薨星宮から駆け出した甚爾は、突如としてその足を止めた。
前方に立ち塞がる人影を視界に捉えた瞬間、思わず息を呑む。
――あり得ない。
そこに立っていたのは、先ほど自分の手で確実に殺したはずの男。
血にまみれながらも、五条悟は確かに生きていた。
「……よぉ、さっきぶり」
「……マジか」
甚爾の口から、信じがたいという感情がそのまま零れ落ちる。
先程、颯真は『お前は誰も殺せていない』と言った。
黒井については、最初から殺すつもりはなかった。
だが悟は違う。殺意をもって、確実に、滅多刺しにしたはずだった。
だからこそ、あの言葉はただの虚勢――そう判断していた。
「大マジ、元気ピンピンだよ!!」
悟はそう言って、自らの頭部を指し示す。
そこにあったはずの致命的な刺し傷は、跡形もなく消えていた。
「反転術式か!!」
甚爾は即座に結論へ辿り着く。
悟はその言葉に、誇らしげに大きく頷いた。
「正っ解っ!!
お前に喉ぶち抜かれたとき、反撃は諦めて反転術式に全神経を注いだ。
俺も今までできたことねぇよ。
周りに出来るやつはいたけど、何言ってるかサッパリだったからなぁ」
悟の脳裏に、かつて反転術式のコツを尋ねたときの光景がよぎる。
(ひゅーとやって、ひょいだよ。
できない? センスないね)
(普通に出来るだろ、呪力を裏返せ。
1回手本見せてやるから、六眼で見て覚えろよ。
………できねぇの!? センスねぇな)
当時は、その軽口じみた言い草に殺意すら覚えた。
だが今は違う。
悟は全身を満たす全能感に、酔いしれていた。
「……だが、死に際で掴んだ。
呪力の核心!!
お前の敗因は、俺を首チョンパしなかったことと、頭にあの呪具をぶっ刺さなかったことだ」
(ペラペラとコイツ…… ハイになってる?)
「……敗因? 勝負はこれからだろ」
甚爾は淡々と告げながら、格納呪霊から天逆鉾を引き抜く。
「あーー? そうか? そうだな、そうかもなぁ!!」
次の瞬間、甚爾は人間離れした速度で間合いを詰めた。
その勢いのまま、天逆鉾が横薙ぎに振るわれる。
だが悟は、紙一重でそれを躱した。
大きく跳躍すると、宙で体勢を整え、指先を甚爾へ向ける。
反転術式によって生まれた正の
それを、自らに刻まれた無下限の術式へと流し込む。
「術式反転『赫』」
指先が赤く輝いた刹那、指向性を持った無限の発散が解き放たれた。
甚爾は回避すら叶わず、衝撃に呑み込まれる。
木々と建造物を巻き込みながら、その身体は遥か彼方へと弾き飛ばされた。
「ハッ、化け物が」
地面に転がり、頭部から血を流しながら、甚爾は吐き捨てるように呟いた。
吹き飛ばされた甚爾は、肩と腕をゆっくり回し、自身の身体に異常がないかを確かめた。
(骨はイッてねぇな。
今の衝撃波が、無下限呪術術式反転「赫」か……
①“止める力”ニュートラルな無下限呪術
②“引き寄せる力”強化した無下限呪術「蒼」
そして、③“弾く力”術式反転「赫」……)
悟の能力を頭の中で分解しながら、甚爾は格納呪霊へと手を伸ばす。闇の奥から引きずり出されたのは、新たな呪具だった。
――特級呪具『万里ノ鎖』
鎖状の特級呪具であり、どちらかの末端が観測されない限り、どこまでも伸び続けるという異常な性質を持つ。
甚爾はその一端に天逆鉾を結びつけると、鎖鎌の要領で振り回し始めた。空を裂くたび、銀色の軌跡が鋭く走る。
甚爾はその一端に天逆鉾を結びつけると、鎖鎌の要領で振り回し始めた。空を裂くたび、銀色の軌跡が鋭く走る。
(……全て問題なし!!
①止める力は元より、②引き寄せる力はリーチを得た今、天逆鉾で掻き消すか俺の足で千切れる。
③弾く力はタイミングさえ外さなければ天逆鉾を盾にしのげる)
対抗策は揃った。悟を迎え撃つ準備は万全――のはずだった。
それでも、胸の奥に、拭いきれない違和感がまとわりつく。
「……いや、これでいい。
殺す!!」
悟と視線が交わった瞬間、その違和感を力ずくで押し殺す。
万里ノ鎖に結びつけられた天逆鉾が、再び銀の軌跡を空に描いた。
甚爾を中心に円を描くその軌跡は、悟の接近を拒む防壁と化す。
悟は、その鎖の結界を静かに見つめていた。
(ごめん、天内、傑……)
甚爾が薨星宮の方角から現れたという事実が、すべてを物語っている。
自分が倒れた後、甚爾は傑と天内を追ったのだ。
三人の安否は分からない。
ただ一つ確かなのは、傑が護衛についていたにもかかわらず、甚爾が無傷でここに立っているという現実だった。
(俺は今、お前らの為に戦っていない。
誰も憎んじゃいない。
今はただただ、この世界が心地いい)
「天上天下唯我独尊」
甚爾は鎖を地面へと叩きつけた。
高速で振るわれた鎖は大地を抉り、砕けた瓦礫が無数に宙を舞う。
それらはそのまま、悟へ向かう弾丸となった。
瓦礫の雨を目眩ましに、甚爾は天逆鉾を振るう。
悟は飛来する瓦礫をかわしながらも、一瞬たりとも甚爾から視線を外さない。
(代々伝わる相伝術式のメリットは、あらかじめ先代の築いた術式の取説があること。
デメリットは術式の情報が漏れやすいこと。
アンタ御三家…… 禪院家の人間だろ。
『蒼』も『赫』も
無下限呪術のことはよく知ってるわけだ。
だが、コレは五条家の中でもごく一部の人間しか知らない。
順転と反転、それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想の質量を押し出す)
「虚式『茈』」
悟の眼前で、蒼と赫――二つの呪力が混ざり合う。
相反する力が衝突し、紫色に輝く奔流となって収束した瞬間、それは解き放たれた。
圧倒的な破壊力と速度。
回避も、防御も許されない、明確な“死”。
それを前にして、甚爾の脳裏に、先程から感じていた違和感が鮮明に浮かび上がる。
――違和感。
(任務が失敗した今、いつもの俺なら「タダ働きなんてゴメンだ」と言ってトンズラこいてる。
だが、目の前には覚醒した無下限呪術の使い手。
おそらく現代最強となった術師。
否定したくなった、捩じ伏せてみたくなった。
その時点で負けていた)
不可避の一撃が、甚爾の腹部を抉り取る。
「
(自分も他人も尊ぶことはない、そういう生き方を選んだんだろうが)
そう思いながら、脳裏にはかつて愛した女性と、その子との間に生まれた子供の姿が浮かんでいた。
「最期に言い残すことはあるか?」
悟は油断なく甚爾の前に立ち、今際の言葉を求める。
「……ねぇよ」
そう答えかけた瞬間、ひとりの少年の顔が脳裏をよぎった。
「2、3年もしたら俺の
好きにしろ」
それだけを言い残し、甚爾の意識は彼岸へと旅立つ。
身体は力なく崩れ落ち、大地に伏した。
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夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない