本当に助かったでおります。
――東京都呪術総監部。
蝋燭の炎が、かすかに揺れていた。
薄闇の室内に落ちる影は歪み、まるで意思を持つかのように蠢いている。
虚空に円環を描くように浮かぶ障子。
その向こう側には、呪術総監部の長老たちが静かに居並んでいた。
円の中心に立つのは、夜蛾正道。
背筋を伸ばし、沈黙を受け入れるその姿は、すでに裁定を待つ者のそれだった。
「貴様の高専での指導が甘かったのではないか」
低く、湿った声が響く。
「そもそも、貴様があの小僧を拾ってこなければ――
天元様の同化を妨げるなどという不敬は、起こらなかった!」
「監督責任は免れぬぞ。
……弁明はあるか?」
糾弾は、順番を待つ必要すらない。
夜蛾は短く息を吐き、淡々と答えた。
「……ありません」
その一言で、空気が冷え切った。
「では、裁定を――」
言葉が紡がれきる、その寸前。
総監部の重厚な扉が、爆音とともに吹き飛んだ。
外光が奔流のように流れ込み、闇を真っ二つに引き裂く。
逆光の中、軽薄な笑みを浮かべた青年が歩み入ってくる。
神凪颯真。
夜蛾は、思わず目を見開いた。
「……来るな、颯真」
「無理だな」
肩をすくめ、青年は言う。
「俺の話をしてるんだろ?」
即座に、護衛の術師が二人、彼の前に躍り出た。
「呪術界への裏切り者が!」
「ここは総監部だ。許可なき侵入は――」
言葉が終わるより早く、颯真は呟いた。
「……遅ぇ」
次の瞬間、空気が歪む。
轟音。圧力。
一人が宙を舞い、床に叩きつけられた。
もう一人は、何が起きたのか理解する前に、恐怖だけを全身に刻み込まれていた。
颯真は淡々と指先を向ける。
『大気の拳』
圧縮された空気の奔流が放たれ、護衛は抗う間もなく沈黙する。
室内に、深い静寂が落ちた。
長老たちは、ようやく理解した。
目の前にいるのは「人」ではない。
理屈も、秩序も、恐怖すら通じない――災厄だ。
「……何の用だ、神凪颯真。
天元様の同化を阻止した大罪人が」
「確認したいだけだ」
颯真は鼻で笑う。
「誰を裁くつもりなんだ?」
張り詰めた空気が、悲鳴を上げる。
「同化を止めたのは俺だ。
正道も、悟も、傑も、止められなかっただけだろ」
視線を夜蛾に向け、言い放つ。
「なんで俺を無視して、コイツを裁こうとしてんだよ」
「貴様の行為は反逆だ」
「秩序ってやつか?」
声は、氷のように冷たい。
「生け贄で成り立つ秩序を、誇らしげに語るな」
「必要な犠牲だ。世界は回らねばならぬ」
「なら――」
颯真の周囲で、風が吼えた。
「回らなくなる覚悟もしておけ」
室内が軋み、圧倒的な気配が渦を巻く。
誰一人、動けなかった。
「安心しろ。今日は壊しに来たわけじゃない」
一歩、踏み出す。
「正道への処分は認めない。
俺は誰の指示も受けていない」
怒号が飛ぶ。
「傲慢だ!」
「処刑すべきだ!」
颯真は、心底うんざりしたように息を吐いた。
その掌の上に、災厄の気配が凝縮されていく。
――触れてはならないものに、触れた。
長老たちが理解したのは、その瞬間だった。
「颯真……やめろ」
夜蛾の声が、静かに響く。
「……消した方が早い気もするけど」
「頼む」
その一言で、颯真は肩をすくめ、掌の力を霧散させた。
「感謝しろよ。正道に」
沈黙の末、総監部の長が口を開く。
「……夜蛾正道の処分は保留とする。
神凪颯真、お前は独立行動の特級として認める」
「財産没収の上、総監部の要請に限り自由裁量を許可する」
――利用する気だな。
颯真は即座に悟った。
「覚えとけ」
冷たい視線を投げる。
「俺は味方でも、部下でもない」
「また生け贄なんて真似をしたら――
俺は、いつでも反逆する」
次の瞬間、颯真の姿は風とともに消えていた。
残されたのは、沈黙と、
取り返しのつかない理解だけだった。
---
――東京都立呪術高等専門学校。
夕暮れの屋上。
沈みきらない陽光が、校舎の影を長く引き延ばしている。
フェンスにもたれて、三人が空を眺めていた。
五条悟、夏油傑、家入硝子。
「へぇ……」
夏油が気のない声で呟く。
半ば脅して引き出した報告書を、指先で弄びながら。
「夜蛾先生、総監部に呼び出し」
「処分検討」
「そこに――」
一拍。
「“神凪先輩、乱入”」
悟が吹き出すように笑った。
「はは。やっぱ来たか」
心から楽しそうな声だった。
「……あーあ」
硝子が煙草を咥えたまま、空を仰ぐ。
「止める気、最初からなかったでしょ」
「ないない」
即答。
「だってさ」
悟はフェンスから背を離し、伸びをする。
「俺が同じ立場だったら、もっと派手にやってる」
「夜蛾先生を盾にするくらいなら、自分が全部引き受ける」
そのやり方を、悟は知っている。
――知っているからこそ、笑った。
「神凪先輩って、そういう人だよね」
夏油は報告書を折り畳み、ポケットにしまう。
「理屈より先に、覚悟で動く」
「……優しいんだよね、変なとこ」
硝子が鼻で笑う。
「それを“優しい”って言うの、アンタらだけよ」
「褒めてるんだけどなぁ」
悟は肩をすくめた。
「でも――」
夏油の声が、わずかに低くなる。
「総監部は、これで理解したはずだ」
「理解?」
悟は夕空に向かって手を伸ばす。
何かを掴むような、象徴的な仕草。
「パイセンは、俺より厄介だって」
「……どういう意味」
悟はもう、笑っていない。
「俺は分かりやすいんだよ」
「敵も、立場も、やることも」
一拍。
「でも、先輩は違う」
「正しいかどうかじゃない」
「“やらない”って決めたら――
その瞬間から、一切譲らない」
夏油は黙ったまま、空を見ていた。
その沈黙こそが、答えだった。
「総監部はね」
悟は淡々と言う。
「今日から、眠れなくなる」
風が吹き抜け、フェンスが小さく鳴った。
夕暮れは、静かに夜へと溶けていく。
娘のインフル感染と自身のぎっくり腰が重なり、四苦八苦しております。
皆様もどうか体調に気をつけて、ご自愛ください。
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない