呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第13話

 甚爾との死闘を終えた悟は、息つく間もなく薨星宮へと駆け込んだ。

 身体は血に濡れ、制服は裂けている。それでも足取りに迷いはなかった。

 

 薨星宮の奥。

 そこで悟が目にしたのは、涙をこぼしながら互いを抱きしめ合う天内理子と黒井美里の姿だった。

 その傍らには、無事な姿の傑と颯真が立っている。

 

「傑、無事だったか!?」

 

 駆け寄りながら叫ぶ悟に、傑は安堵と警戒が入り混じった視線を向ける。

 

「こっちは神凪先輩が手を貸してくれたから無事だよ。

 悟のほうが、よほど手酷くやられたようだね。

 

 ……反転術式か!?」

 

 血塗れの制服。そこに刻まれた激闘の痕跡とは裏腹に、悟の身体には傷一つない。

 その違和感に、傑は即座に答えへと辿り着いた。

 

「そっ。死にかけたお陰で目覚めてさ。アイツにもきっちり借りは返しといた」

 

 いつも通りの軽い笑みを浮かべながら言い、悟は颯真へと視線を移す。

 

「パイセンも、手を貸してくれるならもう少し早く助けてよ」

 

「やだよ、面倒くせぇ」

 

 半ば冗談めかした非難に、颯真は軽薄な笑みを崩さず肩をすくめる。

 

「この間も言ったように、俺は生け贄なんかに協力する気は微塵もねぇ。

 傑がこの小娘に最後に言った一言がなかったら、お前らを助ける気はなかったからな」

 

 偽悪的なその態度に、悟と傑は顔を見合わせ――思わず笑った。

 

「……さて、こっからだな」

 

 颯真はそう呟くと、軽薄な笑みを消した。その目が、静かに据わる。

 

「この小娘とメイドは連れていくぜ」

 

「俺たちも――」

 

「――駄目だ」

 

 悟と傑が言葉を続ける前に、颯真は静かに、しかし強く遮った。

 

「これは、俺の意思だ。お前達二人は関係ない」

 

 その言葉に、二人は即座に悟る。

 颯真が何を背負おうとしているのかを。

 

「……パイセン、あんたまさか」

 

「……そういうことですか、神凪先輩。でも私達だって――」

 

 説得しようとする二人に、颯真は不敵な笑みを浮かべ、掌を突き出した。

 揺るぎない、拒絶の意思表示。

 

「天元との同化は阻止する。これは俺の結論だ。……お前らに背負わせるつもりはない」

 

 傑は歯を食いしばった。

 

「私たちは守られる子供じゃない!」

 

「知ってるさ。……それでもだ」

 

 納得できない表情の二人を前に、颯真の身体を蒼い風が静かに包み込む。

 

「つうわけで、コイツらは連れて行く。納得出来ないなら、全力で止めてみろ」

 

 一拍の間。

 

「……止められるもんならな」

 

 その瞬間、天内と黒井の姿が掻き消えた。

 空気を操作し、光の屈折率を変える――光学迷彩。

 不可視となった二人を、颯真は風に乗せて外へと運び出す。

 

「パイセン、絶対泣かす!」

 

「私たちを舐めるな!」

 

 傑が解き放った呪霊の奔流が、薨星宮を埋め尽くす。

 圧倒的な物量が、颯真へと一斉に襲いかかった。

 

 しかし颯真は静かに術式を反転させる。

 

「術式反転――『蒼祓』」

 

 正の力へと変換された風は蒼く輝き、刃でも衝撃でもなく――癒しと浄化の力へと変貌する。

 呪霊にとっての特効。浄化の風に触れた呪霊は、悲鳴を上げる間もなく塵へと還った。

 

 その一瞬の隙を突き、悟が動く。

 覚醒した無下限から解き放たれる――虚式『茈』。

 

 これまでとは比べ物にならない威力の奥義を前に、颯真は愉快そうに笑った。

 

「いい(モノ)持ってるじゃねぇか」

 

(……流石にアレは防壁じゃ受けきれねぇな)

 

 即断と同時に呪力を練り上げる。

 

「拡張術式――『断界』」

 

 空気という存在を拡張し、空間そのものを断ち切る。

 虚式『茈』が存在した領域ごと、まるで空が削り取られるように消滅した。

 

「……成る程。空間を断つ技か」

 

 悟の六眼は、すでに技の仕組みと弱点を捉えていた。

 

「パイセン、その技さぁ、あとどんだけ撃てる?」

 

 消費の重さを見抜いた悟と、傑の連携が加速する。

 

「――チッ!」

 

 猛攻を捌きながら、颯真は久しく味わっていなかった感覚を覚えていた。

 ――追い詰められている。

 

「……確かにお前ら二人、最強だよ」

 

 それでも蒼い風で攻撃を受け流し続ける。

 

 風が空間を裂く。

 無下限が断たれる。

 呪霊が塵に還る。

 

 しかし――決定打は生まれない。

 

 悟の額を、汗が伝う。

 

「……やっぱパイセンは化け物だよ」

 

「強さもそうだけど、何よりも巧い……」

 

「そいつはどーも」

 

 軽口とは裏腹に、颯真の声色から余裕は消えていた。

 

 次の瞬間、颯真の身体が揺らぐ。風と、一体化する。

 

「――っ!?」

 

 二人が手を伸ばした時には、すでに空へ。颯真の姿は完全に消え去っていた。

 

「……悪いな。また時間ある時に遊んでやるよ」

 

 遠ざかる声を残し、風は静かに散っていく。

 

 悟と傑はその場に、ゆっくりと倒れ込んだ。

 

「止められなかったな……」

 

「あの人は、最初からこうするつもりだったんだろう。私達が総監部に睨まれないよう……全部、一人で引き受けるために」

 

 しばしの沈黙。誰も、言葉を続けなかった。

 

 やがて。

 悟が、にやりと笑う。

 

「……なぁ、傑。いつか絶対、パイセン泣かそうぜ」

 

「あぁ。あの顔面に一発いいの入れてやろう」

 

 尊敬と反発。その両方を胸に抱えながら、二人は悪戯っぽく笑い合った。

 

 蒼い風は、もうどこにもなかった。




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夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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