LCB、シャーレの先生になる   作:ハーメルンのTakamagi

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アビドスでの一日

 変わらず青く澄み渡るキヴォトスの空の下、白く輝くシャーレオフィスの執務室にて、ロージャの情けない悲鳴が響き渡る。

 

 

「もぉ〜、折角偉い立場に就けたって言うのに、結局やってること会社の平社員と変わらないじゃない!?」

「何寝ぼけた事言ってるんですか……元々そういう仕事でしょう?」

 

 

 シャーレが発足してから三日。現在、『シャーレ』に就いたばかりの二人は、軽口を言い合いながらデスクに向かっていた。

 

 彼女らの目の前には、見るだけで顔が青ざめる程どっしりと積み上げられた書類の山脈がある。

 始末書、請求書、活動報告書などなど…………。

 

 ──だが、これでもまだ「少ない方」であった。


 現在、連邦生徒会本部にて裏で暗躍しているファウストがいなかったら、この二倍──いや、部屋が埋まるほど積み上がっていただろう。


 彼女は今頃、リンの隣で、シャーレに送られる無駄な業務を冷徹に弾いているはずだ。

 

 

 

 キヴォトスへ迷い込んでから初日。


 リンバス・カンパニーはシャーレを奪還したのち、連邦生徒会と改めてシンプルな契約を交わした。

 

 

 『LCBはシャーレの先生として、キヴォトスの為に働くこと』。
 

 『その対価として、この都市に存在する全ての黄金の枝を譲渡したのち、帰還手段を提供すること』。

 

 

 一見すれば、利害の一致した対等な契約に聞こえる。
 

 だがその実態は、帰れる日がいつになるかも分からないまま、書類仕事などの面倒な業務を無限に押し付けられるという──あまりにも夢がない、実質的な無期限労働契約だったのだ。

 

 だからこそ、現在ファウストは連邦生徒会に乗り込み、それらの労働条件を根本から見直させようと暗躍している……というわけだ。

 

 

「……はぁ。考えても気が滅入るだけですね」

 

 

 イシュメールは重い溜息を吐きながら、ペンを置いた。


 疲労した目を休めようと、書類の山から視線を外す。すると──デスクの片隅に鎮座する『薄い長方形の機械』が目に入った。

 

 リンやファウストは、これを『シッテムの箱』と呼んでいた。


 なんでも失踪した連邦生徒会長が遺したとされる重要物品なのだが……。

 

 現在のところ、その機能や使用用途は一切不明。


 起動もしないただの板として、殺風景なデスクを彩る一種のインテリアとして代用されていた。

 

 

「……結局、なんでしょうかねこれ」

「うーん、私見覚えあるんだよね〜。ほら、ダンテが持ってた『PDA端末』っていうのにそっくりじゃない?」

「あー、言われてみれば」

 

 

 薄い長方形の機械。


 あまり都市では見かけない形状だが、唯一同じような外見を持つ機械を、囚人達は知っている。

 

 『LCB-PDA』──戦闘時にダンテが肌身離さず持っていた管理端末だ。


 その使用用途は、囚人に人格を被せたり、戦闘指揮の補助、あるいは記録用など、多岐にわたっていたはずだ。

 となると、この『シッテムの箱』というのも、同じく指揮官用の支援デバイスなのだろうか。

 

 

(……とはいえ、これらは推測の域を出ませんね)

 

 

 イシュメールは冷めた目で、黒い画面を見つめた。


 

 どんなに高性能な機械だろうと、今の状況ではただの黒い板切れだ。


 誰も起動方法を知らず、電源すら入らない以上、それは立派なデスクを飾る宝の持ち腐れでしかないのだから。

 

 そんな生産性のない思考に耽っていたその時、執務室の扉が静かに開かれた。

 

 

「進捗はどうでしょうか?」

「あっ、ファウ〜。……見ての通りよ。やっぱり、まだ書類多いわよ〜」

 

 

 現れたのはファウストだった。

 連邦生徒会という魔窟で政治的な折衝を続けているはずなのに、彼女の涼やかな顔には一切の疲労の色が見えない。

 

 

「……本当に仕事しましたか?」

「愚問ですね。適切な休養を摂取し、並列処理で効率良く片付けていましたから」

 

 

 あんなに膨大な業務量の中で、いつ休む暇があったというのか。

 イシュメールが疑いの眼差しを向けていると、白髪の天才は懐から一通の封筒を取り出した。

 

 

「朗報です。これから貴方達は、この不毛な書類地獄から解放されることになります」

「えっ!?急ですね……」

「え〜?やった〜!……って素直に喜びたいけど、どうせまた別の面倒事を押し付けるつもりでしょ?」

「ええ。ですが、この紙束と睨めっこするよりは、それなりのやりがいと刺激は得られるでしょう」

 

 

 ファウストは淡々と告げ、イシュメールのデスクに封筒を置いた。

 今時珍しい、手書きの宛名が記されたアナログな手紙だ。

 

 

「……手紙、ですか?電子メールではなく?」

「連邦生徒会の保留ボックスの底に埋もれていました。……内容は、貴女たちの目で確認してください。では、私は戻ります。リン行政官が泣きつく前に、次の手を打たねばなりませんので」

 

 

 彼女はそれだけ言い残すと、颯爽と──そして嵐のように執務室を後にしてしまった。

 

 

「……もう、相変わらず説明が足りないんだから」

「とりあえず、読みましょうか」

 

 イシュメールは封筒を丁寧に開封し、中の便箋を取り出した。


 そこには、丁寧な、しかし筆圧の強さから切羽詰まった様子が伝わる文字で、びっしりと現状が綴られていた。

 

 差出人は、アビドス高等学校・奥空アヤネ。


 内容を要約すると、こうだ。

 

 

『現在、私たちは地域の武装集団による恒常的な襲撃を受けています。弾薬などの備蓄も底をつきかけており、生徒だけでの防衛は限界です。──どうか、先生のお力を貸してください』

 

 

「……アビドス高等学校?」

「ふむ、聞き覚えのない学校ですね。調べてみましょうか」

 

 

 イシュメールは慣れた手つきでデスクのパソコンを操作し、検索エンジンに『アビドス』と打ち込んだ。


 エンターキーを叩くと、モニターに検索結果が表示される。

 

 

「…………『自治区の大部分が砂漠化し、廃校寸前の学校』とありますね」

「……砂漠化?こんな都市で?」

「さぁ……。ですが様々なサイトにある写真も砂漠と廃墟ばかりですし」

 

 

 イシュメールもロージャも、眉をひそめる。


 都市において廃墟は珍しくないが、自然災害じみた砂漠が居住区を飲み込んでいる光景は異様だった。

 

 

「うわぁ、貧乏くじって感じ……。ファウったら、自分は涼しい顔して、私たちをこんな埃っぽい場所に飛ばす気ね?」

 

 

 ロージャはわざとらしく肩を竦め、不満げに唇を尖らせる。


 いつもの彼女なら、ここでもう一言「ボーナスは出るのかしら?」とでも付け加えるところだ。

 

 だが、イシュメールは淡々と、しかし確信を持って書類を整理した。

 


「文句を言っても始まりませんよ。シャーレの先生になってしまった以上、生徒の悩みごとに真摯に向き合わなければなりませんし……それに」

 

 

 イシュメールの真剣な眼差しが、ロージャの瞳を射抜く。

 

 

「貴女は、『こういうの』を見捨てるのは、嫌いでしょう?」

 

 

 そう言われた瞬間、ロージャの動きが止まった。

 

 砂漠に埋もれ、助けを求める声。貧困と理不尽。


 それはロージャがかつて変えようとし、背負った「罪」の光景に似ているはずだから。

 

 

「……ふ〜ん?分かってるじゃないの」

 

 

 多くは語らない。だが、その瞳にはやる気の炎が灯っていた。

 

 

「さ、行くわよイシュ!さっさと片付けて、美味しいご飯でも奢ってもらいましょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は電車で最寄り駅まで移動し、そこからは徒歩でアビドス高校を目指した。
 交通の便が悪く、広大な砂漠が広がるその場所へ向かうため、二人は食料をたんまりと買い込んだ。そのため遭難して餓死する心配はない。

 

 道中で砂嵐に巻かれ迷いかけたが、そこで運良く登校中の少女──砂狼シロコと遭遇した。

 

 


 「……ん。迷子? アビドス高等学校に行きたい?じゃあついてきて」

 

 


 彼女の案内により、二人は無事に、そして偶然にもアビドス対策委員会が集合するのと同じタイミングで、保健室へと到着──というのが今までの流れだ。

 

 ────そして、現在。

 

 

「あっはは!何よそのザマ!どうしてベッドなんかに拘束されてるのよ〜!?」

 

 

 アビドス高等学校の保健室で、ロージャの遠慮のない笑い声が響き渡る。

 抵抗の兆しを見せず、手足をベッド柵に縛られたヒースクリフ。その姿は、同僚からすれば最高の酒の肴だった。

 

 

「……皆さん、彼とは知り合いですか?とは聞かないでください。恥ずかしいので」

「はぁっ!?ちょっ、ふざけんな!助けろよ!」

 

 

 この三人が初めて出会ってから、およそ一年が経つだろうか。

 任務初日の「囚人が三人死ぬ仲間割れ事件」や、囚人それぞれのいざこざがあったが、あんな地獄のようなスタートを切った頃に比べれば、今の関係はかなり良好だし、互いに背中を預けられる程度には信頼もしている。

 

 ──しかし、だ。

 いくら相手が異常な身体能力を持つ現地の生徒とはいえ、たかが女子高生にボコボコにされ、あまつさえ簀巻きにされているヒースクリフの姿には、流石に失望を禁じ得ない。

 

 

「はぁ……。都市のネズミでも、もう少しマシな負け方をしますよ」


「うっせえ! あのピンク髪が異常なんだよ!」

 

 

 大人同士で言い合っている現場に、生徒の五人は口を挟むことすらできなかった。

 そんな中、アヤネが恐る恐る声を上げた。

 

 

「え、えっと。とりあえず、ヒースクリフさんの拘束を解いてからにしませんか?」

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 ヒースクリフの拘束を解き、改めて自己紹介の時間が設けられた。

 

 

「初めまして。私のことはイシュメールと呼んでください」

「私はロージャ!イシュと同じく、シャーレの先生をやってるわ!」

 

 

 二人の紹介が終わったのち、アヤネが感極まったように口を開いた。

 

 

「ほ、本当に……シャーレが来てくれたんですね……!」

「よかったですねアヤネちゃん☆これで補給品の援助が受けられますね!」

 

 

 対策委員会の生徒たちが、次々と安堵と喜びの色を示す。

 そんな中、シロコは小首を傾げ、ある疑問を口にした。

 

 

「……そういえば聞いてなかったけど、ヒースクリフはどうしてここにいたの?」

「あ〜それはねシロコちゃん。本人が言うには、よく分からないままここに来たんだって」

 

 

 ホシノがヘラヘラと代理で答える。

 ヒースクリフは一瞬ホシノを睨んだが、事実その通りだったため、返す言葉もなく、バツが悪そうに視線を逸らした。

 

 すると今度はセリカが詰め寄る。

 

 

「ねぇ、イシュメールさん。こいつ……ヒースクリフって『リンバス・カンパニー』の人だよね?」

「ええ、そうですが」

「さっきからずっと先生じゃないって否定してるんだけど……本当なの?」

 

 

 セリカの問いに、イシュメールはヒースクリフを一瞥し──深く、深くため息をついた。

 

 

「……不本意ですが、先生です」

「ほら!やっぱり先生じゃん!どうして否定するのよ!」

「はぁ!?その話ってマジだったのかよ!?」

 

 

 ヒースクリフが裏切られたような顔で叫ぶ。

 そんな彼の肩をポンと叩き、ロージャは笑った。

 

 

「まぁ、ヒースは知らなくても当たり前だよ。あなたがここで伸びている間に、私たちが契約結んだから。おめでとう、ヒースクリフ先生。今日からあなたも聖職者だね!」

「ふっざけんな!!」

 

 

 ロージャの対面、保健室の窓側で吠えるヒースクリフ。

 

 和気藹々とした空気が流れる保健室。

 ──その平和は、唐突な暴力によって粉砕された。

 

 

 ガシャアアンッ!!

 

 

 銃声と共に、保健室の窓硝子が派手に砕け散る。

 

 

「じゅ、銃声!?」

「窓ガラスが割れた!」

 

 

 敵襲か。そんな推察が飛び交うよりも早く──。

 割れた窓の隙間から、安全ピンの抜かれた手榴弾が放り込まれた。

 

 

「手榴弾!!?」

「ヒ、ヒースクリフさん!逃げてくださ──!」

 

 

 爆発まで数秒。
 窓際にいたヒースクリフとの距離はゼロに近い。今から伏せても、爆風の直撃は免れない距離だ。


 アヤネが絶望的な悲鳴を上げる。

 

 ──だが。

 

 

「──っ!オラァッ!!」

 

 

 カキーン──!

 

 

 ヒースクリフは思考するよりも早く、手元にあった愛用のバットを鷲掴みする。

 腰を捻り、筋肉を躍動させ、飛来する鉄の塊をフルスイングで迎撃した。

 

 その結果、金属バットの快音が室内に響き、手榴弾は入ってきた軌道をそのまま逆走し、窓の外へと弾き飛ばされた。

 

 

 ドゴォォォッ!!

 

 

 直後、窓の外から爆炎が花開く。

 生憎、爆破位置が空中だったため、襲撃者を爆破させるという一石二鳥の状態にはならなかったが。

 

 

「お、おお……」

「は、跳ね返した!?」

 

 

 あまりの荒技に、生徒たちは開いた口が塞がらない。

 それはそうとヒースクリフは、まだ状況を理解できずにいた。

 

 

「……あ?今、何が飛んできたんだ?」

「嘘!?脊髄反射で跳ね返したんですか!?」

 

 

 素っ頓狂なヒースクリフの声に、アヤネが戦慄する。

 飛来物を認識する前に体が動く──それは生物としての生存本能が強すぎる証拠だ。

 

 

「……それで、一体誰が襲撃しにきたんですか?」

 

 

 収拾がつかない空気の中、イシュメールが冷静に問いかける。

 答えたのは、窓の外を油断なく見据えていたシロコだった。

 

 

「……ヘルメット団。また懲りずにやってきたんだと思う」

「ヘルメット団?なんか聞いたことが──」

 

 

 ヒースクリフが記憶の糸を手繰り寄せようとした、その瞬間。

 

 

「おっとヒースクリフ君!今はそんなこと考えないで、身体を動かそうね〜?」

「おい、何引っ張──力強っ!?」

 

 

 余計なことを思い出されると都合が悪いホシノが、半ば無理やりヒースクリフの襟首を掴んで引きずり出した。

 

 

「皆さん、ここにシャーレからの支給品があります。各自、補給を」

 

 

 イシュメールが背負っていたリュックを開放する。
 中には、アビドスでは貴重な弾薬や医療キットがぎっしりと詰まっていた。

 

 

「弾薬!? ありがとうございます! ……って、先生たちはここで待っててください!」
「え? なんでよ? 折角外に出れたんだし、体くらい動かしたいんだけど〜?」
「……ロージャさん。流石に生身の体で、銃弾が飛び交う戦場に行くのは自殺行為です!」

 

 

 ロージャの好戦的な発言に、ノノミが慌てて制止する。
 生徒たちにとって先生は「守るべき存在」であり、銃撃戦に晒していい存在ではない。

 

 

「無茶よ! だってそこのヒースクリフだって、ホシノ先輩の蹴り一発で意識不明になったじゃない!」
「せ、セリカちゃん! ちょっと比較対象が規格外すぎますよ!?」

 

 

 セリカの痛烈な指摘を聞き流し、イシュメールは武器を構えた。

 

 

「……ご心配なく。私たちはそこらの生徒より、修羅場の経験数は上です」
「そうそう。それに──」

 

 

 ロージャがニヤリと笑い、イシュメールと目配せをする。

 

 

「生徒が戦ってるのに後ろで震えてるなんて、『先生』の名折れでしょ?」

 

 

 二人は生徒たちの制止を振り切り、昇降口へと歩き出した。

 

 

「えっ!? ま、待ってください!」

 

 

 置いてけぼりにされたアヤネ以外の生徒たちは、慌てて先生たちの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂塵が舞うアビドス高校周辺の住宅街で、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

 

 

「そんじゃ、前いくね〜」

「ん、了解。私は左に」

「私が牽制しますね〜☆」

「私は右ね!」

 

 

 対策委員会の四人が、的確なポジションに散開し、敵と相対する。


 ホシノが盾となって前線を維持し、シロコとセリカが側面からドローンやライフルで削る。

 ノノミのミニガンが敵全体を制圧し、アヤネが後方から的確な指示と補給を送る。

 

 経験者から見ても、完璧に近い連携だ。ヘルメット団は次々と無力化されていく。

 

 

 ──しかし、それでも戦況は変わらない。


 敵の数が多すぎるのだ。倒しても倒しても、砂漠の向こうから次々と増援が雪崩れ込んでくる。

 

 

「くっ……キリがないわね!」


『弾薬残量、注意してください! このままだと押し切られます!』

 

 

 セリカが焦りの声を上げ、ノノミの制圧射撃が一瞬途切れる。


 その隙を見逃さず、ヘルメット団が一斉に前に出ようとした、その時だった。

 

 

 ──ドゴォッ!!

 

 

 突如、最前列にいたヘルメット団員の頭部に、死角からのフルスイングが直撃した。

 鈍く重い音が響き、団員はその場に崩れ落ちる。

 

 

「あぁ?なんだコイツら、妙に硬ぇな」

 

 

 姿を現したヒースクリフは、バットの手応えに眉をひそめた。

 

 渾身の一撃で打ったというのに、目の前の敵はヘルメットが凹んだ程度で、血の一滴も流していないのだ。

 

 

「バケモンかよ。ま、伸びてくれたなら手間が省けていいがな」

 

 

 その異常なタフネスに若干の気味悪さを覚えつつも、彼は次なる獲物を睨みつけた。

 

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

 

 

 ブンッ!

 

 

 彼が再びバットを振るうと、敵は慌てて距離を取ろうとする。

 だが──逃げ場はない。

 

 

 ズガァァン!!

 

 

「どうも〜」

 

 

 背後に回っていたロージャが斧を豪快に振り下ろし、退路を塞がれた団員を叩き伏せる。

 

 

「な、なんなんだ、コイツら!?」

 

 

 突如現れた狂人集団に、ヘルメット団全員が戦慄する。
 それでも僅かに残る闘気が身体を動かし、震える手で引き金を引こうとするが──。

 

 

「させませんよっ!!」

 

 

 ガアァン!

 

 

 そこへさらに、盾を構えたイシュメールが突っ込んだ。


 敵が撃つよりも早く、タックルで姿勢を崩し、がら空きの胴体をメイスで薙ぎ払う──防御と制圧を同時に行う、まさに『動く要塞』だ。

 

 

「な、なんなのよあの人たち……!」

 

 

 セリカは信じられない光景を目にしている。

 ──銃弾の雨の中を、生身の人間が臆せず走っている。

 

 銃弾が飛び交う戦場のど真ん中を、遮蔽物も使わず突っ走り、敵を直接殴り飛ばして制圧する。

 キヴォトスにも近接戦闘を得意とする強者はいるが、ここまで「銃を無視した野蛮な戦い方」をする集団は、彼女の知る限り存在しなかった。

 

 

「お〜意外とやるね〜。だけど、跳弾で死なれたら困るから……ほらみんな!前行くよ!」

 

 

 感心しながらもサポートに入るホシノに、シロコが即座に呼応した。

 

 

「ん、了解」

 

 

 生徒たちが一斉に前に出て、激しい弾幕で敵を釘付けにする。


 その隙を、囚人たちが見逃すはずもない。

 

 

「オラオラァ! 逃げるんじゃねぇぞ!!」


「ひ、ひぃぃ! なんなんだコイツら!」

 

 

 銃弾の雨と、問答無用の暴力による挟み撃ち。


 未知の恐怖に戦意をへし折られたヘルメット団は、そのうちあっけなく制圧されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カタカタヘルメット団残党、校外エリアに撤退中』

「わあ☆私たち、勝ちました」

「あははっ!どうよ!思い知ったか、ヘルメット団め!」

 

 

 ノノミとセリカがハイタッチして勝利を喜ぶ。


 一方、囚人たちは肩で息をしながら、撤退していく敵の背中を睨みつけていた。

 

 

「くそっ、骨が折れるな……。どいつもこいつも弱いくせに、数だけは多いし、何より妙に硬ぇんだよ」


「ええ。ですが、大きな負傷もなく乗り越えられて何よりです」

 

 

 ボヤくヒースクリフを、イシュメールがなだめる。


 そんな彼らの元へ、生徒たちが駆け寄ってきた。

 

 

「いや〜、おじさんビックリしちゃったよ。先生たち、本当に強いんだねぇ」


「……ハッ。これくらい、準備運動にもなんねぇよ」

 

 

 強がるヒースクリフだが、その表情は少しだけ誇らしげだ。


 すると、わんぱくオオカミことシロコが、目をキラキラと輝かせながら食いついてきた。

 

 

「……ん。その戦法、興味ある。私に教えるべき」


「あらら〜? シロコちゃん、お姉さんたちの真似をする気? やめといた方がいいわよ〜? 可愛いお顔が傷だらけになっちゃうから」

 

 

 ロージャがからかうように笑う。
 砂だらけの住宅街で、奇妙な連帯感が生まれつつあった──その時。

 

 

『えっと……皆さん? 盛り上がっているところ申し訳ないのですが』

 

 

 インカム越しに、アヤネの疲れた声が水を差した。

 

 

『とりあえず脅威は去りました。……一度学校に帰還して、今後の対策を話し合いませんか?』

 

 

 アヤネの提案に、一同はハッと我に返る。

 

 

「……そうだね、一回帰ろうか」

 




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