怪奇探偵 葦川 昭一 ―気になる怪奇現象、証明します。 作:山瀬 鳴
カクヨムにて先行公開しておりますのでそちらもどうぞ。
『おはよう茜さん。もう少し遅く電話してきても良かったのだがね?』
「すみません…少し気晴らしにと…」
『確かに立て続けにあのような事件に巻き込まれては気が滅入るだろうね。身体に不調は?』
「ありませんが…」
『ならいい兆候だ。病も怪異も、心が弱っているときほど鋭い牙を剥くからね』
「病は分かりますけど怪異って…」
『いや?何もおかしい話ではないさ。夜に怪異に襲われやすいのは心が弱るからという理由もある』
「へぇ…」
『とりあえず、明日は宜しく頼むよ。霊崎市中町のカフェに来てくれないか?』
「わかりました」
◆◆◆
「済まないね茜さん。中町は少し遠かったよね」
「いえ、私鉄のフリーパスがあるので…」
「あぁ、そうか。いいですよね霊崎鉄道。あ、何か食べます?奢りますよ」
「え、じゃあカフェオレとサンドイッチ…」
「味は?」
「じゃあハムレタスで」
「では私は蜂蜜珈琲と卵サンドを頂こう。店員さん」
そう言いながら注文する葦川さん。
「で、先ずは君の父親について聞いてもいいかい?」
「早速ですか」
「勿論。その為だけに君を呼んだのだからね」
「わかりました…と言っても、そこまで特筆する話はありませんが…」
「なんでもいい。鴉の老人の被害者の共通点を調べているのでね」
「そうですか…」
―父は…一般的な父親でした。家族思いのいい父親でした。
特筆することも無い…休日は家族の為に動き、学校の用事には顔を出し、誕生日や記念日を忘れない、いい父親でした。
母との仲も良好で、私は父の事を尊敬していました。
…でも、強いて言うなら—
「父は、不思議な昔話が好きでした」
「…昔話?」
「はい。何処かの伝承のような、何処かの御伽噺のような…」
—例えば、ギリシャ、北欧、インド、中国、日本などの神話。吸血鬼、魔女、ドラゴンなどの伝承。全世界で語られている物から始まり、とある集落レベルでしか語られない御伽噺まで。様々な魔法やモンスターの話をしてくれました。とても楽しそうに、様々な話を。
「まぁ…単にそういう話を集めるのが趣味だったというのがオチでしょうけど…」
「……」
「でも、本当にそれくらいです。父は…呉椙 拓郎という人物は」
「………いや、いい話になった。調査の参考にできるかもしれないな」
「それなら…良かったです」
少し、涙が出そうになってきた。その涙を拭いた時。
「お待たせしました。カフェオレとハムレタスサンドのセットと蜂蜜珈琲と卵サンドのセットです。ごゆっくりどうぞ」
店員が頼んだ商品を届けに来ていた。
「さて、一旦食べようじゃないか。辛い話をして疲れただろう?君もコレを食べて休むといい」
「あ、ハイ。頂きます…」
私はサンドイッチに手を伸ば…せなかった。
「………え」
「なんだね?」
「………それ蜂蜜珈琲ですよね?」
「そうだが?」
「つまり蜂蜜が入っていて甘いんですよね?」
「そうだな。蜂蜜入りで甘い」
「それにスティックシュガー5本入れるんですか!?」
「違う。10本だ」
「二型糖尿病確定コース!」
「ふむ、この糖とカフェインの組み合わせがわからないか。蜂蜜の甘みと砂糖の甘みのマリアージュがわからないか」
「わかりたくない!!!!」
ギリギリマトモな人だって思えていたのにここに来て馬鹿みたいな飲み物飲み出すのかよ!ふざけないでよ全く!!
「ふむ、やはりここの卵サンドは美味い。昼食を食べるとするならばここに限るというものだね」
「いや流せるわけないでしょ!!」
「煩いなぁ君は…怪奇現象について調べ上げるにはそれ相応のエネルギーが必要なのだよ」
「それにしても過剰摂取!」
「ほら、君もカフェオレが冷める。せっかくの珈琲に失礼ではないかね?」
「失礼なのはソッチじゃないのかな…」
静かにカフェオレに口をつける。
「!?何コレ美味しい!」
「…良かった」
「え、ここ初めてきたんだけどこんな美味しい店だったの!?早く来れば良かった!しかも結構安い!?」
「…ようやくだな」
「え?」
「ようやく年相応の笑顔を見せてくれた」
「…あっ…」
「やはり、お嬢さんには疲れた笑顔は似合わない…なんて、キザな台詞を吐くのもまた一興と言ったところでしょうか」
「…羞恥心ってのが無いのかなこの人…」
◆◆◆
「さて…もう一つ確認したいことが此方に」
「?」
「三原 洋介氏についての粗方調査した書類になります」
「!三原先輩の…」
「茜さんも確認して頂きたい。そして抜けている情報を教えて頂きたい」
—三原 洋介。20■■年5月12日生まれ。21歳。南ケ原大学霊崎キャンパスの教育学部在学。家族構成は母親と妹一人。高校時代未成年飲酒と未成年喫煙で補導経験あり。同級生が大麻所持で逮捕されている為、彼も大麻を使用した可能性があると警戒されていた。現在は構成しており、大学では真面目な好青年として多くの人から好かれていた。20■■年3月。カラオケチェーン店『みはちねこ』霊崎
「とまぁ、こんなものでしょうか」
え…三原先輩が…犯罪を?
「……三原先輩が…未成年飲酒と未成年喫煙…?」
「えぇ、聞いて驚きましたよ。彼、高校は偏差値が低めのところに入っていたらしく、周囲も素行不良な生徒ばかりだったらしいです」
「……つまり底辺校の不良だったってことなのね」
「私のオブラートをビリビリに破かないでくださいよ。配慮って単語を知りませんか?」
うっ…ブーメラン…
「…………でも、もしそうなら、三原先輩はなんで南ケ原大学教育学部なんて…」
「確かに偏差値そこそこ高いですからね。どうやらある時助けてもらったとある教師に憧れを抱き、その教師を目標に教師になろうとしたらしいですね。そのために南ケ原大学を選んだのでしょう」
「なるほど…」
「で、問題が大麻使用の疑い…心当たりはありますか?」
「いえ…お酒で昔やらかしたという噂を…」
「昔は昔でも高校時代ってオチでしたね」
「あ、アハハ…」
ブラックジョークが過ぎるんだよなぁ…
「では、私のほうの調査は以上になります。お付き合いさせてすみませんでした」
「い、いえ…とんでもない…」
「もし、怪奇現象に出くわしたら、怪奇探偵をどうぞご贔屓に」
「アハハ…」
そんな事ないといいなぁ…
◆◆◆
「うぅ…やっぱりここは暗いなぁ…」
駅の近く、近道である裏通り。家に帰るため、私はそこを駆け足で抜けていく。食べ物や酒や何かわからないけど変な臭いが混ざった独特の匂いの中、私はポケットのワイヤレスイヤホンのケースを落としてしまった。
「あっ…やばっ…こんな時に…」
それを拾って、家に帰ろうとした時。
—目が合った。
—黒く塗りつぶされたようなその穴と。
—血をそのまま硝子玉に詰め込んだような赫色と。
—その下に立派に垂れ下がるその白髭を。
—その2つの珠をと太陽を隠すように下に垂れ下がる白髪を。
—黒のローブは一つ一つが鴉の羽根であった。
—手に持つ杖は、どんな木材よりも黒かった。
—ソイツは私を目にして、にいっと笑った。
—そしてそのニタニタした笑みを浮かべながら…
〝オ、マ、エ〟
「ヒッ…!」
気づかれた!今絶対気づかれた!
殺される!アイツに殺される!
「てか!鴉の老人って噂話じゃなかったの!?」
逃げなくちゃ…逃げないと死ぬ…!
………どうしたら、逃げ切れるんだ?