呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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灰原&七海の任務回ですが、オリジナル術式、オリジナル呪霊、独自解釈の目白押しです。
苦手方はすみません。


第19話

――某県・山林。

 

 鬱蒼とした森の奥を、七海と灰原は補助監督を伴って進んでいた。

 

 風はなく、鳥の声もない。

 ただ人の気配だけが、この森では異物のように浮いている。

 

「嫌な感じだね……」

 

「“嫌な感じ”で済めばいいのですがね……」

 

 二人は同時に、森に満ちる異様な気配を感じ取っていた。

 

 七海は足を止め、振り返って補助監督を見る。

 

「あなたはここまでで結構です。“帳”を下ろして、あとは安全圏まで――」

 

 言い終えるより早く、地面が軋んだ。

 

 

 

 土が盛り上がり、石が鳴き、まるで地そのものが意思を持つかのように、鳥居と祠が組み上がっていく。

 

 祠の前に、ぼろ切れ同然の狩衣を纏った存在が佇んでいた。

 

 その顔は靄に覆われ、輪郭すら定かではない。

 

 それでも――“懐かしさ”と、“背筋を撫でる恐怖”だけが、はっきりと胸に迫った。

 

 

「――逃げろ! ここは私と灰原で食い止める!!」

 

 圧倒的な呪力。

 それを肌で悟った七海は、声を荒げて補助監督に叫ぶ。

 

 灰原もまた、両手に焔を宿し、即座に臨戦態勢へ移っていた。

 

「……あんまり、長くは持ちそうにないからさ。急いで救援呼んでくれると助かるかな?」

 努めて明るく、軽く。

「夏油さんか五条さん、神凪さん辺りじゃないと、正直きついと思う」

 

 言葉とは裏腹に、灰原の頬を冷や汗が伝っていた。

 

 

「……必ず、救援を呼びます!! それまで、どうかご無事で」

 

 補助監督は深く頭を下げると、脱兎のごとく山林を駆けていった。

 

 足音が遠ざかり、残されたのは二人だけ。

 

 七海と灰原は、短く視線を交わす。

 

「……どう考えても、学生に務まる任務じゃない」

 

「でもさ、逃げる仲間のために頑張るって、燃えるシチュエーションじゃん」

 

「それで死んだら、世話ないでしょう……」

 

 その瞬間、地面が裂けた。

 

 土の柱が突き上がり、二人の間を無慈悲に引き裂く。

 

 灰原は跳び、七海は踏み込み、衝撃を受け流した。

 

 七海はそのまま距離を詰め、呪符を巻き付けた鉈に呪力を込めて振るう。

 

 

――十劃呪法。

 

 対象の長さを線分した際、七対三の比率にあたる点へ、強制的に“弱点”を作り出す術式。

 

 生成された弱点へ渾身の一撃を叩き込み、呪霊は吹き飛ばされた。

 

 だが――。

 

 呪霊は、何事もなかったかのように立ち上がる。

 その身体には、傷一つない。

 

(……ダメージなし。

 いや、体力(ヒットポイント)が、果てしない感じだ)

 

「焔装呪法・纏打」

 

 灰原が背後へ肉薄し、焔を纏った拳を叩き込む。

 

 衝撃と同時に、焼灼の呪力を流し込む。

 それでも、呪霊は微動だにしなかった。

 

(硬ッ……!?)

 

 次の瞬間。

 

 呪霊が――ぐるりと、灰原へ顔を向ける。

 

「――灰原、下がれッ!!」

 

 咄嗟に灰原は後方へ大きく跳び退く。

 

 だが、呪霊の足元から隆起した土の槍が、その腹部を深く抉った。

 

 

 致命傷は免れた。それでも走る痛みに、灰原の顔が大きく歪む。

 

「灰原ッ!!」

 

 叫びと同時に、七海は間合いを一気に詰め、呪霊と灰原の間へと割り込んだ。

 

 鉈を逆手に構え、呪力をさらに上乗せする。

 

 狙いは討伐ではない。

 防御でもない。

 ただの足止め――それだけを目的とした一撃だった。

 

 呪霊の腕が唸りを上げて振るわれる。

 

 七海は鉈で受け止めたが、膂力の差は歴然で、衝撃を殺し切れず宙へと弾き飛ばされた。

 

 地を転がり、受け身もそこそこに身を起こすと、即座に鉈を構える。

 呼吸を整え、油断なく呪霊を見据えた。

 

「灰原、怪我は?」

 

「反転術式で治したから問題ない!  ……ただ、反転は呪力消費が激しいから、何度も喰らうのは厳しいかな」

 

 腹部の裂傷は既に塞がっていた。

 灰原は焔を纏い直し、拳を握り締めながら答える。

 

「なら、前衛(フォワード)は私が行きます。  灰原は援護を」

 

「七海!?」

 

 即座に上がった非難の声。

 親友が一歩前に出る――それを黙って受け入れられるほど、灰原は割り切れなかった。

 

「それが合理的です。

 私の術式は近接戦闘しか出来ませんし、あなたの術式は、この森の中では全力を出せない」

 

 淡々と並べられる、反論の余地のない事実。

 

 灰原は悔しげに歯を噛みしめる。

 感情を排せば、七海の判断は最善だった。

 

「……七海、死んだら僕が殺すよ」

 

 不満を隠そうともしない呟きに、七海はこの極限状況にもかかわらず、小さく笑みを零した。

 

「私も、こんなところで死ぬつもりはありません。  ……救援が来るまで、2人で生き延びますよ!!」

 

「応ッ!!」

 

 返事と同時に、灰原は纏っていた焔を鞭のようにしならせ、呪霊へと放つ。

 七海は身を低く沈め、鉈を振り抜き、下から鋭く斬り上げた。

 

 呪霊は両腕で焔の鞭と鉈を同時に受け止め、怒り狂ったように歯をガチガチと鳴らす。

 

「…………贄ヲ捧ゲヨ」

 

 その呟きが零れ落ちた瞬間。

 呪霊の背中から新たな腕が2本生え、掌印を結ぶ。

 

 空気が軋み、景色が歪み――  

 辺り一帯は、逃げ場のない結界に呑み込まれた。

 

 

(――領域展開!?)

 

 二人はほとんど反射的に、簡易領域を展開した。

 

 次の瞬間、周囲の空間が軋むように歪み、付近一帯は呪霊の生得領域に呑み込まれる。

 

 そこに広がっていたのは、廃墟と化した祠だった。

 

 崩れかけた社を中心に、獣の骨や腐りかけた作物、名状しがたい供物の数々が円を描くように並べられている。

 

 

(…………土地神の成れの果てか!?)

 

 空気が、重い。

 

「……贄ヲ捧ゲヨ」

 

 くぐもった呪霊の声が、領域の内側すべてに反響した。

 

 刹那、虚空から注連縄が生じ、獲物を求める蛇のように二人へと殺到する。

 

 七海は呪力を込めた鉈を振るい、灰原は身に纏う焔を奔らせて迎撃しながら、必死に状況を見極めていた。

 

「おそらく、条件や法則を強制するタイプの術式でしょう。

 注連縄で捕らえられたら終わりだと思っていい!!

 

 簡易領域を切らしたら駄目です!!」

 

 その言葉に、灰原は自嘲気味な乾いた笑みを浮かべる。

 

「それ、結構シンドいよ」

 

 打開を図り、灰原は焔を圧縮し、炎弾として呪霊へと撃ち放つ。

 

 

(……不味いですね、打開するすべが無い)

 

 焦燥だけが募っていく。簡易領域の結界は、じわじわと、しかし確実に削られていた。

 

「……七海、俺の簡易領域はもう保たない」

 

 その声に、七海は思わず振り向く。

 

 反転術式を使い、呪力消費か激しかった灰原は、既に限界に近かった。

 

「だから、簡易領域を解いて、俺が奥の手を使う。

 七海は、その隙をついてなんとか逃げてくれ」

 

 

「駄目ですッ!!」

 

 即座の拒絶にも、灰原の表情は揺るがない。

 

「七海、あとは頼むよ。

 ーー焔装呪法・焔身全装ッ!!」

 

 言葉と同時に、灰原は簡易領域を解除した。

 

 全身を包み込む焔は、これまでとは比較にならないほどの呪力を孕み、彼の肉体を極限まで強化する一方で、容赦なく焼き尽くしていく。

 

 防壁を失った灰原に、注連縄が一斉に襲いかかる。

 

