へ向かう道中、また後方で支援を行っていたチナツと遭遇した。彼女はファウスト達を見てまもなく、慌てながら制止しようとするも、大人達は止まらなかった。

 

 

「スズミさん!9時の方向から手榴弾が!」

「ま、待ってください!これ以上は捌き────!」

 

 

 暫し苦戦するスズミの元に、意識外から手榴弾が投げつけられてしまった。

 流石の彼女でも、超至近距離からの爆破は耐えられない。

 

 せめて気絶ぐらいで……!と心の中で懇願した彼女は抗えぬ運命を受け────

 

 

 ──ドガアアァン!!

 

 

 無慈悲に爆破されてしまった……しかし、まだ意識は残っていた。

 

 

「…………えっ?どうして……?」

 

 

 どうして無事か理解できなかったスズミの目の前には──夕陽のような色の髪をなびかせる女性が、盾を構えながら立っていた。

 

 

「ぐっ……流石に無茶してしまいましたか」

 

 

 イシュメールはそう吐きながら、背後に視線を向けた。

 

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 スズミは彼女への感謝と同時に、彼女の戦闘スタイルに疑問を抱いた。

 

 

「な、なんで盾とメイスで……?」

「……私の流儀です」

 

 

 イシュメールはそう残しながら、颯爽と前方へ踵を返す。

 彼女が向かったのは、手榴弾を投げたスケバンの一人。

 

 相手も猛スピードで近づく存在に気がつき、手にした自動小銃を発砲するも、それら全ては盾に吸い込まれ、あるいは弾かれていく。

 

 

「ひっ……!」

 

 

 距離がゼロになる。

 イシュメールは盾で銃口を跳ね上げると、跳ね上げた拍子でがら空きとなった頭部へ、重厚なメイスを無慈悲に振り下ろした。

 

 

──ゴガンッ!!

 

 

 骨が砕ける音──ではなく、分厚いサンドバッグを鉄棒で叩いたような重い音が響く。

 スケバンは悲鳴を上げる間もなく白目を剥き、その場に崩れ落ちた。

 

 

(……手応えがおかしいですね)

 

 

 イシュメールは倒れた敵を見下ろし、眉をひそめる。
 今の全力の一撃、都市の一般人なら頭蓋骨が破裂して即死だ。


 だが、この少女は気絶しているだけ。出血すらしていない。

 

 

(あれだけ撃ち合って、殴られて……打撲程度? 彼女らの身体とやらは、 都市の強化施術やE.G.Oスーツ以上の性能ですか)

 

 

 その異常なタフネスに呆れつつも、彼女は次なる獲物を求めて駆け出した。

 

 

 

 一方、戦場の別側面。

 

 

「くっ、数が多いわね……!」

 

 

 遮蔽物に身を隠し、弾倉を交換しようとしていたユウカに、側面からスケバンが迫る。


 その距離、わずか数メートル。射撃体勢に入られる──その瞬間だった。

 

 

「計算機ちゃん、後ろ後ろ〜♪」

 

 

 陽気な声と共に、暴風が吹き荒れた。
 横合いから飛び込んできたロージャが、手にした無骨な鉄の斧をフルスイングで叩き込んだのだ。

 

 

 ドォォォン!!

 

 

「あべしっ!?」

 

 

 鋭利な刃で斬られたはずの敵が、まるでトラックに撥ねられたかのように水平に吹き飛んでいく。
 壁に激突し、ピクリとも動かなくなった敵を見て、ユウカは開いた口が塞がらない。

 

 

「なっ……お、斧でホームラン……!?」

「あら、良い音! やっぱり頑丈なのね、ここの子たちは!」

 

 

 ロージャは斧の重さを利用してクルリと回ると、ウィンクをして見せた。

 

 

 

 そして、後方支援を行っていたハスミにも危機が迫っていた。

 

 


「っ!?」

 

 

 障害物を乗り越え、上空から強襲する敵兵。長銃を持つハスミにとって、懐に入られるのは致命的だ。
 

 

 だが、その刃が届くよりも早く──銀色の閃光が走った。

 

 

 ギンッ──!

 

 

 冷徹な一太刀。ファウストの振るう巨大なツヴァイヘンダーが、空中の敵を正確に迎撃した。


 刃は肉を断つことなく、しかし凄まじい運動エネルギーで敵を地面へと叩きつける。

 

 

「制圧完了。……援護射撃、止まっていますよ」


「あ……はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 ファウストは気絶した敵を一瞥もせず、次なる指示を飛ばす。

 

 

 

 大人たちの参戦により、戦場の空気は一変していた。


 銃声が支配していた空間を、鈍い打撃音と、圧倒的な暴力が塗り替えていく。

 

 ファウストが的確に敵を対処していると、彼女の耳に取り付けられたインカムから唸る声が響いた。

 

 

『……何やってるんですか?』

「効率化のための戦力行使です」

 

 

 呆れと怒りが入り混じったようなリンの声。

 傍から見ればギャグのような光景だが、彼女にとっては胃に穴を開ける要因でしかない。

 

 

『もし死んでしまったらどうするんですか……こちらの管理責任問題に繋がりかねませんよ』


「ご心配なく。被害は最小限に──あちらの被害は保証しませんが」

 

 

 ファウストは淡々と答えながら、巨大な剣の腹で敵を殴打し、気絶させた。

 




やっぱり8000文字超えちゃうな……短い方が読みやすいと言われてるから、ここら辺もどうにかした方がいいのかな?

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