怪奇探偵 葦川 昭一 ―気になる怪奇現象、証明します。 作:山瀬 鳴
カクヨムにて先行公開しておりますのでそちらもどうぞ。
「不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い!!!」
なんだあの爺さん!速すぎるでしょ!あんな動きづらそうな服で全力疾走ってレベルじゃない速度で走ってくるなんて聞いてない!何!?浮いてるの!?ホバリング!?
〝ニ、ゲ、ル、ナ〟
「嫌だ!逃げる!」
誰が逃げないのよこんな奴相手に!!歯が多少抜けててニタニタ笑いが余計気持ち悪い!!!
「嫌ぁ!死にたくない!」
しかも、余計に逃げにくくしている要因…!
〝カァ〟 〝カァ〟
〝カァ〟 〝カァ〟
「また鴉!」
鴉だ。鴉がまた襲ってくる。しかもめちゃくちゃ殺意が高い。
嘴で食い殺そうと高速で突っ込んでくる。今はなんとか避けれるが、数が増えれば危ないかもしれない。
〝カァ〟 〝カァ〟
〝カァ〟 〝カァ〟
「ヤバいヤバいヤバい!死ぬ!これ以上来たら死ぬ!」
〝カァ〟 〝カァ〟
〝カァ〟 〝カァ〟
「また前から鴉!?横からも!?」
鴉の大群に襲われ、逃げるのもロクにできない。
「いや、本当にどうする!?」
逃げ切れない。逃げ切れなかったらどうなる?死だ。それまでの遭遇者は全員死んでいる。
…本当に?
逃げ切る方法が実はあるのでは?その可能性に賭ける…しか無いんだよ!
「とりあえず大通りに!」
右へ左へ、鴉の突撃を避けながら人通りの多い大通りへ逃げ込む。うわぁ…コンクリに嘴が刺さってる…マジぃ…
〝マ、テ〟
「嫌だ!」
明かりが段々と強くなる。一歩一歩、走る足が速くなる。
「ここで転んでは全てが水の泡…!足元確認!ヨシ!」
逃げ切れる?いや、逃げ切る!
全力…疾走ぉ…!
「逃げ…切っ…た!」
これ以上来られたらどうも出来ないけど…!
「…いない?」
鴉の老人はおろか、鴉の姿すら見当たらなかった。
◆◆◆
『ハァ!?鴉の老人から逃げ切った!?その状況を詳しくお話していただきたいのですが!!』
「え、えぇ…」
帰宅直後、葦川さんに電話して事情を話した直後、めちゃくちゃ興奮した様子で話を聞いてきた。正直、少し引いた。
「と、とりあえず、鴉の老人について話をしても…?」
『お願いします!!!』
切りたい…
「ま、まず。鴉の老人は会話…じゃなくて発話可能です。見つけた、とか、逃げるな、とか言ってきました」
『発話可能…ソレはかなりの情報だ。思考の一端が覗けるだけでもそれなりの情報になる』
淡々と続けるが、その言葉には嬉しさが見え隠れしている。その言葉は心からの言葉なんだろう。
「あと…鴉が襲ってきました」
『鴉。鴉を従える能力があると』
「はい。鴉が矢のように突っ込んできました。コンクリートが抉れる程の速度で」
『それは…なるほど…』
「後は…大通りに出た瞬間、消えました」
『…消えた?止まったとかではなく?』
「はい。消えました」
『なるほど…可能性は2つ。鴉の老人は人混みを嫌うか、鴉の老人は光を嫌うか、ですね。鴉という特徴を鑑みると人混みを嫌っているというのが一番に考えられますが、怪異という事を踏まえると光を嫌うのも納得です。しかし、鴉の老人が存在していたという事実そのものが大手柄でしたね』
そう告げる葦川さん。だが、どうも引っかかる。まるで、この世界には怪異が存在していると言っているかのように…
「えっと…そもそもアレは何だったんですか?まるで怪異が存在するかのような口振りですけど…」
『?あぁ、そこからですか』
『いますよ。この世界には怪異という存在が』
「…嘘でしょ?」
彼からその一言が告げられるまで、信じたくはなかった。
『えぇ、本当です。だからこそ、怪奇探偵という存在が必要になるんですよ』
「…確かに、そうですね」
『まぁ私以外に怪奇探偵なんて職をしている存在を知りませんが』
「えぇ…」
関心を返せ。
『しかし、不味い事になりましたね』
「?というと?」
『詳しいことは会って話しましょう。そのほうが都合がいい。今日予定がないならまた中町のカフェに来てください。あぁ、とりあえず人通りの多い道を利用してください。また襲われては敵いません』
「そうですね…今から向かいます」
私は鞄を手に取った
◆◆◆
「すみません、急に呼び出すことになって…」
「いえ、大丈夫です。聞きたいことも多いですし…」
