呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第17話

 

 このままでは押し切られる――傑はそう直感し、全身を走る痛みを無視して前に出ることを決めた。

 

 だが、動けば自らが展開した簡易領域の外へ出てしまう。それは致命的な欠点だった。

 

 その瞬間、傑の思考が一つの解へと辿り着く。

 

(……自分の身体そのものを、簡易領域で包めばいい)

 

 発想と同時に、実行。傑は自身の肉体を覆うように、薄い膜のような領域を展開した。

 

 その光景を目にし、颯真は思わず口角を吊り上げる。

 

「――領域展延」

 

 教えられてもいない技。簡易領域を会得した直後に応用へ辿り着き、なおかつ実行にまで至る。

 

(間違いない……お前は、悟と並び立つ天才だ)

 

 傑は全方位から襲いかかる風の刃を、身体を覆う領域で中和しながら、一気に間合いを詰める。

 狙うのは一撃必殺ではない。

 手数を重ね、相手を削り取る猛攻。

 

 颯真も即座に応戦し、拳と拳が激しくぶつかり合う。衝撃音が連続し、空気が震えた。

 

 激闘の最中、颯真の拳が傑の水月を正確に打ち抜く。

 

「――がはッ」

 

 血の混じった吐瀉物が喉まで込み上げる。

 傑はそれを必死に堪えながら、反射的に颯真を蹴り飛ばした。

 

 その瞬間――呪力と打撃が完全に重なり合う。

 

 空間が歪み、漆黒の稲妻が走った。

 

 ――黒閃。

 

 凄まじい衝撃が颯真を呑み込み、維持されていた領域は音を立てて砕け散った。

 

 黒閃を放ったその瞬間、傑はアスリートが言うところの"ゾーン"へと踏み込んでいた。

 潜在能力の枷が外れ、自身の力が限界を超えて解き放たれていく。先ほども確かに感じた、あの全能感。

 それが今、さらに濃度を増し、全身を満たしていくのを傑ははっきりと自覚していた。

 

(……今なら、できるッ)

 

 理屈ではない。傑はその感覚に身を委ね、直感のまま体内を巡る呪力を反転させた。

 次の瞬間、全身に刻まれていた裂傷が、時間を巻き戻すかのように塞がっていく。

 

「……やるじゃねぇか」

 

 その声には、驚きよりも愉悦が滲んでいた。

 

 傑の黒閃によって領域は砕け、術式は一時的に焼き切れている。

 本来ならば、敗北を待つしかない絶体絶命の状況。それでも颯真は、余裕の笑みを崩さなかった。

 むしろ、目の前で駆け足に成長していく傑の姿を、どこか誇らしげに見つめていた。

 

「悟より先に……神凪先輩に勝ってみせますよ!」

 

 宣言と同時に、傑は呪力を解き放つ。

 巨大な狼の姿をした呪霊が三体、空気を裂きながら顕現し、一斉に颯真へと襲いかかった。

 

 だが、颯真は流れる風だった。

 

 迫り来る牙と爪の隙間をすり抜けるように躱しながら、その動きの中で呪力を纏った拳を叩き込む。

 眉間へ、後頭部へ――拳が触れるたび、漆黒の稲妻が空を切った。

 

(黒閃を……三連続で……!?)

 

 あり得ない光景に、傑の思考が一瞬凍りつく。

 

 刹那の空隙。ゾーンに入った颯真が、それを見逃すはずもなかった。

 

 顎を撃ち抜く一撃。再び、黒い稲妻が奔る。

 

「強くなったとはいえ……まだ、負けてやるわけにはいかねぇよ」

 

 意識が遠のく中、傑の耳に届いたのは、そう言って笑う颯真の声だった。

 

---

 

 倒れ伏し、意識を失った傑のもとへ、颯真は静かに歩み寄った。その背に、そっと掌を置く。

 

 柔らかな正のエネルギーが傑の身体を包み込み、裂け、歪み、打ち据えられていた肉体が、時間を巻き戻すかのように癒えていった。

 

 訓練場に静寂が戻る。

 

 颯真は立ち上がらず、しばらくそのまま傑の背に手を置いていた。

 誰も見ていない。

 だからこそ、その手は珍しいほど、穏やかだった。

 

「…………覗き見してたなら、傑を硝子のところに連れて行ってやれ」

 

 低く放たれた言葉に応じるように、訓練場の空気が揺れる。

 灰原と七海が、隠れていた場所から姿を現した。

 

「あははは、やっぱバレてました?」

 

「……申し訳ありません。邪魔をするつもりはなかったのですが、あまりに勉強になりそうで……つい」

 

 あまりにも対照的な二人の反応に、颯真は小さく息を吐き、やれやれと肩を竦めた。

 

「まぁ、減るもんでもねぇし、いいけどよ。一応、反転術式はかけといた。ただ、思ったよりいいのを顎に入れちまったからな」

 

 視線を傑に落とし、わずかに目を細める。

 

「念のため、専門家に診せとけ」

 

「りょーかいでーす」

 

 軽い返事のあと、灰原は一拍置いてから続けた。

 

「……それと、後日でいいんで、俺らにも稽古つけてもらえませんか?」

 

 圧倒的な実力を目の当たりにしながら、臆することなく距離を詰める。灰原らしい、無邪気な勇気だった。

 

「……気が向いたらな」

 

 颯真は口元にかすかな笑みを浮かべると、そのまま踵を返す。次の瞬間、彼の姿は風に溶けるように掻き消えていた。

 

 一拍の沈黙。

 

 七海はゆっくりと理解した。

 

 自分の承諾など一切ないまま、友人と共に"地獄の訓練"へ付き合うことが、すでに確定してしまったという事実を。

 

 怒るべきか。悲しむべきか。それとも――どこかで、期待している自分がいるのか。

 

 七海は最後まで答えを出せないまま、ただその場に立ち尽くしていた。

 

 夜風が、訓練場を静かに吹き抜けていく。




来たる12月24日
日没しても、我々は”仕事”を行う

場所は呪いのるつぼ、ブラック企業

各地に私の呪いを放つ

下す命令はもちろん”鏖殺”だ

地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして仕事を止めてこい!

思う存分、呪い合おうじゃないか

……皆様は、よいクリスマスが過ごせていることをお祈りしております。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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