ーー天内護衛任務失敗から1ヶ月後。
東京都立呪術高等専門学校
訓練場に立つ五条悟の周囲で、夏油傑と家入硝子が、それぞれシャーペンと消しゴムを放った。
静かに迫るシャーペンと消しゴム。悟に当たる直前、シャーペンは空中で止まり、まるで時がそこだけ凍ったかのようだった。しかし、消しゴムは止まることなく、額に鋭く直撃した。
「うん、いけるね」
悟は空中に静止したシャーペンと、自分に跳ね返った消しゴムを軽々とキャッチし、満足そうに微笑む。
「げ、何今の?」
「術式対象の自動選択か?」
硝子の目は驚愕に見開かれ、傑は言葉を失うほど、その精緻さと力に舌を巻いた。
「そ! 今までマニュアルでやってたのをオートマにした。
呪力の強弱だけじゃなく、質量、速度、形状からも物体の危険度を判断できる。
毒物や、パイセン対策に気体の種類まで選別出来るといいんだけど、流石にそこまではまだ難しいかな?
これなら最小限のリソースで無下限呪術をほぼ出しっぱなしにできる」
「出しっぱなしなんて脳が焼き切れるよ」
悟の言葉は軽い冗談のように響くが、硝子は心配そうに眉を寄せた。
「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。
いつでも、新鮮な脳をお届けだ。
前からやっていた掌印の省略は完璧!
『赫』と『蒼』それぞれの複数発動もボチボチ。
後の課題は領域と長距離の瞬間移動かな……」
同格だった筈の親友の覚醒に、傑の胸は焦燥感で締め付けられる。
まるで世界が一段ずつ上がっていき、彼だけが地面に残されたような孤独感が押し寄せた。
ーー同日夕方、東京都立呪術高等専門学校 屋上
人気のない屋上で、柵にもたれながら颯真は煙草をふかす。
煙が風に溶け、空気は静かに震えていた。
何をするでもなく、ただ風の流れを聴いている。その耳には、遠くの街のざわめきよりも、風が運ぶ微細な音が鮮明に届いていた。
「……なんのようだ傑」
気配を察したかのように、傑は屋上に立っていた。
颯真は目を向けず、静かに問いかける。
「悟は私より先に進み、貴方と同じ高みに登りました。
……私はこのままだと置いていかれる」
最強故の孤独。
たった一人の親友を、そんな孤独に沈ませたくない。
傑の胸を焦燥が締め付ける。
言葉は止まらず、風に押されるように屋上に流れた。
「……悟を1人にしたくない!! 私は悟と並んで立ちたいんです!!」
颯真はゆっくりと傑に向き直る。
その視線は冷たく、しかしどこか深く静かな情熱を孕んでいた。
「だから、貴方に教えてほしい。
悟と、いえ、悟より高みにいる貴方に!!」
風が一段と強くなり、傑の髪をさらった。
その音が、まるで世界が彼の決意を祝福するかのように響いた。
「……俺は、教えるのが上手くないんだがな」
「知ってます。
それでも、私は貴方から学びたい。
貴方は、悟と同じ景色を見れて、違う立ち位置にいる」
颯真は沈黙した。
沈黙の重みが、屋上に張りつめた空気を震わせる。
「…………楽じゃねぇぞ?」
颯真の警告に、傑は不敵に笑った。
その笑みは、挑戦と覚悟の入り混じった光を帯びていた。
「望むところです」
優しくも冷たい風が屋上を吹き抜け、二人を包み込んだ。
――夜、高専訓練場。
月光に洗われた訓練場は、音という音を削ぎ落としたかのように静まり返っていた。
風が渡るたび、植えられた木々の葉がかすかに擦れ合い、その音だけが響く。
その中心に、颯真と傑は立っていた。
言葉はない。
だが互いの視線だけで、呼吸の間合いまでを正確に重ねている。
「――行きます!!」
声と同時に、傑の呪力が弾けた。