「えぇ、なんでもお聞きください。ここなら聞かれることもありませんので」
「では…怪異が存在するって、本当ですか?」
「出会っているのにまだ信じないんですね」
「まだただの不審者の可能性がありますから…」
「不審者?不審者ですか?目が無くて、黒光りする歯を持ち、鴉の羽で出来た服を着て、鴉を操り、貴女を執拗に追い回した存在が?ただの不審者だと!?」
「そ、それは…」
「まぁ、確かにそういった事はよくありますよ。人間はスキーマというある種の『枠組み』を持つ生き物ですし、確証バイアスや正常性バイアス、帰属理論、フレーミング効果などが働いているのでしょう。そう簡単には信じてもらえるとは思っていません。ですが…貴女にはこれだけは覚えていて欲しい」
「…なんですか」
「貴女はこのままだと100%死ぬ」
「…え?」
「……先ず、怪異の基本情報について話しましょう」
そう言いながら彼は店員から珈琲を受け取る。
「まず、怪異には大きな特性が存在します。それは、
「噂や思い込み…?」
「例えば有名な都市伝説に『口裂け女』、という存在が居る。1979年頃の春から夏にかけて日本で流布され、社会問題にまで発展した都市伝説。2004年頃には韓国でも流行し、中華圏でもその噂は流れてる。口元を完全に隠すほどのマスクをした若い女性が、学校帰りの子供に 『私、綺麗?』と訊ねてくる。『きれい』と答えると、『……これでも……?』と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていた、というもの。『きれいじゃない』と答えると包丁や鋏で斬り殺される。逆に「きれい」と答えると同じように口を切り裂かれる…」
「あの、なんでスマホ見ているんですか?」
「ウィキペディアを見ているからね」
「wiki引用!?」
「私は怪奇探偵であって怪奇現象の専門家や研究者ではないからな。説明はまとまった元を使ったほうがわかりやすく早い」
「それでいいの…?」
「いいのだよ」
彼は手元の珈琲を一口飲んで続ける。
「で、だ。そんな口裂け女のルーツは数多くある。岐阜の一揆の死人の怨霊だとか、明治中期頃の滋賀県信楽や岐阜などにある伝承の恋する女が恋人に会うための峠越えの時襲われないための衣装が元ネタだとか、発端が岐阜であるため岐阜に関連する説が多い。まぁ美容医療での医療過誤や飛騨川バス転落事故の怨霊なんて言われたりもするが…まぁここは重要ではない。重要なのは『口裂け女の行動』だ」
「行動?」
「口裂け女は子供に『私、綺麗?』と声をかける所から始まる。もし、『お菓子食べる?』なんて言い出したら、噂話から逸脱してしまう…それは最早口裂け女ではない」
「た、確かに…飴を渡してくる口裂け女は解釈違いかも…」
「そういう風に噂話から逸脱していくと…最悪消滅、せずとも弱体化する。それを避けるため、奴らは噂通り行動する」
「それとこの話に…あ」
思い出した。そうだ。奴は…
「そう。噂通り行動するなら…貴女は最後まで追い回されて死ぬ」
「さ、最悪だ…」
「だが、助かる手段はある」
「え?」
「噂に従うのなら、噂で殺せば良い。例えば口裂け女で有名なのは『ポマード』と3回、或いは6回唱えるというものと、ベッコウ飴を投げると言うものでしょうか。前者を行うと怯み、後者はベッコウ飴を追いかけるという行動をします。まぁ、ボンタンアメや豆腐、百円玉なんかも有効とは聞きますね」
「百円玉はなんで…?」
「スペースインベーダーが好きだということらしいです。時代ですね」
「へ、へぇ…」
「で、このように噂には弱点もあります。その弱点を突けば鴉の老人から助かるというわけです」
「…その方法って…?」
「わかりません」
「…なんとなくわかってました」
「なので別の怪異の弱点を利用して倒そうかと」
「別の?」
「はい。現代には怪異が増えすぎた事に加え、情報社会になったお陰で『怪異の統一』が発生するようになりました。話が似ていると同じ怪異にされてしまう…今回は似た怪異を探して統一し、鴉の老人を倒そうというわけです」
「じゃあ、その肝心の統一先は…?」
すると彼は珈琲を一気飲みし、財布を手に立ち上がった。
「これから最後のピース探しに行くんですよ。良ければ貴女もどうです?私といれば鴉の老人に襲われる可能性は減りますが」
「…一応聞きますが、どこへ?」
「貴女の父親…呉椙 拓郎さんの被害現場ですよ。まぁ、他の方の現場にも行きますが」