個性『FPS』のTS元少年兵は、ヒーローの夢をみるか? 作:めめめめめめめめめめめめめ
硝煙の香りが鼻をかすめる。
肉が焦げるような煤を帯びた煙が瓦礫の中から漂ってくるが銃を持つ手の圧力を緩めることはない。
額から流れ出る血液とその痛みに奥歯を噛み締めながらスコープの中を覗く。
ガラス越しにいつも戦っている服装ではない人間が写っていて、それらが縦横無尽に戦場を荒らし回っていた。
とっくの前に味方とは連絡も取れなくなっていて、私は孤立していた。
爆撃で傷ついた体と視界の端に映し出されるギリギリのHPバーは、私が次の一撃で死ぬということを示しだしている。
走って走って、敵の攻撃を避けながら、瓦礫を障害物に身を屈めて銃を構えた。
ここで死ぬわけには行かない。
父様が言っていた、正義はこちらにあると。
だから戦うのだ。
私に気づいたのか此方に迫る
一撃で殺す。
白い布をたなびかせる、黒い物体の頭部に、よく
同時に右足の感覚がなくなった。
「…………っ、」
バランスをなくし、浮遊する体に、構えてたはずのクレイバーはなくなっていた。
宙を掻く右手と喉を通る薄い空気が、終わりを示していて。
地面に落ちるその瞬間に、確かに目を見開いたそれを見た。
「……子供……!?」
赤く輝く瞳と逆立つ黒い髪の毛に、知らない記憶が流れ出す。
あぁこの人はたしか『イレイザーヘッド』
ここは、『僕のヒーローアカデミア』だと。
黒く染まる意識のさなか、俺は転生したということを思い出した。
状況は最悪と言えよう。
そう俺は転生したのだ。僕のヒーローアカデミアに。
しかし、俺は某国のテロリスト組織の一員で、少年兵であったというおまけ付きだが。
父様は言っていた。
真のヒーローはいない。
ヒーロー共は腐っていると、それにかまけている市民も腐っていると。
だから粛清するしかないと。
幼少期の記憶は朧げで、まぁ今も幼いのはそうなのだが、なんにせよ覚えているところがあんまりない。
記憶があるのは俺の親は死んでいること。洗脳まがいのことを受けた俺は少年兵であったということだけだ。
そして今、暗い部屋にただ俺一人。腕と足には拘束具がつけられて椅子に座らされていた。
とは言っても右足はとっくの前になくしていたから、宙ぶらりんなんだがな。はは。
どうしてこうなったんだろう。
前の俺の記憶なんて、仕事をひたすらこなして疲れた体で電車に乗ったことしか覚えていない。
そこからウトウトと船を漕いで、あぁあの時に事故にあって死んだのか?
死んだときの記憶などないからおそらくそうなのだがもう終わった話だ。
とりあえず今をどうするか、それを考えたほうがいいのだろう。
多分捕まったのだろう。
いやぁそれじゃあどうしようもねぇ。
せめて思い出すのがもっと前だったらなんかしようがあったのかもしれないが、もう終わってしまったことなのだ。
幾多の人間を殺した。
助けを乞う兵士たちを、きっと家族が待っているだろう男たちを、
この小さな手で殺したのだ。
それは記憶にしっかりこびりついていて、紛うことなき事実だと脳みそが語っていた。
ガチャと鍵が開く音がして、暗闇の中に光が刺す。
何かと前を見ると倒れる前に見たその人と、あとは前の記憶で知っている人たちだった。
イレイザーヘッドにオールマイト、そしてミッドナイト。紛うことなきヒロアカのメイン人物たち。
俺、死ぬんかな……なんとも短い人生でした。
テロリスト組織「
カザフスタンの一部占領し、これまでも幾多の戦いをしかけた国際テロ組織。自己犠牲のないヒーローは悪であり、金を求めるのはヒーローに非ずという過激思想を元にリーダーである
凡そ10数年に渡る戦い。
犠牲になった市民や兵士たちは正確な人数はわからないが数万人以上は犠牲になっている。
そしてその戦いを終わらせるために、俺を含め世界各国から集められたヒーロー約50名達により合同作戦が行われた。
結果としてヒーローの死者7名、兵士173名の尊き犠牲により首謀者らを拘束。
失ったものは多いが、歴史的な快挙を成し遂げた。
そして、俺達日本より送られたヒーロー3名はとある兵士の処遇について頭を悩ませている。
「いやぁ……マジか……これはどうしようかね?」
そう言って頭を捻らせているのは細身の男性、オールマイトだ。
目下の悩みであるその少年兵は、通称悪魔の子と呼ばれていた伝説的とも言えるほど圧倒的な戦果をあげた、いわば最強の兵士だ。
そして俺はその悪魔の子を抑えるために呼ばれた。ミッドナイトもだ。
しかし、その悪魔の子がまさか少年兵で、しかも被害者とも言える立場であることは予想外であった。
軍による首謀者に対する尋問で得られた資料に目を落とす。
名前不明、通称666番
推定12歳。
拉致監禁された日本人女性「
父親はおそらくは某動画サイトで公開処刑された「
産婆もいない状況で奇跡的に生まれた子供であり、幼少期より洗脳されていたことが確認された。
日本語及び中国語、ロシア語を扱うが、教育はされてない模様。
なお母親の銃鉄花火は拠点に白骨化した遺体として発見済み、乳児の骨も発見されたため666番を産んだ後に強姦された疑いあり。
強姦後殺害されたことが他の数名の聴取より確認された。
個性は首謀者も把握していないが、銃が扱え、また睡魔に対して強い耐性があることが確認された。
その後テロ行為へ参加、推定当時6歳。