「があぁぁぁっ!!」

 

 回避はしなかった。

 灰原は左手を伸ばし、飛来する縄のすべてを掴み取る。

 

 絡みついた縄が左腕を締め上げ、焔に灼かれながらも骨を砕く。

 

「贄ヲ、贄ヲ、捧、捧ゲヨォォッ!!」

 

「うるせぇぇッ!!」

 

 呪霊の雄叫びも、左腕から響く嫌な破砕音も、すべて無視する。

 灰原は右脚を振り抜き、呪霊の身体を蹴り上げた。

 

――黒い稲妻が、空間を裂く。

 

 呪霊の身体が大きく揺らぎ、蹈鞴を踏む。

 

「まだまだぁッ!!」

 

 灼熱と激痛、そのすべてを力に変え、灰原は右拳を叩き込む。

 再び黒い稲妻が走り、呪霊は耐えきれず膝をついた。

 

 追撃に移ろうとした、その瞬間――灰原の力は尽きた。

 

 焔が消え、全身に深い熱傷を負った身体が、音もなく崩れ落ちる。

 

 膝をついたまま、呪霊は勝利を確信したように歪んだ笑みを浮かべた。

 

「ーー死ねっ!!」

 

 その頭部に、凄まじい衝撃が走る。

 

 七海もまた、簡易領域を解除していた。

 

 合理性など欠片もない。ただ、親友を見捨てられないという感情だけが、彼を動かしていた。

 

 鉈が振るわれる。

 理屈も計算もない、ただの連撃。

 

 だが、それも長くは続かなかった。

 

「…………二、贄ヲ、捧ゲヨォォッ!!」

 

 呪霊が絞り出すように叫んだ瞬間、無数の注連縄が七海の全身を絡め取る。

 

 骨が軋む、不吉な音。

 

 

「…………ここまで、ですか」

 

 諦観とともに、七海は静かに息を吐いた。

 呪霊は、もはや疑いなく勝利を確信し、嗤い声を上げる。

 

「よく粘った!!」

 

 その声が響いた刹那、呪霊の生得領域が音を立てて崩壊した。

 

 七海と灰原の左腕を締めていた縄は、領域の消滅とともに霧散する。

 ふらつきながら立ち上がった七海は、ゆっくりと顔を上げた。

 

 空にいたのは――

 いつもの飄々とした雰囲気を消し、抜き身の刃のような殺気を纏った、神凪颯真だった。

 

 七海と灰原の有り様を一目見て、颯真はすべてを悟った。

 

 その場に漂う疲弊と、死線を越えたあとの静けさが、これまでの激闘を雄弁に物語っている。

 

「……遅くなって悪かった。

 あとは任せな」

 

 短くそう告げると、颯真は呪霊へと向き直った。

 

 感情の読めない、冷えた視線。

 

 次の瞬間、優しく、それでいてどこか冷たい蒼い風が、波紋のように周囲一帯を包み込んだ。

 

 その変化に、七海はすぐ気づいた。

 

 肌を撫でる風とともに、身体の奥に染みついていた痛みが、ゆっくりと薄れていく。

 

 

(傷が、癒えていく…… これは反転術式!?)

 

 目の前で起きている光景が、にわかには信じられなかった。

 

 蒼い風は正のエネルギーへと変換され、膨大な浄化の力を宿している。

 

 負のエネルギーの塊である呪霊は、抗う間も与えられず、音もなく霧散していった。

 

「……よく粘ったじゃねえか」

 

 そう言って七海に笑いかけながら、颯真は意識を失った灰原へと歩み寄り、反転術式を施す。

 

「…………私は、なんにも出来ませんでした。

 先輩達がいれば、私たちは必要なーー」

 

「何言ってんだ? お前ら2人が粘ったから、補助監督は逃げれて、俺は間に合ったんだよ。

 俺らも分身はできねぇし、流石の俺も、あの奥の手使ったらガス欠なんだわ。

 コイツの治療も応急処置が限界。

 だから、ほら、灰原担ぐの手伝え! つか、むしろお前が担げ」

 

 冗談めかした口調と、屈託のない笑顔。

 その姿に、張り詰めていた七海の胸の奥が、ようやくほどけた。

 

 彼は小さく、けれど確かに、笑みを浮かべるのだった。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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