怪奇探偵 葦川 昭一 ―気になる怪奇現象、証明します。 作:山瀬 鳴
カクヨムにて先行公開しておりますのでそちらもどうぞ。
「
葦川さんは構えを取ると、突如腕を燃え上がらせた。
まるで中国武術のような、空手のような、古武術のような…
だがそれとはまるっきり違う。そう。例えるなら…
絶対にこんな拳法は無いだろうし、何処か洗練された感じが無い…まるで見様見真似で構えだけ取ってみたと言わんばかりの構えと動きだった。
「さぁ…やろうか!鴉の老人よぉ!」
そう言った葦川さんは飛び出し、全力の右ストレートを振る。
〝ガガガ〟
しかし、それを鴉の老人がさらっと避け…顎を蹴り飛ばされた。
〝ぎギャ!?〟
「ハッ!本命は足なんだよ!やはり鳥頭だったようだなぁ!?本当に鴉なのかぁ?頭足りてねぇぞ!」
「なんかキャラ崩壊してない!?」
「元から抑えてただけだよ!後!紅火焔肢というからにはァ!」
突如、葦川さん足が発火する。そして燃えながら吹っ飛ばされる鴉の老人。ゴギギュッと人体から鳴っていはいけなさそうな音が顎から盛大に鳴っていた。
「ただのゴロツキ拳法って侮ってねぇかアンタはよぉ!今から五分と立たずアンタを倒す!」
〝ぐひッ、ギギャが〟
たった今、理解した。これは普通の武術ではない。だが、攻撃そのものは一級品。ありとあらゆる状況に対応できるようにするために、相手が決まっていないが故に、敢えてめちゃくちゃな構えにしているのだ。
「顎割った筈なのに喋れてる辺り人間じゃないのは確定か…容赦はしなくていいな!
更に再度顔面を爆破する。余りの連撃に鴉の老人も怯む…かと思われた。
〝ヒヒッ?〟
その奥から現れたのは、ニタニタ笑いを浮かべた鴉の老人。そのまま手を振り上げて…
「!やべっ!」
「こ、コンクリが抉れてる…」
手の爪だけで壁のコンクリを突き刺してきた…!貫手…だっけ…高速の開いた手での突きを葦川さんは首の動きで避ける…というか顔面狙ってきてるのか…!
「コイツ、見境無くなってきたな…!噂どうこう考えていれる立場じゃないって考えていやがるのがハッキリわかる…!」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「危ないってだけだ…!心臓を貫け!
左手から高速で伸びる鎖が鴉の老人を貫く。そしてそれを引き寄せて…
「くたばりやがれ!
〝ぐギャ!?〟
顔面に一撃を入れ込んだ。そして吹っ飛んでいった鴉の老人を…
「再び引き寄せよ!次元鎖!」
再度鎖を引き寄せ、蹴りを腹に叩き込む。
芯を捉えたような鈍い音が響く。二度、三度、四度…何度も引き戻されては殴り、蹴り、吹き飛ばされる…が。
「チッ!鴉が邪魔すぎる!」
「コッチ来た!邪魔!」
鴉の突進攻撃が多い!葦川さんは回避を続けるが、私は瞬発力が足りない。だから私は鴉をその辺の折れた傘や鉄パイプで殴り返す。というか鴉跳ね返したときの衝撃が痛い!
「がッ…深く刺さるなぁ!これ!」
連撃を挟んで回避を続けていた葦川さんも、次第に傷が増えていく。だが、その分鴉の老人も殴られている筈で…
〝ぎhyaヒャ〟
「嘘でしょ…」
「ぜんっぜん効いてねぇ…鉄でも殴ってるような感じだ…芯は捉えている筈なのに…生き物じゃないのか?心臓をきちんと捉えれている感じもしねぇし…」
「生き物じゃない…?どうするんですか?」
「…手段がわかるまで殴り続けて動き止めねぇと、即死攻撃が来る可能性がある…クソ、アイツを吹っ飛ばせる打開策があれば…せめてもう少し有効的な攻撃がわかれば…」
「そんな魔法みたいな話…」
『もし、この様な不思議な物語に出会うことになったのなら、この呪文を唱えなさい』
「あった」
「なんだと?」
「少し、博打なんですが…いいですか?」
「当たり前だろう。博打しないで勝てるなら勝っている」
「じゃあ…」
―まず、手を開いて
―ゆっくり全身を意識して…掌に集める
「!?なんだ…この濃い
―掌に光輪を思い浮かべるんだ。この形に
―そしてこう唱えろ
「…【いでよ、生命の樹】」
「嘘だろ…アレは…
「【今その罪を辿りて、光を照らせ】」
「【
「【
「えっ?」
突如、目の前に閃光が迸る。視界が埋め尽くされることはないが、何が起きた…?
「茜さん!君の賭けは勝ちだ!今、次元鎖が心臓を掴んだ!」
目が見えるようになった瞬間飛び込んだのは、今にも倒れそうな鴉の老人と隙を見逃さないよう凝らしていた葦川さん。その手の先からは、鎖が鴉の老人の胸に向かって延びていた。
「へ、あ!はい!」
「今再び!心臓に印を刻み込め!五行呪術!火式!発破印!」
〝ギャグルアァ!!!!〟
印を結んだ瞬間、鴉の老人が破裂し、消えていなくなった。
「羽しか残っていない…?」
「どうやら幽霊だったようですね、貴女の聖属性魔術が効きましたし」
「聖属性?魔術?」
え、なにそれ?
「え、貴女があの閃光を放ったんでしょう?今魔力光の影響か髪色変わっていますよ」
「えっ?」
「いや、貴女茶髪に茶色の瞳してたのが金に光ってますよ?魔術師ならそういった変化理解しているはずでしょう?」
「…え?魔術師なんてそんな存在いるわけ…」
「…?まさか…初めての魔術!?第一階梯魔術とはいえ初めてで固有魔術を!?」
「え、いや、そんな…え?」
手鏡を見て気がついた。
私今。金髪金眼だ。
「ええええええええ!?!?ナニコレナニコレ!?」
「気づいてなかったんですか…それにしても…第一階梯魔術とはいえ、聖属性、固有魔術を初めてで…その呪文はどのように知ったんですか?」
「お父さんから…」
「なるほど…ということになると…
「魔女?」
「貴女、海外の血筋持っています?」
「えっと…確かお父さんのお婆ちゃんが外国人だった筈…」
「やはり…だから固有魔術を…だとしたら先祖還りということに…」
「あの…さっきから言ってる魔術ってなんですか?」
「そこからですか…」
―世界には、物理法則に使われる力とは違う、特殊なエネルギーが存在しています。それが魔力。そして古来より、魔力を利用して様々な現象を起こす術が存在していました。それが魔術や呪術です。
「貴女はその中でも特殊…退魔や光の力に変換する聖属性の魔術に適正があるようですね。恐らく、祖先に教会にいた魔女が居たのでしょう」
「祖先に…」
「あの鴉の老人の正体はどうやら動物霊…鴉の幽霊の集合体でした。幽霊に聖属性魔術はよく効きます」
「なる…ほど」
話は読み込めきれていないが、粗方理解は出来た。
私は知らなかっただけだ。この世界には、怪異も魔法もあるということを。
「だが…それを教えたのは父親なんですよね?」
「はい。不思議な出来事に出会った時に使え、と…」
「…可怪しいですね」
「え?」
「貴方の父親は何故効力を知っていたのに殺されたんでしょう?魔術の才があると見抜いていた筈だ。誰でも使えるわけではない…なら…」
「貴方の父親は鴉の老人では無い何かに殺されたのかもしれません」
「…それは憶測ですか?」
「いえ、正直確信しています。魔術の才が有ろうと、呪文を唱えるだけでは魔術は使えない。なら魔術の使い方を理解していて、更に才を見出し、固有魔術を教えた…これを行えるのは熟練の魔術師でしょう…」
「………お父さんが、魔術師…」
「………謎は増えましたね」
「じゃあ…あの死体は…」
…お父さんはなんで死んだんだ?何かあったのか?わからない。わからない。わからない…
「………茜さん」
「………はい?」
「貴女の考えはある程度分かります。父親の死因を探ろうと考えていますよね?」
「………はい」
「ならば取引です」
「貴女、助手になりませんか?」
「え?」
「貴女の魔法は私のこれからの仕事に役立つでしょう。貴女は父親の謎を追え、私は戦力が手に入る…後、給料も出しますよ。お金、困っているんでしょう?」
「そ、それは…」
「まぁ、直ぐにとはいいませんよ。突拍子も無いことなのはわかってます。ですが…」
―貴女はヴェールを捲ってしまった。それだけは忘れないように。
そう言って、葦川さんは立ち去った。その気になったら電話をくれ、と言い残して。
6人の被害者を出した鴉の老人の一連の事件は、もう一人の被害者と、行方不明者の存在。そして、世界の秘密を残して、後味を悪くして終わった。