確認されただけでも1000人以上の兵士を射殺しており、悪魔の子として市民より恐れられている。
当国(カザフスタン及び中華人民共和国、ロシア連邦共和国)は666番の保護を市民の反発を元に拒否、日本国籍を所持しているため日本国での保護を求める。
「なんて……酷い」
ミッドナイトが顔をしかめている。
人の所業とは思えない、残酷な事実だ。
「どうするもないでしょ、公安に掛け合うがおそらく日本で保護するしかない」
「いやぁそうなんだけどさ、日本国民も反発はあると思うよ」
「そうだが現実的なのはその道しかない」
深いため息が静かな部屋の中で響く。
本人の罪は重いが、それを幼い命に求めるのは酷である。
まったく、なんとも合理的ではない。
兵士に連れられ、重い鉄の扉の前に足を運んだ。
3重に重ねられた厳重な警備が中に凶悪な犯人がいることを告げている。
中に入るのは俺ら3人だけ、兵士が後ろで鍵を締めたのを確認して彼の方を向いた。
拘束具に縛られ椅子に座らされている彼、いや少女が、重い頭を少し上げて伸びた髪の毛の隙間からこちらを見ている。
「…………だれ……?」
静寂の中にそのまま消えてしまいそうな細い声で此方に問いかけた。
右足もなく、黒く煤汚れた体と薄く滲む血液が凝固したような鉄の匂いが鼻を掠める。
此方に反抗する気はないのであろう。
拘束する前に確かにあった義足は今はなく、個性を使っていないことが確かに伺えた。
なるほどな……。
肺から息を吐きだして、問いかける。
「名前は」
少し迷うような素振りをして、口を動かす。
「……ない」
悲鳴のような、薄く響く声が静かな部屋に散漫する。
「通称でもいい」
「……ろく……、ろく、ろくば……ん」
「歳は」
「じゅう……わかん、ない」
大体は資料のとおりであろう。
ただ予想を遥かに超えるほど機械的であり、言語に不自由があるようだ。
「最初に人を撃ったのは何歳だ」
僅かに指を動かして、数を数え少し考えたように首を傾げる。
「ろく、さい……? おとう、さま……おんなの……ひと、くろ……かみのひと……うてって……」
息を飲む音が後ろから聞こえる。
「それは誰かわかるか」
「……ひ……ひばなって……、よば、れてたひと」
最悪だ。
考える限り最悪に近いだろう。
まさか親殺しを強制されたとは考えもしなかった。
隣にいるオールマイト、今はマッスルフォームだ、から、強く歯を噛み締める音が聞こえる。
ミッドナイトが鼻をすする音が聞こえる。
あまりも酷く惨いその事実に俺は掌を強く握りしめ、その痛みでどうにか正気を保った。
「……撃つ前に何を考える」
「……? あたるか、はずれ……るか」
「当たったら?」
「つぎの……めいれい……きく」
当たり前かのように告げる彼女。
淡々と、感情を込めないように俺は次のことを聞く。
「……俺がここで今、命令したらどうする」
沈黙。
彼女は少し身体を揺らしならゆっくり口を開いた。
「とう、さま……じゃないから……わから、ない」
彼女の腕を拘束している手錠がカチャリと音を鳴らす。
目を覗けば俺達じゃなくて、後ろの扉を彼女は見ていた。
しばらくの無言の後、扉が空いて一片の紙を兵士から渡された。
それに一通り目を通して、深くため息をつく。
まったく合理的ではない、度し難いが政府からの命令ならヒーローであるからには従うしかない。
「今、俺達はお前を殺さない」
少女の肩がぴくりと動く。
「これは決定事項だ。666番、お前は幾多の罪を犯した。だが同時に選べなかった」
ひゅっと息を飲む音が聞こえる。
「日本国の公安と政府の連合会議によって決定した。本日より666番は日本国民として保護及び更生とする」
「…………え」
「保護はイレイザーヘッド、相澤硝太が請け負う」
ミッドナイトが息を呑み、オールマイトが何か言いかける気配がしたが俺だってどうかと思うよ。
しかし仕方ないのだ。
彼女の個性を抑えるのにはこの『抹消』の個性があまりにも都合がいい。
紙をオールマイトに渡せば食い入るように目を走らせていた。
側に控えていた兵士に目線で指示を出し拘束具の鍵を解かせる。
赤く濁った瞳が此方を凝視しているのを感じた。
「立て」
「……たて、ません」
右足のない、宙に浮いた身体。
個性を出すなと命じられていたからだろう。
短く息を吐く。
「ああ……すまない」
彼女をここから連れ出すためにそっと抱える。
横に抱きかかえた体はおよそ110cmにも満たない。そして想像していたより軽すぎて、俺は思わず眉を顰めた。
「あー、聞いてなかった。お前の個性は何だ」
腕の中に収まるその中で、先程よりしっかり見える赤い目が少し迷ったように泳いで此方を見た。
「えふ、ぴー、えす……です」
ゲーム由来か、しかしあまりにも具体的だな。
二人と目線を合わせ合図をし廊下に出る。
あの紙に書いてあったのは日本国民として扱い、俺が保護者として保護をすること。
そして、日本国政府専用機が用意されているため直ちに連れ帰ること。
資料にも書いてあったが此方の国の反発が強いのであろう。
しかし、そこまで恐れられているのがこんなにも小さな命だとは。
悪魔の子か。
厄介そうなのを抱えることにはなったが、ヒーローとしては見過ごす選択肢はなかった。
何より命令だからな。
腕の中の呼吸だけが、やけに軽い。
……まったく、厄日だな。