怪奇探偵 葦川 昭一 ―気になる怪奇現象、証明します。   作:山瀬 鳴

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学園の七不思議 その1

―子供というものは、意外と刺激を求める生き物である。

―古今東西、子供達が集まる場所には、暗く、怖い噂が広まるものだ。

―その最たる例が、学校の七不思議だろう。

―子供達が集まる学校という場に渦巻く悪霊共の噂話。

 

―それを糧にしない愚か者がこの世に存在する筈もない。

 

 

◆◆◆

 

「さて、そろそろ決めないといけないな」

「決めないとって…何を」

「術師名…魔術師としての偽名だ」

「あぁ…そう言えばそんな話ありましたね…」

「で、だ。考えてきたか?」

「逆に聞くけど覚えていられたと思う?」

「まぁ、それはそうだな。あ、砂糖が足りない」

「今五本入れてたよね!?だから糖尿病で死ぬって言ってるでしょ葦川君!?」

喫茶店『暮琥珀《くれこはく》』。春休みに来ていた喫茶店で、今もここで探偵としての活動をしている。と言っても、鴉の老人の一件以降依頼は来ていないのだが。

マスターと店員には私達の会話は聞こえていない。正確にいうと認識できないらしい。これも魔導具(アーティファクト)のおかげらしい。因みにその見た目は私にも分からなかった。葦川さん…改め、葦川君の魔視の魔眼でしか見れない代物らしい。魔力の影響で強制的な死角、又は盲点を生み出しているという。葦川君は魔力そのものを見ることが出来るため、その能力を貫通して見れるとか。因みに見た目はテレビのリモコンらしい。魔術師の気まぐれで作られたのだろうと彼は言っていた。

「というか、今は葦川(あしかわ)でいいの?葦川(よしかわ)でいいの?」

「今は学生服だしな…葦川(よしかわ)でいい」

「つまりあの…仕事着?の時は葦川(あしかわ)と呼べば良いのか」

「または依頼人の前の時だな」

「なるほど…」

それにしても偽名…偽名か…

「そもそもどんな偽名が多いんですか?」

「そうだな…術師名はそもそも西洋の文化だから横文字が多い。俺は英語はそんな詳しくないからな。海外の小説を読むような君ならいい感じの名前の一つや二つ思いつくだろう?」

「えぇ…えぇ…?」

そんな急に言われても、と言いたいところだが、私も自分で考えておくべきだと思い何回か家で推敲してはいた。でも思いつかない。何故かと言えば恥ずかしいから。私がコレを名乗ると考えた瞬間顔が熱くなりそうになるから。

(厨二病患者はよく堂々と出来るな…)

「って、今はそんな事どうでもよくて…偽名…偽名でしょ…?ん〜…」

「…そう言えば、君。魔女の血縁だろう?親族の名前とか使えばいいのではないか?」

「そう…らしいけど…魔女ってなんなの?」

「魔女…まぁ中世ヨーロッパにいた女性魔術師の総称だ。中世ヨーロッパでは魔術師は基本女性が多かった。遺伝的要素が多かったというのが定説だが、ここは議論が行われているところだな。で、中世から近世辺り…ルネサンス期から産業革命時代辺りまでくらいが魔術革命期と言われていてな、現在の魔術基盤が確立された時代でもあって、その時代の魔術師の血を引く人物は濃い魔力や凄まじい才能、又は記録に残らない一子相伝レベルの希少な魔術が受け継がれていることが多いんだ」

「なるほど…」

「君の場合聖属性…退魔の能力に長けた魔術を使用出来るから恐らくは教会関係者だろう。聖属性魔術を使える魔女は教会と密接に関わっていたことが多いという研究が出ている」

「ほえー…」

「…茜君、自分の血筋に少しくらい興味を示したほうがいいと思うが?」

「いや…お爺ちゃんは私が生まれる前に死んでるし、お婆ちゃんは病気で早く死んじゃったんで、血筋も何も教えてくれる人がいないんで…」

「まぁ…血統とはそういうものか…」

…でも、何か掴めた気がする。

「…メアリー」

「ほう」

「メアリーでいかせてください」

「なるほど。理由は?」

「…なんとなく?頭に思い浮かんだから?」

「……まぁ…あり得るか…」

「?」

「なんでもないさ。それよりコレを」

そう言うと葦川君は指輪を差し出してきた。よく見ると何やら文字のようなものが刻まれている。

「これは?」

「探偵服…まぁ私のあの衣装を君に合うように調整したものだ。この前サイズやらなんやらを紙に書いてもらっただろう?その指輪を左回りに15度、右回りに24度回せば着替えられる。まぁ細かく気にする必要はない。カチッと音が鳴るからな」