烏賊を思わせる異形の呪霊が複数、闇から滲み出るように顕現し、牽制の意図を孕んだ呪力の光線が、一直線に颯真へと走る。
颯真は、紙一重でそれらを躱した。
否、“躱した”というより、すでにそこに当たらない未来を選んでいたかのようだった。
次の瞬間、彼は傑の懐にいる。
傑は反射的に拳を振るった。呪力を乗せた、渾身の一撃。
だがその拳は、颯真の手に導かれるように肘を押さえられ、軌道を失う。
――がら空きになった背中。
颯真の肘打ちが、呪力ごと傑の背へと叩き込まれた。
息が、消えた。
肺から空気が奪われ、世界が一瞬で遠のく。
傑は膝を折りかけ、必死に呼吸を求めた。
「……お前はまず、領域対策と反転術式を身につけろ」
淡々とした声だった。
颯真はそう呟き、胸元で両手を合わせる。
人差し指と中指を刃のように交差させ、薬指と小指を軽く握り込む。
――金剛界・風輪印。
「領域展開『風王葬陣』」
世界が、反転した。
颯真の生得領域が開かれ、あらゆる音が途絶える。
傑の視界に広がったのは、蒼白な虚無だった。
地と空の境界は溶け合い、上下の感覚すら曖昧になる。
そこには、何もない。
そして――逃げ場も、ない。
「……これが、領域展開……」
「呆けてる暇があるのか?」
颯真の声が、空間そのものから響く。
「もうお前は俺の掌の中だぞ」
言葉が終わるより早く、傑は異変を感じた。
――息が、できない。
肺が動こうとしない。
否、空気そのものが存在を拒絶している。
「この領域内の空気は、すべて俺の支配下だ」
颯真は静かに告げる。
「早く領域対策を完成させないと……」
一拍、置いて。
「……死ぬぞ?」
酸素を奪われ、身体が悲鳴を上げる。
死が、あまりにも明確な輪郭をもって、傑に迫っていた。
(――苦しい……このままじゃ……)
死の縁に立たされた彼の手が、虚空へと伸びる。
恐怖でも、躊躇でもない。
ただ――
「掴まなければならない」という、剥き出しの意志だけがあった。
その指先が触れたのは、形を持たない力の核。
呪力の根源。
本質としか呼びようのないもの。
(――これが……呪力の核心!?)
苦しさが霧散する。
代わりに、全身を満たす圧倒的な全能感。
傑は、自身を中心に円環を描くように呪力を展開した。
――簡易領域。
即席ながらも、確かな結界。
領域展開の必中必殺効果が、わずかに鈍る。
「おいおい……一回目で成功するか、普通」
颯真は呆れたように、しかしどこか楽しげに笑った。
「……なら、このまま反転術式まで覚えてけ」
その言葉と同時に、領域全域から刃が生まれる。
逃げ場のない、不可避の斬撃。
一瞬で、傑の簡易領域は削り切られた。
傑は即座に再展開を試みる。
だが――その、ほんの刹那。
無数の刃が、彼の身体を貫いた。
血が舞い、夜に散る。
それでも、傑の意識は――まだ、折れていなかった。
感想や評価ありがとうございます
更新頻度は少し落ちるかもしれませんが、今後とも頑張りますので、よければ閲覧お願い致します。
※ 追記
冒頭の護衛任務失敗から1ヶ月後を1年後と指摘下さる方。
いつも誤字報告ありがとうございます。
ですが、これに関しては、誤字ではなくわざとになります。
オリ主の影響で、悟、傑共により強さをストイックに求めており、原作より強さが増しているということが書きたくて、わざと期間を狭めております。
筆者の能力不足により、勘違いさせてしまい申し訳ありません。
今後とも精進して、このような解説なくても、伝わるようにしていきたいと思っていますが、中々難しく、それでも閲覧してくださる皆様に感謝を……
今後ともよろしくお願いします
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない