呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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誤字報告いつもありがとうございます。
本当に助かったでおります。


第15話

――東京都呪術総監部。

 

蝋燭の炎が、かすかに揺れていた。

薄闇の室内に落ちる影は歪み、まるで意思を持つかのように蠢いている。

 

虚空に円環を描くように浮かぶ障子。

その向こう側には、呪術総監部の長老たちが静かに居並んでいた。

 

円の中心に立つのは、夜蛾正道。

背筋を伸ばし、沈黙を受け入れるその姿は、すでに裁定を待つ者のそれだった。

 

「貴様の高専での指導が甘かったのではないか」

 

低く、湿った声が響く。

 

「そもそも、貴様があの小僧を拾ってこなければ――

天元様の同化を妨げるなどという不敬は、起こらなかった!」

 

「監督責任は免れぬぞ。

……弁明はあるか?」

 

糾弾は、順番を待つ必要すらない。

夜蛾は短く息を吐き、淡々と答えた。

 

「……ありません」

 

その一言で、空気が冷え切った。

 

「では、裁定を――」

 

言葉が紡がれきる、その寸前。

 

総監部の重厚な扉が、爆音とともに吹き飛んだ。

外光が奔流のように流れ込み、闇を真っ二つに引き裂く。

 

逆光の中、軽薄な笑みを浮かべた青年が歩み入ってくる。

 

神凪颯真。

 

夜蛾は、思わず目を見開いた。

 

「……来るな、颯真」

 

「無理だな」

 

肩をすくめ、青年は言う。

 

「俺の話をしてるんだろ?」

 

即座に、護衛の術師が二人、彼の前に躍り出た。

 

「呪術界への裏切り者が!」

 

「ここは総監部だ。許可なき侵入は――」

 

言葉が終わるより早く、颯真は呟いた。

 

「……遅ぇ」

 

次の瞬間、空気が歪む。

轟音。圧力。

 

一人が宙を舞い、床に叩きつけられた。

もう一人は、何が起きたのか理解する前に、恐怖だけを全身に刻み込まれていた。

 

颯真は淡々と指先を向ける。

 

『大気の拳』

 

圧縮された空気の奔流が放たれ、護衛は抗う間もなく沈黙する。

 

室内に、深い静寂が落ちた。

 

長老たちは、ようやく理解した。

目の前にいるのは「人」ではない。

理屈も、秩序も、恐怖すら通じない――災厄だ。

 

「……何の用だ、神凪颯真。

天元様の同化を阻止した大罪人が」

 

「確認したいだけだ」

 

颯真は鼻で笑う。

 

「誰を裁くつもりなんだ?」

 

張り詰めた空気が、悲鳴を上げる。

 

「同化を止めたのは俺だ。

正道も、悟も、傑も、止められなかっただけだろ」

 

視線を夜蛾に向け、言い放つ。

 

「なんで俺を無視して、コイツを裁こうとしてんだよ」

 

「貴様の行為は反逆だ」

 

「秩序ってやつか?」

 

声は、氷のように冷たい。

 

「生け贄で成り立つ秩序を、誇らしげに語るな」

 

「必要な犠牲だ。世界は回らねばならぬ」

 

「なら――」

 

颯真の周囲で、風が吼えた。

 

「回らなくなる覚悟もしておけ」

 

室内が軋み、圧倒的な気配が渦を巻く。

誰一人、動けなかった。

 

「安心しろ。今日は壊しに来たわけじゃない」

 

一歩、踏み出す。

 

「正道への処分は認めない。

俺は誰の指示も受けていない」

 

怒号が飛ぶ。

 

「傲慢だ!」

 

「処刑すべきだ!」

 

颯真は、心底うんざりしたように息を吐いた。

その掌の上に、災厄の気配が凝縮されていく。

 

――触れてはならないものに、触れた。

 

長老たちが理解したのは、その瞬間だった。

 

「颯真……やめろ」

 

夜蛾の声が、静かに響く。

 

「……消した方が早い気もするけど」

 

「頼む」

 

その一言で、颯真は肩をすくめ、掌の力を霧散させた。

 

「感謝しろよ。正道に」

 

沈黙の末、総監部の長が口を開く。

 

「……夜蛾正道の処分は保留とする。

神凪颯真、お前は独立行動の特級として認める」

 

「財産没収の上、総監部の要請に限り自由裁量を許可する」

 

――利用する気だな。

 

颯真は即座に悟った。

 

「覚えとけ」

 

冷たい視線を投げる。

 

「俺は味方でも、部下でもない」

 

「また生け贄なんて真似をしたら――

俺は、いつでも反逆する」

 

次の瞬間、颯真の姿は風とともに消えていた。

 

残されたのは、沈黙と、

取り返しのつかない理解だけだった。

 

---

 

――東京都立呪術高等専門学校。

 

夕暮れの屋上。

沈みきらない陽光が、校舎の影を長く引き延ばしている。

 

フェンスにもたれて、三人が空を眺めていた。

五条悟、夏油傑、家入硝子。

 

「へぇ……」

 

夏油が気のない声で呟く。

半ば脅して引き出した報告書を、指先で弄びながら。

 

「夜蛾先生、総監部に呼び出し」

「処分検討」

「そこに――」

 

一拍。

 

「“神凪先輩、乱入”」

 

悟が吹き出すように笑った。

 

「はは。やっぱ来たか」

 

心から楽しそうな声だった。

 

「……あーあ」

 

硝子が煙草を咥えたまま、空を仰ぐ。

 

「止める気、最初からなかったでしょ」

 

「ないない」

 

即答。

 

「だってさ」

 

悟はフェンスから背を離し、伸びをする。

 

「俺が同じ立場だったら、もっと派手にやってる」

 

「夜蛾先生を盾にするくらいなら、自分が全部引き受ける」

 

そのやり方を、悟は知っている。

――知っているからこそ、笑った。

 

「神凪先輩って、そういう人だよね」

 

夏油は報告書を折り畳み、ポケットにしまう。

 

「理屈より先に、覚悟で動く」

 

「……優しいんだよね、変なとこ」

 

硝子が鼻で笑う。

 

「それを“優しい”って言うの、アンタらだけよ」

 

「褒めてるんだけどなぁ」

 

悟は肩をすくめた。

 

「でも――」

 

夏油の声が、わずかに低くなる。

 

「総監部は、これで理解したはずだ」

 

「理解?」

 

悟は夕空に向かって手を伸ばす。

何かを掴むような、象徴的な仕草。

 

「パイセンは、俺より厄介だって」

 

「……どういう意味」

 

悟はもう、笑っていない。

 

「俺は分かりやすいんだよ」

 

「敵も、立場も、やることも」

 

一拍。

 

「でも、先輩は違う」

 

「正しいかどうかじゃない」

 

「“やらない”って決めたら――

その瞬間から、一切譲らない」

 

夏油は黙ったまま、空を見ていた。

その沈黙こそが、答えだった。

 

「総監部はね」

 

悟は淡々と言う。

 

「今日から、眠れなくなる」

 

風が吹き抜け、フェンスが小さく鳴った。

夕暮れは、静かに夜へと溶けていく。




娘のインフル感染と自身のぎっくり腰が重なり、四苦八苦しております。
皆様もどうか体調に気をつけて、ご自愛ください。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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