このままでは押し切られる――傑はそう直感し、全身を走る痛みを無視して前に出ることを決めた。
だが、動けば自らが展開した簡易領域の外へ出てしまう。
それは致命的な欠点だった。
その瞬間、傑の思考が一つの解へと辿り着く。
(……自分の身体そのものを、簡易領域で包めばいい)
発想と同時に、実行。
傑は自身の肉体を覆うように、薄い膜のような領域を展開した。
その光景を目にし、颯真は思わず口角を吊り上げる。
「――領域展延」
教えられてもいない技。
簡易領域を会得した直後に、その応用へ辿り着き、なおかつ実行にまで至る圧倒的な才能。
(間違いない……お前は、悟と並び立つ天才だ)
傑は全方位から襲いかかる風の刃を、身体を覆う領域で中和しながら、一気に間合いを詰める。
狙うのは一撃必殺ではない。手数を重ね、相手を削り取る猛攻。
颯真も即座に応戦し、拳と拳が激しくぶつかり合う。
衝撃音が連続し、空気が震えた。
激闘の最中、颯真の拳が傑の水月を正確に打ち抜く。
「――がはッ」
血の混じった吐瀉物が喉まで込み上げる。
傑はそれを必死に堪えながら、反射的に颯真を蹴り飛ばした。
その瞬間――呪力と打撃が完全に重なり合う。
空間が歪み、漆黒の稲妻が走った。
――黒閃。
凄まじい衝撃が颯真を呑み込み、維持されていた領域は音を立てて砕け散った。
黒閃を放ったその瞬間、傑はアスリートが言うところの“ゾーン”へと踏み込んだ。
潜在能力の枷が外れ、自身の力が限界を超えて解き放たれていく――一二〇%の世界。
先ほども確かに感じた、あの全能感。
それが今、さらに濃度を増し、全身を満たしていくのを傑ははっきりと自覚していた。
(……今なら、出来るッ)
理屈ではない。
傑はその感覚に身を委ね、直感のまま、体内を巡る呪力を反転させた。
次の瞬間、全身に刻まれていた裂傷が、時間を巻き戻すかのように塞がっていく。
「……やるじゃねぇか」
その声には、驚きよりも愉悦が滲んでいた。
傑の黒閃によって領域は砕け、術式は一時的に焼き切れている。
本来ならば、敗北を待つしかない絶対絶命の状況。
それでも颯真は、余裕の笑みを崩さなかった。
むしろ、目の前で駆け足に成長していく傑の姿を、どこか誇らしげに見つめていた。
「悟より先に……神凪先輩に勝ってみせますよッ!!」
宣言と同時に、傑は呪力を解き放つ。
巨大な狼の姿をした呪霊が三体、空気を裂きながら顕現し、一斉に颯真へと襲いかかった。
だが、颯真は流れる風だった。
迫り来る狼の牙と爪の隙間をすり抜けるように躱し、その動きの中で、呪力を纏った拳を叩き込む。
眉間へ、後頭部へ――拳が触れるたび、黒い稲妻が空を切った。
(黒閃を……三連続で……!?)
あり得ない光景に、傑の思考が一瞬、凍りつく。
刹那の空隙。
ゾーンに入った颯真が、それを見逃すはずもなかった。
顎を撃ち抜く一撃。
再び、黒い稲妻が奔る。
「強くなったとはいえ……まだ、負けてやるわけにはいかねぇよ」
意識が遠のく中、傑の耳に届いたのは、そう言って笑う颯真の声だった。
倒れ伏し、意識を失った傑のもとへ、颯真は静かに歩み寄った。
その背に、そっと掌を置く。
次の瞬間、柔らかな正のエネルギーが傑の身体を包み込み、裂け、歪み、打ち据えられていた肉体が、まるで時間を巻き戻すかのように癒えていった。
「…………覗き見してたなら、傑を硝子のところに連れて行ってやれ」
低く放たれた言葉に応じるように、訓練場の空気が揺れる。
灰原と七海が、隠れていた場所から姿を現した。
「あははは、やっぱバレてました?」
「……申し訳ありません。邪魔をするつもりはなかったのですが、あまりに勉強になりそうで……つい」
あまりにも対照的な二人の反応に、颯真は小さく息を吐き、やれやれと肩を竦めた。
「まぁ、減るもんでもねぇし、いいけどよ……
一応、反転術式はかけといた。ただ、思ったよりいいのを顎に入れちまったからな」
視線を傑に落とし、わずかに目を細める。
「念のため、専門家に診せとけ」
「りょーかいでーす」
軽い返事のあと、灰原は一拍置いてから続けた。
「……それと、後日でいいんで、俺らにも稽古つけてもらえませんか?」
圧倒的な実力を前にしながら、臆することなく距離を詰める友人の態度に、七海は思わず目を見開いた。
「……気が向いたらな」
颯真は口元にかすかな笑みを浮かべると、そのまま踵を返す。
次の瞬間、彼の姿は風に溶けるように掻き消えていた。
ほんの一拍遅れて、七海は理解する。
自分の承諾など一切ないまま、友人と共に“地獄の訓練”に付き合うことが、すでに確定してしまったという事実を。
怒るべきか。
悲しむべきか。
それとも――どこかで、期待している自分がいるのか。
七海は最後まで答えを出せないまま、ただその場に立ち尽くしていた。
来たる12月24日
日没しても、我々は”仕事”を行う
場所は呪いのるつぼ、ブラック企業
各地に私の呪いを放つ
下す命令はもちろん”鏖殺”だ
地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして仕事を止めてこい!
思う存分、呪い合おうじゃないか
……皆様は、よいクリスマスが過ごせていることをお祈りしております。
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない