LCB、シャーレの先生になる   作:ハーメルンのTakamagi

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メリークリスマス……か。

たくさんの評価、感想ありがとうございます!
いや、たったの数話なのにこんなに反響が来るなんて思いもしなかったです……。

ここの話って考えるのむずくない?


黒猫の周りにはラーメンと誘拐がつきまとっている

 

「どうやら、大きな収穫があったようですね?」

「まぁ、そんな感じかな?」

 

 

 無数の星が浮かぶ夜空と対照的な白いビル──シャーレオフィスの一角である執務室。

 アビドス高校から帰還した三人は、真っ先に対応すべき重要なタスクを片付けるべく、ファウストとその部屋で打ち合わせしていた。

 

 

「……なあ、これって拒否権とかないのかよ?」

「残念ながら、この職務も契約の一つですので」

 

 

 本日目を覚ましたばかりのヒースクリフは不満を呈する。どうしても、前触れもなく先生として働かされる状況に抵抗があるようだ。

 

 

「ですが今すぐにとは言いません。ヒースクリフさんは今すぐにでも休養をとっておいた方がいいでしょう。その代わり、面倒な登録は明日行うことになりますが」

「だったら、今すぐ寝るわ。こっちとら朝からずっと動いてばかりで、昼寝すらできなかったからな……ふわぁ〜」

 

 

 ファウストの提案に、ヒースクリフはすぐに了承し、迷いもなく、欠伸をしながら出口へと向かった。

 邂逅から帰還までそんな素振りは見せなかったが、ずっと気を張っていたのだろう。

 

 色々とぶっきらぼうな彼の振る舞いに、イシュメールは溜息を吐く。

 

 

「自由奔放ですねあの人は……さて」

 

 

 彼女は短く感想を述べると、すぐに視線を目の前のファウストに向き直った。

 

 

「──私たちの要望は通りますか?」

「……ええ、構いませんよ」

 

 

 要求はあっさりと通った。少し困惑する二人を差し置いて、ファウストは淡々とその理由を口にする。

 

 

「簡潔に述べるなら、現在、行方不明だった囚人たちが各自治区で次々と発見されています。つきましては一時的な処置として、彼らの身柄を保護している各学園に管理を一任しようという判断です」

「……つまり丸投げってこと?」

「そうと言えますし、合理的な判断とも言えますね」

 

 

 訝しむ視線を向けるロージャに、ファウストはもっともらしくはぐらかした。そう言い終えると、コツコツと、優雅に歩きながら出口へ向かう。

 

 

「結論としては、そちらの問題が程よく収束するまで任せます。今日の回すべき書類はありませんので、残った自由時間は好きに満喫してください。それでは」

 

 

 そう言い残した彼女は、そのまま暗闇の中へと消えた。

 

 

「……要するに、面倒な事は明日考えようってことね」

「そういうことですね。……はぁ。それでは、解散しましょうか」

 

 

 二人はファウストの助言通り、泥のように眠ることを選ぶ。

 慣れない異世界での戦闘、そして膨大な書類仕事。肉体と精神に蓄積した疲労は、彼女たちの思考を強制的にシャットダウンさせたのだった。

 

 シャーレの移住区に用意された、ふかふかのベッド。

 都市にも似たようなものがあったが、それとは格段に違う心地よさがそこに存在している。

 

 都市では味わえないあまりに穏やかな夜が、囚人の意識を優しく刈り取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翌朝、寝ぼけたままのヒースクリフを待っていたのは、再び眠ってしまいそうな単調な先生登録の件や生体認証だった。

 彼はかろうじて瞼を開けながら、全ての必須事項を完了する。

 

 こうして本当の先生になったヒースクリフは、事実上担当先となったアビドス高等学校へ、イシュメール、ロージャと共に向かったのだ。

 

 どんな面倒ごとや戦闘が立ちはだかろうが、全部打ち壊してやる。

 そう意気込む彼だったのだが…………。

 