「へぇ…え、着替えは自動で?」

「そうだ。早着替えの指輪だ。ちなみに逆の操作をすることでもとに戻る」

「え、洗濯は?」

「出来ない。というか必要性がない。自動浄化機能と自動修復機能がある」

「へ、へぇ…やっても?」

「あぁ、どうぞ」

言われた通り、カチッと音がするまで左、右と回した。 

「…?変わっ…てる!凄い!」

「だろう?サイズも丁度いい。あのババア、相場の2割増だが仕上がりはどこよりもいいからな」

身につけているのはカッターシャツに短めのフード付きトレンチコート、膝下丈のスカートにタイツ、そしてロングブーツ。黒を貴重とした葦川君の衣装とは対照的に白を貴重とした服装になっている。鎖もついているが宝石のような装飾などでオシャレになっている。

「うわぁ…!凄い!可愛い!」

「気に入っていただけたのなら何よりで…ではよろしく頼むよ?メアリー君?」

「わかりましたよ。探偵」

私達は拳を合わせた。

「あぁ、そういえば」

「?」

葦川君は鞄から一冊の本を取り出した。

「聖属性初級魔導書だ。あと基礎的な魔術も複数」

「え、なんなの…急に…」

「覚えてください。じゃないと死にます」

「ハァ!?」

「当たり前だろう。鴉の老人でも割と雑魚に近い系譜なのだから。まぁアレは地域伝承としては割と強い方だったが…後固有魔術は基本的に消費魔力が多いとよく聞く。いざという時に魔力枯渇して手も足も出ずに死ぬなんてしてもらいたくないのだよ」

「…覚えればいいんでしょ?覚えれば」

そう言って私はその本を掴み読み始めた。

「アレ?日本語?」

「わざわざ翻訳した。英語版やラテン語系言語版などならそのまま渡してもよかったのだが、生憎魔術言語版しか持ち合わせていなかったものでね」

「魔術言語…?」

「古代魔術師が開発した暗号文字だ。特定の魔術によって解読が可能で、流派によって少しづつ文字を変えて書いていたから呪文も複数存在する。秘匿としてかなりの有用性があったのだよ。まぁ汎用呪文が出てきてからは意味がなくなったがね」

「へぇ…」

「因みに魔術言語は魔法を使う為の詠唱用言語としても適していて、詠唱が魔術言語だというのも不思議ではない。というか日本語詠唱であれほどの破魔の光が出せる君が異常だ。日本語は魔術と相性が良くないとよく聞くが…」

「そ、そうなんだ…とりあえずこれ持って帰りますね」

「あぁ。あ、まった。着替えて帰れよ。ここから離れたらバレるから」

「あ、はい。そうだ今衣装チェンジしてたんだった」

 

◆◆◆

 

「えぇっと?葦川君のメモには…魔術には階梯という概念がある…?」

家に帰った私はリビングで貰った魔導書を開いた。

 

『魔術には階梯という概念がある。これは魔術の威力を指し示す指標であり、高いほど高威力の技である。現在確認されている最大階梯は第十階梯であり、それ以上は()()()()と呼ばれ神に匹敵する威力と難易度を有する魔術である。階梯の判別は発動時に現れる光輪の数で把握される。高階梯魔術を行使するには元から高い階梯の魔術を使用するほかに重複詠唱(クレッシュスペル)という同じ呪文を重ねて唱える技術も存在する。』

 

「…長いけど、だいたいわかった気がする…とりあえず初歩の魔術からだよね…この退魔の刃(ライトショット)かな?とりあえず空き缶を的にして…えぇっと、詠唱呪文は…」

 

「【ザルグ・ヴォルテ・イグニクス】」

退魔の刃(ライトショット)!」

 

―カァン!カラコロカン…

 

目の前には光の刃に貫かれた空き缶が転がっていた。

「…危なっ!?いやそう言うものなんだろうけどやっぱコレ危ないよ!え、第一階梯でコレなの!?」

コロコロと転がる空き缶を見て、今日は第二階梯魔法を試そうとしなかった私を褒めた。

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