ーー東京都郊外。
夜の帳を切り裂くように、低く唸るエンジン音が路地へと流れ込んだ。
次の瞬間、黒い大型バイクが滑り込む。
艶を抑えた車体は闇そのものを形にしたかのようで、重厚な金属の塊が静止しただけで、周囲の空気がわずかに沈み込んだ。
バイクを駆っていた女性は、片足で地面を踏みしめ、慣れた仕草で車体を支える。
アイドリングの振動が止み、一拍の静寂が訪れる。
その僅かな間でさえ、彼女の存在は場を支配していた。
顎紐に指をかけ、軽く引く。
ヘルメットが外された瞬間、束ねられていた金色の髪が解き放たれ、夜風を受けてさらりと広がる。
街灯の光を受けてきらめくその髪は、まるで呪力の余波のように揺れ、見る者の視線を否応なく奪った。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、金髪の女性――
特級術師・九十九由基は、ヘルメットを腰に抱えたままバイクから降り立つ。
その動作は雑で、どこか気怠げだ。
それでも、地面に足が着いた瞬間、確かな重みが伝わってきた。
――重い。
目に見えないはずの“質量”が、彼女の周囲に確かに存在している。
涼しげな瞳が前方を捉える。
興味深そうでありながら、深入りする気はない――そんな意思を宿した視線。
口元には、皮肉とも退屈とも取れる微笑が浮かんでいた。
九十九は、自身を呼び出した神凪颯真の姿を、面白そうに眺める。
「君が噂の神凪颯真君? どんな女が
「あ?」
唐突で意味不明な質問に、颯真は怪訝そうに眉をひそめる。
「答えてくれないのかな?」
「答える必要あるか?」
質問で返された言葉に、九十九は肩を竦めた。
「急な呼び出しに応じてあげたんだから、それくらい答えてくれてもいいんじゃないかなー」
不満げに漏らす九十九に、颯真は小さくため息をつく。
「……特級術師ってのは変わり者しかいないのかよ?」
「君も同類じゃないか。
今回の一件で、君も特級の仲間入りするのは間違いない。
なんたって、あの五条悟と呪霊操術の夏油傑を同時に相手取って、逃げ遂せたのだから」
九十九は心底楽しそうに笑った。
「無駄に干渉しない女。自分の力と判断に責任を持てるなら言うことはない」
本音を語りながらも、深くは踏み込まない颯真。
その態度に、九十九は唇を尖らせる。
「つまんないなー」
颯真は仕方ないとばかりに、少しだけ言葉を付け足した。
「……強い女は嫌いじゃない。
ただ、感情で人を振り回す
その言葉を聞いた瞬間、九十九は満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、私みたいなのは?」
茶目っ気たっぷりの笑顔で問いかけられ、颯真は心底嫌そうな顔をした。
「面倒くさそうだから、却下」
「うっわぁ、辛辣ぅー」
たはぁ、と大げさに息を吐きながら笑う九十九に、颯真は付き合いきれないとばかりに頭を振る。
「……本題にはいるぞ。
コイツらの面倒、任せていいか?」
颯真は背後に控える天内と黒井を、親指で示した。
「この子が星漿体かい?」
九十九は二人へと視線を移す。
短い観察の後、安心させるように柔らかな笑みを向けた。
「安心していいよ。
……私も元星漿体でね、天元には思うところも多い。
君たちを匿うくらいはしてあげられる」
そう言ってから、九十九は颯真を横目で見る。
「前金も貰ってるしね」
「……お嬢様を助けて頂き、本当にありがとうございます」
「気にすんな。
生け贄ってのが嫌いなだけだ」
颯真は何でもないように、手のひらをひらひらと振った。
天内と黒井が、九十九の用意した車へと乗り込むのを見届けると、颯真は踵を返し、その場を去ろうとする。
「これからどうする気だい? 呪術総監部はカンカンのようだよ」
「別にどうも? あんな棺桶に片足突っ込んでるような老いぼれが怒ったってどーなるもんでもねぇだろ。
本来なら、あいつらに直接来いって言いたいところだが、まぁ、俺も言いたいことあるから会いに行ってやろうかね?」
肩を竦め、不敵に笑う颯真。
だが、その瞳は微塵も笑っていなかった。
「成る程、君を敵に回すのは私でも遠慮したいね」
底知れぬ呪力の一端と、敵と見定めた相手には容赦のない冷酷さ。
それを垣間見て、九十九は苦笑いを浮かべていた。
いつの間にか、日間ランキング(12月20日)が36位になっていました。
皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
今後とも、仕事の合間でのマイペース更新となりますが、良ければ閲覧お願い致します。
感想や評価を頂けると泣いて喜びます。
夏油傑は救済されるべき
-
このまま救済されるべき
-
羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
-
虎杖ママメロンパンが見たい!
-
サマーオイル教師は見たくない