 

 「……んで。こんな店に立ち寄ることに、どう借金返済に繋がるんだ?」

 

 

 アビドス高校から少し離れた市街地。

 ヒースクリフは、自分より前を歩く対策委員会に向かって、半ば呆れながら言い放った。

 

 彼の目線の延長線上にあるのは、砂に埋もれかけた一軒のボロ……いや、趣のあるラーメン屋。『柴関ラーメン』と書かれた赤い暖簾が、乾いた風に揺れている。

 

 

「借金?ああ、違うよヒースクリフ君」

 

 

 先頭を歩くホシノが、のんびりと振り返った。

 

 

「腹が減っては戦はできぬ、だよ。まずは腹ごしらえしないとね〜」

「そうです!ここのラーメンはアビドス一……いえ、キヴォトス一の絶品なんですよ☆」

 

 

 ノノミも嬉しそうに補足する。

 どうやら、何かの作戦があるわけではなく、単なるランチタイムらしい。それ以外にもちょっとした理由はありそうだったが。

 

 

「……はっ、暢気な奴らだな」

「まぁまぁ、いいじゃないヒース。こうやって飯に誘ってもらえるなら大歓迎よ。いい匂いもしてきたし!」

 

 

 金や食にがめついロージャは既にやる気満々で、勝手に暖簾をくぐろうとしている。

 イシュメールも、少し困惑する色を見せるも「食糧補給は重要です」と異論はない様子だ。

 

 

「まっ、たまにはいいか」

 

 

 流れに乗るしかない空気に、渋々ヒースクリフは受け入れ、彼女たちの後に続いた。

 

 引き戸を開けると、豚骨の濃厚な香りと、元気な声が出迎える。

 

 

「いらっしゃい!!」

「わあっ!?……っ、びっくりさせんじゃねぇよ犬っころ」

「ん。相手はただの店主。急に攻撃するのは良くない」

「……わざわざちょっかいかけんじゃねぇ。こっちもわかってる」

 

 

 ヒースクリフは条件反射でバットを振り上げそうになるが、相手はただのラーメン屋の店主だと気が付いて手を止めた。都市にはいない「人間のように振る舞う動物」にも、ここ数日で多少は免疫がついたつもりだったが、不意な威勢のいい声には思わず反応してしまう。

 

 

「ほら、お客さんを案内しな」

 

 

 やってきた客人を一瞥すると、彼は誰かに催促する。すると、奥の厨房から一人、バイト姿の少女がこちらまで駆け寄ってきた。

 

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで──わわっ!?」

「あの〜☆7人なんですけど〜!」

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

「お疲れ」

 

 

 なんとその店員の正体は、学校にいなかったはずのセリカだった。

 

 

「わぁ〜アルバイト姿じゃない?似合ってるわ〜」

「は?なんでこいつこんなところにいるんだ?」

「それはこっちのセリフ……!なんでここが分かったの!?」

 

 

 セリカが顔を赤面させながら問う。どうやらここで働いていることは今まで隠していたつもりらしい。

 

 

「うへ〜、やっぱここだと思ったんだよね」

「うぅっ……ホシノ先輩の仕業なのね……!」

 

 

 ホシノがのんびりと答える。すると厨房の奥から声がかかった。

 

 

「やっぱりアビドスの生徒さんだったか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文を受けてくれな」

 

 

 キセルを咥えながら指示を飛ばすと、セリカは観念して一行を広い席へ案内する。

 

 案内された席は4人席が二つ。一つは対策委員会が占領し、残った一つは囚人たちが座った。

 

 

「いや〜キヴォトス一の名物、楽しみだね?」

「キヴォトス一ですか……誇張表現でなければいいのですが」

「いいだろ?好きなもんを世界一って呼ぶのに、誰かの許可なんかいらないからよ」

 

 

 二人は乗り気だったようで、テーブルに用意された注文表を取り出し、掲載された料理の写真を穴が開くほど見つめていた。

 

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト先決めちゃうタイプ?」

 

 

 ふと、隣の席での会話が耳に入る。彼女らの話題はセリカの制服姿で持ちきりのようだ。

 

 

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」

「バイト始めたのはいつ?」

「い、一週間前……ってもういいでしょ!?注文は!?」

「『ご注文はお決まりですか』でしょ?セリカちゃん?」

 

 

 こちらに注文が来るまで時間がかかるようだった。その様子を見ていたイシュメールは手持ち無沙汰に、他二人と同様注文表を見つめだす。

 

 向こうの注文を一通り終わると、セリカが逃げるようにこちらのテーブルにやってきた。

 

 

「……はぁ、本当に何なの……。で、ご注文は?」

「ん〜、私はこのチャーシュー麺大盛り!あと餃子!」

「私はこの、柴関ラーメンで」

「オレもそれでいい」

「はいはい〜」

 

 

 ロージャがメニューを指差しながら、ふと視線を端に滑らせる。そこには手書きの「アルバイト募集中」の文字があった。

 

 ただ彼女が最も目を引いたのは、その下に書かれた「時給1100円」という、端金の給料。

 

 

「ねぇ、セリカちゃん」

「な、何よ?」

「……その時給で、あの借金を返すつもり?」

 

 

 ロージャの声色がスッと低くなる。

 1100円。お小遣い稼ぎなら十分だ。だが億単位の負債を返すには、砂漠にスポイトで水を撒くようなもので、無謀に近かった。

 

 セリカはその質問に唇を噛み締め、視線を逸らしてボソッと答えた。

 

 

「……うるさいわね、何もしないよりマシでしょ?こんな問題と直面しちゃった以上、私だって何か行動しないとって……じっとしてられないのよ!」

 

 

 それは非効率を承知の上で、彼女なりの精一杯の抵抗だった。するとそれを聞いていたヒースクリフが、ニヤリと口角を吊り上げる。

 

 

「ほぉ?……お前、中々いい根性してんじゃねぇか?」

 

 

 彼が珍しく素直に他人を褒めた。やはり彼にとって、対策委員会の足掻いてでも生きることは、過去の自分と照らし合わせてみてもどこか似ていて親近感が湧いているのかもしれない。

 

 突然の褒め言葉にセリカは思わず呆気に取られる。

 

 

「も、もう……なんか本調子でないわね……」

 

 

 彼女が逃げるように奥の厨房へ向かうその間、ヒースクリフは、その一部始終を不思議そうに見つめていた。

 

 こうしてラーメンの到着を待っていると……やがて三人の前に湯気を立てる丼が置かれる。

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

 透き通るようなスープ、艶やかな麺、そして分厚いチャーシュー。都市の裏路地や、揺れるバスの中ではお目にかかれない食事だ。

 

 

「おぉ〜!食欲がどんどん湧いてくるわ〜!」

「何だこれ、すげぇウマそうじゃねぇか!」

「……これは、想像以上ですね?」

 

 

 思わず喉を鳴らす囚人たち。早速箸をつけ啜ると、見た目通りの旨味が舌の上を滑った。

 

 

「うまいじゃないの!」

 

 

 ロージャが興奮気味に感想を残す。暫しの間目の前のラーメンに夢中になっていると、隣の席からヘラヘラと穏やかな声が響いた。

 

 

「あっ、そうだ。このご馳走は先生に奢ってもらおうかな〜?ねぇ〜?」

「……え。それ初耳なんだけど」

「ほら〜、大人が持ってるあのカードがあるでしょ?」

 

 

 予想もしなかった言葉に、ロージャはイシュメールに視線を向ける。

 

 

「……どうして私に視線を向けるんですか?」

「ほら、イシュなら持ってそうかなって」

「馬鹿正直ですね……生徒は生徒自身が払うんでいいんじゃないですか?」

 

 

 イシュメールがキッパリと断ると、ホシノが残念そうに声を出した。

 

 

「え〜?残念……イシュメール先生のかっこいい所見たかったのになぁ〜?」

 

 

 わざとらしくイシュメールを煽てるホシノ。だが、元船乗りの、しかもバスでの地獄紀行でさらに磨きがかかった理性は、流石にその程度の挑発では揺るがなかった。

 

 

「大人を揶揄い過ぎです。ヒースクリフさんでしたらその言葉に乗せられそうでしたが」

「ちぇ〜、シケてるなぁ」

 

 

 彼女は短く告げ、そのまま食べ進める。その一方で突然の飛び火にヒースクリフは唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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  冷え切った夜だというのに、朝から変わらない威勢のいい声に見送られ、柴関ラーメンから疲れ切った顔をした少女が出てくる。

 

 黒見セリカは目まぐるしい今日という一日に疲弊し切っていた。

 

 朝からのバイトに加え、今まで隠し通してたはずのバイト先に生徒や先生に押し掛けられたり、挙げ句の果てにその客人に揶揄われたりと……とにかく多忙で長い一日だった。

 

 

「はぁ……ほんと散々だったわ」

 

 

 彼女は一人、虚空に向かってボヤきながら帰路につく。

 

 柴関ラーメンが店を構えるこの市街地は、砂漠化による被害が比較的少なかった。ある意味、今のアビドスに残された唯一活気のある場所だと言える。

 

 静かに歩くセリカの脳裏に、ふとある情景が浮かび上がった。それは昨日戦場で猛威を振るった先生たちが美味しそうにラーメンを啜る一場面。頼れる……かはまだ分からないけど、あんな大人がまるで子供のようにはしゃいでいる姿は、どこか微笑ましかった。

 

 最初は絶対に信用しないと決意したけど……段々と、絆されている気がしている。

 

 

「……もう。ほんとに、調子が狂うわね」

 

 

 吹き抜ける冷たい風に身震いさせながら、暖かい家を目指す。これで何事もなく一日が終われば良いのに、彼女は切実に祈った。

 

 

「とりあえず、まずは今日の給料を利息の返済に充てて──」

 

 

 ギギィーッ!!

 

 

「うえっ!?」

 

 

 その刹那、セリカの横で甲高いブレーキ音が鼓膜をつんざく。

 何事かと慌てて振り向こうとした瞬間──体の節々に、熱い衝撃が走った。

 

 

 ダダダダッ!!

 

 

(ふ、不意打ち!?なんて卑怯な……!)

 

 

 至近距離から撃ち込まれる無数の弾丸。

 ヘイローがあるとはいえ、不意の衝撃に彼女の体は耐えきれず、そのまま冷たいアスファルトに倒れ伏してしまう。

 

 ズタボロになった彼女の周囲に、複数の足音が響く。

 セリカは霞む視界を必死に持ち上げた。

 

 

「へ、ヘルメット団……?」

 

 

 視界に映ったのは、自分を取り囲む見慣れたヘルメットのシルエット。

 だが、今のセリカには抵抗する力も、指一本動かす力も残っていなかった。

 

 そうして彼女の意識は、絶望的な光景を最後にプツリと途切れた。

 

 

「……ラッキーだな。あの男から預かった荷物の配送ついでに、まさかターゲットまで確保できるとはな」

「一石二鳥ってやつですね!」

「よし、手足は縛ったな?トラックの荷台に放り込め」

 

 

 セリカを襲撃したヘルメット団のリーダー格が、手下に指令を飛ばす。団員たちは荷台のシャッターを開け、手足を縛った意識のないセリカを乱雑に中へ放り投げた。

 セリカが転がる荷台の奥には、既に「人間が一人入りそうな黒いケース」が鎮座していた。

 

 

「……ところで、まだ聞こえるか?例の音」

 

 

 運転席に乗り込みながら、リーダーが気味悪そうにそう尋ねる。

 助手席に座る団員は、運転席と荷台を隔てる窓の方へ耳を澄ませると────

 

 

 ────チクタク。チクタク。チクタク。

 

 

 あの日──砂漠で黒服から荷物を受け取った夜から、耳について離れない音。無機質で、正確で、どこか生き物めいた時計の音が、微かに響いていた。

 

 

「……ええ。相変わらず、不気味なほど正確に刻んでやがりますよ」

「気味が悪い……。さっさと届けちまおうぜ」

 

 

 ブロロロ……とエンジンを吹かしながら、無慈悲にもトラックは発進した。

 

 闇夜の砂漠をひた走るその車両には、二人の人間が詰め込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「えっ?セリカさんが誘拐されたんですか?」

「はっ!?マジかよそれ」

 

 

 同日、シャーレの執務室で、イシュメールとヒースクリフは突如として衝撃の事実を突きつけられた。

 連邦生徒会から支給されたスマートフォンから、今にでも泣き出しそうなアヤネの声が漏れる。

 

『はい……何度も電話をかけてみたりしたんですけど……一度も出てくれないし、バイト先にも家にも居なくて……一体どうしたら……』

「それで、これ以上打てる手が無くなって、ここに……」

『はい……どうかお願いします、イシュメールさん……!』

「……分かりました。すぐに動きます」

 

 

 イシュメールは短く承諾すると通話を切り、すぐさまデスクのパソコンに向かった。その背中に、ヒースクリフが問いかける。

 

 

「……おい。引き受けたのはいいが、どうやってアイツの居場所を見つけ出すんだよ?GPS……っていうやつも切れてるんだろ?」

 

 

 彼とてセリカを捜索したい気持ちは強いが、手段が思いつかない。

 しかし、イシュメールの瞳は据わっていた。

 

 

「正規の手順がダメなら、裏口を叩き割るまでです。……キヴォトスのセントラルネットワークに、シャーレの特権コードで無理やり接続して位置を特定します」

「はぁ!?良いのかよそれ、バレたらタダじゃ済まねぇだろ!?」

「構いません。バレたところで、始末書の束が一つ増えるぐらいです」

 

 

 カタカタと凄まじい速度でキーボードを叩くイシュメール。普段はルールを重んじる彼女が、その理性をかなぐり捨てて生徒の為に法を犯す。その姿にヒースクリフは内心感心しながらも、突然飛んでいく彼女の理性に戸惑っていた。

 

 すると自動ドアが開き、その向こうから陽気な声が響く。

 

 

「ただいま〜!エンジェル24で夜食とお酒、買い込んできちゃった。二人の分も──あら?どうしたの二人とも、怖い顔して」

「あー……セリカが誘拐された」

「え?」

 

 

 ロージャの手からレジ袋が滑り落ち、缶ビールやお菓子が床に散乱する。

 

 

「……はぁ、不幸の濁流、ってやつね」

 

 

 ロージャは散らばった缶ビールを拾うこともせず、乾いた声で呟いた。

 彼女は努めて明るく、いつものように振る舞おうとしていたが、その目が全く笑っていないことは、付き合いの長い二人には痛いほど分かった。

 

 沈黙が落ちる執務室に、イシュメールの打鍵音だけが響く。

 そして──エンターキーを叩く音が、作戦開始の合図となった。

 

 

「……特定しました。どうやらトラックの荷台に乗せられ、移動中のようです」

 

 

 イシュメールは短く告げると、勢いよく立ち上がり自身の武器を掴んで扉へ向かう。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよイシュ!行くってどこへ!?」

「……アビドス砂漠の奥地です。車を手配させて、追いつきますよ」

 




思ってたよりも例の人の帰還が早くなるかもしれないですね……。

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